悪役令嬢は嫌なので、放浪して好き勝手します

cqrijy

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3部 人魚と選ばれし番編

12 愛してる

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目覚めたら光神の加護(回復値100~100000)が発動した。受けたダメージに対して自動で体力を補充してくれる優れものだ。攻撃も何も受けていないのに寝てる間にも何度か発動していたようだ。

「……イテテ」

腰と背中により集中した筋肉痛に、もうステータスオープンする気も起きない。
体を洗浄して急いでジャージに早着替え。もう昼前か。
そして部屋を出て階段をかけ降りる。
起きてからここまで、2秒くらい。急げという直感に従った。

そして厨房にいたフィックスさんの背中に抱き付く。ちらっと見えたけど、いつも私に出してくれるプレートに料理を盛りつけていたのが目に入ったので、一瞬で身体強化をかけてマッハで背中に飛びついたのだ。
間に合った。

「フィックスさぁん……愛してます」

もう振り返る寸前だったけど、フィックスさんはぴたりと動きを止めて私が腰にまわした手に両手を重ねた。
そして戸惑った声で言った。

「……俺も愛してるよ。でもなんで……?」

一人でよがってるとき以外にもそんなこと言うようになったのか?
勿論、生命の危機を感じたからです!

「……今朝、フィックスさん初めて私に寝顔を見せてくれたじゃないですかぁ。目覚めたら大好きな人が隣にいて、私……初めてフィックスさんに添い寝してもらったんだって、嬉しくなっちゃって。それ以上にフィックスさんが私の隣ですぅすぅ寝息立てて眠るなんて……安心してくれたんですよね?  あんな無防備な寝顔……可愛くて愛しくて、喉が潰れてなかったらあの時すぐにでも愛してるって言いたかったんです」
「……そ、そう……ごめんね。なら待てばよかった」

そう。
確かあれは朝5時くらいだったのかな。
まるで初めて見た黄金のようにフィックスさんの寝顔に感動していたら、起きた瞬間、襲われたのだ。
寝起きだから戯れに近いふれあいだったけど、それでも徐々に本気度が増して──まるで魔王を倒してズタボロになった後に真のラスボスが登場して決死の覚悟で封印したのに実は倒した筈の魔王はまだ生きていて寝首刈られそうになったという実話です。

「愛してます……昨日も沢山言った気がするけど……」
「……うん。夢見心地だった。リリーを抱き締めながら寝かし付けてる時も……うわ言のようにずっと愛してるって言ってて……それ聞いてたら俺も眠くなってきて」

わぁ。
フィックスさん、語尾に熱がこもって、それと比例して体もどんどん熱くなってきた。
非常にまずい。

「……リリー、ご飯食べたらもう一緒に寝」
「今日は行商にいきます。夕方必ず帰ってきます」
「……わかった」

今日もほんと美味しそうなご飯が山盛り乗ったトレーを受け取り感謝の言葉を言う。これは私の生命維持装置だ!
さ、カウンターでいただくとしましょうか。

「お嬢ちゃん、半端ない体力の減りだな。立ってて大丈夫か?」

お皿を下げにきたテリーさんが予想していたとばかりにあっけらかんと声をかけてきた。

「……今日も生き残りました」
「そうか。フィックスを頼んだ」

多少の哀れみを含みつつ少し小馬鹿にした声色だ。
ふむ、そうか、よし、やり返そう。

「フィクサーナさんはお元気ですか?  とても会いたいです。お話がしたいです」
「……悪いな。フィクサーナも同じ事を何度も言っていた」

いやそう言ってたなら会わせて下さいよ。
そんな急に申し訳なさそうな顔してないでさぁ。




昼過ぎ。
街を探索した。
今日は黒ブラウスに黒ズボンに腰はソムリエエプロンをつけている。アイテムバックをたすき掛けして笛を鳴らした。

ピュロォロロロォォ……

「パンあるよ~、オヤツもあるよ~」
「この前のパン下さい!」
「あれ、君達この前の水産業のとこの」
「はい!  あの甘い魚も欲しいです」
「オッケ~」

行商とか久々すぎて楽しい。
ほんとごっこだよなぁ。真面目に働く気ゼロなんだけど、たまにやると喜ばれるからまたやってしまう。

鯛焼き持ちながら晴れ渡った空を見上げる。
もう夏はすぐそこまできている。
夏休みに入ったら一般の観光客は勿論、地元の大勢の子供達が浜辺にきて遊ぶらしい。学校絡みの遠泳や、観光客向けの小型船クルーズイベントもあるらしい。普段は遊泳禁止の浜辺も解放するそうだ。その頃には軍事演習も終わり、アルレントの騎士や魔導師も撤退する予定だとテリーさんが言ってた。それはもう当然のように。

うん、恐らく非人為的なあの二人の力が働いてそうなるんだろうけど、詳しいことは聞かないでおこう。

「あれぇ、リリーおねいさん?」

かけられた声に振り向くと二人の美少女がいた。

わぉ、赤毛赤眼の双子、マリンちゃんにシリンちゃんじゃないか。

「お買いものー?」
「それなぁに?」
「今日は行商にね、これは甘い魚だよ。パンを買ってくれた人へのオマケなの」

てか声をかけてきてくれたことにホッとした。オタマナマズの卵を100kg回収したあの日、この双子は私を異次元でも見るような目で物理的にも随分遠巻きで引いていたのだ。

「二人は?  これからお出かけ?」
「ちょっとぶらぶらして、髪飾りでも買おうかなって思ってたところー」
「でもマリン、ケーキがあるから早く帰らないと」
「あ、おつかい?」

かいつまんで聞いたところ、二人とも都心にある行きつけのレストランでステーキと季節の茸コースを堪能した後、いつも買ってるケーキ店で予約したレモンタルトとチーズケーキを取りにいって、今はその帰りだそうだ。セレブかよ。

「リリーおねいさん行商もやってたんだ。なんか意外……」
「どんなパンなのー?」
「……いや、その、普通のパンだよ」
「見せて見せてー」

早く帰らないといけないんじゃなかったの?
ケーキ温くなるぞ。

「え……地味」
「……全部茶色いね」
「……うん、まぁ」

パンだしね。
同じ茶色とはいえステーキと季節の茸を食べた後に見るもんじゃない。これは汗水垂らして働いた後にがっつくとうまい炭水化物なのだ。

「でもいい匂いするね」
「ほんと……嗅いだことない匂い」
「……あ、なら持って帰る?  宣伝用にも配ってるから、数はあるよ」
「わーい」
「いるいるぅー」

カレードックと明太子ガーリックパンと鯛焼きを渡す。まぁ、帰ったら先にケーキ食べるんだろうけど。

「ねぇー、それ宣伝で配ってるのー?  ならボクも貰える?」
「ええ、どうぞ」

カレードックを渡してから、顔を見たら口が言ってた。

「なんだオタマナマズか」
「リリーおねいさん?」

あの時の雑魚魔導師じゃねーか。
顔は見られたがあの時は顔面オタマナマズ卵だったから気付いてなさそうだ。

「あ、ステファンじゃん」
「なぁんだロザリーか」

そうそう。
確か鑑定した名前はステファン・ロザリード……。

「……って二人とも知り合いなの?」

ちらっと雑魚魔導師を見ると、双子に気付いてたじろいだ。およ?

「毎日うちに来ては買い物してる人~」
「へぇ……お得意さん?」
「そうでもないよ。ロザリーいつもママに値切ってくるもん」

双子に指さされたロザリー、脂汗かきだしました。

「てかもうママも他所で買えって言ってたよ」
「そうそう、始めは出稼ぎでお金ないから仕方ないってママも値引いてたけど、マリン達が汗水垂らして頑張って育てて収穫した物を値切られ続けると、腹立ってくるんだよねー」
「ほんとだよねー。シリン達、高い都心ですら値切ったことないもんね。価値があるから続けてお金を払うだけで、価値がないと思えば買わなくなるだけ。…………それなのに値切ってまで買い続けるって理解できない!」
「施しじゃないんだからね!」
「こっちは商売なの!」

ごもっともです。
なんで私までしゅんとしているんだか。
それほどこの双子の気迫が凄いのだ。
私があげた無料のパンにがっつきながら怒ってる。

うまいか?  あ、言ってすっきりしたのか、完食したからか、二人で手を繋いで去っていったよ。そんなにブンブン手を振ったらその手の箱にあるケーキ潰れるぞ。

後に残された雑魚魔導師が気まずそうに頭をぼりぼりと掻いた。

「チッ……なんだよ、毛もはえそろってねぇようなガキが。そもそも品揃えの悪いこの街が悪いんじゃねーか。こっちは毎日上からせびられてっ……くそっ」

なんかぶつぶつ言ってる。

「よう、ロザリー!  今夜は宿に3人娼婦呼んでっから蟹と海老と、あと酒も用意しとけよ!」

後ろからきたローブを着た厳ついおじさんがロザリーに肩パンした。お坊っちゃん顔のロザリーは一瞬、凶悪な顔になってからへらっと振り返って笑った。

「いやぁ、もう金ないっすよー」
「あ?  なに言ってんだ!  規定の平均値にも満たねぇその魔力で魔導師になれたのは誰のお陰だ!?  おまけにこの軍事演習に参加できれば魔導師として箔がつくんだぞ!  それも師団長である俺が贔屓してやったからだろうが!」

そうね。
アルレントでは国に抱えられるような魔導師なら魔力値10万は越えてないと厳しい。魔導師の格下の魔法士や、魔法も必須な聖騎士なら充分な魔力値だけど、体つきがもやしっ子のロザリーでは……あ、殴られた。

「わかってんのか?  てめぇなんか百人連れてきた魔導師の中で最下位なんだぞ?  俺が一声班に言えばてめぇなんてこの国に置き去りにできるんだぞ、ああ!?」
「いやぁ……あと一人、娼婦減らしたらどうっすかー?」
「ざけんな!  俺は娼婦にはたっぷり金を払う男なんだよ!  たっぷりサービスされてぇからなぁ~」

お。腹パンされた。
地面に落ちてもがいてます。
空を見上げながら知らんぷりした。
私はあの時オタマナマズの卵200gをドブに捨てたのだ。本当ならその一割の20gも報酬に入ってたのに。金貨に換算すると5枚以上だからね。

「おら!  てめぇはあとが無いんだろ?  師団を追い出されたら冒険者になるしかねーもんなぁ?  国の庇護を失えば実家もとりつぶされて仕舞いだぜぇ?」
「ぅ、っぐ」

あ、顔も殴られてます。
落ちて自分の体重でぺちゃんこになったカレードックを拾ってポケットに入れたロザリー。
うわぁ……なんともいえないこの感情。
神様、あの時オタマナマズの卵をひと舐めしただけで洗浄してごめんなさい。
せめてあのまま帰ってフィックスさんご自慢の舌でペロペロキャンディーしてもらえばよかった!

……なんてな。

仕方ないわね。
とりあえずいまだ「ぁあん!?」と唸るオッサンに状態異常魔法──記憶障害を24連ほどかけようとしたら肩を掴まれた。

「き、奇遇だな」
「……誰ですか?」

声からしてヴィッセル殿下だ。なんでやねん。もう行商やめた。しばらくやらないぞ。今から沈没船探しにいこっかな。

「……わ、私の名は、」
「あ、別に言わなくていいです。どうせ高貴な人の名前は長くて覚えられないので」
「……で、ではヴィー、と。それなら簡単だろう?」

てかいつまで肩掴んでんねん。
片腕を上げて振りほどくと周囲から非難するような声が上がった。
今日は従者つれとんのか。

「こんなところで何をしていたんだ?」
「アルレント国のおじさん魔導師が若い魔導師にタカって殴って虐めているのが面白くて眺めています」
「……なに」

振り返ると、ヴィッセル殿下のすぐ背後にビィセェス殿下もいた。なんでやねん。
ほんとこいつら乙女ゲームではあり得なかったほど距離感あやしいわ。
お忍びデートなら従者連れてくんなよ。

「っ、……そこの、青年。そのローブは我が国の紋章が入った、王立魔導師に支給されるものだ。なら私の顔は知っているな?」
「は、はい……殿下」
「殴られた痕があるな?  顔を上げてよく見せろ」

オッサン魔導師、オロオロしだしました。
発言したくともその許可は下りてないし無言で青ざめてます。君主国ってほんと面倒よね。

「……何があったんだ?  君は被害を受けたのか?  私は他国の、彼等の身内に起きたことに詮索は出来ない。教えてもらえないだろうか?」

そっとビィセェス殿下が私に聞いてきたので、オッサンを指さす。

「このおじさん魔導師が今夜は3人の娼婦と楽しむ予定があるそうで、その席で必要な食事や酒をこの若い魔導師の弱味につけこんでタカってたんですよ。おまけに何回も殴ってるしほんと面白いですね、こういうのアルレント国の名物なんですか?  隣国に行ったら普段から街中はこんな感じなんですか?」
「私はアルレントの留学生だが、市居にはおりていないので、なんとも……」
「っ、な……俺は別になにもっ」
「あ、別に私から咎めるつもりは一切ないので。こんなのが日常茶飯事なら都心の劇場でやってるお芝居より面白そうだし、新婚旅行の候補にアルレントも入れときますね?」

ふん。
オッサン慌ててやがるぜ。
私のアルレント下げ発言に言い返すよりも、ヴィッセル殿下は先に母国民の失態をどうにかしたいようだ。罪の眼差しを発動して証言をとったあと、従者にオッサンの規律違反について指示を出している。

いいぞもっとやれ。その隙に私はそそくさと後退する。あ、ロザリーにぶつかった。

「失礼」
「……いや。ボクもよそ見してたから」

あ、ロザリー潰れたカレードック食ってる。泣けてくる。でも私をキチガイでも見るような目を向けてきた。泣かしたろか。

「……なんで助けた?」
「は?  助けてねーよ。言っときますけど魚介が豊富なこの国で品不足が起きているのはアルレントの人達が軍事演習をするために港を閉鎖して浜辺を出禁にしたからなんですからね?  わかってます?」
「………………そう、だな……言われてみれば、確かにその通りだ」
「そのせいでいま各地の養殖場では魚介が値下げどころか高値で取り引きされているんですよ。そんな時に貴方を想って値引いてくれた養殖の女将さん、その子供達の悪口言うのは大人としてどうなんですかね?」

いや知らんけど。
養殖場がどうとか、大体そんな感じじゃね?  って予想で実際は知らんけどさぁ……。

「……今は悪いと思っている。君主もいない他国だからと、舐めていた」
「いや逆にこれがアルレントの品位かと舐められますからね。あの子達は真面目に働いてお金を稼いでるんです。給料入ったら都心で一番高いケーキでも買って養殖場に差し入れにいきなさいよ」
「ああ…………ハハ、そうだな。そうするよ」

チッ……救われたような顔しやがって。

私は善意だけで生きてるんじゃない。むしろ傍観者でありたい。ただ今まで出会った、心をほわほわとさせてくれた人達がいるから、その受け取った善意を世に返還しているだけだ。
お金だってそうだ、稼いだら土に埋めておくよりそれで経済をまわした方がいい。
とか考えながら歩いて、その場から離れている途中に叫ばれた。

「っ、愛している!  厳しくも優しい君を、心から慕っている!」

は?
ビィセェス殿下の叫びに振り向くとヴィッセル殿下がいた。ちょうど私を呼び止めようとしたのか、腕が宙ぶらんになっている。

位置的に言われたのはヴィッセル殿下だ。

そのヴィッセル殿下が、苦々しげに瞼をふせ、怒りの宿った目をビィセェス殿下に向けた。

「……諦めろと、私は言ったぞ?」

いよいよだ。
こんな公共の場で関係を晒してあとに何が残るって、修羅場しかないだろう。

これ以上は関わりたくない。
一歩ずつ後退していく。
あ、またロザリーにぶつかった。

「失礼」
「……あ、いやボクも離れようと……関わりたくないから……うわぁ」

いきなり青ざめたロザリーの視線を辿ると、従者が止めるのも聞かずに二人の殿下が胸ぐらを掴み合ってる。

「諦めろと言われてそう簡単に諦められるかっ……ヴィー、お前こそ、初恋だと私に言っただろう、それでも諦められるのか!」
「っ、だから、いま、策を練っている!  それなのにビィセ、先に言うとはっ……貴様という奴は!」

お互い顔を真っ赤にして、今にも唇が触れそうな距離だ。もう関係を晒したどころか諦めるつもりはないと双方告白してるじゃん。余所で頼むよ。

「まさか……あの二人付き合ってないよな?」
「……それは、私からは言えないわ」
「……マジかよ。いや、二人とも世継ぎだから無理だろ。ってか不毛だろ、どっちに嫁いでも絶対世継ぎ生まれてこないし」
「色んな愛があるけど、あの二人の愛は心も体も貫き通すのが大変そうね」

そう言うとロザリーが首を擦って苦々しげに俯いた。おっと、ここで吐くなよ。ほら、鯛焼きやるから。お口直しに食っとけ。

魔導師になれたけど一度将来について真面目に考え直すよ、ロザリーはそう言って鯛焼き食べながら去っていった。

さて、そろそろ私も店に帰ってフィックスさんに愛してると伝えよう。
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