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第2話「魔道書とシゴキ」
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「・・・・・・・・・・・・」
俺とリューネ母さんの間に沈黙の風が吹いている。
ど、どうする俺!? こんなあっさり俺が魔法を使えることがバレてしまったら今後の生活にどんな影響が出てくるかわかったもんじゃない。下手をすれば気味悪がられて捨てられる可能性すらないわけじゃない。どうすれば…うぉ!
「クロちゃんすご~い!」
リューネ母さんがおむつを投げ捨てて、浮いている俺を捕まえて豊満な胸に抱きしめた。
「!?!?」
「こんなちっちゃいのに浮遊魔法が使えるなんて! クロちゃんは魔法の天才さんだよぉ!! さすがお母さんの子供だねぇ!」
あ、そういう解釈になるんすね。
「ねぇねぇクロちゃん! もう一回飛んで見せて欲しいなぁ。ダメ?」
「あうぅ?」
リューネ母さんの目は期待に満ち溢れているように見えた。ここは息子として母の期待に答えなくてはいけないだろう。俺は気合を入れて念動魔法を発動させ、母の手から離れ自分の体を宙に浮かせて見せた。
「わぁぁぁ! すごいすご~い!! そのままクルクル回れる?」
「あうううう!」
クルクルと横回転に回ってみる。このくらいの姿勢制御ならなんとかこなす事ができる。だが正直もう魔力の限界だ。俺はフラフラとリューネ母さんの胸に着陸した。
「ふふっ、ありがとうクロちゃん。疲れちゃったかな?」
「あう~」
「………クロちゃんってさぁ、もしかして…神様の使者さん…だったりする?」
俺はリューネ母さんを見上げる。神様の使者ってなんぞ?
「昔ね、本で読んだことがあるんだぁ。神様から使者として送られてきた子供が普通の家庭で成長して、将来勇者になって悪い魔王を退治するってお話。その子もね、クロちゃんくらいの頃から魔法が使えて、お母さんの言うことをよく聞くいい子だったんだって。赤ちゃんなのに」
「あーう?」
リューネ母さんが俺の目を優しくジッと見つめている。しかし俺は転生者ではあるが神様の使者などではない。別に女神様から使命的なものを託された覚えもないし。というか勇者なんてめんどくさそうなことは御免被る。俺には女の子にモテモテになるという崇高な目標があるのだ。
「…な~んてね。そんなわけないかぁ。それじゃあクロちゃん、おむつ取り替えましょうね~」
俺をベッドの上に寝かせて、俺の服を脱がせておむつ交換の準備をする。
「でもねクロちゃん…。もしほんとにクロちゃんが神様の使者さんでも、お母さんは気にしないよ。たとえ他の子と違ったりしても、クロちゃんはお母さんがお腹を痛めて産んだ…世界で一番、大切な子供なんだからね!」
…俺って愛されてるんだなぁ。前世の両親もこんなに俺のこと愛してくれていたのだろうか。そういえば前世の親にはあまり恩返しとかしてなかった気がする。その上放火されたとはいえ親より先に死んでしまった。そう思うと親不孝すぎてちょっと泣けてきた。
「えへへ、ごめんね変なこと聞いて。リビングに行ってみんなで遊ぼうか!」
「あぅ…あい~」
いつか俺が転生者だって伝える日が来るのだろうか…。でもリューネ母さんなら俺のことを受け入れてくれる。なんとなくそんな気がした。
▽✩▽✩▽✩▽✩▽✩▽✩▽✩▽✩▽✩▽✩▽✩▽✩▽
2歳になった。
そこら中を歩き回れるようになり、少しづつ喋れるようになった。ついでに俺が魔法を使えることもリューネ母さんにより家族全員に伝えられたので、その日はかなり大変だった。
「ふぉぉぉぉぉ!」
「きゃあ~!!見て見てあなた、オリビアちゃん!クロちゃん浮けるんだよ~!」
「素晴らしいわクロード! その歳でこんなに上手に浮遊魔法が使えるなんて!」
「クロちゃんすごーい! かわいいよぉ! 私も飛びたーい!」
「ふははは! さすが俺の子! 将来は大物になるぞ! 祝いだサムソン、酒を持てぇ!」
「畏まりました旦那様」
その場で酒盛りが始まり、期待に応えて浮きまくってたら魔力不足になって墜落して頭打った。サービスしすぎたな。しかしこれで家族の前で魔法を使っても問題なくなったのは正直言ってかなりデカイ。これからは遠慮なく魔法の鍛錬をさせてもらおう。
動けるようになってからは屋敷の中をリューネ母さんの監視付きで歩き回っている。
それにしてもさすが子爵家邸宅。半端なく広い。体が小さいからかもしれないが歩き回るだけで1日終わりそうだ。流石にそれは困るのでリューネ母さんにお願いしてみる。
「おかあさん、ごほんよみたい」
今日の目標は魔道書を読むこと! 喋れるようになったしな。
「そっかぁ、クロちゃんご本読みたいんだね。それじゃ図書室行こうか~」
リューネ母さんに手を繋がれ図書室へと歩いていく。
そう、この家には図書室があるのだ。書斎とかじゃなく。2人の妻の蔵書がとんでもない量だったので増築して図書室を作ったらしい。
「クロちゃん、抱っこしなくても大丈夫かな?」
「だいじょうぶー。あるけるよ」
結構な距離(直線距離で80m程)を歩いてやっと到着する。
図書室の扉を開くと、本特有のインクの香りがした。日差しが差し込む図書館内には所狭しと大量の本が並んでいる。魔道書や歴史書、伝記や絵本なんかもあるようだ。
「わぁー、ごほんいっぱいだね!」
「うん。ここにはお母さん達が集めたご本が全部あるからねぇ。それでクロちゃんはどんなご本が読みたいのかな?」
「んーとね、まほうのごほんよみたいの!」
「え!? 魔法のご本って魔道書のことかな?」
「うん、まどうしょー! おかあさんみたいにまほうつかいたい!」
予想外のことに戸惑っているリューネ母さん。しかしすでに俺が浮遊魔法(念動魔法だけど)を使えることは承知しているので、そんなにびっくりはしていないようだ。
「うーん、魔道書じゃないとダメかな? 他にも絵本とかいっぱいあるよ?」
「うん。おかあさんみたいにまほうつかいたいの。だから…おかあさん、おねがい♪(≧人≦)」
必殺! 2歳児のあざとくも可愛いおねだりのポーズ。相手は死ぬ。
「きゅん/// も、もう、仕方ないなぁクロちゃんは。少しだけだよ?」
勝った! やっぱり幼児の笑顔は最強だな。大人相手なら8割くらいはKO出来るだろう。
リューネ母さんの膝の上に座らされ、魔道書を読み上げてもらう。
それによると、この世界の魔法は、「地」「水」「火」「風」「雷」「光」「闇」と「無」の基本8属性。他にも召喚魔法や特殊魔法があるようだ。特殊魔法っていうのは8属性に当てはまらない魔法の事を言う。所謂EX魔法だ。【魔法創造】もEX魔法に属していることになる。具体的な魔法の使い方は、詠唱を唱えることで頭の中のイメージを形にして魔力によってそれを構成して現出させる感じ。
魔道書を一先ず机に置いて、実演で見せてあげるねとリューネ母さんは俺を膝から下ろした。
『水よ、この手に集いて形となれ! 水球!』
リューネ母さんが人差し指を立ててそう言うと、指先に20cm程の水の塊が出来上がる。それはキラキラ輝きながら浮いていて、異世界に来て初めて見るちゃんとした魔法にちょっと感動した。
「おぉー、おかあさんかっこいい!」
「えへへ~、ありがとうクロちゃん♪」
でも水を出す位ならなんとなく出来そうだな。
要は魔法はイメージが全てだ。今まで念動魔法を使ってきて大体は理解出来ている。
「ねぇ、ぼくもやってみていい?」
「ん~、クロちゃんにはまだ早いかも。もうちょっと大きくならないとね。それに適性も見てないし…」
「だいじょーぶだよ! みててね!」
甘いぜママン。適性がなんだってんだ。念動魔法で鍛えた我が魔力を見よ!
リューネ母さんのように指をかざし、詠唱してみた。
『みずよ、このてにつどいてかたちとなれ! うぉーたーぼーる!』
すると指の先に10cm程の水の塊が出来上がった。
《スキル【水魔法”LV1”】を獲得しました》
ついでにスキルもゲット出来たようだ。意外と簡単だな属性魔法。
「え…ええええええぇぇぇぇぇぇぇ!!!」
ふふふ、どうよママン。俺の努力の結晶はぐふぁ!!
突然リューネ母さんが全力で抱きついてきたせいで肺の空気が一気に外に出てしまった。
「すごい! すごいよクロちゃん!! その歳で属性魔法使えるとか天才だよぉぉぉ!」
ぎゅーっと抱きつき、更に締め上げられB96の巨大なものに圧迫され呼吸困難になる。
(や、やばい! これやばい奴や! 生命的な意味で!!)
「初めてでこんな大きな水球作れるとか将来宮廷魔導師も夢じゃないよぅ!! すごいよやったよナイスだよぉ! さすが私の子供だよぉ! あははははは!」
(ママンのお胸は…凶器やで…ぐふっ!)
暫くしてリューネ母さんが興奮が冷めて俺を巨乳から解放すると、グッタリした俺がそこにいた。
「きゃー! クロちゃんごめんねぇ! しっかりしてぇ!」
▽✩▽✩▽✩▽✩▽✩▽✩▽✩▽✩▽✩▽✩▽✩▽✩▽
数分後、俺はなんとか息を吹き返した。リューネ母さんは涙目で俺を、今度は優しく抱きしめる。
「ほんとごめんねクロちゃん…お母さん興奮しちゃって…」
「ううん、ダイジョウブだよおかあさん。それよりまほうできてた?」
「うん! ほんとすごいよ~! これなら他の属性魔法も使えるかもしれないね」
「ほんと!? おかあさん、おしえてくれる?」
「うん! クロちゃんの才能もっと伸ばしてあげなくちゃね! お母さんが一から魔法教えてあげるよ!」
「やったぁ! おかあさんありがとう! だいすき!」
ぃよし! ちょっと予定と違ったが、これで魔導師として一流の教師の下で学べるようになったぞ! 俺のモテモテ魔導師育成計画も加速してハーレム異世界ライフの夢もぐっと近づくってもんさ! ふはははは!
そんな風に考えていた時期が俺にもありました(泣
屋敷の裏手、リューネ母さん用に作られた魔法の訓練場では今日も怒声が飛んでいる。
「ほらぁクロちゃん! 集中! もっと魔力安定させて!」
「おかあさん! むずかしいよぉ!」
「難しくないよ! クロちゃん才能あるんだから! 頑張れ頑張れできるできる絶対できる頑張れもっとやれるって! やれる気持ちの問題だ頑張れ頑張れそこだ! そこで諦めるな絶対に頑張れ積極的にポジティブに頑張る頑張る! ジョセフだって頑張ってるんだから!」
ジョセフって誰!?
後で知ったことだが、リューネ母さんは人に本気で魔法を教えるときは性格が変わる。具体的に言うとやたら暑苦しく、厳しくなるのだ。冒険者仲間からはこう言われているらしい。リューネに魔法を教わってはいけない。教わる時は死を覚悟して挑め…と。
それから1時間、属性魔法をひたすら撃ちまくる訓練を続ける。
「お、おかあさん…ぼくもう…まりょくが…」
そう言うと、リューネ母さんはヒョイっと俺を抱え、抱っこしながらにっこり微笑む。
「大丈夫だよクロちゃん! 『我が魔力を愛しき者へ分け与えよ! 魔力譲渡!』」
リューネ母さんの体から赤い光が放たれ、その光が俺の体へと吸収されていく。すると、俺の枯れ果てた魔力が徐々に回復していくのを感じた。って魔力譲渡魔法なんてあるの!?
「これで魔力も回復したよね。まだまだ訓練できるよ! よかったね♪」
容赦のない…有無を言わさぬ笑顔に俺はこう答えざる負えない。
「わ、わーい。うれしーなー…」
「うん! それじゃ次は火属性魔法10連発、イってみようか!!」
Nooooooooo!!!
その日の夜は屍のように眠りに着いたのは言うまでもない…。
あの鬼の特訓から1週間が経った。あれから毎日、リューネ母さんの訓練地獄は続けられている。何度逃げ出そうと思ったかわかったもんじゃない。だが実際に特訓の効果は出ているし、逃げようとしても身体強化魔法をかけて追ってくるので逃げられない。連日グロッキーになってる俺を見かねて父さんがリューネ母さんに声をかけた。
「リューネ、それ以上やりすぎるとクロード死んでしまうぞ! お前は昔から魔法を教えるとなったら手加減をしないで生徒を度々潰してしまうのは耳にしてはいたが、クロードはまだ2歳だ。体も出来てないうちからそんなに仕込んでは壊れてしまう可能性もある。いい加減にしなさい!」
「あぅ…ごめんなさい。クロちゃんすっごく覚えがいいから、つい…」
「まぁその気持ちはわかるがな。たった2歳で属性魔法を操るとか…。だがそれとこれとは話が別だ。もうちょっと気遣ってあげなさい。壊してからじゃ遅いんだからな」
「はい、わかりました。ごめんなさいあなた。」シュン
父さんのおかげでなんとか訓練地獄からは解放されたようだ。あのまま続けてたら精神的に本気でどうにかなってしまいそうだったから、父さんは命の恩人かも知れない。
「クロードの将来は魔術師か。お前は剣士にしたかったんだがなぁ」
「えっと、いまはむりだけど、おおきくなったらけんもまなんでみたい!」
「おぉそうか! じゃぁその時を楽しみにしているぞ! 今のうちから走ったりして体を鍛えておくようにな」
「わかったよとうさん!」
嬉しそうに、でもちょっと寂しそうに屋敷の中に入っていく父さん。ごめんよ、今は魔法で手一杯なんだ。剣術にまで手を出したら俺本気で死んじゃうし。でも将来的には剣も扱えるようになって、魔法剣とか使えたらめっちゃかっこいいよね。確実にモテそうだ。絶対やろう。うん。
父さんの注意したのが功を奏したのか、訓練は若干優しくなった。優しくなったというか、訓練日数が週5日になり、訓練時間が多少短くなって休憩をちゃんと挟むようになった程度だが。
「ごめんねクロちゃん。私、魔法を教える時って気分がハイって奴になっちゃって…。お母さんのこと嫌いになっちゃったかなぁ?」
「ううん、そんなことないよ。おかあさんはぼくのためにおしえてくれてたんだから。これからももっといっぱい、まほうをおしえてね!」
「うん。ありがとうクロちゃん♪ これからも頑張って練習しようね!」
「でも、もうちょっとやさしくしてほしいかな…?」
「わかった! 極力…前向きに検討するね!」
これダメなやつや…。
訓練地獄はまだまだ続いていく。
応援ありがとうございます!
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