悪役令嬢は嫌なので、放浪して好き勝手します

cqrijy

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1部 おっかなびっくり放浪編

7 鉄壁の処女

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少し離れた草むらに隠れて収納からアクセサリー装備を探る。

絶対に押し倒されないヘソピ。
隙を与えないヘアピン。
助け船がくる香水。
罪悪感を与えるリストバンド。

オシッコ程度じゃあまり時間が稼げない。急いで身に付ける。この香水は一度つけたら風呂に入ろうが24時間は効果を持続する。
……おっ。襲撃のサインを報せるコンタクトレンズがあった。これも付けとこう。



「すいませ~ん、ただいま戻り……えっ」

山菜マスターが振り向き、襲撃のサインが発動。おい。

危険度数:★★★★★★☆☆☆☆
(襲撃の可能性60%)

怖い。危険度数は小型の飛竜と同じ事をくらいだけど、この状態の飛竜なら既に威嚇を越えてブレスくらい吐いてる。しかし目の前の山菜マスターにはその兆候すら感じ取れない。こういうお助けアイテムないとヤバイな。

「おかえり。もう120匹釣れたよ」
「すごい!  おまけに解体まで終わってるじゃないですか!  はやわざですねっ」

鰻の血には毒があるので血抜きはともかく、内臓棄てやがったな。大事な肝が川に浮かんでる。これだから素人は……。

「何かに集中していないとやばかったから……さぁ、宿に行こうか」

普通に歩いて近付いてくる。くんな。被害を最小にする社交術と隙を与えないヘアピンが発動。

「あ、その前に雑貨店に寄ってもいいですか?」
「何か欲しいものが?」

山菜マスターがヌコン鰻をローブの内ポケットに収納しながら聞き返してきた。アイテムバック機能付きのローブか。容量が解らないが、絶対に持っていない物を言おう。

「さっき生理がきちゃって、アレを買いにいきたいんですぅ」
「……っ、そうか。一緒にいこう」

やはり持ってなかった。
それはいいとして、付いてくんな。

雑貨店に入る前に、入り口で待っていると言われた。店内を物色しながらチラッと山菜マスターを見ると、出口を塞ぐように硝子戸に背を押し付けていた。チッ。なんとかして店の裏口から逃げるか。

『ポーキーの雑貨屋』
雑貨を扱う店だけど、薬局みたいな品揃え。あ、ドライフルーツとか食品もある。おまけに釣り餌が入った珍しい缶詰も。こんな状況じゃなかったらゆっくりお買い物したかったな。

どうしようか。
少し店主と話をしてみよう。
カウンターにいる店主に挨拶すると、何故か助け船がくる香水が発動した。ん?

「お嬢ちゃん、店の外にいるローブの男と知り合いか?」
「知り合いというか顔見知りというか」

付きまとわれてるというか。

「……恋人じゃないの?」
「違います」
「そう……あいつ、さっき俺のとこで……これ買ってたけど」

店主が手にしたのは……恐らく避妊具。見た目まんまゴムだ。てかこの世界にそんなのあったんだ。
うそん。山菜マスター、転移してくる前に飯食って尚且つ買い物もしてたの?  行動がはやすぎない?

「こんな小さな村だからな。王都の正規品とは違ってうちのは模造品。使用期限は3日しかないんだ」

鑑定したらマジでゴムだった。すぐに店主が手にしたゴムを時間停止機能のついた硝子の小ケースに戻していた。あ、マムシドリンクもある。

「まさかこの村で女を漁るつもりかと思って、あのローブの男のことは警戒していたんだ。俺には12歳と14歳の娘がいるからな」
「店の裏口から逃げてもいいですか?」

情報ありがとう。
金貨1枚をカウンターに置く。

「い、いいよ。あの男にはそ知らぬ振りをしとくよ」

交渉成立。
そして店主は申し訳なさそうな顔でこれ持ってけ、と干し肉とドライフルーツが入った袋をくれた。


裏口から出て即転移。
フブルフォレストにあるインビジブルタワーの中に戻ってきた。

とりあえず山菜マスターのノックで負ったダメージを修復。

う……修復に魔力を12000も持ってかれた。
すぐに透明化させて見えなくしなければ。早く修復しろ、完全修復──。

「リリー!  リリー!?  どうしたんだ?  また転移石を使ったのかい?」

玄関の外で聞こえてきた声に背筋を震わせた。
またドンドンとドアを叩かれて、修復した耐久度が下がっていく。

なんなの……山菜マスター……何者なの……。
今この場を乗り切るためか、スキルが多発する。

「雑貨店で買い物するにも、その、手持ちが少ないことに気付いて、戻ってきちゃいました……エヘ」

怖い。
スキルのお陰で自然に喋れてるけど、喉はカラカラ。内心ガクブルだ。

「……そ、そうだったのか。僕に言ってくれればよかったのに」
「ほんとにー?  わぁ、なら甘えたらよかったかなぁ」

山菜マスターの前で、はじめて玄関のドアを開けて微笑んだ。
直感だけど、恐らく大丈夫。
逆に開けなければやばいことになると感じ取ったのだ。

「あ、そうだ。よかったらお茶のんでいきませんか?  あとパールフリルも渡したいし~」

もういい。物理的にセクハラしてきたらそれが開戦の合図だ。いざとなれば転移もある。
聞いてみよう。何故わたしが移動したのがわかったのか。何故つきまとってくるのか。お前は何者なのか。

「……リリー」
「はい?」
「か、顔色が……」
「ああ、こんなの毎月のことですからっ」

さ、どうぞどうぞと室内から手招きするも、山菜マスターは動かない。

「ライドさーん?」
「…………あ、いや!  雨も小降りになってきたし、今日は家でゆっくりした方がいい。宿はキャンセルしておくから」
「へ?」


結局山菜マスターは帰ってしまった。解体済みのヌコン鰻を100匹置いて。
それならと私も口説く?  てか襲う口実を与えたくなくて、きちんとパールフリルを押し付けた。

なんだったんだ……。


「さて、どうしようか」

ステータス的にもいま一番山菜マスター、貴方が怖い。

「う~ん……なんかないかな」

ステータスから取得可スキルを開き、収納の中身も探る。

あ、博識の札がある。
この札を持って疑問に思ってることを聞くと、答えを教えてくれるドロップアイテムだ。

博識の札を手にとる。

山菜マスターの、あの謎だらけのスキルについて聞いてみよう。

「スキル【やまびこ】について教えて下さい」

A.声の届く範囲にいる全ての生き物を眠らせることができます。

「……ふざけんな!  チートかよ!  スキル名と合致してねーよ!」

急いで 睡眠無効、取得、取得!!

「スキル【刹那】とは?」

A.一瞬の間に60~65回の思考を生み出せます。

……一瞬で頭の回転が速くなるのか。戦いでも使えるし、より優位な攻略を生み出せる。そうなるとマップ攻略より優れものだ。

「スキル【やまびこ】や【刹那】は取得可能?」

A.それらのユニークスキルは──

──そこで博識の札が消滅した。

チッ。確率で壊れる消耗品だったか。


そのまま動かず、夜になるのを待った。

熱々の蟹うどんを啜り、味噌スープも飲み干す。よし!  食欲はある!

インナー装備を変える。

危機察知のブラジャー。
隠れんぼ上手なショーツ。
防音と防声の腹巻き。
存在感を消すキャミソール。
疲れないタイツ。

服も変える。

魔導師のブラウス。
神々のベスト。
怪力のキュロットパンツ。
宇宙まで飛び出せる帽子。
自動逃走の靴。

同時に物理障壁と魔法障壁と隠密と夜目と飛行も発動。もうわけわからん。

時刻は真夜中2時。窓の外には誰もいない。よし、動き出そう。


私はインビジブルタワーを操作し、玄関のドアに貼り紙を表示させた。


『旅に出ます。
探さないで下さい。
リリー』


直感に従いインビジブルタワーはここに残すことにして、10階の窓から飛行で上昇。歩かない。もしかしたら山菜マスターはこの近く、または遠くから見張っているかもしれないのだ。

家が小さく見えるまで上昇し、そのまま王都の方向に進む。夜風が気持ちいい。

もうフブル区にはしばらく近付かないぞ。


高速で移動し、数時間で実家のヒューテック公爵家についた。お父様の千里眼を解除するにあたって、最後に偵察しておこうと思ったのだ。

スキルにまみれたこの体だ、普通に屋敷の中に入っていく。

おや?
もう夜明けも近いというのに、お父様の執務室からは騒がしい音がしていた。


「旦那様……御者のニッキーは殺害され、お嬢様は行方知れずです。近くの森で盗賊らしき男の毒殺体が5体見つかりました。これは一体……」

家令がお父様に報告書を渡してる。
ニッキー?  盗賊?  いつの話よ?
あ、奴等は毒入り茹で玉子を食べたか……これで私も殺人を犯した罪人だ。てか弱い毒だから生き残りがいるみたいね。あそこはヌコン村に近い。このさき村人は大丈夫かな……。

「アマリリスにかけた千里眼は解けていない。ならまだどこかで生きているということ。なのに感知が出来ない……場所を特定できないのだ」

スキルにまみれたこの体、すぐ側にいますよ。

余裕綽々で収納から鯛焼きを出して食べる。うまー。

おっ、机に釣書が並んでる。
大体40代~50代が相手だ……ってこれ、私への婚約打診じゃない。

「アマリリスの使い道だが……」
「はい。子爵は大金を約束されてます。学園の費用も立て替えてもいいと言っている程で……辺境伯は後妻にと望まれていますが、とくに後継ぎは必要としていないそうです」
「どちらも愛人としてアマリリスを要求しているだけだ」
「公爵家の面子を保つ為、皆様こうして正式に婚約を打診しておられます。式もあげ、籍にも入れる、充分でしょう」
「だがそのアマリリスは行方知らずだ!  探せ!  なんとしてでも捕まえるんだ!」

ドンと執務室の机を叩くお父様。

ひょえー。
既に性格が前世の精神に引き摺られているからか、貴族えげつねー、くらいにしか思わないけど、以前のアマリリスだったらひとたまりもないな。
いや、違うかも……。
15年間この家族の元で育って、その間、アマリリスの性格を形成するものや、精神を固定するものが無かったんだ。だって記憶や知識はあるけど、なんだろう、中身が空っぽというか、価値を見出だせるような思い出が1つもないのだ。こんな前世日本人に簡単に自我を塗り替えられるほど。

「旦那様……」
「このような状況が続けば……いずれ公爵家の醜聞になる。死体でもいい、最悪病死として処理できる。
……なんとしてでもアマリリスを見つけ出せ!」

やっぱ千里眼そのままにしとこ。
まだ生きていると知って私を捕まえようと躍起になるがいい。寝不足にもなれ。苛々して老けろ。もう二度とこんなとこ戻らない。

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