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3部 人魚と選ばれし番編
13 陽気なサディストが世界を廻す
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翌日、沈没船探索でお宝探しの提携者である腐鮫さんと物々交換した。
「んとね、海底に落ちてたこれとあれと、割れてるけどこれも拾ってきた」
「すっごおおおっっ……! 死神令嬢の蝋引き紙に、悪鬼の手鞠に、……あ、この割れてるのはペリュス夫人の手鏡ですね。割れてる仕様なんです……ってこれ探知にも引っ掛からない闇アイテムですけど、全部頂けるんですか!?」
「こっちもたくさん貰ったからね。人間が作るそういうのはよく目につくんだ」
マジかよ。
死神令嬢の蝋引き紙は、復讐したい相手にこの紙で手紙を書いて送ると……っていうかなり呪殺成功率の高い闇アイテムだ。
悪鬼の手鞠は……乳幼児に成人するまでこの手鞠で遊ばせると悪魔を作り出せる、論理的にみて使ってはいけない闇アイテムだ。
ペリュス夫人の手鏡は最初から割れてる仕様なんだけど、かなりやばい闇アイテム。ある条件を満たせば時間を戻せるのだ。そして発動すると割れた鏡が元に戻って……。どれも使う予定はないけど即収納。
表情はわからないがホクホクとした様子で腐鮫さんは『またねー』と船に戻っていった。
腐鮫さん、幽霊という特性ならではの探知のやり方でも持ってるのかな?
恐らく私ではこれらを見つけ出すことができなかった筈。
虹色サザエと金箔海苔とビビットカラー砂を数種、収納の在庫を出しただけでレアアイテムげっとだぜ。
私もホクホクで海面に上がっていく。
あ、もう深海では魔法は使いませんよ。
海の頂点着てるし、なにが襲ってきても……おっ、一角鮫が通りかかったので腕力でぶん殴って収納。
ヒレげっとー。お肉は廃棄。放っておけば魚の餌。
あぁ、今日は帰ったらフィックスさんがスプラッターシャークのヒレで餡掛け作ってくれてるんだぁ♪
あのヒレは堅くて何日も煮込まないといけない食材なのに、フィックスさんは普通に手で細かく裂いて、今日食べれるよって言ってた。
まだ3時だけど着替えたらすぐ帰ろう。それに最近この界隈の魚も減ってきた。また増えたら遊んであげよう。
深海から抜けたので船に転移。
「……おかえり」
ん?
船に戻ると空中にこの前の美丈夫がいた。
今日も金剛龍のマントだ。
おまけによく見たら金剛龍の頭輪も嵌めている。
冒険者にしてはやるな。
「そなたは規格外だな。魑魅魍魎が蠢くこの海で、三時間も潜っていた」
「……ちょ、なに、時間計ってたの? まさか付きまといですか?」
「……はぁ。ようやく反応してくれたと思ったら」
なにじろじろ見てんねん。
その残念なものを見るような目が癪にさわる。
ちゃちゃっと洗浄してジャージに早着替え。
「以前も言ったが我の名は、」
「あ、結構です。言っときますけど必要に迫られない限りは脳が楽したいだけで、貴方が金剛龍のリィヤであることは解ってますからね?」
「…………え!?」
「舐めんなよ……じゃ、帰るんで」
「え、解ってたなら、ちょ、待っ」
拳を上げて転移。
フィックスさんの部屋に戻ってきた。
「……え」
いま一瞬、フィックスさんの幻影が見えた。
そしてこの匂い……フィックスさんのだ。
え。まさか。
マッハで一階へかけ降りる。
厨房へ入るとフィックスさんの背中が見えた。
調理中なのか、食材を刻む音が聞こえる。
でもちょっと動きがぎこちない。
腰に抱き付くとぴくっとした。
「フィックスさぁん……ただいま戻りましたぁ」
「……おかえりリリー。お腹すいた?」
「はい。フィックスさんが食べたいです」
「……いいよ」
カタンと包丁を置いたフィックスさんに手を取られた。そのまま二階へ上がっていき、部屋に入ったらベットに押し倒された。
「帰ってくるのはやかったね」
「……さっき……焦った?」
「……うん」
「もうっ、フィックスさんが目ばっかり使うから……最近私ばかりイってて……フィックスさんの、体の方が足りてないんですよぉ」
「……そうみたい。リリーが可愛く言ってくれるから、凄く満たされるんだけどね」
「フィックスさん大好きです……フィックスさんのこと、心から愛してます」
「……俺もだよ」
きゃー! きゃーっっ!
気付いて意識的に脳の思考回路を鈍らせて対応してたけどもう無理ーっっ!
「フィ、フィックスさんも……するんですね……一人で、その……」
「……恥ずかしい」
きゃー! きゃーっっ!
唇をきゅっと結んで赤くなってる!
おかずは何!? 私だよね? てか私じゃなかったら大泣きする!
「……楽しそうだね」
「っ、」
フィックスさんの初・涙目いただきました!
……ってあかん。これ調子に乗ったら復讐されるやつだ。堅実にいこう。こんなグっとくるお顔滅多に見れないんだから。
「……フィックスさん。今日は私がします」
起き上がってフィックスさんと体勢を入れ替える。
デニムのボタンを外すと手を取られた。
「やめて……恥ずかしいから」
……生唾もんだ。
もっと恥ずかしがって欲しい。
いやいや調子に乗ったら終わる。
「恥ずかしくないです……いつもフィックスさんが私にしてる事ですよ。それに、」
そっと手で触れて顔を近付ける。
出したばかり……だよね?
「私……フィックスさんのこの匂い、大好きです」
取り出した二本の性器を両手でさすさす。フィックスさんは眉を寄せて目をふせた。
先端に舌を這わすと腰がぴくっとした。口に含むと眉間の皺が深くなってきて、もう片方を握って上下させると息を荒げた。
わぁ、わぁ、フィックスさんも愛撫しながら必ず直視してくるけど、その気持ちがわかった。
めっちゃ興奮する。
こっちまで呼吸が乱れてきた。
口内に含んで舐めながら上下した。しつこく、ねっとりと。すると先端が喉奥でぶるりとふるえた。
「ん、……お、い、ち」
「リリー……」
お口に大量のしょっぱい体液が溢れた。
発情期の時に聞いたけど、この体液は絶頂と快感を得るためのもので、子種は含まれていないそうだ。それでも美味しい。しょっぱいのに美味しい。飲み込むとお腹が熱くなるもん。注がれるとすぐにまた欲しくなるもん。絶対なんか媚薬的なものが入ってる。
綺麗に舐めとっていると髪を撫でられた。
舌を出しながら視線を合わせると、潤んだ瞳に闘志のようなものが見えだした。
もう冷静さを取り戻す気がする。
流石は海王蛇。
そうはさせるもんか。
「今日は私が上に乗っていい?」
「……いいよ」
チャックを下ろしてジャージを脱ぐ。
下のジャージを下ろしているとフィックスさんが性器で脇腹を撫でてきた。うぅ。そのまま下腹部におりてきてその内部が疼いた。
「ま、待って」
「……うん。早く」
余裕のない声にこちらもどうにかなりそうだ。既に下着はびしゃびしゃ。水音を立てながらおろしていくと途中で舌でパチンと下着を切られた。
「……もう、フィックスさん」
「早、く……リリぃ」
掠れた声に顔を上げると、濡れた瞳で切ない眼差しを私に向けるフィックスさんがいた。鼻血でそ……。
腰を跨いで手にした性器をゆるゆると自身の入り口に押し付ける。
フィックスさんが顔を振って唸った。鼻血でる……。
掴んだまま入り口にあてて、腰を下ろした。
「……は、ぁ」
熱い。
ぬるぬるで気持ちいい。
もう片方の性器を両手を使って胸で挟み、その先端を口に含んで腰を動かした。
あぁ……凄ぉい……フィックスさんの顔が真っ赤になって、眼だけギラギラしてる。落ち着かない様子で、少し上半身を起き上がらせて肘をついた。
見つめ合って口に含みながら上目遣い。舐めて吸ってる水音も立てると、またフィックスさんが唸った。
中を締めながら腰を上下させると胸を鷲掴みされて、そのまま下から突き上げられて口から性器を離してしまった。すぐにまたずるんと喉奥に入ってくる。
「……膝立たせてもいい?」
うぅ……あの恥ずかしいのをするのね。
コクンと頷くと膝裏を持たれて……深くなる。奥にあたる。ぎゅっと目を閉じて衝撃にそなえていると、フィックスさんがそのまま立ち上がった。
「んうッ!?」
膝裏を腕に引っ掛けて、お尻を持たれて、上下に揺さぶられた。身震いする程の快感に喉奥から声にならない悲鳴が上がる。
「声……聞きたい」
喉奥の性器が引き抜かれて、少し咳き込んだ。
まだ息も整わない内にゆっくりと、ずるずると引き上げて、一気に落とすように奥を貫いてきた。
「あっ、あっ、あんんっ!」
「気持ちいい?」
「イ、っく……もっと、」
「まだダメ……さっきは焦らされたからね」
ずるんと引き抜かれて首を舐めまわされた。
おまけに挿ってないのにゆるゆると揺らされて、乳首が擦れる。すぐにびんびんだ。フィックスさんの頭を掻き抱いて暴れた。よがり狂う程のジレンマ。これで挿ってたら凄くいいのに。
「やあッ! いじわる! いじわる!」
「うん意地悪だよ」
「っ、やだぁ!」
しがみついて肩を噛んだ。
それでも揺さぶられて子供みたいに泣き声を立てて抗議した。『私を捨てる気なのか』『意地悪されても好き』『一人でオナニーしないで』『夢で浮気したくせに』『もう私はいらないのか』完全にちぐはぐだ。文句が言いたくても文句が思いつかない。
そしたら頭上で笑い声が上がって、その声があまりにも凶悪でエロく鼓膜に響いたので一気に理性が崩れた。
「ぁああんっ……も、好きにしてっ、全部、あげるから!」
「言ったね?」
「フィックスさん愛してる!」
「俺も、だ……愛してる!」
その日はもう、なんかもう、なんかもう、これ以上にないほど弾けた。てか叫んだ。嫉妬を誘うような失言もした。首締められてマジ切れされた。汗も涙も涎も鼻水も全部舐めまわされて『生涯あなただけ』と誓わされた。フィックスさんも弾けた。凄い告白もした。『リリーをひと目見て──ああ、俺のものだって思った』『なんであんなとこで普通に歩いてたの』『警戒心もなく』『無防備に』『キラキラと』『雌の香りを漂わせて』『いますぐ捕まえて、俺なしじゃいられないよう支配して、全てを手に入れようと決めた』よくよく考えたら言っていることがストーカーだけど、物凄く好きになった後にそんな告白されたら更に興奮してイきやすくなって店にいたテリーさんから『どうでもいいがお前達の会話を聞いて店にいる獣人と人間がずっと泣いてる』と苦情がきた。知らんがな。今それどころじゃない。
でも起きたら悶絶するほど恥ずかしくて。昨夜は腹の探り合いどころか本音の晒し合いだった。それはもう、お互い顔を見ると思い出してしまうのでしばらく目を合わせられなかったほど。
そんなこんなで一週間が経った後、何故か五男坊の父親ケインズさんが店にやってきた。鞄に婚姻届を入れて。
「えーっと、都長さん……これは、一体?」
カプルス共和国では私のような他国民は簡単に婚姻届を手に入れられない。入手する為に役所に申請して、手元に届くのは三ヶ月後だ。他国の者でも漁師とか輸入業者は簡単に入国くらいはできるが、他国民がこの国の国民になるのは簡単じゃない。
審査があるらしいので、確か早めに用意しておこうとフィックスさんと一緒に申請したのが3日前。え。90日かかる婚姻届が3日で届くって、早すぎじゃない?
「倅から聞いた。貴女は実力のある漁師で、一日で金貨五百枚近く稼いだ日もあると。その貴女が、このカプルス共和国の国民と来年には結婚式を控えていると」
「はい……あ、漁師というか今は行商や養殖場で、ちまちま動いてるだけなのですが」
「ああ、港が閉鎖されているから、他の漁師も養殖場に手をかしたり、屋台を出したり、商人と近いことをしている。今は漁師が本来の仕事が出来ない状況なので、気にすることはない」
「……そう、ですか」
ちらっと店内にいる五男坊を見る。
もしかして父親に口利きしてくれたのか? やるなぁ五男坊。いつの間にか周りに気遣いのできる五男坊になったんだね。リリーおねいさん、もう二人を応援しちゃうよ。もしこの先アリエルちゃんと痴話喧嘩でもしたら、1回だけ助けてやろう。1回だけな。気が向いたらな。
「アリエルは天才だ!」
「そんなっ……嬉しぃ」
今日は教会でアリエルちゃんと読書会を開いて、アリエルちゃんの音読が大人も子供達にもとても好評で、五男坊もベタ褒めする程の出来だったそうだ。
ベタ褒めどころか既にアリエルちゃんにベタベタしとるけどな。
「この婚姻届は置いていくよ。都合のよい時に教会に提出してくれ」
お茶を飲みきって、都長さんが立ち上がった。
「あ、ありがとうございます。お忙しいなか、都長さん自ら届けてくれるなんて。後でレインさんにも御礼を伝えておきます」
「……倅の事は、気に留めることはない。空気だとでも思っていてくれ」
「あ、はい。わかりました」
あ、ずっとはりつめたような顔をしていた都長さんが初めて表情を緩めた。きっと多忙で疲れているんだろう。
店の外で都長さんの背中を見送っていたら、その向こうからフィックスさんが歩いてきた。その手に花束を持っている。
あー♪なになに、式場予約した帰りに花束買ってきてくれたの? 目が合って脇が小躍りする。なんて言って渡してくれるんだろ!
ん? 都長さんが歩きながら通り過ぎる間際にフィックスさんにぺこりと頭を下げた。なんで?
「お嬢ちゃん、フィクサーナがお嬢ちゃんが結婚式で着るドレスを作りたいと言っている」
「へ」
「すまん。どうしても作ると泣き止まなくてな」
振り向く間もなくひょいと首根っこを掴まれて、視界が反転──しかけたのをフィックスさんが止めた。
首根っこを掴まれただけでテリーさんの実力がわかった。いや本当のところは解らない。でも色んな意味で私の全細胞が走馬灯しかけた。
「リリー大丈夫?」
「……お、おふ」
フィックスさんの腕の中で花束と共に抱っこされて生きてる幸せって改めて痛感した。
「やめてくれる? 俺のだから」
「すまん。フィクサーナが泣き止まなくてな」
死にそうな声のテリーさんを見ると、あらゆる感情が顔から抜けていた。
「フィクサーナはテリーから離れて気分転換したいだけでしょ」
「もしそうなら俺はもう死ぬ」
「月1じゃなくて週1くらいにしたら?」
「そうだな……なら月2にするか」
「それでいいんじゃない」
二人とも真顔でなんちゅー話してんの?
ちょっと怖いんだけど。
「しかしフィクサーナの願いは叶えてやりたい」
「リリーは自分でドレスが作れるからね、それに昨日作り終えてたよ」
「泣いて暴れているんだ。どうしてもお嬢ちゃんの結婚式のドレスが作りたいと」
「リリーはどうしたい? 俺はあの白いドレスを着たリリーが見たい」
二人とも目に圧を感じますね。
「……え、えーっとですね、それでしたらお色直し用のドレスはまだ作ってないので、フィクサーナさんにお願いしてもよろしいでしょうか?」
「いいぞ。助かった」
「お色直しってなーに?」
「結婚式で誓いのキスをする時はシンプルな純白のドレスが着たくて……それで作ったんです。そのあと招待人に見送られながらフィックスさんと家に帰るので、その時は青と金色で派手目なドレスを着て帰ろうと思ってたんですが……その、白いドレスで飲み食いしたくなかったんです」
「うんうん」
「青と金色で派手目なドレスだな。フィクサーナに伝えておこう」
収納から見た目シンプルでタイトなドレスを出してテリーさんに渡す。装備品だ。私のサイズになっている。
「これが私の型です。ドレスのデザインはおまかせしてもよろしいでしょうか?」
「大丈夫だ」
「……ちなみにフィクサーナさんに会わせてはもらえないんですか? 仮縫いの時にほんのちょっとだけ話すとか、いやもうせめて5分、あ!」
…………消えた。
ふむ、そうか、よし、諦めた。
今はね。今は、ね。
「フィックスさんって花束持って歩いてるだけでエロいですね」
「リリーは花束を持ってるだけで更に可愛いね。俺、リリーに会って初めて誰かを可愛いって思ったんだ」
「くふぅ♪」
フィックスさんに抱っこされながら頂いた花束を抱き締める。いい香り。
そのまま店内に戻るといつの間にか来店していたヴィッセル殿下とビィセェス殿下が腕相撲をしていた。あ、ビィセェス殿下が勝った。
「勝った、私が先行だ」
「貴様はこの前勝手に先走っただろう! 今日は私に譲れ!」
知りたくもなかったがこの二人は既に肉体関係がありそうだ。夜の上下関係はまだ安定していないようだが。まぁ、毎日こうやって店が空いた時間帯を狙ってご飯デートしてるもんな。食欲が満たされれば次にやることは決まっているのだろう。
「どうしたの? 急に甘い魚食べて、お腹が空いてるの?」
「いえ、お口直しです」
ちなみに私はまだフィックスさんに普通に抱っこされてます。
「リリー嬢。私に君の言葉に従う。君が望めば私は君の騎士でも犬でも奴隷にでもなんにでもなろう。この場で跪いて忠誠を誓う」
は。
連日の如くだが、また二人でなにか遊びを思い付いたようだ。
「……今日はなりきりですか。ではビィセさんは実はヴィーさんと半分血の繋がった兄という設定で、それを知らないヴィーさんはビィセさんに淡い恋心を抱いていて、それに気付いたビィセさんはヴィーさんから距離を置いて留学してしまうんです。今日は3年ぶりに再会したという設定でドキドキしながらお話してみて下さい」
「……わ、わかった」
「何故いつも私が後攻なんだ! ビィセ、貴様の言葉は的確だったが外交には向いていない! 何も伝わっていないではないか!」
いやリクエストがあるなら言えよ。
てか私もそんなに暇じゃないんだけどね。
フィックスさんに椅子におろしてもらい、収納からいくつか花瓶を出す。どれに活けよっかなー。
陶器に硝子に竹の花瓶もある。
あ、そういや和壺もあったな。うむ、渋い。却下。
お皿タイプに活け花もいいかも。
うーむ。皿がありすぎて悩む。
そこで錬金術でボウル型の花瓶を練ってみる。
「……異空間魔法に……錬金術……昨日は飛行もしていたが……はぁ。どれだけ魔力があるんだ」
「……この一週間でよく解ったが、リリー嬢は規格外だ。基本無言だが、決して無意味な言葉は言わない人だ。何か思惑があるのだろう。さてヴィー、3年ぶりに会ったが彼女はできたか?」
「っ、この私に兄などいない! 貴様に淡い恋心など抱いていない!」
そうだね。ただでさえ不毛なのに更に兄だったら居たたまれないよね。淡い恋心どころか、諦められないほど本気な気持ちだもんね。
でも設定とはいえ今より窮地な状況になって、改めて好きな人が側にいる幸せに気付いて欲しいな。
「リリー嬢は設定だと言っていただろう。聞いていなかったのか?」
「この私に役者になれと!? ではリリー嬢、聞かせてもらおう、私がそれをすることになんの意味がある!?」
「そうですね。ヴィーさんは一度その俺様気質を徹底的に潰しておいた方がいいですよ。人は自分の立場でしか物事を語れない生き物でしょう? ヴィーさんは気位が高すぎるんですよ。好きな人の前でくらい、素の自分を出せなくてどうするんです?」
あ、真っ赤になった。
以前のように激昂しないだけまだマシだ。
よし、やっぱり活けるのはシンプルで白い花瓶にしよう。
ハサミとお水を出して活けて……いや、枯れたら困るから付与魔法でも取得して時間停止させておこう。
どこに飾ろっかな~……てか私、前世と今世を含めても、男性から花束貰ったの初めてなんですけど。
カウンターの向こうにいるその背中に話し掛けた。
「フィ、フィックスさんには私の初めてを奪われてばかりです、ね」
「俺もだよ……花も初めて買った」
そうなの?
今、ちょっと照れたよね?
色々弾けたあの夜から、フィックスさんとの甘酸っぱい関係が続いている。昨夜はキスする時、歯がぶつかって照れて、それでも笑い合いながらキスを続けた。
「……り、リリー嬢。もし、……仮にもし私が君を好きだと言ったら、君はどうする?」
「仮にどうもしませんが?」
「さ、最近は我々を海に飛ばさないだろう? その、少しは可能性はあるかと……希望を抱いてしまうんだが」
「?? 可能性?」
「……ああ。君と話す時間、会う機会を増やせないかと」
うわぁ……ヴィッセル殿下の言葉にビィセェス殿下が凶悪な狼顔になった。知らんがな。そりゃ王族だから隣国の王子との交際について賛成してくれる味方もいないだろうし、藁にもすがる気持ちで私に相談したいんだろうけど。面倒事に巻き込まれるのはごめんですよ。
「すみませんがヴィーさんとお友達にはなれませんね。身分も価値観も離れてますし、……あ、そうだアルレントに戻ったらどうですか?」
「え」
「確か母国に私に瓜二つなご令嬢がいるのでしょう? その人と仲良くなってみたらどうですか? 私とそっくりな顔なら、幼馴染という点を考えても相談とかしやすいんじゃないですか?」
「………………」
おや?
ヴィッセル殿下から表情という表情が抜け落ち、感情という感情がゼロの顔になった。無だ。
青ざめたビィセェス殿下が慌てている。
「……あ、あ……そう、だな……もう、……それで……良いかも、しれなっ……」
「ヴィー! 死ぬな! 戻ってこい!」
どうしたんだろう?
必要に迫られない限りは脳が楽したいので考えることを放棄した。
「よし、できた! この青いお花、雄しべが金色で珍しい品種ですね。私達の寝室に飾りましょうっ」
鑑定するとアマリリス科の花でベールリリーという名前だそうだ。花言葉は『隠された真実』。そういや前世にもアマリリスという分類でなんとかリリーとか、似たような花言葉の花があったなぁ。思い出せん。
花瓶を掲げて店内をくるくるまわる。皆にも香りをお裾分け♪いつかフィックスさんとダンスがしたいなぁと考えていたら背後から甘えるようにリリーと呼ばれ、抱き締めながらいとおしむようにフィックスさんに頬擦りされた。
おまけに何か言いたそうな勝ち誇った笑顔だ。どや顔にも見える。なにか良いことでもあったのかな?
「?」
あ、そういやフィックスさん、海と地上どっちで暮らしたい? って聞いてきたことがあったけど、海と地上、先に海と言ったから本当は海がいいのかな? 寝室は店の二階にあるけど、私はフィックスさんがいたら深海でも火山でもどこにでも住む。いつか海にも寝室を作ろうかな……。
「フィックスさん……また、海でデートもしましょうね?」
「うん……俺、幸運だったね」
「ほぇ?」
「何かひとつでも掛け違っていたら、こうはならなかった」
「んとね、海底に落ちてたこれとあれと、割れてるけどこれも拾ってきた」
「すっごおおおっっ……! 死神令嬢の蝋引き紙に、悪鬼の手鞠に、……あ、この割れてるのはペリュス夫人の手鏡ですね。割れてる仕様なんです……ってこれ探知にも引っ掛からない闇アイテムですけど、全部頂けるんですか!?」
「こっちもたくさん貰ったからね。人間が作るそういうのはよく目につくんだ」
マジかよ。
死神令嬢の蝋引き紙は、復讐したい相手にこの紙で手紙を書いて送ると……っていうかなり呪殺成功率の高い闇アイテムだ。
悪鬼の手鞠は……乳幼児に成人するまでこの手鞠で遊ばせると悪魔を作り出せる、論理的にみて使ってはいけない闇アイテムだ。
ペリュス夫人の手鏡は最初から割れてる仕様なんだけど、かなりやばい闇アイテム。ある条件を満たせば時間を戻せるのだ。そして発動すると割れた鏡が元に戻って……。どれも使う予定はないけど即収納。
表情はわからないがホクホクとした様子で腐鮫さんは『またねー』と船に戻っていった。
腐鮫さん、幽霊という特性ならではの探知のやり方でも持ってるのかな?
恐らく私ではこれらを見つけ出すことができなかった筈。
虹色サザエと金箔海苔とビビットカラー砂を数種、収納の在庫を出しただけでレアアイテムげっとだぜ。
私もホクホクで海面に上がっていく。
あ、もう深海では魔法は使いませんよ。
海の頂点着てるし、なにが襲ってきても……おっ、一角鮫が通りかかったので腕力でぶん殴って収納。
ヒレげっとー。お肉は廃棄。放っておけば魚の餌。
あぁ、今日は帰ったらフィックスさんがスプラッターシャークのヒレで餡掛け作ってくれてるんだぁ♪
あのヒレは堅くて何日も煮込まないといけない食材なのに、フィックスさんは普通に手で細かく裂いて、今日食べれるよって言ってた。
まだ3時だけど着替えたらすぐ帰ろう。それに最近この界隈の魚も減ってきた。また増えたら遊んであげよう。
深海から抜けたので船に転移。
「……おかえり」
ん?
船に戻ると空中にこの前の美丈夫がいた。
今日も金剛龍のマントだ。
おまけによく見たら金剛龍の頭輪も嵌めている。
冒険者にしてはやるな。
「そなたは規格外だな。魑魅魍魎が蠢くこの海で、三時間も潜っていた」
「……ちょ、なに、時間計ってたの? まさか付きまといですか?」
「……はぁ。ようやく反応してくれたと思ったら」
なにじろじろ見てんねん。
その残念なものを見るような目が癪にさわる。
ちゃちゃっと洗浄してジャージに早着替え。
「以前も言ったが我の名は、」
「あ、結構です。言っときますけど必要に迫られない限りは脳が楽したいだけで、貴方が金剛龍のリィヤであることは解ってますからね?」
「…………え!?」
「舐めんなよ……じゃ、帰るんで」
「え、解ってたなら、ちょ、待っ」
拳を上げて転移。
フィックスさんの部屋に戻ってきた。
「……え」
いま一瞬、フィックスさんの幻影が見えた。
そしてこの匂い……フィックスさんのだ。
え。まさか。
マッハで一階へかけ降りる。
厨房へ入るとフィックスさんの背中が見えた。
調理中なのか、食材を刻む音が聞こえる。
でもちょっと動きがぎこちない。
腰に抱き付くとぴくっとした。
「フィックスさぁん……ただいま戻りましたぁ」
「……おかえりリリー。お腹すいた?」
「はい。フィックスさんが食べたいです」
「……いいよ」
カタンと包丁を置いたフィックスさんに手を取られた。そのまま二階へ上がっていき、部屋に入ったらベットに押し倒された。
「帰ってくるのはやかったね」
「……さっき……焦った?」
「……うん」
「もうっ、フィックスさんが目ばっかり使うから……最近私ばかりイってて……フィックスさんの、体の方が足りてないんですよぉ」
「……そうみたい。リリーが可愛く言ってくれるから、凄く満たされるんだけどね」
「フィックスさん大好きです……フィックスさんのこと、心から愛してます」
「……俺もだよ」
きゃー! きゃーっっ!
気付いて意識的に脳の思考回路を鈍らせて対応してたけどもう無理ーっっ!
「フィ、フィックスさんも……するんですね……一人で、その……」
「……恥ずかしい」
きゃー! きゃーっっ!
唇をきゅっと結んで赤くなってる!
おかずは何!? 私だよね? てか私じゃなかったら大泣きする!
「……楽しそうだね」
「っ、」
フィックスさんの初・涙目いただきました!
……ってあかん。これ調子に乗ったら復讐されるやつだ。堅実にいこう。こんなグっとくるお顔滅多に見れないんだから。
「……フィックスさん。今日は私がします」
起き上がってフィックスさんと体勢を入れ替える。
デニムのボタンを外すと手を取られた。
「やめて……恥ずかしいから」
……生唾もんだ。
もっと恥ずかしがって欲しい。
いやいや調子に乗ったら終わる。
「恥ずかしくないです……いつもフィックスさんが私にしてる事ですよ。それに、」
そっと手で触れて顔を近付ける。
出したばかり……だよね?
「私……フィックスさんのこの匂い、大好きです」
取り出した二本の性器を両手でさすさす。フィックスさんは眉を寄せて目をふせた。
先端に舌を這わすと腰がぴくっとした。口に含むと眉間の皺が深くなってきて、もう片方を握って上下させると息を荒げた。
わぁ、わぁ、フィックスさんも愛撫しながら必ず直視してくるけど、その気持ちがわかった。
めっちゃ興奮する。
こっちまで呼吸が乱れてきた。
口内に含んで舐めながら上下した。しつこく、ねっとりと。すると先端が喉奥でぶるりとふるえた。
「ん、……お、い、ち」
「リリー……」
お口に大量のしょっぱい体液が溢れた。
発情期の時に聞いたけど、この体液は絶頂と快感を得るためのもので、子種は含まれていないそうだ。それでも美味しい。しょっぱいのに美味しい。飲み込むとお腹が熱くなるもん。注がれるとすぐにまた欲しくなるもん。絶対なんか媚薬的なものが入ってる。
綺麗に舐めとっていると髪を撫でられた。
舌を出しながら視線を合わせると、潤んだ瞳に闘志のようなものが見えだした。
もう冷静さを取り戻す気がする。
流石は海王蛇。
そうはさせるもんか。
「今日は私が上に乗っていい?」
「……いいよ」
チャックを下ろしてジャージを脱ぐ。
下のジャージを下ろしているとフィックスさんが性器で脇腹を撫でてきた。うぅ。そのまま下腹部におりてきてその内部が疼いた。
「ま、待って」
「……うん。早く」
余裕のない声にこちらもどうにかなりそうだ。既に下着はびしゃびしゃ。水音を立てながらおろしていくと途中で舌でパチンと下着を切られた。
「……もう、フィックスさん」
「早、く……リリぃ」
掠れた声に顔を上げると、濡れた瞳で切ない眼差しを私に向けるフィックスさんがいた。鼻血でそ……。
腰を跨いで手にした性器をゆるゆると自身の入り口に押し付ける。
フィックスさんが顔を振って唸った。鼻血でる……。
掴んだまま入り口にあてて、腰を下ろした。
「……は、ぁ」
熱い。
ぬるぬるで気持ちいい。
もう片方の性器を両手を使って胸で挟み、その先端を口に含んで腰を動かした。
あぁ……凄ぉい……フィックスさんの顔が真っ赤になって、眼だけギラギラしてる。落ち着かない様子で、少し上半身を起き上がらせて肘をついた。
見つめ合って口に含みながら上目遣い。舐めて吸ってる水音も立てると、またフィックスさんが唸った。
中を締めながら腰を上下させると胸を鷲掴みされて、そのまま下から突き上げられて口から性器を離してしまった。すぐにまたずるんと喉奥に入ってくる。
「……膝立たせてもいい?」
うぅ……あの恥ずかしいのをするのね。
コクンと頷くと膝裏を持たれて……深くなる。奥にあたる。ぎゅっと目を閉じて衝撃にそなえていると、フィックスさんがそのまま立ち上がった。
「んうッ!?」
膝裏を腕に引っ掛けて、お尻を持たれて、上下に揺さぶられた。身震いする程の快感に喉奥から声にならない悲鳴が上がる。
「声……聞きたい」
喉奥の性器が引き抜かれて、少し咳き込んだ。
まだ息も整わない内にゆっくりと、ずるずると引き上げて、一気に落とすように奥を貫いてきた。
「あっ、あっ、あんんっ!」
「気持ちいい?」
「イ、っく……もっと、」
「まだダメ……さっきは焦らされたからね」
ずるんと引き抜かれて首を舐めまわされた。
おまけに挿ってないのにゆるゆると揺らされて、乳首が擦れる。すぐにびんびんだ。フィックスさんの頭を掻き抱いて暴れた。よがり狂う程のジレンマ。これで挿ってたら凄くいいのに。
「やあッ! いじわる! いじわる!」
「うん意地悪だよ」
「っ、やだぁ!」
しがみついて肩を噛んだ。
それでも揺さぶられて子供みたいに泣き声を立てて抗議した。『私を捨てる気なのか』『意地悪されても好き』『一人でオナニーしないで』『夢で浮気したくせに』『もう私はいらないのか』完全にちぐはぐだ。文句が言いたくても文句が思いつかない。
そしたら頭上で笑い声が上がって、その声があまりにも凶悪でエロく鼓膜に響いたので一気に理性が崩れた。
「ぁああんっ……も、好きにしてっ、全部、あげるから!」
「言ったね?」
「フィックスさん愛してる!」
「俺も、だ……愛してる!」
その日はもう、なんかもう、なんかもう、これ以上にないほど弾けた。てか叫んだ。嫉妬を誘うような失言もした。首締められてマジ切れされた。汗も涙も涎も鼻水も全部舐めまわされて『生涯あなただけ』と誓わされた。フィックスさんも弾けた。凄い告白もした。『リリーをひと目見て──ああ、俺のものだって思った』『なんであんなとこで普通に歩いてたの』『警戒心もなく』『無防備に』『キラキラと』『雌の香りを漂わせて』『いますぐ捕まえて、俺なしじゃいられないよう支配して、全てを手に入れようと決めた』よくよく考えたら言っていることがストーカーだけど、物凄く好きになった後にそんな告白されたら更に興奮してイきやすくなって店にいたテリーさんから『どうでもいいがお前達の会話を聞いて店にいる獣人と人間がずっと泣いてる』と苦情がきた。知らんがな。今それどころじゃない。
でも起きたら悶絶するほど恥ずかしくて。昨夜は腹の探り合いどころか本音の晒し合いだった。それはもう、お互い顔を見ると思い出してしまうのでしばらく目を合わせられなかったほど。
そんなこんなで一週間が経った後、何故か五男坊の父親ケインズさんが店にやってきた。鞄に婚姻届を入れて。
「えーっと、都長さん……これは、一体?」
カプルス共和国では私のような他国民は簡単に婚姻届を手に入れられない。入手する為に役所に申請して、手元に届くのは三ヶ月後だ。他国の者でも漁師とか輸入業者は簡単に入国くらいはできるが、他国民がこの国の国民になるのは簡単じゃない。
審査があるらしいので、確か早めに用意しておこうとフィックスさんと一緒に申請したのが3日前。え。90日かかる婚姻届が3日で届くって、早すぎじゃない?
「倅から聞いた。貴女は実力のある漁師で、一日で金貨五百枚近く稼いだ日もあると。その貴女が、このカプルス共和国の国民と来年には結婚式を控えていると」
「はい……あ、漁師というか今は行商や養殖場で、ちまちま動いてるだけなのですが」
「ああ、港が閉鎖されているから、他の漁師も養殖場に手をかしたり、屋台を出したり、商人と近いことをしている。今は漁師が本来の仕事が出来ない状況なので、気にすることはない」
「……そう、ですか」
ちらっと店内にいる五男坊を見る。
もしかして父親に口利きしてくれたのか? やるなぁ五男坊。いつの間にか周りに気遣いのできる五男坊になったんだね。リリーおねいさん、もう二人を応援しちゃうよ。もしこの先アリエルちゃんと痴話喧嘩でもしたら、1回だけ助けてやろう。1回だけな。気が向いたらな。
「アリエルは天才だ!」
「そんなっ……嬉しぃ」
今日は教会でアリエルちゃんと読書会を開いて、アリエルちゃんの音読が大人も子供達にもとても好評で、五男坊もベタ褒めする程の出来だったそうだ。
ベタ褒めどころか既にアリエルちゃんにベタベタしとるけどな。
「この婚姻届は置いていくよ。都合のよい時に教会に提出してくれ」
お茶を飲みきって、都長さんが立ち上がった。
「あ、ありがとうございます。お忙しいなか、都長さん自ら届けてくれるなんて。後でレインさんにも御礼を伝えておきます」
「……倅の事は、気に留めることはない。空気だとでも思っていてくれ」
「あ、はい。わかりました」
あ、ずっとはりつめたような顔をしていた都長さんが初めて表情を緩めた。きっと多忙で疲れているんだろう。
店の外で都長さんの背中を見送っていたら、その向こうからフィックスさんが歩いてきた。その手に花束を持っている。
あー♪なになに、式場予約した帰りに花束買ってきてくれたの? 目が合って脇が小躍りする。なんて言って渡してくれるんだろ!
ん? 都長さんが歩きながら通り過ぎる間際にフィックスさんにぺこりと頭を下げた。なんで?
「お嬢ちゃん、フィクサーナがお嬢ちゃんが結婚式で着るドレスを作りたいと言っている」
「へ」
「すまん。どうしても作ると泣き止まなくてな」
振り向く間もなくひょいと首根っこを掴まれて、視界が反転──しかけたのをフィックスさんが止めた。
首根っこを掴まれただけでテリーさんの実力がわかった。いや本当のところは解らない。でも色んな意味で私の全細胞が走馬灯しかけた。
「リリー大丈夫?」
「……お、おふ」
フィックスさんの腕の中で花束と共に抱っこされて生きてる幸せって改めて痛感した。
「やめてくれる? 俺のだから」
「すまん。フィクサーナが泣き止まなくてな」
死にそうな声のテリーさんを見ると、あらゆる感情が顔から抜けていた。
「フィクサーナはテリーから離れて気分転換したいだけでしょ」
「もしそうなら俺はもう死ぬ」
「月1じゃなくて週1くらいにしたら?」
「そうだな……なら月2にするか」
「それでいいんじゃない」
二人とも真顔でなんちゅー話してんの?
ちょっと怖いんだけど。
「しかしフィクサーナの願いは叶えてやりたい」
「リリーは自分でドレスが作れるからね、それに昨日作り終えてたよ」
「泣いて暴れているんだ。どうしてもお嬢ちゃんの結婚式のドレスが作りたいと」
「リリーはどうしたい? 俺はあの白いドレスを着たリリーが見たい」
二人とも目に圧を感じますね。
「……え、えーっとですね、それでしたらお色直し用のドレスはまだ作ってないので、フィクサーナさんにお願いしてもよろしいでしょうか?」
「いいぞ。助かった」
「お色直しってなーに?」
「結婚式で誓いのキスをする時はシンプルな純白のドレスが着たくて……それで作ったんです。そのあと招待人に見送られながらフィックスさんと家に帰るので、その時は青と金色で派手目なドレスを着て帰ろうと思ってたんですが……その、白いドレスで飲み食いしたくなかったんです」
「うんうん」
「青と金色で派手目なドレスだな。フィクサーナに伝えておこう」
収納から見た目シンプルでタイトなドレスを出してテリーさんに渡す。装備品だ。私のサイズになっている。
「これが私の型です。ドレスのデザインはおまかせしてもよろしいでしょうか?」
「大丈夫だ」
「……ちなみにフィクサーナさんに会わせてはもらえないんですか? 仮縫いの時にほんのちょっとだけ話すとか、いやもうせめて5分、あ!」
…………消えた。
ふむ、そうか、よし、諦めた。
今はね。今は、ね。
「フィックスさんって花束持って歩いてるだけでエロいですね」
「リリーは花束を持ってるだけで更に可愛いね。俺、リリーに会って初めて誰かを可愛いって思ったんだ」
「くふぅ♪」
フィックスさんに抱っこされながら頂いた花束を抱き締める。いい香り。
そのまま店内に戻るといつの間にか来店していたヴィッセル殿下とビィセェス殿下が腕相撲をしていた。あ、ビィセェス殿下が勝った。
「勝った、私が先行だ」
「貴様はこの前勝手に先走っただろう! 今日は私に譲れ!」
知りたくもなかったがこの二人は既に肉体関係がありそうだ。夜の上下関係はまだ安定していないようだが。まぁ、毎日こうやって店が空いた時間帯を狙ってご飯デートしてるもんな。食欲が満たされれば次にやることは決まっているのだろう。
「どうしたの? 急に甘い魚食べて、お腹が空いてるの?」
「いえ、お口直しです」
ちなみに私はまだフィックスさんに普通に抱っこされてます。
「リリー嬢。私に君の言葉に従う。君が望めば私は君の騎士でも犬でも奴隷にでもなんにでもなろう。この場で跪いて忠誠を誓う」
は。
連日の如くだが、また二人でなにか遊びを思い付いたようだ。
「……今日はなりきりですか。ではビィセさんは実はヴィーさんと半分血の繋がった兄という設定で、それを知らないヴィーさんはビィセさんに淡い恋心を抱いていて、それに気付いたビィセさんはヴィーさんから距離を置いて留学してしまうんです。今日は3年ぶりに再会したという設定でドキドキしながらお話してみて下さい」
「……わ、わかった」
「何故いつも私が後攻なんだ! ビィセ、貴様の言葉は的確だったが外交には向いていない! 何も伝わっていないではないか!」
いやリクエストがあるなら言えよ。
てか私もそんなに暇じゃないんだけどね。
フィックスさんに椅子におろしてもらい、収納からいくつか花瓶を出す。どれに活けよっかなー。
陶器に硝子に竹の花瓶もある。
あ、そういや和壺もあったな。うむ、渋い。却下。
お皿タイプに活け花もいいかも。
うーむ。皿がありすぎて悩む。
そこで錬金術でボウル型の花瓶を練ってみる。
「……異空間魔法に……錬金術……昨日は飛行もしていたが……はぁ。どれだけ魔力があるんだ」
「……この一週間でよく解ったが、リリー嬢は規格外だ。基本無言だが、決して無意味な言葉は言わない人だ。何か思惑があるのだろう。さてヴィー、3年ぶりに会ったが彼女はできたか?」
「っ、この私に兄などいない! 貴様に淡い恋心など抱いていない!」
そうだね。ただでさえ不毛なのに更に兄だったら居たたまれないよね。淡い恋心どころか、諦められないほど本気な気持ちだもんね。
でも設定とはいえ今より窮地な状況になって、改めて好きな人が側にいる幸せに気付いて欲しいな。
「リリー嬢は設定だと言っていただろう。聞いていなかったのか?」
「この私に役者になれと!? ではリリー嬢、聞かせてもらおう、私がそれをすることになんの意味がある!?」
「そうですね。ヴィーさんは一度その俺様気質を徹底的に潰しておいた方がいいですよ。人は自分の立場でしか物事を語れない生き物でしょう? ヴィーさんは気位が高すぎるんですよ。好きな人の前でくらい、素の自分を出せなくてどうするんです?」
あ、真っ赤になった。
以前のように激昂しないだけまだマシだ。
よし、やっぱり活けるのはシンプルで白い花瓶にしよう。
ハサミとお水を出して活けて……いや、枯れたら困るから付与魔法でも取得して時間停止させておこう。
どこに飾ろっかな~……てか私、前世と今世を含めても、男性から花束貰ったの初めてなんですけど。
カウンターの向こうにいるその背中に話し掛けた。
「フィ、フィックスさんには私の初めてを奪われてばかりです、ね」
「俺もだよ……花も初めて買った」
そうなの?
今、ちょっと照れたよね?
色々弾けたあの夜から、フィックスさんとの甘酸っぱい関係が続いている。昨夜はキスする時、歯がぶつかって照れて、それでも笑い合いながらキスを続けた。
「……り、リリー嬢。もし、……仮にもし私が君を好きだと言ったら、君はどうする?」
「仮にどうもしませんが?」
「さ、最近は我々を海に飛ばさないだろう? その、少しは可能性はあるかと……希望を抱いてしまうんだが」
「?? 可能性?」
「……ああ。君と話す時間、会う機会を増やせないかと」
うわぁ……ヴィッセル殿下の言葉にビィセェス殿下が凶悪な狼顔になった。知らんがな。そりゃ王族だから隣国の王子との交際について賛成してくれる味方もいないだろうし、藁にもすがる気持ちで私に相談したいんだろうけど。面倒事に巻き込まれるのはごめんですよ。
「すみませんがヴィーさんとお友達にはなれませんね。身分も価値観も離れてますし、……あ、そうだアルレントに戻ったらどうですか?」
「え」
「確か母国に私に瓜二つなご令嬢がいるのでしょう? その人と仲良くなってみたらどうですか? 私とそっくりな顔なら、幼馴染という点を考えても相談とかしやすいんじゃないですか?」
「………………」
おや?
ヴィッセル殿下から表情という表情が抜け落ち、感情という感情がゼロの顔になった。無だ。
青ざめたビィセェス殿下が慌てている。
「……あ、あ……そう、だな……もう、……それで……良いかも、しれなっ……」
「ヴィー! 死ぬな! 戻ってこい!」
どうしたんだろう?
必要に迫られない限りは脳が楽したいので考えることを放棄した。
「よし、できた! この青いお花、雄しべが金色で珍しい品種ですね。私達の寝室に飾りましょうっ」
鑑定するとアマリリス科の花でベールリリーという名前だそうだ。花言葉は『隠された真実』。そういや前世にもアマリリスという分類でなんとかリリーとか、似たような花言葉の花があったなぁ。思い出せん。
花瓶を掲げて店内をくるくるまわる。皆にも香りをお裾分け♪いつかフィックスさんとダンスがしたいなぁと考えていたら背後から甘えるようにリリーと呼ばれ、抱き締めながらいとおしむようにフィックスさんに頬擦りされた。
おまけに何か言いたそうな勝ち誇った笑顔だ。どや顔にも見える。なにか良いことでもあったのかな?
「?」
あ、そういやフィックスさん、海と地上どっちで暮らしたい? って聞いてきたことがあったけど、海と地上、先に海と言ったから本当は海がいいのかな? 寝室は店の二階にあるけど、私はフィックスさんがいたら深海でも火山でもどこにでも住む。いつか海にも寝室を作ろうかな……。
「フィックスさん……また、海でデートもしましょうね?」
「うん……俺、幸運だったね」
「ほぇ?」
「何かひとつでも掛け違っていたら、こうはならなかった」
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