悪役令嬢は嫌なので、放浪して好き勝手します

cqrijy

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3部 人魚と選ばれし番編

14 バネリ大佐の遊行船

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夏、真っ盛り。
何故かヴィッセル殿下の一声で一週間だけ浜辺が解禁されたらしい。

"繁盛期に軍事演習、無理な要請を受け入れてくれたこの街へ、アルレント国から親好と感謝の意も兼ねて、街の人々の活気づけになればと"

そう都長さんへ連絡がきたそうだ。五男坊から聞いた。
漁船の出航は許可されていないが、遊泳や狩りは可能になった。

商人にとっては夏も書き入れ時。
汗ばむ陽気な天気に弾む人々の心。
浜辺は宴会場のように、そこらじゅうに仮設された屋台に、飲み屋に、今が稼ぎ時とばかりに行き交う行商人。食欲に流され緩む財布の紐、乾いた喉に冷えたアルコールがうまい。

この浜辺に建ち並ぶ屋台はごまんとある。海の家みたいなものある。見たところ出店した店主は必ず一人は漁師や海中ハンターを雇って調理する食材を賄ってる。

とはいえ店の数より客が格段に多い。
久々の解放感に注文はあちこちから舞い込む。
観察してると行き交う金貨の枚数も凄い。
夏真っ盛りだもん。本当はこれが元々の光景なんだよね。

「エメラルド、光烏賊と糸巻きサザエがもうきれそうだ。多めに獲ってきてくれ」
「はーいっ」

テリーさんが開いた海の家にはエメラルドちゃんがついている。久々に泳げて楽しいと言っていた。
この日差しのなか休憩なく依頼を熟して、ちょっと日に焼けた鼻が可愛い。

「波ビール大、おかわりをお願いします」

近くにいた従業員さんに銀貨を渡してグラスにビールを注いでもらう。うまい。暑くて全然酔わない。飲んだビール全て流れる汗で消費している気がする。

そこで浜辺にどよめきが起こった。

見ると見事な逆三角形。
更には雌を惹き付ける雄っぱい。
腕はパンパンなのに引き締まったウエストは細く、濡れたデニムが下肢に張り付いて筋肉のラインがより強調されててエロい。

もうひと目で足腰強そう。
色々凄そうってわかる。
いや知ってる。

そう、海から上がってきたフィックスさんが、その逞しい上半身を惜し気もなく晒しながら上がってきたのだ。

太陽の下にいるフィックスさんもやばいかっこいぃ……思わず腰がやられて砂浜に尻餅をついた。

「……毎晩あの身体に抱かれてるんだよね」

夢かと疑いたくなる程の幸運に一人ごちりビールを飲み切った。

そこで浜辺にいた女性陣から歓喜の声が上がった。その数人がフィックスさんの周りをうろつきだした。
空になったグラスを粉々に握り潰してしまった。いかんいかん、粉砕したものを収納して心を落ち着かせる。
再びフィックスさんを見ると更に増えた女性陣に取り囲まれていた。
ぶち切れしそうになりながらも鑑定すると女性陣は人間の海中ハンターだった。
みな水着姿でモデルのようにスタイルもいい。胸も腹筋もなかなかだ。ありゃ男を逆ナンする権利を持っているような女達だ。

「リリーおねいさん、顔こわいよ?」
「海の藻屑にしてやろうか……」
「ちょ、……」

横を見上げるとアリエルちゃんがいた。その後ろにマリンちゃんとシリンちゃんもいる。三人ともお出かけスタイルだ。

「ねぇ、あの人達この辺にいる海中ハンターなの?」
「え?  ああ……フィックスさんに近付くくらいだから、なんにも知らない出稼ぎの人じゃない?  夏になるとよく現れるの」
「そうか……夏は外部から誘惑が多い時期なのな。警戒しておくよ」
「リリーおねいさん、ほんと顔こわいよ?」

女性に囲まれたフィックスさんは顔をこてんとさせて呆けている。あ、一番巨乳な女性がフィックスさんの腕を掴んだ!

収納から出した【偽りの塔】を手に立ち上がりかけてマリンちゃんとシリンちゃんに止められた。

「落ち着いてリリーおねいさん!」
「うん落ち着いて頭を狙う」
「それやばい武器やつだよね!?  鳥肌がとまらないから!」
「ほら見て、ちゃんとフィックスさんを見て!」

アリエルちゃんに両手で顔をとられて角度を変えられた。

およ?
フィックスさんの腕を掴んだ巨乳が青ざめて離れた。チャンスとばかりに次々とフィックスさんに触れて青ざめる巨乳達。そのあと何人かは尻餅をついて無言になった。

「……なにあれ」
「ほらね、大丈夫でしょ?」
「リリーおねいさん、お願いもうそれ仕舞って」
「あ、はい」

【偽りの塔】を収納して唖然としていると海からエメラルドちゃんが戻ってきた。

「ふーん。あの人達、泳ぎは下手だけど海中ハンターとしての勘はあるみたいね」
「え?」
「触れたら解るのよ。フィックスお兄さんが、危険生物だって」
「……つまりはあの巨乳達は敵ではないと?」
「敵って……リリーおねいさんに敵なんかいるの?」
「私の雄っぱいに群がる雌は全て敵です!」
「ちょ、リリーおねいさんって……そこまでヘタレだったっけ?」

うん、そうみたい。
困り顔のエメラルドちゃんにきっと大丈夫だから泣かないでと優しく頭を撫で撫でされた。色んな意味で鼻水ずびずば。

「リリーおねいさん……顔やばいよ」

一時は彼氏が5人いたとんでもねぇアリエルちゃんにドン引きされている。

双子が以前のように随分と物理的に引いて遠巻きにしている。

くぅぅ。砂浜に埋もれてもがいていたらひょいと抱き上げられた。

「ただいまリリー」
「っ、フィックスさん!  私、心は狭いけど胃袋はでかいんですからね!  このままだと海中の生き物全部食べちゃいますからね!  そしたら困るのはフィックスさんですよ!」
「困らないよ。沢山お食べ」
「ん、っ」

口移しで蜜々草を入れられた。
蜂蜜のように蕩ける甘ぁい海草だ。
状態異常を治す薬の材料でもある。

「……モグモグ」
「どうして泣いてたの?」
「砂が目に入りました」
「入ってないよ」
「太陽が眩しかったのでしょう」
「俺がモテて嫉妬した?」
「…………そういうことは蜜々草を食べさせる前に聞かないと、フィックスさんが欲しい言葉は聞けないですよ」

収納から美毒と醜毒の真剣を取り出してフィックスさんの首手前にあてる。海王蛇が一番嫌う特性毒の剣──天国と地獄が同時に味わえる奈落の底のような毒だ。

「私の雄っぱいを狙う雌は全て悪です。その悪の手に落ちる者はこの剣で斬らねばなりません」
「……わかった」
「……お嬢ちゃん、それは怖いな。フィックスも、わざとそういうことをするな」
「二度としない」

よし、言質とった。
真剣を収納してホッと息をつく。
久々の浜辺だ。
遠く、沖の方に見えるバネリ大佐の遊行船を眺めて、そのあまりの小ささに鼻を鳴らした。

「リリー許して……怒らないで」
「怒ってません。ちょっと妬いただけです。あの巨乳さんを堪能したその腕を斬り落としたくなるくらいには嫉妬しました」
「わかった。あげるから、機嫌なおして」
「今後その両腕で抱き締められることが無くなる方が死活問題です」

ぎゅっと両腕で抱き締められたのでプクっと頬をふくらます。

「お願い……許して」
「……フィックスさんは先程のように巨乳さんに言い寄られて触られてどんなふうに感じました?  嬉しいですか?  楽しいですか?  気持ち良かったですか?」
「?  なにも感じないよ。触れてもみんな離れていくからね。今まで俺の胸にすり寄ってきたのも、リリーだけだよ」
「……むぅ……機嫌がなおりました」

ついでにすりすりしとこ。
雄っぱい。匂いつけ。マーキング。
そこで思った。

「……フィックスさんにも私の匂いがつけばいいのに」
「嬉しい……リリーが俺より上位種になったら可能だよ」
「あ、成る程」

無理ゲーなので諦めました。

バネリ大佐の遊行船をバックに、水も滴るいい男フィックスさん。
ちなみにフィックスさん、海で泳ぐとあらゆる機能が全快するそうです。海そのものを生命エネルギーとして得られるそうで、そんな人より上位種になるなんて無理ゲーです。

「リリーは泳がないの?」
「……近付いたら取り戻したくなるので」

そう言ってバネリ大佐の遊行船を見る。

白、黄色、青でデザインされた見た目オモチャみたいな船。今は巨大客船のような規模だが、私がその気になれば掌サイズから北海道サイズまで伸縮させれる。

あの船は大海原そのものなのだ。
表向きは帝国の犬だったバネリ大佐は、三万人の兵士を生きたまま収納して出撃できると帝国に資金を出させて、いやそれも事実だが実はだいの釣り好きのバネリ大佐が誰にも邪魔されないように造った、規格外の生け簀──それがあのバネリ大佐の遊行船だ。

「俺達の胃袋と構造は似てるね」
「だが規模が小さいな」
「でもリリーの望みは叶えてあげたいし」
「仕方ない。中身はどうする?  人間やら獣人やら、色々入ってるぞ」
「ひっくり返して海に捨てちゃえば」
「しかしな……お嬢ちゃん、本当にあんなものが欲しいのか?」

は。
テリーさんが指差したバネリ大佐の遊行船を見ると、波もないのに船が大きく揺れた。
え。手を翳して魔力とは別の謎の力を出したフィックスさんを見て……うん、察した。脳がフル回転した。

「要りませんあんなもの要りません絶対要りません私が欲しいのはフィックスさんだけです!」
「俺の方がいい?」
「当たり前です!」
「……よかった。ちょっと、嫉妬したから……それに、俺の方がでかいよ」

なにが?
なに頬を染めているの。
え。まさかバネリ大佐の遊行船よりでかいってこと?

「…………フィックスさん、手加減は必要ですよ。貴方が本気を出したら私しんじゃいます」
「?  わかった」

あ、またフィックスさんをチラチラ見る女性陣が現れた。
今度は観光客ぽい。

「あのぅ……5名なんですが席は空いてますかぁ?」
「空いてるよ」
「きゃあっ、かっこいい!」
「お兄さん、鍛えてるのぉ?  すっごいからだぁ」
「お兄さん名前なんていうんですかぁ?」
「お兄さんのおすすめの食べ物ってぇ、なんですかぁ?」
「ねぇ、お兄さんが作ってくれるのぉ?」

仕事だからね。
話し掛けられてるだけだからね。
席に案内してメニューの説明してるだけだからね。
今は我慢するよ。今は、ね。

「リリーおねいさん……ほんと顔、怖くてやばくて凄いよ?」
「わかってるよ。鏡を見なくてもわかる。きっと今の私は恐面悪役令嬢」
「あ、うん!  ほんとそんな感じー。弱者を足蹴にしておーっほほほ、とか似合いそうー」
「……アリエルちゃん、レインさんに美しい女性が群がってきたら、貴女はどうしますか?」
「っ、アリエルの方が可愛いもん!  アリエルの方が音読も上手いもん!  皆が3日もかかる冊子作りもアリエルなら一晩で作り終えるもん!  アリエルをその辺の人間の女と一緒にしないで!」

うむ。人魚は殆ど寝ないもんな。

「うん。アリエルちゃんは意地悪な質問をする私とは違って一生懸命で前向きで可愛いです。フィックスさんに女性が群がるだけで切れそうになる私とは大違いだよ。自信持っていいと思う」
「……リリーおねいさんの気持ちもわかるよ。でも、レインさん。移動する時いつも、アリエルの手を握っててくれるの……よそ見するなって、転ぶからって、怒るんだけど……前みたいに邪険にするような言い方じゃなくて……アリエルのこと、ちゃんと見てくれるの」
「…………」
「だからリリーおねいさん、アリエルも、レインさんのことちゃんと見る。他の子を叱ったり勉強みたりもするけど、でもそれはレインさんの優しさでもあるから、ちゃんと、見て……そんなとこも、妬けるけど好きになろうと思う」
「アリエルちゃ……!」
「だからリリーおねいさんも、頑張って……お互い幸せになろうっ」

涙腺がやばい。
11歳に激励された。

「アリエル今日ね、レインさんを海に誘ったんだけど、浜辺の警備があるからって断られたの!」

ん?  アリエルちゃんがワンピースを脱いだ。服の下は可愛い水着だ。

「でもぜーんぜん気にしてないよ!  この浜辺のどこかで、レインさんがアリエルのこと見守っててくれてるって、良い方に考えてるから!」
「っ、アリエルちゃん!」
「ねぇリリーおねいさん、泳ご?  嫌なことは、泳いで忘れちゃお?」

よおおおし!
うじうじしてるのは性に合わない!

隠密と結界を発動してジャージから海の頂点に早着替え。ついでに猫耳カチューシャもつけたぞ!  アリエルちゃんにはツインテールヘアピンをつけてあげると一気にテンションが上がっていた。

「よおおおし!  ブラック・キルギスでも狩りにいくかああ!」
「さんせーいっ!」

そしてアリエルちゃんと手を繋いで浜辺を走る。
砂浜を蹴って笑い合う。
どうだ、この青春ぽい感じ。
周りも目を見開いて私達を見てるぞ。美しい光景だろ。

でも海水に足が触れた瞬間、目の前にフィックスさんが現れた。

「外でも俺の前では可愛い格好はして欲しいって言ったけど、こんな人の多い浜辺でそんな可愛くなっていいなんて言ってないよ?」

呼ばれた。
しかも客席に。それも先程の女性陣が座ってるテーブルのど真ん中に。あまりの非現実的な光景に料理ぶちまけて女性陣が逃げていく。あ、遠くの方でアリエルちゃんがチベットスナギツネみたいな顔してる。

「そんなにその水着で泳ぎたかったの?  なら早く言ってよ。いくらでも泳がせてあげるのに」
「お嬢ちゃん、頼むから少しじっとしといてやってくれ」
「もう丸のみにして一生出さない」
「月1くらいは出してやれ」
「そうだね。年1回くらいは出してあげようかな」

意味不明でも不穏な会話なのは解ります。
フィックスさんの金色の瞳が荒れ狂う大海原のように、凄い修羅場が目前に迫ってます。直感が今すぐ誤魔化して謝れ死ぬぞと訴えた。

「だ、だってぇ、私……今とてもお腹が空いていて……どうしてもブラック・キルギスが食べたかったんですぅ……でもフィックスさん忙しいしぃ……イカ獲ってきたらフィックスさんが焼いてアーンして食べさせてくれるなかなぁって……ごめんなさいぃ」

猫耳パワーで精一杯の猫撫で声を出す。マジで目に涙を浮かべて。そそくさと収納から出したロングパーカーも着るとフィックスさんの目に落ち着きが戻ってきた。瞳の中は凪いで穏やかだ。

「そうなの?  早く言ってよ」

フィックスさんがにっこりと頬を染めて、その背景に、バネリ大佐の遊行船の横に、船よりでかいブラック・キルギスが現れた。
超ド級だ。鑑定するとキングブラック・アーミー・キルギス王種と出た。恐らく進化の過程で何度も変異を遂げた貴重種だ。

死神のローブような皮は全てを飲み込むかの如く分厚く、死神の鎌のような足は鋭利で全てを切り刻んでしまいそうなほど艶めいている。

紛い物じゃない、本物だ。
鳥肌とまらん。

「お嬢ちゃん、あれは食べきれないだ……いやフィックス、お前もじっとしていてくれ」

テリーさんがいきなりこんな場に呼ばれて慌てていたブラック・キルギス王種に向けてひと睨みすると、マッハで沖の更に大海原へ消えた。

お騒がせしました。

「……あ、あ、あぁ現れたのは一瞬とはいえ、あんなものを呼ぶのは反対です!」
「大丈夫。見えてないよ。裏メニューだから。おいでリリー」
「?」


フィックスさんに手を引かれてお店に帰って来ました。
ドアが閉まると、恋人繋ぎで両手を壁に押し付けられ、舌でロングパーカーのチャックを下ろされた。

「っ、」

いや、店内には誰もいないけど、てか今日は閉店してるけど……。

「……に、二階で」
「それ、初めて一緒に海で泳いだ時の格好だよね?」
「……はい。あの時のパーカーですね」

ロングパーカーは沢山あるから、これ久々に着たんだけど、それがどうしたんだろう?
ご機嫌なフィックスさんが水着の右肩部分を口ではむっと横にズラした。
ぅ……片乳ぽろり。
いきなり外気に晒されて思わず俯くとフィックスさんが耳元で囁いてきた。

「このまましてもいい?」
「えぇ、もぅ……いい、けど……せめて二階で」
「うん。後でね」

ひょいと腰を掴まれてテーブルに仰向けに倒された。店の灯りに照らされる。羞恥心に腕で顔を隠せば胸元にピリっとした痛みと疼き。
自然と腰が浮きだってテーブルが軋んだ。

「壊れ、ちゃう」
「壊さないよ……可愛いリリー」

顔を隠していた腕をとられて手に指を絡ませ、テーブルに押さえ付けられた。
ここで最後までする気はないようだ。
ただ水着をきた私の体を、じっくり眺めて、たまに触れるだけのキスをする。
ずっと何か言いたげな目をしているが聞いてはいけない気がしたので黙っていると、フィックスさんがもう片方の水着をずらして両胸ぽろんした。
舌で水着を引っ張り、下腹部までおろすとじっと臍らへんを凝視してくる。

「月1なのかな」
「え?」
「リリーの発情期」

私……の発情期?
って性欲とか、排卵的な意味?
フィックスさん次第で毎晩盛ってる気もするけど……。

「私……まだ若いですから、しばらくは毎月排卵すると思いますが……ど、どうなんでしょうね」

きちんと月のものもきているから排卵はしているだろう。

「なら来年の俺の発情期には必ず被るね。……楽しみ」

ぐりっと腰を押し付けられて水着越しに熱いものがあたる。
もう、テーブル壊れるってば。

「薄いお腹……不思議だね。なんでこんな可愛いお腹が、俺のを受け入れても大丈夫なんだろうね?」
「ぅ……ぁ……」
「リリーの体も、あの船の構造に似てるからかな?」
「?  よ、よくわかりません」
「解らなくても、来年は俺の子を孕むんだよ?」
「そ、その前に婚姻届書いてもらいますからねっ!」
「いいよ」
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