悪役令嬢は嫌なので、放浪して好き勝手します

cqrijy

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2部 人魚とチートな彼氏編

9 えらいこっちゃ

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えらいこっちゃ。
どうやって止めよう……。

テンプレ装備No.666
武器:美毒と醜毒の真剣
頭:愚者の王冠(恐怖-50:発狂無効)
腕:深淵の腕輪(会心50:会心-50)
銅:真実と拒絶の胸当て(激運100)
腰:破滅の結束帯(毒効果増)
足:無限の靴(回避10)

……いやこれ海王蛇絶対殺したる装備。いかんいかん。


一瞬で海の頂点に着替えた。
テンプレ装備に設定しといてよかった。
隠密と飛行で海上にあがり、浜辺にいるフィックスさんに猛ダッシュする。

「リリー、」

避けられた。
顔、怒ってる。怖っ。
結界でフィックスさんを包む。力の波動ごと。このまま凍血を解除させよう。

「どこ?  リリー」

触れようとしたら結界割られた。早っ。
隠密は探知されていない。が、大まかな位置は読まれている。

錬金術──複製。
魔力のみで複製した練度の高い分身を10体出す。
ぐぅぅ。一体につき魔力値5万。きっつ。

「なにこれ?」

10体の分身でフィックスさんを羽交い締めにしたら舌が鞭のようにしなり、10体とも消された。
一瞬だった。
やだもう海王蛇と戦ってるみたい。
隠密解除。

「もうっ、フィックスさんは、私の彼氏でしょ!?」
「…………嬉しい」
「ならなんで避けるのよぅ!」
「転移されるから」
「二度としないって!  早く凍血解除して!」
「……したよ」

動きがはやい。やばい。
海中にいる巨体の海王蛇ではこうはいかないな。
小回りがきく人魚のようだ。それにフィックスさん、全然海に入ろうともしない。余裕なんだろうな。

「もー転移しないって、避けないで!」
「リリーに迫られてるみたいで、楽しいから」
「……もしかして機嫌なおった?」
「うん」

ひと触れでもできたらそのまま隠密と結界で包んで押し倒してなし崩し的な展開に持っていって全てをうやむやにしようと思ってたんだけど。

「あ、じゃあ」
「でもエメラルドはダメ」
「…………」
「それとこれとは別。じゃないと、リリーを傷つけてしまうからね」
「傷なんてっ……」

浜辺に倒れていたミラさんにエメラルドちゃんが喉仏の骨を宿した。

「終わった?  よかったね、エメラルド。リリーから代わりの声を貰えて」

フィックスさんが歩いてエメラルドちゃんに近付いて、頭をポンと触った。

目を開いたまま倒れたエメラルドちゃん。
鑑定するも……息をしていない。
目覚めたミラさんがエメラルドちゃんを胸に抱いて、フィックスさんに頭を下げた。納得はしていないが諦めた表情だ。

「……フィックスさん、もうエメラルドちゃんの事、許してあげて下さい」
「うん。許したよ」

そうか。ならばと収納からペテン師のトランプを出してエメラルドちゃんを生き返らせた。

「…………え?」

フィックスさんとミラさんがポカンとした。
目覚めたエメラルドちゃんもポカンとした。

ペテン師のトランプは、今起きたことを逆転させる超ぶっ壊れ性能のトランプなのだ。

百億負けたら百億勝ったことになる。
死んだ人も死ななかったことにできる。

「……実は私、別世界の神でして」

さぁ、根回しが大変だ。
テンプレ装備に設定しておいた砂漠の女王のドレスとマントに一瞬で早着替えする。

眩しさ全開のドレスにミラさんが目を細めた。

「あ、の……リリーさんが……神?」

わぁ。ミラさんの声、初めて聞いた。
今まで聞いた人魚の中でも、郡を抜いて歌姫クラスだ。

「私、この世界を作った女神運営と、ちょっとした仲でして。かなり貢いだんです。そしたら特典が一杯で」
「リリー、それ可愛い」 
「フィックスさん、いま集中してるから、待って、お願い、5分」
「わかった」

ミラさんとエメラルドちゃんの前に腰を下ろす。
フィックスさんにおびえて震えている双子のシリンちゃんとマリンちゃんも呼ぶ。

「私、神ですがフィックスさんの彼女なんです」
「……はい」

ミラさんが神妙に頷き、後の三人も頷いた。

「だからフィックスさんが、さっきみたいに美しい貴女達に構うと……構い方はどうあれ嫉妬して本来の世界に帰ってしまうかもしれません」
「……リリー?」
「フィックスさん、人魚の頭に触ったり、殺したりって、とても仲の深い付き合いですよね?」
「……そうなの?  リリーからしたら?」
「そうですよ。生死をひっくり返した私の言葉が信じられませんか?」
「リリーはよく自分の事を誤魔化すからね」
「そりゃ誤魔化しますし、隠しもしますよ。だってフィックスさん、私が恥ずかしがり屋なのは、よくご存じのはず」
「……可愛い。わかった。信じる。だから元の世界に帰らないで」

よし、言質とった。
満足げに頷いて女性陣に向きなおす。

「皆さん、色んな事情があると思います。でも行動に移す前に、誰かに、例えば私とかに相談してみるのも一つの手だと思いませんか?  私は神なので、この場合、神頼みってやつです」
「はい……思い、ます」

ミラさん声の調子がまだだ。
後で喉にいい飲み物を差し入れしよう。

「エメラルドちゃん。私は神です。いま貴女を生き返らせました」
「は、はい」
「そんな神でも好きな人を取られたら傷つきます。私があまり家庭環境がよくなかったのは、先程の会話で知っていますね?  なので一度懐に入れた者には執着する傾向があるのです。フィックスさんが、その対象です」
「……はぃ。ごめんなさい」
「人魚がいきなり人間に喧嘩を売るのはダメです。私でなかったら3回は死んでいましたよ」
「……はぃ。もぅしません」
「はぁ……年頃になって、好きな人ができたら、必ず私に言って下さい。間違っても暴走して好きな人、例えば人間とかは特に、海に引き摺りこまないように」
「……はぃ。そうします」
「人魚の皆さま、今日見聞きした事は、絶対に他言無用です」

四人が神妙に頷いたのを見届けて、目がチカチカするので装備を海の頂点に戻した。

魔力使いすぎてふらっふらだ。
後で魔力銀行からおろすか……。
とくになんともなく平然としているフィックスさんが恨めしい。これが本物のチートだ。

「大丈夫、リリー?」
「昨夜の疲れが出ました」
「……ごめん」

うわ。本気にした。ごめんて。
そんな悲しそうな顔をしないで。

「リリー。好きだよ。俺から逃げないで。この世界にいて」 
「わ、私もフィックスさん好きですよ。じゃなきゃあんなことしてません」
「……よかった」

フィックスさんにぎゅっと抱き締められて目の前が光った。
ん?  ふらつきどころか体中に力がみなぎってる。なんだこれ……?

「リリーおねいさん……」

あんなにツンツンしてたエメラルドちゃんから初「おねいさん」呼び頂きました。

ふむ。女性陣からただならぬ様子が伺える。

これ、フィックスさんからなんかされたな……。

「…………ゴクリ」


──ステータス、オープン。




アマリリス・ヒューテック
15歳 公爵令嬢 放浪娘 大盗賊 ペテン師
【上位/人間】【上位/人魚】【下位/海王蛇】
HP 999999/999999(+9999999)
MP 999999/999999(+9999999)
【スキル】
無詠唱/光神の加護/生活魔法/火魔法/水魔法/雷魔法/毒魔法/氷魔法/身体強化/隠密/飛行/念話/魔法強化/聖属性魔法/闇属性魔法/異空間魔法/転移魔法/聖霊術(土/植物/風/幻覚)/錬金術/物理障壁/魔法障壁/睡眠無効/追跡不可/地図/鑑定/査定/直感/料理/洗浄/山歩き/水流使い/採取/探知/探索/気温適応/海釣り/マップ開拓/威圧/拒絶/夜目/ダメージ減/作業高速化/マリオネットの心/毒殺/失血/窒息/溺死/凍死/暗殺/影遊び/小人/早起きは三文の得/森歩きのマナー/旅人の話術/会話の雰囲気作り/被害を最小にする社交術/雨乞い/非情の雷雨/魔力銀行

【取得可スキル】残957038854P
……▽クリック



えらいこっちゃ。

大盗賊とペテン師はそれのアイテムを使用したことによる称号だから問題ない。

問題は、
HPとMPが999999ずつ増えている。
2倍。カンストの2倍。は。

てか【上位/人間】【上位/人魚】【下位/海王蛇】ってなんぞ?

鑑定するともし私が人間か人魚と交わったら、交尾相手が雄だろうが雌だろうが、絶対に上位の私のを持つ子供を相手に孕ますことができるそうです。下位だと逆に相手の性を孕む側になるそうで……は。え。そうですかハアアアア!?


……てか、さっきエメラルドちゃんが言ってた、フィックスさんは22個の命を持ってるって。それ、あれの本数のことだよね。


「フィックスさん」
「うん?」
「まさかと思いますが性器減りました?」
「……リリーは回復した?」
「回復どころか……」

え。マジで使ったん?
ちょっと魔力使いすぎてふらついてただけで?
なにしてくれてるの?
カンストの2倍って、もうひとつ命を貰ったようなものでしょ?  え。絶対使ってるじゃん。もしかしてそれの本数減ったら性欲とか寿命も減るんじゃないの?
なにしてくれてるの?
ということを遠回しに伝えると照れたように笑い返された。

「大丈夫。俺、1年毎に増えるから」
「ぇ……な、なにが?」
「今22歳だから、本来なら22本あるんだけどね。見たから知ってるでしょ?」
「はぅぇ!?」
「大丈夫。年々強くなるから……減らないよ。リリーのこと、ずっと増して愛すよ」


えらいこっちゃ。





新たな声を得たミラさん。
死んで生き返ったエメラルドちゃん。
恐怖でガクブルだったシリンちゃんにマリンちゃん。
ただならぬ気配を感じて恐る恐る浜辺にきていたトラウマ持ちのアリエルちゃん。

皆は今はちょっと休んでて。
色んな心労でふらついてるミラさんはとくに。
極楽蝶が集めた極楽蜜入りの瓶と紅茶を渡してしばらく皆で一杯やっててくれと言って、私は海底養殖場のスプラッシュもすぐと珊瑚キノコを回収した。

最初はそれなら手伝うとフィックスさんが手を上げたんだけど、いや貴方一瞬で手元に呼べるのになに一緒に海に入ろうとしてるの!  腰に手なんかまわしちゃってよからぬことを考えているのが丸わかりです!  と、無言で店に追い返した。テリーさんへの報告も兼ねて。


「いやぁ~、豊穣の海だね。スプラッシュもすぐは最上質だし、珊瑚キノコは大群生で、海中の栄養が凄いんでしょうね~」
「リリーおねいさん……マリン達が半日かけてする作業をもう終わらせたの?」
「……凄い。小一時間で」
「あ、あたしも手伝うって言ったのに!」

いやいや生き返ったばかりじゃないか。
私は息継ぎもいらんからね!
これが装備とスキルの力だ!

「あ、あの……!」

お。茶髪茶目の美少女──アリエルちゃん。
頼んでいた用事を終えてもどってきた。お疲れ様ー。

「ミラさんをきちんと家まで送ってきました。あの蜜のお陰で、家に着く頃には凄く顔色もよくて、声もでかくなってました」
「ありがとう、アリエルちゃん。ミラさんには、今日はゆっくり身体を休めて欲しかったの。その方が極楽蜜の効能も上がるからね~」

小屋にある鍵付きの収納箱に海草やキノコを入れていく。鍵はエメラルドちゃんの魔力で閉まる。

「あ、先月のウニが収納量を圧迫してる」
「これいつ回収にくるの?」
「わかんなーい。売れ残りだもん」
「港の屋台に売り付けちゃえば?」
「ママがそれダメだって」
「シリンのママは自分達で食べて処分しなさいって言ってたよ」
「またぁ?  エメラルドもうウニばっかりやだぁ」
「ねー、ただでさえ食べ飽きてるのに」

なんと贅沢な。
そういやまだこの世界のウニ食べてなかったな。

ちょんちょんと手を引かれた。ん?

「アリエル……ウニ、大好きなの。でも皆、見た目が嫌だって、飽きたって……持って帰りたいけど、恥ずかしいかなぁ……?」

なんと可愛らしいウニ好きの大人舌、11歳アリエルちゃん。

「軍艦に乗せるか」
「……え」
「ウニグラタン、ウニパスタ」
「リリーおねいさん?」


美味いウニ料理おしえたる!
ということで、収納から作業台を出して調理器具と食材を置く。

「あー、いいなぁ、それぇ」
「小屋にテーブルほしぃー」

群がってきて可愛いな。
こんなもん収納にアホ程あるよ。
さて、火魔法と料理と作業高速化のスキルでやるか。

「ウニの料理~?」
「そう。パスタとグラタンと、あと軍艦」
「わぁ、生以外で食べるの初めて~」

ウニパスタはウニの身たっぷりのカルボナーラ風パスタにする。チーズと生クリーム入りのソースを絡めて最後に卵黄おとして。

「麺に……生の卵?」
「ルーフ鳥の生みたての卵なの。新鮮で生食用が市場にあるでしょ?」
「うんうん」

ウニグラタンはまずウニソースを作る。マカロニかペンネぽくパスタを作って具材に新鮮なイカも入れる。イカとウニは合うのだ。刻んだパンと粉チーズの表面を焦がして出来上がり。

「これ、麺の代わりにパンでも作れるよ。パングラタン」
「いい匂いぃ」

続いてウニの軍艦。
この国にもある雑穀米を炊いた。歯応えがあって、粘り気がある米だ。ウニは濃くてパンチがあるので酢飯も味は濃い目。海苔もこの国の海草で作ったやつ。わさびは鼻殺しという植物。酷い命名だ。魚醤もある。地球のより薄いけど魚の味が濃くてグッド。

「……酢にお砂糖入れたの?」
「塩もちょっと入れたよ。雑穀は昆布出汁を入れて炊いた方が合うね」

皿に並べたウニ軍艦を作業台に乗せる。
収納していた他の二品を熱々で出したら四人が牙を出してがっつきだした。え。怖。


「あーっ!?  あー!  あーッ!  リリーおねいさぁーん!」 
「マリンちゃんそれ二百度から出したばかりのグラタン」
「モグ……この麺あたしの!  全部あたしの!」
「ひどいエメラルドちゃん!  リリーおねいさぁ~ん!  シリンが食べる分ないよぅ!」
「大丈夫。4キロの麺だから。絶対余る」

ちらっとアリエルちゃんを見ると、無言でもくもくとウニ軍艦を食べていた。軍艦に見向きもしない三人とは逆に、アリエルちゃんはグラタンやパスタには見向きもしない。

ちょんとわさび醤油につけて、真剣な顔で咀嚼し、たまに掌を上にあげて目を瞑る。そして掌を合わせて祈る動作をする。目を閉じながらモグモグと。ウニ崇拝者だ。日本のどこかで見た教祖ぽい動きだ。

「これからは、余ったウニを捨てることは許しません」
「……でもアリエルちゃん、あたし達いつも食べ切れない分は魚の餌にしてるじゃない」
「たわけ!  持ち帰るのです!  今までのウニ達もそう言ってましたよ!」

言ってたの?
マリンちゃんからグラタンの皿を引っ張ったアリエルちゃん。あ、他のも食べるんだ。

「このイカ、美味しっ……!」
「あ、それブラック・キルギスなの」
「ッヒ」
「美味しいでしょ?  ブラック・キルギスは、あの怖ぁい見た目で獲物を脅して、その間に皮で包んで食べようとするの」
「知ってる……アリエルも……襲われた」
「でも足の鎌は、本当はふにゃふにゃでね、殺傷力なんてないの」
「え?」

収納からデビルズブラックハントを取り出す。ブラック・キルギス専用の武器だ。
見た目はただのアイスピック。おまけに先が丸い。

「これで刺すと一瞬で皮が萎んで浮けなくなるわ」

いや、人魚は牙があるから噛み付いてもいいだろうけど、あの不気味な皮はまずそうだから。今アリエルちゃんが食べてるふにゃふにゃの鎌は美味しいんだよね。

「皆さん、これからは、ブラック・キルギスを狩ることにしましょう」

アリエルちゃん、受け取ったアイスピックでグラタンのイカを刺して食べだしました。いや、合ってるけど。

「……でもアリエルちゃん。あたし達海中ハンターだから、イカを獲って漁師さん達の邪魔をしちゃいけないよ?」
「たわけ!  月に一体くらいならバレませんよ!  ここに持ち帰ってすぐ食べてしまえばいい!  証拠は胃袋に、隠すのです」
「な、なるほど……?」


えらいこっちゃ。

そっとその場を抜けて隠密発動。
その作業台はトラウマ克服のお祝いに置いていこう。
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