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第37話「初授業」

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「クロード様、お友達がお迎えに来てますよ?」

「友達って…誰?」

 学園に行く準備していると、家にアステルとシャルロッテが迎えに来た。こいつらどうやってうちの住所知ったんだ? というか二人共なんか様子が変だけどなにかあったのだろうか。

「2人共おはよう。朝からどうした?」

「おはようございますクロード君。お友達として迎えに来ました!」
「おはようクロード! 学園に一緒に行きたくて迎えに来たよ!」

「「・・・・・・」」

「マネしないで欲しいんですけど、アステル君」

「君こそ僕の真似をしないで欲しいなぁ。シャルロッテさん」

 なぜか二人の間に火花がバチバチ言っているのが分かる。なんで俺を巡って女の子はともかく男が争わにゃならんのか。

「なんか2人共いがみ合ってない?」

「そ、そんなことはありませんよ。至って普通です。ねぇアステルくん?」

「もちろんさ。僕がシャルロッテさんと争うわけないよ。あははは」

「…はぁ、まぁいいや。ちょっと待ってて」

 なんか不穏な空気の2人を放っておいて登校の準備をする。教室に着くまで俺の背後で険悪な空気を醸し出している2人を放置して自分の席に着くと、リリアが声をかけてきた。

「おはようクロードくん。…アステルくんとシャルロッテはどうしたの?」

「おはようリリア。理由は分からないけどなんか対立してるらしいぞ」

「おはようございます。別に対立なんてしていませんよ? ちょっとクロード君のことでアステル君と意見の相違があったに過ぎませんから」

「おはようリリア。そうだよ、対立なんかじゃないさ。シャルロッテさんが僕とクロードの大切な朝の時間を邪魔してくるだけなんだから」

「「・・・・・・」」

 相変わらず笑顔でガンの飛ばしあいをしている2人。クラスのみんなも何事かとヒソヒソしている。

「…クロードくん。これどうにかしといてね?」

 正直めんどくさい、というか出来れば関わりたくない。そんな話をしてるうちにチャイムが鳴りシェリル先生が現れた。クラスメイトが全員席に着き、朝のホームルームが開始する。

「起立! 礼! 着席!」

「さて授業を始める前に、軽くこれから行われる授業の内容を説明します。ここは冒険者学園です。なので実技を中心に授業していきますが、当然座学もあります。薬草の見分け方や魔物の特性、野営の仕方、ダンジョンの潜り方などですね。あと貴族との接し方も知っておかないと将来トラブルを起こして殺されることもあるかもしれませんので、みなさん今日からしっかりと学んで行きましょう」

「「「「「はい!」」」」」

「次に連絡事項です。今月の王国生誕祭で開催する武道会に参加する人を募集しています。もし殺る気のある人は私のところまで申し出てください。年々参加者が減っているので、強さに自信のある人、強敵と戦う勇気のある人の参加をお待ちしています」

 ざわ…ざわ…

「朝の連絡は以上です。今日の午後からは私の授業もあるので皆さん頑張りましょう。では日直!」

「起立! 礼! 着席!」

 そういや王国生誕祭で武道会やってたな。俺は結局見に行かなかったけど。

「クロードくんは武道会出ないの?」

「いや、興味ないわ。アステル出たらいい線いくんじゃないか?」

 俺は生誕祭でそんなことやってる暇はない。去年約束したリムルとのデートがあるから断固拒否する。

「僕も興味ないかなぁ。僕の力は争いのためのものではないからね」

 さすが勇者(仮)。言う事が違う。

 そして授業が始まる。この学園のカリキュラムは1時間目~4時間目は実技の時間に決まっているらしい。今日の1~2時間目は模擬戦をやるので修練場に各自装備を持って移動する。

「俺が実技担当教師のリーゼルトだ! まずは準備運動がてら全員で修練場を10周走ってもらう! それでは位置につけ!」

 修練場は結構広く、一周回ると約1km。10周で10kmくらいならちょうどいいかな。全員スタートラインに並ぶが、1クラス30人もいると結構邪魔くさいな。

「よーい、始め!」

 スタートの合図と同時に前に出る。今回は反則っぽいから身体強化アクセルブーストは使っていない。トップに躍り出た俺の横には、なぜかぴったりとアステルが付いてきていた。

「いや、お前俺より早いんだから先行けよ!」

「そんなこと言わずに一緒に走ろうよ、クロード」

「嫌だ。お前が行かないなら先に行くからな!」

 おホモだち的な噂はマジで勘弁である。引き剥がそうとスピードを上げるが、そのスピードにもアステルはぴったり付いてくる。

「おーまーえーはー! 離れて走れ!!」

「ははは、そんなこと言わないでよクロード!」

 これで追いつけまいと最高速で走るが、これにも余裕で付いてきやがった。そんなことをしているうちに10周回ってゴールしてしまう。結局引き剥がすことはできなかった。

「お、お前…どんだけ早いんだよ…」

「ほら、僕のスキルに瞬足ってあったでしょ? あれのおかげだよ」

 スキルのせいかよ!

「お前ら随分早いな! 素晴らしい、これからもこの調子で頼むぞ!」

「「はい!」」

 どうやらかなり早くゴールしてしまったらしい。他の奴らを3周くらい周回遅れにしたからな。それから遅れて数分後にみんな問題なくゴールした。

「よぉし! それじゃ5分休憩したあと腕立て腹筋背筋100回ずつだ! いいな!」

「「「「「はい!」」」」」

 腕立てなどの筋トレは毎日やってるので割と余裕だ。俺の横ではアーニャが素早く腕立てをしている。

「ふっ! ふっ! ふっ! ふっ!」

「クロードくん! 腕立て早いねぇ! んっ! んっ!」

「そういうアーニャも! 結構早いじゃん! ふっ! ふっ!」

「一応! 弓は! 腕の筋肉が! 大切だからね!」

「でも女の子が! 腕立てやったら! 腕太く! なっちまうぞ!?」

「そういうこと! 言わないの! 気にして! るんだからぁ!」

「お前ら喋るか腕立てするかどっちかにしろ!」

「「すいません!」」

 そんなこんなでやっと模擬戦である。
 修練場のリングは4つあるので全面使って行われる。修練場に備え付けてある模擬戦用の武器を使って一本取るか降参するかまで続けられるルールだ。全員防具をつけて待機する。

「それじゃ今回は個人戦だ! 第1試合! シャルル対ハイデルン! ルーク対ギルバート! シェルミー対アーニャ! アイリス対ローラ! それぞれ武器を持って配置につけ!」

 うちの班の一試合目はアーニャか。今回は接近戦のみで飛び道具はなしということらしいので弓は使えないから短剣と体術で戦うようだ。対するシェルミーは槍を装備している。

「よろしくねシェルミーちゃん!」

「うん、こっちこそよろしくアーニャさん!」

「それでは第1試合、始め!」

「はあああああ!」

 シェルミーがダッシュでアーニャに近づいていく。加速したまま槍を連続で突いていく。結構速度がある攻撃だがアーニャには見えているようだ。

「やられないよぉ! 弓使いは目が命!」

 アーニャは巧みに短剣と足捌きでその槍を躱していく。そして隙を突いて槍を短剣ではね上げ、その開いた腹に蹴りを叩き込んだ。

「うぐっ!!」

 アーニャが追撃しようと相手の懐に潜り込もうとするが、シェルミーは槍を大きく横薙ぎしてアーニャを吹き飛ばす。脇腹に直撃してかなり痛そうだ。

「あうっ!!」

「まだまだ、このくらいじゃ倒れないよ!」

 お互い仕切り直し正面で構える。次は自分の番だと言うようにアーニャが突っ込んだ。

「やぁ!!」

「甘い!! 烈風突きぃ!」

 突っ込んできたアーニャに風属性が付与された高速の槍を突きまくる。さっきよりさらに速いその槍をアーニャは見切って紙一重で躱し、その槍を掴むとそれを支えにしてシェルミーの首筋に蹴りを入れた。

「きゃ!!」

 隙を突かれた攻撃を食らいぐらついてる間に、アーニャが短剣をシェルミーの喉元に突きつける。どうやら勝負あったようだな。

「これで終わりかな?」

「うん、まいった。私の負けだよ」

「それまで!勝者アーニャ!」

「おおー。あの子ちっちゃいのにつええ!」
「あの短剣と足捌き、かなりやるぞ」
「アーニャちゃん可愛い…」

 アーニャの人気上昇中。

「あなた強いのね。でも次は負けないわよ!」

「うん! 私も負けないよぉ!」

 シェルミーとアーニャはリング上で握手を交わしていた。青春だねぇ。

「ねえねえ、どうだったクロードくん?」

 試合後にアーニャは喜びながら俺のもとにやってきた。アドバイスが欲しいみたいな顔をしているので、俺が思ったことをそのまま伝える。

「大した攻撃も当てずに相手が油断したと思って突っ込むのはどうかと思うぞ。最後の一撃みたいに確実に意識を揺らす攻撃をしてからならいいかもしれないだけどな」

「だよねぇ。私も先走っちゃったよ」

「戦闘中は熱くならずに冷静にな。そうすればアーニャはまだまだ伸びると思うよ」

「ほんとに?」

「ああ。だからこれからも油断しないで一緒に頑張ろうな」

 なんとなく撫でたくなったので手を伸ばして頭を撫でてみる。アーニャの髪はふわふわしてて非常に触り心地がいい。小一時間撫でていたいくらいだ。

「あぅ…うん、わかった…ありがとうクロードくん///」

 若干顔を赤くしながら走り去っていった。その足でなぜかシャルロッテに抱きついている。

「よし、第一試合はいい戦いだった! 続いて第二試合! ルシウス対サイノス! アルファード対アドルフ! クレア対マリー! セレスティーヌ対リリア!」

 次はリリアの出番だな。リリアは剣と大きめの盾を装備している。先日話した防御重視のスタイルだ。

「リリアちゃんがんばれー!」

「ファイトですリリアさん!」

 リリアへの声援が上がる中、それに手を挙げて答えてからリングに立った。

「それでは第2試合、始め!!」

 リリアに対するセレスティーヌは、シェルミーと同じ槍使いのようだ。しかし見るからに槍使いとしての格が違う気がする。

「行きます!」

 そう言うと、セレスティーヌが高速で横に移動する。そのまま円を描くようにリリアの周りを回り始めた。こっちから見ているとまるでセレスティーヌが分身でもしているかのように見える。徐々に距離を詰めていき、槍の間合いに入ると同時に円の軌道を取ったまま攻撃し始める。リリアもそれに対し盾で防ぎながら応戦しようとするが、槍の手数が多すぎて捌ききれていない。

「な、なんなのよその技はぁ!!」

「ロンダルギア流槍術、柳槍演舞」

 流れるような体捌きで隙を付き、リリアの持つ盾を下からはね上げるように弾き飛ばした。そしてその槍を防御が開いた無防備なリリアの首元に突きつけた。

「…まだ、やる…?」

「いいえ…私の負けよ。完敗」

 リリアは潔く負けを認めた。何もできなかった自分が悔しいとその表情を見て取れる。

「そこまで! 勝者セレスティーヌ!」

「セレスティーヌさん強いな…」
「あの槍捌き、只者じゃねぇ」
「お姉さまと呼びたい…」

 確かにあの体捌き槍捌きは凄かった。付け入る隙もありそうだけど。

「クロードくん…負けちゃった…」

「お疲れ様。あれは相手が悪い。今は負けてもしょうがないさ」

「相手が悪い?」

「うん。リリアは盾での守り重視で戦うつもりだったろ? それに対して相手は全方位で常に攻めるスタイルだった。足を止めた状態だったらあれは防ぎきれないよ。こっちも動かないとね」

「んーそっかぁ。臨機応変ってやつだね」

「そういうことだな。心配しなくてもちゃんと訓練すればリリアはアイツに勝てるようになるよ。今はさっきの戦いを反省して対策を考えておけばいいさ」

 先ほどアーニャにやったようにリリアの頭も撫でてあげる。

「う、うん、わかったわ。ありがとうクロードくん」

 リリアはちょっと照れたようにアーニャ達の所に戻っていった。俺とリリアの様子を見て周囲のクラスメイト、特に男共がこっちを見ながらヒソヒソしているが気にしないようにしよう。それからも順番に試合をしていき、やっと俺の出番になった。待ってるだけっていうのも逆に疲れるね。

「さっきの戦いもいい戦いだった!! それじゃ第4試合! アステル対シャルロッテ! クロード対パトリス! ライラ対エルメス!」

「ふふっ、意外と早くこの時が来ましたね。覚悟しなさいアステル君!」

「覚悟するのはどっちかなシャルロッテさん? 返り討ちにしてあげるよ。ふふふ」

 うふふふふふふふふふ。

 怖いよお前ら…。


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