悪役令嬢は嫌なので、放浪して好き勝手します

cqrijy

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2部 人魚とチートな彼氏編

5 必殺行商人

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ふぅ。芋チーズパンが美味しすぎて食べ過ぎた。さて、そろそろ動くか。


「気を付けて行ってくるんだよ」
「はいっ」

ローブを身につけ、フィックスさんに見送られて店を出てからしばらく歩いた。

行商人の私は夕方から夜にかけて活動を開始する。他の人がどうしてるかは知らん。

それなりに離れたところで探知探索。
5km先に人の群れがいるな。

隠密発動。
建物の屋根から屋根を渡り目的地を目指す。
あ、お菓子の屋台があるー。
クッキーだ。ってもう閉店か。灯りを消しよった。

5km先には水産業みたいな建物があった。まだ作業してる人々がいる。

降りて隠密解除。

ピュロォロロロォォ……

「オヤツ、オヤツはいらんかねぇ~」

鯛焼き持って徘徊する。

「いい笛の音だな」
「なんか持ってる?  あれなに?」

ピュロォロロロォォ……

「ソーセージパン~、ニンニク風味~、オヤツはいらんかねぇ~」

通り過ぎる時にカレーの匂いを充満させるとスーツを着た女性が寄ってきた。

「それなぁに?」
「試食できますよ」

と言いつつカレードックを1本丸ごと渡す。
仕事帰りかな?  少々お疲れ気味のお姉さん。スーツもよれよれだ。

「……美味しいわ!  これいくら?」
「これがオマケに付いて銀貨1枚です。試食もできますよ」

そして鯛焼きを渡す。

「甘いわ!  この皮も中身も好きっ」
「夕方から夜にかけて行商してますので、また食べたくなったら私を探して下さいね~」
「ええっ……ありがとう、元気が出たわっ」

それはよかった。
あ、作業を終えた青年達がきた。

「試食もできますよ」

カレードックを手ににっこりと微笑めば青年達が生唾を飲み込んだ。うふふふ。

「うめぇ!  なんだこれ!」
「こっちはニンニク風味。試食もできますよ」
「これ好きっ……不思議な味!」
「更にパンを買うとこれがオマケで付いてきます。試食もできますよ」
「甘あああっっ」
「骨がない、だと!?」
「こんな魚はじめて食べたっ」
「夕方から夜にかけて売ってますので、また欲しくなったら私を見つけてね~」
「今度買うよ!」
「すっげー美味しかったよ!」

仕事終わりの炭水化物はうまいよねぇ。
さて、この場を去って隠密発動。

探知探索。
お、港に向かっていく人の群れがある。
飛行でバビュン!


お~、いい匂いがする。
港には日中はなかった露店が出ていた。
魚介スープの店主に一杯もらう。

濃っ……うっんまっ!
これで銅貨5枚?
元取れんのか!?

「うちは水産業から出汁になる蟹の殻や海老の頭をもらってんだ。売上は殆どお小遣いだよ」
「へぇ。そうなんですね」

前歯がない店主だ。露店は本業の金物屋の合間の趣味ってやつだって。
ならばと今日から行商を始めたことを伝え、鯛焼きをあげた。

「これはうまいな。息子と女房が喜びそうだ」
「銀貨1枚のパンを買うとそれがオマケについてきます」
「オマケ?  パンがオマケだろ?」
「パンも美味しいんですよ。よかったらこれ持って帰って家族で試食してみて下さいね」
「ありがとうな……にしてもうまいな」

続けて甘いミルクティーの屋台。
『アリサブレンド』と書かれたポップな看板が可愛い。
鯛焼きをあげたら店のお姉さんがミルクティーをくれた。

「行商で売ってるのね。貴女名前は?」
「リリーです」

茶葉を多めに使っているのだろう。紅茶が濃くてミルクと合う。まだ春と夏の中間。ちょっと冷える夜だとこの砂糖たっぷりな紅茶がいいね。アリサさんは夏場は蜂蜜アイスティーを売ってるそうだ。

「もう行っちゃうの?  また港の方にも来てよ」
「はい、徘徊してますから、声かけて下さいねぇ~」

お次はお酒とつまみを売ってる屋台があった。
挨拶してガーリック明太子パンをあげた。

「夜の港はスープや飲み物のお店が多いんですね」
「基本みんな本業があるからな。凝った物は作らないんだ。うちもつまみは日中余った食材で作るんだが……ってなんだこのパン!?」
「お酒と合うかな?」
「合う合うッ!」
「その辺を徘徊しながら売ってるから、また食べたくなったら私を探してねぇ~」

お。食べるスープみたいな屋台がある。
一杯頂くと、きのこや色んな野菜クズ、牛脂、ソーセージの切れ端なんかが入ってた。ぐずぐずに煮込まれててこれは海から帰って来た漁師さんとかに喜ばれそう。

「あ~、あったまるぅ」
「うちは亭主が八百屋であたしは肉屋なんだ。余り物の食材も新鮮なものばかりなんだよ」
「わかります。野菜からも出汁が出てるしこの脂身に胃がめちゃ喜んでます」
「あっはは、可愛い子だねぇ!」

1日限定20杯なんだって!
なので5杯お買い上げした。うまっ。
最後に旦那さんと食べて下さいと言ってカレードックとガーリック明太子パンをあげて宣伝しといた。


夜の港。
その端には女性が集まっていた。きらびやかな格好だ。粒揃い、というか前世日本人の私から見たら全員が上玉だ。お化粧もバッチリでモデル軍団のよう。しかし不穏な空気だ。
隠密発動。


「時下でいつもの漁師が来ないわっ」
「ねー!  愛してるのなんだのって、こんな時こないでなにが愛してるよ!」
「あたしも今日は全然客つかないわ」

おぉ……夜の港にはこんな一面もあるのか。

「あ、バネッサ帰って来た、どうだったー?」
「……サイテーよぅ。冷やかしだったわ」
「えーっっ、なんなのそいつ」
「誰かフィックス君を呼んできてよ」
「それならさっきアメダスが呼びにいったよー」

……フィックス君?
ってテリーの串焼き店のフィックスさん?

その辺に座って食べるスープを飲み干す。うま。ソーセージの切れ端サイコー。お姉さん達も大変だなぁ。間違っても鯛焼きを出せる空気じゃない。

お、皆で煙草吸いだした。
私も吸おっと。

はぁ……冷えた空気に煙草がうまい。


「今日はー?  誰と誰?」
「あーっ、フィックス君来たぁ!」
「先にアンナとマチルダをお願い。あの子達そろそろ出稼ぎから戻らないといけないの」

現れたのは……うん、フィックスさんだった。
煙草くわえてる。
あ、消した。

「二人とも何でもできる?」
「ある程度なら」
「あたし痛いのは嫌~」
「わかった」

じょ、女性とか買うんですね。
必要なさそうだけど……。

フィックスさんが辺りをきょろきょろとして、何か探してる。
え?  まさかここでするの?
と思ったら違った。通りすがりの男性に話し掛けて……おふ。男性と距離が近いな。耳元で微笑みながら囁いてる。

1人、2人、3人、フィックスさんが話し掛けた10人の男性が女性とどこかへ移動しだした。ちょっと聞こえてきたけど相場?  は金貨5枚~10枚らしい。高いのか安いのかはわからないけど、あっという間に満員御礼である。

「ありがとうフィックス君っ」
「テリーさんの宿使うからぁ」
「うん、よろしくね」

そっか……客引きかぁ。
うん、得意そうだよね。
初対面で私もだいぶハマったよ。
おまけに自分のとこの宿を使ってもらえば売上もでるし。

働き者だなぁ。
夜も店にいるしいつ寝てるんだろ。

フィックスさんが伸びをして、いきなり海に飛び込んだ。はぇっ!?

ちょ、この街の人間だから泳げるだろうけど探知探索。

あ、浮いてきた。水泳?
夜の海は危険じゃないのかね?
また潜った──ってかなり深いとこに向かって……いや、港を出て沖に向かってる。

「……速いな。人間か?」

どうしよう。
ワクワクが止まらない。

すぐに追い掛けたい衝動を抑えて隠密のまま海の頂点に着替える。備えあれば憂いなしだ。
飛行で沖に向かう。

夜目発動。
海上からフィックスさんの位置を確認する。港からここまで息継ぎした様子がない。ずっと海中にいるけど、真っ直ぐ動いてるし溺れてるんじゃないよね?

「…………肺活量が超人な人間……?」

鑑定……より大事なものがある。
見たらビビるかもしれない。山菜マスターの時のように。がっちがちのフル装備でしか対応出来なくなるかもしれない。

一応山菜マスターには、今になって引っ掻き回してごめんという気持ちも少しあるのだ。ステータスを見ていなかったらあんなにビビらなかった。しつこくされても五男坊辺りと似たような対応をしていた気がする。それに……ビビってたあの謎のスキルで攻撃されたわけじゃない。

あ、フィックスさんが顔を出した。
シャツを脱いだのか、半裸で背泳ぎの姿勢でのんびりしてる。
少し長めの黒髪をかきあげて、月を見上げている。目線の前にいくと、薄い金色の眼が光っていた。
穏やかな顔に、力を抜いた無防備な姿勢。
……仕事の合間の息抜きってやつだろう。
それにしてもエロいな。人の休憩する姿を、小一時間は眺めてしまった。いかんいかん。



「おかえりリリー」
「はぇっ!?」

そろそろ日付もかわるので宿に戻ると背後から抱きしめられた。

「ちべたっ……フィックスさん、潮の香りがします」
「うん。今さっきまで泳いでたんだ」

知ってる。
笑顔が気まずいな。

「売れた?」
「はい。最後に沢山買ってくれたお姉さん方がいて」

あ、そうそう。
仕事を終えて機嫌がよさそうに戻ってきた女性達が試食後にめちゃ買ってくれました。また必ず来てねとなかなか手を離してくれなかったので鯛焼きを押し付けて逃げてきた。

「知ってる。港で売ってたね」
「あ、見えてましたか。近くを泳いでたんですか?」
「ううん、海からだとよく見えるんだ」

およ?  瞳……金色が濃くなった気がする。

「リリーが見えたから、ずっと眺めてた」
「……」

意味深な笑顔。
あれ、これバレてる?

「実はさっきフィックスさんを追い掛けて沖までいったんですよ」
「うん知ってる」

バレてる!
心拍数上昇!
耐えろ耐えろ。

「あ、あとをつけたとかじゃなくてですね、フィックスさんをたまたま見掛けて、いきなり海に飛び込んだので大丈夫かなぁって……でも心配はなかったですねっ!  すっごく泳ぎが得意そうで、その……」
「一緒に泳ご?」
「え、……はい」
「じゃあ明日、さっきの水着きてね?」
「はぇっ!?」
「可愛かった」

クスクス笑いながら頭を撫でられ、これ以上にないほど心拍数上昇。おやすみと言われて宿に戻って寝た。
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