探偵ドラゴンと怪盗ドラゴン ~ドラゴンに転生したら純白のドラゴンヒロインと探偵怪盗ごっこをすることになった件~

おもいこみひと(元七色一浪)

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第五話 僕はもう疲れたので話の落ちを放り投げた

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「ほら、服従させたドラゴンは実は美少女だった、というのはイセカイモノ? というやつのお約束なんでしょ? そういうのが好きなんでしょ」

 動揺に動揺を重ねている僕、佐藤ヒトシにフーリヤは言う。それも、悪戯っぽい上目遣いで。

 確かに、そんな話はした。そういう概念がある、という話はした。

 しかし、そういうのが好きだという話はしていない。服従させたわけではないが、知り合ったドラゴンで美少女の姿になることのできる、当事者のフーリヤにそんなこと言う訳がない。

 まあ実際、好きかそうでないかで言えば、好きなのでけれども。

 しかしやはり、創作と実際は別である。想像上の存在に向けるべき好みを、実際に目の前にしたドラゴン少女フーリヤさんに向けるべきではない。

 だから僕は、どうにか取り繕いつつ、自分の上着を彼女にかぶせる。丁寧に、その細く白い身体を覆うように、後方からかぶせてやる。

 すると、フーリヤの動きが止まった。時間が止まったように、フリーズした。

 何かまずいことをしてしまったかと、僕は動揺する。

 するとフーリヤは上着の襟の辺りをつまんで、すんすんと嗅ぎ始めた。

 僕はとっさに胸元の辺りをつまんで嗅ぐ。自分としては特に臭くはないと思うが、しかし自分の臭いは自分にはわからなことが多いという。

 自滅でさらに動揺を重ねてしまった僕は、気がつくと彼女に渡した上着に手を伸ばしていた。

 するとフーリヤは僕のこの動きの意図を知ってか知らずか、ぎゅ、と上着を握り込む。

「……ヒトシのにおい」

 おいやめろ! そういうことをするな! そんなことを心中叫びつつも、僕はフーリヤの奇行を止めることができない。物理なり魔法なりで取り上げればいいだけの話ではあるが、しかし動揺と恥ずかしさとで手が震え、それどころではない。無理に動けば、多分この洞穴を崩落させてしまう。物理にしろ魔法にしろ、ドラゴンがもつ底知れぬ力を制御するのは僕にとって至難の業なのだ。

 フーリヤはというと、しばらく、存分に僕の上着の臭いを吸っていた。

「これで、待たせた分はチャラね」

 数刻後、フーリヤは満足げに振り向いて言う。何にどう満足したのか、僕にはわからないが。

「…ちなみに、フーリヤさんはいつから待っていらっしゃったんですか?」

「んー。そんなに待ってないかな」

「具体的には?」

「三日前の朝から」

 最初からじゃねぇか。

 つまりは、穴が合ったら入りたいと思って穴を掘って無駄に剣を磨くなんてことをしていなければ、三日三晩無駄に飛び回るなんてことせずに済んだってことか。

 なんというか、フーリヤに振り回されたというよりは、自分の足りない頭に振り回されたという感じだ。少し振り返ってみると、割合としてトントンじゃないかな、とすら思う。
 
 例えばフーリヤが人の姿で盗んでしまったばかりに領民に冤罪をかけてしまった領主を説得する際、なんだか途中で面倒になって竜の眼光を使ってしまうせいで、僕が人間の姿をした竜だと大陸の人々にバレつつあることとか、まさにそうである。竜がホイホイと人間を助ける訳がないと考える人々が一定数いる中でなおそうなってしまっているのは、ひとえに竜の眼光を安売りし過ぎた僕の怠慢ゆえなのである。

 そろそろ人間の姿を変えることも視野に入れなければ、というのはひとまず置いておいて。僕は、待たせてしまったことを謝罪する。

「これでチャラっていったじゃん」

 フーリヤは呆れたように笑い、それから立ち上がって、身体ごとこちらを向く。

 そして僕の上着をつまんでみせる。

「今回はこれで勘弁してあげる」

 彼女はそう言い残して、自身の住処へと帰っていった。

 人間の姿で洞穴を出て、飛び降りて、そして竜の姿で飛び立っていく彼女を、僕はぽかんとしたまま見届けることしかできなかった。

 しばらくして冷静になってから、考える。

 今回、怪盗ドラゴンフーリヤが盗んでいったのは、探偵ドラゴンヒトシの上着である。恐らく、初めて彼女が宝石以外で盗んだものになるだろう。

 …いや、上着は僕があげたという形になるのか? あのとき僕は動揺していて、フーリヤに何か着せなきゃと思って、とりあえず上着を着せたという形だから…。つまりは、貸すかあげるかなんて深く考えず、というか深く考える余裕もなく、あの上着を彼女に渡したということになる。

「……」

 まあ、いいか。

 今日はもう、疲れた。

 
 

 
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