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2部 人魚とチートな彼氏編
4 イベントフード
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翌日。商業都市ヴァーデンス。
都心にある繁華街『デンスマ通り』
そこの高級魔導具屋さんで異空間魔法を誤魔化すためにアイテムバックを買った。
これは沢山物を入れて持ち歩ける魔導具だ。
新品お値段金貨1350枚。
魔導具なので時間経過有り。
収納量は100kg。少ねー。
この都心では店構えが立派な魔導具屋、化粧品店、飲食店や綺麗な宿が並んでいる。
そして大通りから一歩路地に入ると色んな中古店があった。貸しキッチンや貸し屋台、貸しスペースもある。
カツラと眼鏡でもろ変装してるが一応隠密を発動して路地に座った。
そこで新品のアイテムバックを化粧する。
艶のあるベーシュ色の皮を枯れ葉色にして全体的に細かい傷をつける。使い古したよれよれ感も出した。全て精霊術、幻覚魔法による幻影だ。しかし触ったら硬くてツルツルだったので握力で丹念に揉んでおいた。よし、ブランドロゴもへこんで皮もかなり柔らかくなってボロくなったぞ。
さて、使っていない空き地があるのでそこを借りよう。
収納から作業台を出して頭を練る。
何を作ろうか。
嘘だけど私は昨日から知り合いに船を貸しているので、明日から商人として活動するのだ。
なに売ろっかなー。
収納にある食べ物を探ると……。
う……前世の在庫がやばい。
いくら収納無制限とはいえ、これ私が死んだあとどうなるの? 異空間に入りっぱなし?
沢山ある在庫のなかでも期間限定イベントの【日本の屋台シリーズ】で買い漁ったジャンボフランクフルト15821本がやばい。オマケで貰える【和装ガチャ券】欲しさに買っただけで食い切る自信がない。
あと【カレー粉マルシェ】で買い漁ったカレー粉902kgだ。オマケの【インドガチャ券】欲しさに買っただけで使い切る自信がない。
あとイベントでツチノコを倒すとドロップするミニフランスパンが69283本も残っていた。は?
どうしよ、これ……。
フランスパンとフランクフルトとカレー粉。
フランスパンに切れ込みをいれてカレー粉で味付けたフランクフルトを挟むか。
ちゃちゃっと作る。
「味は……かたいフランスパンで食べ応えあるし、はみ出たフランクフルトでがっつり肉感あるし、更にカレー粉が食欲をそそるし……控えめにいってかなり美味い」
料理と作業高速化のスキルで短時間で大量に作れる。調子に乗って3000本も出来上がったぞ。作りながら5本も食べたぞ。まだいける。
名付けてフラフラカレー。
語呂がねぇ。もうカレードッグでいっか。
【カレードッグ】在庫2995本。
うは。フランスパン全然減ってない。
なのでガーリック明太子パンも3000本ほど作った。クッキングイベントのおにぎり関連で明太子が収納に398kgもあったのだ。アホだろ。
「二品だけってのも……でも他に作るのめんどいな」
あとはもう鯛焼きとかでいいかな。
未だ残り2万匹切ってないんだから。
このパンを買うと鯛焼きがオマケでついて銀貨1枚。パン屋だと黒パンはお安いけど白パンで作った大きめなサンドイッチが銀貨2枚とかだから安いと思う。
そして売り方は行商スタイル。
屋台や店舗は持たず、街を歩きながら売る。別に売れんでもいいけど、色々見て徘徊したいのだ。
変装をやめて収納から白いブラウス。赤いスカート。黒いベスト。編み上げブーツを出して着替えた。
さて、ちょっと試運転がてらパンの宣伝をしてみようかな。
隠密を解除して鯛焼きを持ちながら歩く。
そして屋台のラーメン的な呼び鈴はこれ──ピュロォロロロォォ……
「ソーセージパン、ニンニク風味パン~、オヤツ~オヤツはいらんかね~」
鯛焼きが物珍しいのか、チラ見してくる家族連れがいた。お、子供が寄ってきた。鯛焼きをあげよう。
「お近づきの印にどうぞ」
「くれるの? わーいっ」
母親が警戒して見つめてきたのでにっこりと笑って紙に包んだカレードックを渡す。
「なにこれ? ……いい匂い」
「どうした?」
父親もきた。
ガーリック明太子パンを渡す。
「なんだこれ?」
「今日の夜に開店する店のパンです。基本、街に徘徊してるので、また食べたくなったら私を探して下さいね」
「ふーん」
「あら美味しいっ!」
「ではまた~」
ピュロォロロロォォ……
「おかずパン~、オヤツはいらんかねぇ~」
この笛をきいて「お?」と振り向く人もいる。振り向くと鯛焼きにつられて「それなに?」と寄ってくる人もいる。きたきた、ガーリック明太子パンと鯛焼きを渡す。宣伝、宣伝。
「二品だけ? このパンいくらで売るの?」
「銀貨1枚です」
「えっ……じゃあこの甘いのは?」
「それはパンを買った人にあげるオマケです」
「あらぁ、なら安いわっ」
よしよし。
おばさま達も寄ってきたので20人くらいに宣伝できたな。もう疲れたわ。一時閉店しよ。隠密発動。
「もっと食べたいわ」
「っ、はぁはぁ……さっきの子どこいった!」
「あら花屋の旦那」
「あのパンはやばい! うますぎる!」
「当ててみせましょうか? ニンニク風味の不思議なパンでしょ?」
「そう、それ! もっと貰えばよかっ……いやまとめて買い占めればよかった!」
あ、もう夕方か。
ちょっと駆け足。
宿に戻るとフィックスさんが出迎えてくれた。
「ただいま戻りました」
「おかえり……わぁー可愛いね」
行商の平凡な服を褒めてくれるその笑顔に微笑み返すと、額にちゅっとキスをされている間に腰に両腕が絡んできた。下半身がぴったりとくっつく。物凄い密着度だ。それよりスキンシップの流れが自然過ぎて違和感すらなかったぞ。
「都心はどうだった?」
おでことおでこをくっつけて、わぉ、お目々がギラついてる。
「色々買って貸し店舗間借りして作ってきました」
「うちの厨房を使えばいいのに」
「えぇぇ、私に食材つまみ食いされますよ」
「リリーならいいよ。俺もするから」
うん。言葉より笑顔が意味深。
「食べにおいで。今日は新メニューがあるよ」
「は、はい」
ほんっと手の平とか腕とかツルツルで筋肉に張りがあるな。抱擁されると柔らかい胸筋の壁に頬擦りしそうになる。
新メニューはミルクと芋をペースト状にした物にたっぷりのチーズが入っていた。全部チーズかと勘違いする伸び具合。恐ろしいほどパンに合う。
店内も混んできた。
おっ、見知った漁師さんと目が合った。
「おぅ~この前の嬢ちゃんじゃねぇか」
「皆さん今晩は~、儲かってますかー」
「時下だ、儲からねぇよ」
「お、それ超有名ブランドのアイテムバックじゃねぇか」
「都心のか? あそこはどれも金貨千枚からだぞ」
「……借金して買ったのか?」
「いえ。路地の中古店で安かったんですよ。めっちゃボロいけど金貨98枚で100kgも入るし」
「賢いな、買い物上手だ」
今日は漁師さん達、家族を連れてきている。どんどん混んでいくぞ。いつも5人くらいいる店員さんもバタついてる。
あ、テリーさん新メニューめちゃつまみ食いしてる。チーズの表面をこんがり焼いたり玉葱スライスを乗せたり。それ、大正解やん。絶対美味しいやつ。
「お嬢ちゃん、店は決まったのか?」
「わわっ、ありがとうございます」
テリーさんが沢山おかわりをくれた。芋チーズたっぷりのパンが串に刺さってて食べやすい。
のびーーーる。とろけーーーる。焦げ目が美味しーい。
「行商をします!」
「なにを売るの?」
今度はフィックスさんがトッピングを持ってきてくれた。
「これと、これと、あとこれはオマケ」
「オマケ……それ魚なの?」
「鯛っぽいな」
三品とも二人にあげた。
あ、トッピングの玉葱に桃花油とコショウがかかってる。贅沢ねぇ。でも美味しい。
「俺、これ全部好き」
「このニンニク風味のパンが特にうまいな」
「ありがとうございます!」
「お嬢ちゃんが作ったのか?」
「パンとソーセージは都心で安いのをテキトーに買ってきました。作ったのはソースくらいですね」
「うん。このソースがいいな」
「この甘い魚は?」
声を潜める。
「以前海賊幽霊船の船長に教えてもらった釣り場で釣ったやつです」
ごめんガッ君。
都合の悪いことは全て貴方に押し付ける。
「……海賊? 幽霊船ってことは、既に……」
「はい。幽霊でした。ボーンデビル島にいるオオトカゲに船が襲われそうになった時、その海賊が助けてくれたんです」
「隣国だな」
「はい。遺骨にお酒をあげたら深海の釣り場まで連れてってくれました」
「……へぇ」
フィックスさんの手が私の胸に伸びて、首にかけた笛を摘まんだ。
お、おう。位置的にびっくりした。
「リリーはあちこちで顔を売ってるね」
「それ、お嬢ちゃんの笛か?」
「えっと……これはケッチャカ族の女の子に貰いました」
「……女の子? 本当に?」
「はい。かなりの美少女でしたよ。声も可愛かったし」
フィックスさんが私のかじりかけのパンを口に入れた。目に圧を感じますね。なんだろう? その子から盗んだと思われてるのかな?
「あと、……この笛はその子が手作りしたもので、同じ笛を二つ持っていたんです。そのひとつを貰いました」
「……」
「お嬢ちゃん、あのな……この国でも辺境の民族は手作りした笛を婚約者と決めた女に渡すんだ。二つ持っていたなら重婚が認められている族長の長男だ。女の子じゃない」
「はぇっ!?」
えぇぇ?
確か……辺境の民族から笛を渡されると、魂を奪われるとか、肉体を乗っ取られるとか、怖い迷信があるのは知ってるけど、テリーさんが言ったそんな風習、アマリリスの記憶にはないぞ。
「婚約者なの?」
「えっ違います。私も笛を持っていたので、先にいくつかあげたんです。物々交換のようなものですね」
「……お嬢ちゃん、自分の笛を渡したのか。それは求婚だ。向こうも笛を渡してきたなら、その場で了承したんだ」
「はぅぇ!?」
「外そうか、リリぃ」
お、おう……いい笑顔で取られた。
あ、返してくれた。
吹くのは行商の時だけにしよう。
しかし参ったな。
この笛がそんな意味のあるものだったなんて。あのケッチャカ族の子供は、お代がいらないならとわざわざとらえた獲物をくれた。律儀な性格だ。あの時は私からいくつも笛を押し付けられて気をつかわせてしまったに違いない。
ほんとごめん。でもお気に入りの笛だから、大事にするね。
都心にある繁華街『デンスマ通り』
そこの高級魔導具屋さんで異空間魔法を誤魔化すためにアイテムバックを買った。
これは沢山物を入れて持ち歩ける魔導具だ。
新品お値段金貨1350枚。
魔導具なので時間経過有り。
収納量は100kg。少ねー。
この都心では店構えが立派な魔導具屋、化粧品店、飲食店や綺麗な宿が並んでいる。
そして大通りから一歩路地に入ると色んな中古店があった。貸しキッチンや貸し屋台、貸しスペースもある。
カツラと眼鏡でもろ変装してるが一応隠密を発動して路地に座った。
そこで新品のアイテムバックを化粧する。
艶のあるベーシュ色の皮を枯れ葉色にして全体的に細かい傷をつける。使い古したよれよれ感も出した。全て精霊術、幻覚魔法による幻影だ。しかし触ったら硬くてツルツルだったので握力で丹念に揉んでおいた。よし、ブランドロゴもへこんで皮もかなり柔らかくなってボロくなったぞ。
さて、使っていない空き地があるのでそこを借りよう。
収納から作業台を出して頭を練る。
何を作ろうか。
嘘だけど私は昨日から知り合いに船を貸しているので、明日から商人として活動するのだ。
なに売ろっかなー。
収納にある食べ物を探ると……。
う……前世の在庫がやばい。
いくら収納無制限とはいえ、これ私が死んだあとどうなるの? 異空間に入りっぱなし?
沢山ある在庫のなかでも期間限定イベントの【日本の屋台シリーズ】で買い漁ったジャンボフランクフルト15821本がやばい。オマケで貰える【和装ガチャ券】欲しさに買っただけで食い切る自信がない。
あと【カレー粉マルシェ】で買い漁ったカレー粉902kgだ。オマケの【インドガチャ券】欲しさに買っただけで使い切る自信がない。
あとイベントでツチノコを倒すとドロップするミニフランスパンが69283本も残っていた。は?
どうしよ、これ……。
フランスパンとフランクフルトとカレー粉。
フランスパンに切れ込みをいれてカレー粉で味付けたフランクフルトを挟むか。
ちゃちゃっと作る。
「味は……かたいフランスパンで食べ応えあるし、はみ出たフランクフルトでがっつり肉感あるし、更にカレー粉が食欲をそそるし……控えめにいってかなり美味い」
料理と作業高速化のスキルで短時間で大量に作れる。調子に乗って3000本も出来上がったぞ。作りながら5本も食べたぞ。まだいける。
名付けてフラフラカレー。
語呂がねぇ。もうカレードッグでいっか。
【カレードッグ】在庫2995本。
うは。フランスパン全然減ってない。
なのでガーリック明太子パンも3000本ほど作った。クッキングイベントのおにぎり関連で明太子が収納に398kgもあったのだ。アホだろ。
「二品だけってのも……でも他に作るのめんどいな」
あとはもう鯛焼きとかでいいかな。
未だ残り2万匹切ってないんだから。
このパンを買うと鯛焼きがオマケでついて銀貨1枚。パン屋だと黒パンはお安いけど白パンで作った大きめなサンドイッチが銀貨2枚とかだから安いと思う。
そして売り方は行商スタイル。
屋台や店舗は持たず、街を歩きながら売る。別に売れんでもいいけど、色々見て徘徊したいのだ。
変装をやめて収納から白いブラウス。赤いスカート。黒いベスト。編み上げブーツを出して着替えた。
さて、ちょっと試運転がてらパンの宣伝をしてみようかな。
隠密を解除して鯛焼きを持ちながら歩く。
そして屋台のラーメン的な呼び鈴はこれ──ピュロォロロロォォ……
「ソーセージパン、ニンニク風味パン~、オヤツ~オヤツはいらんかね~」
鯛焼きが物珍しいのか、チラ見してくる家族連れがいた。お、子供が寄ってきた。鯛焼きをあげよう。
「お近づきの印にどうぞ」
「くれるの? わーいっ」
母親が警戒して見つめてきたのでにっこりと笑って紙に包んだカレードックを渡す。
「なにこれ? ……いい匂い」
「どうした?」
父親もきた。
ガーリック明太子パンを渡す。
「なんだこれ?」
「今日の夜に開店する店のパンです。基本、街に徘徊してるので、また食べたくなったら私を探して下さいね」
「ふーん」
「あら美味しいっ!」
「ではまた~」
ピュロォロロロォォ……
「おかずパン~、オヤツはいらんかねぇ~」
この笛をきいて「お?」と振り向く人もいる。振り向くと鯛焼きにつられて「それなに?」と寄ってくる人もいる。きたきた、ガーリック明太子パンと鯛焼きを渡す。宣伝、宣伝。
「二品だけ? このパンいくらで売るの?」
「銀貨1枚です」
「えっ……じゃあこの甘いのは?」
「それはパンを買った人にあげるオマケです」
「あらぁ、なら安いわっ」
よしよし。
おばさま達も寄ってきたので20人くらいに宣伝できたな。もう疲れたわ。一時閉店しよ。隠密発動。
「もっと食べたいわ」
「っ、はぁはぁ……さっきの子どこいった!」
「あら花屋の旦那」
「あのパンはやばい! うますぎる!」
「当ててみせましょうか? ニンニク風味の不思議なパンでしょ?」
「そう、それ! もっと貰えばよかっ……いやまとめて買い占めればよかった!」
あ、もう夕方か。
ちょっと駆け足。
宿に戻るとフィックスさんが出迎えてくれた。
「ただいま戻りました」
「おかえり……わぁー可愛いね」
行商の平凡な服を褒めてくれるその笑顔に微笑み返すと、額にちゅっとキスをされている間に腰に両腕が絡んできた。下半身がぴったりとくっつく。物凄い密着度だ。それよりスキンシップの流れが自然過ぎて違和感すらなかったぞ。
「都心はどうだった?」
おでことおでこをくっつけて、わぉ、お目々がギラついてる。
「色々買って貸し店舗間借りして作ってきました」
「うちの厨房を使えばいいのに」
「えぇぇ、私に食材つまみ食いされますよ」
「リリーならいいよ。俺もするから」
うん。言葉より笑顔が意味深。
「食べにおいで。今日は新メニューがあるよ」
「は、はい」
ほんっと手の平とか腕とかツルツルで筋肉に張りがあるな。抱擁されると柔らかい胸筋の壁に頬擦りしそうになる。
新メニューはミルクと芋をペースト状にした物にたっぷりのチーズが入っていた。全部チーズかと勘違いする伸び具合。恐ろしいほどパンに合う。
店内も混んできた。
おっ、見知った漁師さんと目が合った。
「おぅ~この前の嬢ちゃんじゃねぇか」
「皆さん今晩は~、儲かってますかー」
「時下だ、儲からねぇよ」
「お、それ超有名ブランドのアイテムバックじゃねぇか」
「都心のか? あそこはどれも金貨千枚からだぞ」
「……借金して買ったのか?」
「いえ。路地の中古店で安かったんですよ。めっちゃボロいけど金貨98枚で100kgも入るし」
「賢いな、買い物上手だ」
今日は漁師さん達、家族を連れてきている。どんどん混んでいくぞ。いつも5人くらいいる店員さんもバタついてる。
あ、テリーさん新メニューめちゃつまみ食いしてる。チーズの表面をこんがり焼いたり玉葱スライスを乗せたり。それ、大正解やん。絶対美味しいやつ。
「お嬢ちゃん、店は決まったのか?」
「わわっ、ありがとうございます」
テリーさんが沢山おかわりをくれた。芋チーズたっぷりのパンが串に刺さってて食べやすい。
のびーーーる。とろけーーーる。焦げ目が美味しーい。
「行商をします!」
「なにを売るの?」
今度はフィックスさんがトッピングを持ってきてくれた。
「これと、これと、あとこれはオマケ」
「オマケ……それ魚なの?」
「鯛っぽいな」
三品とも二人にあげた。
あ、トッピングの玉葱に桃花油とコショウがかかってる。贅沢ねぇ。でも美味しい。
「俺、これ全部好き」
「このニンニク風味のパンが特にうまいな」
「ありがとうございます!」
「お嬢ちゃんが作ったのか?」
「パンとソーセージは都心で安いのをテキトーに買ってきました。作ったのはソースくらいですね」
「うん。このソースがいいな」
「この甘い魚は?」
声を潜める。
「以前海賊幽霊船の船長に教えてもらった釣り場で釣ったやつです」
ごめんガッ君。
都合の悪いことは全て貴方に押し付ける。
「……海賊? 幽霊船ってことは、既に……」
「はい。幽霊でした。ボーンデビル島にいるオオトカゲに船が襲われそうになった時、その海賊が助けてくれたんです」
「隣国だな」
「はい。遺骨にお酒をあげたら深海の釣り場まで連れてってくれました」
「……へぇ」
フィックスさんの手が私の胸に伸びて、首にかけた笛を摘まんだ。
お、おう。位置的にびっくりした。
「リリーはあちこちで顔を売ってるね」
「それ、お嬢ちゃんの笛か?」
「えっと……これはケッチャカ族の女の子に貰いました」
「……女の子? 本当に?」
「はい。かなりの美少女でしたよ。声も可愛かったし」
フィックスさんが私のかじりかけのパンを口に入れた。目に圧を感じますね。なんだろう? その子から盗んだと思われてるのかな?
「あと、……この笛はその子が手作りしたもので、同じ笛を二つ持っていたんです。そのひとつを貰いました」
「……」
「お嬢ちゃん、あのな……この国でも辺境の民族は手作りした笛を婚約者と決めた女に渡すんだ。二つ持っていたなら重婚が認められている族長の長男だ。女の子じゃない」
「はぇっ!?」
えぇぇ?
確か……辺境の民族から笛を渡されると、魂を奪われるとか、肉体を乗っ取られるとか、怖い迷信があるのは知ってるけど、テリーさんが言ったそんな風習、アマリリスの記憶にはないぞ。
「婚約者なの?」
「えっ違います。私も笛を持っていたので、先にいくつかあげたんです。物々交換のようなものですね」
「……お嬢ちゃん、自分の笛を渡したのか。それは求婚だ。向こうも笛を渡してきたなら、その場で了承したんだ」
「はぅぇ!?」
「外そうか、リリぃ」
お、おう……いい笑顔で取られた。
あ、返してくれた。
吹くのは行商の時だけにしよう。
しかし参ったな。
この笛がそんな意味のあるものだったなんて。あのケッチャカ族の子供は、お代がいらないならとわざわざとらえた獲物をくれた。律儀な性格だ。あの時は私からいくつも笛を押し付けられて気をつかわせてしまったに違いない。
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