悪役令嬢は嫌なので、放浪して好き勝手します

cqrijy

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2部 人魚とチートな彼氏編

2 豪快

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「え……あ、さっきの……?」
「ああ……さ、さっきは悪かった。すまない。失礼だが、漁師に見えなかったんだ」
「気にしなくていいですよ?  私、なーんとも思ってないもの」
「っ、……あんたはそうでも、ボクは……」

首を傾けると青ざめていた五男坊が真っ赤になったり白くなったり、忙しない奴だぜ。ほんとに気にしなくていいんだけどね。なんせ不振を感じたお前の勘は本物だから。輩と言われた時ギクッとしたぜー。

「漁師達に渡した波乗りイカは全部で50kgはあった。ボクはあんたに金貨20枚は損させたんだよっ」
「そうですか。今日は金貨400枚以上稼いだから、なーんとも思わないですけどねっ」
「……チッ。これだから漁師ってのは。どんぶり勘定すぎんだよ。稼げない日もあるだろ?」
「……それは、そうだけどぉ。貴方には関係ないことでしょ?」
「っ、」

あといつまで手首を掴んでいるんだか。
目線で訴えると五男坊が慌てたように手を離した。

「こ、これからどこに行くんだ?」
「……貴方に関係あります?」
「っ、だから……損をさせた分、償いたいんだよ!」
「じゃあ金貨20枚下さい」
「なっ」

あ、また青白くなった。
あたふたして探ったポケットからは銀貨9枚しか出てこなかった。

「今は……すまない。これしかない」
「あ、要りません。そんな子供のお小遣いみたいな」
「なっ!  なんなんだお前は!  謝っただろう!」
「謝罪は罪を認める行為であって、許しを催促するのはお門違いなんだぜ?」
「う……」

ヤンキー風に両手をデニムに突っ込んで言ってやった。五男坊が完全に固まると、近くからピュウと口笛を吹く音が聞こえてきた。

見ると屋台に体格のいいおじさん。
筋肉映えしたランニングが素敵。汗をかきながら串に刺さった肉を焼いている。

「ようレイン、しつこい男は嫌われるぜ?」
「……べ、別にしつこくしてなんか」
「お嬢ちゃん、1本どうだ?」
「え?」

鑑定すると牛肉と羊肉と鳥ソーセージ。
なんと1本に三種も刺さってる。めちゃいい香りだ。あ、タレに胡麻がついてる。これは絶対美味しいぞ。

「食べます食べます、おいくら?」
「ボ、ボクが払う」
「は?」
「いや奢るから」
「え。頼んでないけど」
「こ、これくらいさせてくれ!」
「じゃあいらないや」
「なっ、なん……?」
「色んな意味で食欲無くすわ」
「どういう意味だ!」
「だから屋台の人の言う通り、しつこいんだって」

人間は言動一つで幻滅されることもある。綺麗な銀髪で顔も整ってて身なりもいいのに、勿体ないね。

「ははっ。お嬢ちゃん、はっきりしてていいな。ちなみに俺からだったら食べてくれるか?」
「え……勿論。お金も払います!」
「お嬢ちゃん可愛いな。よし、食べて気に入ったら次は買ってくれ」

汗だくで額に張り付いた黒髪をかきあげ(エロい大円筋ガン見した)金色の目を細めニヤリと口角を上げたおじさん。エロ。え。エロ。

「うーん……売り込みがうまい……」
「ハハ、串焼きもうまいぞ」

お礼を言って受け取った。
あ、仕事を終えて出てきた漁師さん達もじゃんじゃん買いにきたじゃん。場所からして人気店だな。

そしてやっぱり美味しー。
肉厚なのに柔らかい。あ、細かく包丁のカットが入ってる。胡麻入りの辛いタレもビンゴ。

「あ、あれ……どこいった!」

既に隠密発動。
うろうろする五男坊を避けて食堂街のメインストリートを歩いた。

「色々あるねー」

焼肉屋に麺専門の店。
魚介も多いけど肉系も多い。
お、スーパーマーケットもある。
ケーキ屋もあるしパン屋にフルーツ店もある。
そしてどれも売ってる物がでかい。
パンなんて両手で抱える大きさ。あ、家族連れがふたつも買ってる。
サンドイッチも幅があって殆どが具の厚み。大人の女性ならひときれで満足しそうな量だ。日持ちするハードパンが主流みたいね。

「あれ?」

さっきの屋台と同じ匂いがする店があった。

『テリーの串焼き』
こっちは屋台じゃない。大型の店だ。
ショーケースに色んな肉が並んでいる。カウンターには薫製肉や煮込み料理も。

あ、 黒髪金眼の男性店員さんがカウンター近くに謎の赤身肉を置いた。なにあれうまそぅ……鑑定──鯨のお刺身だ!  これ絶対買いたい!
テイクアウトしてるのかな?  聞いてみよう……あ、キッチンに引っ込んだ。

まずは手にした串焼きをぺろりと平らげる。鳥ソーセージあっさりしててうまー。隠密をといて店内を覗いていると、キッチンの奥から出てきた先程の店員さんにフフっと笑われた。

「その食べ終えた串、捨てとくよ」
「あ、すみません」
「好きなとこ座ってー、いま水持ってくから」
「あ、はいっ」

なんとも自然な誘導にやられた感。
料理が見えるカウンター席に座ると、すぐに水が運ばれてきた。

「なににする?」
「そこのお肉を、」
「これは鯨肉だよ」
「それのお刺身が食べたいです」
「量はどれくらい?」
「2人前くらい」
「はーい、銀貨2枚ね」

注文ごとに払うシステムか。
なら目の前に吊り下がってるうまそうなグルグルソーセージと、鍋でグツグツ煮込まれてるタコも丸ごと1匹頂こう。

「──あと、そこにある串焼きも」
「大丈夫?  うちは一品の量多いよ?」
「漁を終えていま腹ぺこで」
「ああ、漁師さんか……へぇー、皆よく食べるからね。大歓迎だよっ」

そう。
席に座って解ったのだが皆ものすごく注文して豪快に食べている。串焼きを3本程口に入れた超豪快なおじさんもいた。皆ほぼ手掴み。

「全部で金貨1枚と銀貨6枚ねー」
「はい」

鞄に手を突っ込んで素早く渡す。

「漁はどうだった?」
「稼げました。なので今日は奮発しちゃいます」

うおー。鍋から出てきたタコでけー。皮がぷるんぷるんだ。

「あはは、当たった時は皆そう言うんだぁ。あ、ソーセージは時間をかけて焼くからちょっと待ってね」
「はぁい」

うまそー。
先にきた串焼きとタコを頂く。
この串焼き!  牛肉のみだけどさっきの屋台と同じタレの味だ!  そしてでかい。美味しすぎる。収納しちゃお。

タコはプルプル。ほんと皮がうまい!  吸盤も程好い柔らかさでコリコリになってて出汁が染み込んだ身もたまらん。タコは足1本だけ食べて収納した。うま。あの鍋のタコ全部欲しい。空いてるときに買いに来よう。え。うま。

「はーい鯨のお刺身だよ……って早っ!  もう食べたの!」
「お腹減ってて」
「流石漁師さんだなー。沢山注文してくれたからお刺身は少し量を増やしといたんだ。これもいけそうだねっ」

わぁ、グッジョブ!
鯨の赤身肉は癖があるけどまたこの甘辛いユッケタレみたいなのが臭みをうまく消していて、美味しく頂けた。これは全部食べてしまおう。

あー……美味しい。
タレだ。この店はタレに力をいれているんだ。そして新鮮な食材。
最後の鯨肉には両面たっぷりとタレを絡ませて。
あぁ。タレおいしい。
食べ終えてペロリと唇を舐めると、じっくりとソーセージを焼く店員さんと目が合った。

体格がよいな。

店員さんの白シャツと青デニムと赤エプロンが、今日の私と似た色合いの服なのになんかエロい……。

「待たせちゃってるからね、一杯奢るよ」

もうなんなの。さっきの屋台の人といい、この店員さんといい、笑顔が素敵過ぎる。

「……じ、じゃあ何かお酒!  あ、軽いので」
「ソーセージにはビールでしょ。うちのは口当たりが軽いんだ」

出てきたのは白いビールだった。わぁ。しゅわしゅわ。仄かに甘い。あ、氷入れてくれてる。

「はーい、ソーセージお待たせっ」

うおっ。均一にうまそうな焦げ目がついてる。厚めの皮がこれまた、肉汁も凄い。
味付けは香りのいいハーブと……ってこれ、まさかコショウ?

「ちょっとピリッとするこの黒いの、美味しいですねぇ」
「あ、それ?  たまに店主がゾンビと戦って頑張ってくれてるんだぁー」
「よくわかんないですけど、美味しい。このビールにも合います」

へぇ。やっぱりコショウかぁ。
ソーセージを食べ終えてまだ入る、まだいけると胃が唸る。きょろきょろしてたら店員さんが笑った。

「物足りない?  海老で出汁をとった麺ならあるよ。皆シメに食べるんだ」
「あ、ならそれ下さい」
「ちょっと待ってて」

お代を出そうにも金額を言ってくれなかった。ちょっと中が見えるキッチンでは店員さんが素早い動きで麺を茹でて出汁をかけている。

「はい、お待たせ」
「あの、お代を」
「んー?」

どんぶりを置いた店員さんが横にきて、私の耳元で低く囁いた。

「食べてる姿が可愛い」
「はぇっ!?」
「今夜会えない?」

わぁー……カウンターに手をついた……その腕が太い。浮き出た血管が雄々しい。

「あ、明日も漁があるから……寝て備えないとっ」

これってナンパ?
前世共に人生初じゃね?
頬がゆるみそうになる。

「……残念。ならまた明日もおいでよ」
「か、稼げたら、ね」
「ふふっ。ならお代はその時でいいよ。さ、温かいうちにお食べ」
「ぅ、うん」

もうなんなの。引きの良さといい、グッとクる笑顔といい、これ絶対客引きでしょ。ハマるお客さん絶対いるな。

麺は香草と乾燥させた海老の卵が乗ってて、めっっっっちゃ美味しかった。

はふぅ。
おかわりしたお水を飲んだら、宿を探しにいこう。いま探知探索したら近くに宿がある。もうそこでいいだろ。
あかん。水もなぜか2杯目から氷入りでうまい。こうやって客はサービスされてハマっていくんだな。

よし、行くか。
店を出て伸びをする。

「あ、こんなとこにいたのか!」

うっせ五男坊。隠密発動。

「えっ……み、見失った?」

腹パンで眠くなってきた。

宿はテリーの串焼き店のちょうど裏にあった。
宿名は『テリーの宿』
え。まさかの姉妹店?
5階建てでがっしりした造りに店構えから見ても立派な宿だ。

隠密をとく。
出てきた店員さんもさっきの男性店員さんだった。そういや探索したとき串焼き店と通路が繋がってたな。

「あ、君……ちょうど食堂が空いたからね。俺、宿も兼任してるんだ」
「わぁ。凄い働き者ですね」
「そんなことないよ。暇な時間帯の方が多いくらい」

いやほんと、テキパキと動いててえらいなぁ。

「えっと、とりあえず1週間の宿泊で」
「……1週間?」
「あの、……?」

店員さんが受付カウンターの横の壁を見た。

へぇ。料金表みたいなのがある。半日コースとか、6時間だけとか、解りやすいね。一泊金貨2枚だから14枚出すとその手をぎゅっと掴まれた。

「ここ、連れ込み宿だよ?  この料金も二人分の値段ね」
「……へっ」
「あぁ、その顔……やっぱり解ってなかったんだぁ」
「っ、あの!  間違えました!  あははっ、他あたりますっ!」

連れ込み宿?  ってラブホだよね?
あはは!  一人でなにやってんだか!
顔が熱い。笑って誤魔化すと店員さんから困ったような笑顔で金貨を返され、鍵を手渡された。え?

「大丈夫。5階は誰も泊まってないから貸してあげる」
「はぇっ!?」
「その代わり、」

鍵を持たされた手を握られ、また耳元で低く囁かれた。

「毎日食べにおいで」


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