悪役令嬢は嫌なので、放浪して好き勝手します

cqrijy

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3部 人魚と選ばれし番編

11 表と裏

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「……ん」

そっと目を開けて、いま何時だろうと生活魔法で調べると夜の8時だった。
薄暗い部屋でも、シーツの上に金色のキラキラとしたものがいくつも落ちているのがわかった。
身をねじって左手の薬指を見る。
フィックスさんの瞳と同じ金色の指輪がはめられているのを目で確め、吐息をもらした。


"……フィックスしゃ、まるのみ……丸のみしてぇ……!"


あれはどういった意味なんだろう。
おまけに目を合わせるだけで達する体にされて、そのあと懇願されて、本心からその言葉を放った瞬間、フィックスさんの縦長の瞳孔から輝く金色の涙が落ちた。
人魚のように、涙が物質化したのだ。
ほんと見惚れて……綺麗だったなぁ。
あの瞬間は、一生忘れられない光景になった。

その場ですぐ指輪にしてくれたけど、魔力も使わずどうやったんだろ?


"どの指がいい?"

"左手の薬指ぃ"

"嵌めたら二度と外せないよ"

"はぁい……外さないもーん"


ぐるりと左手の薬指、その指の根元から第二関節まで蛇のように巻き付いている金色の指輪を見る。よく見ると皮膚に食い込んでる気もするけど、これといった違和感や痛みはない。

ふふっ……指輪を嵌めてもらって、その後改めてプロボーズされたんだよね。

シーツの上に落ちているフィックスさんの涙を手で掬って鑑定。


海王珠──表と裏が合わさった独色珠。体に埋め込むと表裏一体のユニークスキルが取得出来る。


「え、海王珠って……?」

珠は種類も多く前世ゲームで色々集めたけど海王珠って初めて見たぞ。
収納して調べると珠系統の最後に表示され、珠マスターの称号表彰状を得ていた。収納を見ると確かに表彰状が入ってる。
あ、ならこれで全ての珠を集めたのね?
ひゃっほい♪宝石や鉱石系はコンプリートしてたけど珠コンプリートは初!

てかかっこいいじゃない。
海王蛇うみおうじゃ海王珠うみおうじゅ
これ、海王蛇の涙よ!

えっと、あ、そうそう他にも何か表示されてたな。もう一度鑑定しようとしたら部屋にフィックスさんが入ってきた。
真っ裸なので慌ててシーツを引っ張ると、海王珠が床に落ちて慌てて結界で包んで全て回収!
その隙に背中に吸い付くようなキスをされた。

「ひゃ、」
「可愛い……全身真っ赤だね」
「っっ、これしばらく外に出れませんよ!  手首とか指まで、フィックスさんが吸った痕だらけじゃないですかぁ」
「額にもついてるよ」
「んんっ」

押し倒されて口内に熱い舌が入ってきた。
くらくらする。気絶無効で睡眠も無効なのにくらくらするぅ。

「目覚めるの早かったね」
「……っ、」
「夜中まで寝ると思ったから……起きてるリリーが見れて嬉しい」

意味深な笑みに無言を貫く。
いや、前々から睡眠無効なのに気絶するように眠らせ、今回は気絶も無効なのに意識を奪うように眠らせたフィックスさんがチートなんですからね?
てか睡眠無効って敵の睡眠ガスを丸一日吸い続けようが、私が錬金調薬した睡眠薬を100錠飲もうが通用しないスキルですからね?
おまけに気絶無効って身体強化した私が渾身の力で自分を100発殴っても絶対気絶しないスキルですからね?

「私を女の子にできるのはフィックスさんだけです」
「うん?」
「責任とってずっと甘えさせて下さい」
「いいよ」

笑顔でバンザーイするとシーツが落ちてフィックスさんが覆い被さってきた。そして口に星トリュフが入れられた。おいちぃょぅ!

「俺にだけずっと甘えてて」
「はぁいモグモグ」
「今日は新メニューがあるよ」
「ひゃほーい、食べます!」

体を洗浄して暗殺者の全身黒タイツを着る。眉毛から唇までの顔以外は全身が黒タイツで包まれている。
よし、これで指とか額のキスマークも見えないな。

怪しさ全開なのでその上にフード付きのロングパーカーを着る。

おまたせー、と言ってフィックスさんと手を繋ぐとよろめいた。おっとと。足腰がガクブルだ。


「お嬢ちゃん、起きてたか」

一階へおりるとテリーさんがいた。
店内も凄く混んでるなぁ。

「あれ、お店開店してたんですか?」
「?  ああ、してるぞ」
「……匂いで殺到したみたい」
「へぇ、新メニュー効果ですね!」
「……凄い体力の減りだな。起きてて大丈夫か?」
「無理させちゃったみたい……今夜は沢山食べさせないと」
「……裏メニューを出すか」

裏メニュー?  新メニューじゃなくて?
カウンターに座ってフィックスさんに頭を撫で撫でされていたらテリーさんが大きなお肉の乗ったプレートを持ってきてくれた。

「ありがとうございます!」

わぁ!  なにこれ凄い、なんの丸焼き!?  涎がとまんなぁーいっ!

「これは頭の肉だよ」
「めっちゃ美味しそうです!  この濃いお肉の匂いがもう……」

フィックスさんが笑顔で切り分けてくれる。あぁ……私の旦那さまがかっこいぃ。

なんの頭のお肉か解らないけど、骨を外して頬肉やタンをスライスしてお皿に並べてくれた。

お肉の断面は地層のように赤、薄桃、白、紫と、色や形を見たところ、実に様々な筋肉組成の部位や脂身がある。
一枚のお肉に、 それぞれがまったく別な味わいの肉として存在していて、そしてそれらは物凄く私の舌を唸らせた!

「なにこれ……なにこれ……とまんなぁい」
「……もう。そんなに涎たらさないで……思い出しちゃうでしょ」

そうは言っても切り分けてもらった瞬間にがっついてしまう。飲み込んだ一口の満足度が高い。秘薬どころじゃない高栄養のお肉だ。

「こちらが新メニューになります」
「っ、ありがとうございます!」

めちゃ美味しそうな匂いのパンもきた!
ナンみたいに袋状になってる。中の具はゴムのような何かに包まれた物だ。
かじると包まれた具が破けて濃厚なソースが出てきた。外側はカリっとしたパンに、ソースがしみてふにゃとした内側がまた美味しい。

あ、この包んでるの腸詰めの皮だ。中身もお肉がごろごろ入ったピリ辛ボロネーゼみたいでおいちぃ!  あっという間に9個も食べてしまったぞ。まだ足りない。まだ入る。

「はい、リリー」
「ありがとうございます!」

また切り分けてスライスされたお肉をがっつく。んぅー……このお肉ほんと色んな味がしておいちぃ。

「彼女はさっきから何を食べているんだ?」
「我々も頂いているこのパンでは?」
「……いや、いまフォークで」
「……フォークを口に入れてますね……皿には何も乗っていませんが……」

む。
聞き覚えのある声に振り向かずに鑑定すると店内にヴィッセル殿下とビィセェス殿下がいた。なんでやねん。
いま夜の8時過ぎよ。昼からつるんでたろ。どんだけ仲良いねん。
最後のひと切れをフォークに刺し、パクっと完食。あぁ……無くなっちゃった。

もっと食べたぁい。

フォークをかじりながら涙目でフィックスさんを見上げる。

「いいよ」

わぁ!  なにこれテレパシー!?
追加の頭のお肉がきたぁ!

「……父上!?  何故ここに?」
「レイン……居たのか。その子は?」
「あ、彼女は次の読書会に参加してもらう予定のアリエルです。今日は打ち合わせで遅くなってしまったお詫びに食事を。この後きちんと家まで送りとどけます」
「……そうか」
「は、初めてまして……」

ん?  聞き覚えのある声に振り向くと背筋を真っ直ぐにしたアリエルちゃんが席から立ち上がって、五男坊とよく似た銀髪のおじさんにとても丁寧な挨拶のあと深々とお辞儀をした。化けたな……どこのお嬢さんだ?
てか二人とも店内に居たんだ。
ってアリエルちゃん挨拶の中で『レインさんのお父様』って言ってたからまさかもうお父さんを呼び出して彼女として紹介?  やるなぁ……アリエルちゃん。全裸で飛び掛かったかいがあったね。
五男坊は性癖に難があるけど、性的な事はきちんとしてそうだから──お、ヴィッセル殿下が立ち上がったぞ。

「ケインズ都長、急に呼び出してすまない」
「ヴィッセル殿下、……それにビィセェス殿下も?」
「……先に言っておくが私は無関係だ。あんな……勝てるわけがない」
「そうでしょうとも。獣人は鼻が利きますからね」
「……なんの話だ?  それより、拘束状は持ってきてくれたか?」

ん?
五男坊のお父さん、私に目を向けてから、何故か私ががっついてる皿を見た。そんなにじろじろ見てもあげないよ。だってこのお肉すっごく美味しんだもん。

「お嬢ちゃん、追加の肉だ」
「ありがとうございます!」

なんかずっとテリーさんが肉を焼いて持ってきてくれて、それをフィックスさんが毎回切り分けてくれる。さっきからそれを高速で完食する私。

「おいちぃょぅ!」
「可愛い可愛い」

今日はほんと甘えてばかりでごめんなさい。やめられないとまらない、で流れ作業みたいだ。

「……番、いや既に表裏を航られている……拘束状とは、二千年前のように国が滅ぶので止めて頂きたい」
「どういう意味だ?」
「ヴ、ヴィッセル殿下……私はもうアルレントに帰る」
「ビィセェス殿下、何を……母国はここだろう?」
「っ、では失礼する!」

む。
泣きそうな顔のビィセェス殿下を追い掛けたヴィッセル殿下が、ビィセェス殿下の服の裾を掴んだ途端、逆に腕を取られて店から連れ出されたぞ。

……アイツら怪しいな。
まさか付き合ってんのか?

「……フィックスさん」
「うん?」
「どうやら私達が結ばれたことによって、周りもそれに感化されて恋愛脳になっているみたいですね……モグモグ」
「リリーは可愛いね。もうずっとそうしてて。俺、絶対に幸せにするから」




はふぅ。
美味しいお肉に胃も満たされ、いま心から至福を感じている。
ご飯のあとは広いお風呂で湯に浸かりながらフィックスさんとまったりしつつ、たまに水遊び、追い掛けっこ、捕まってまたまったり。極上の時間を過ごしている。

「ふにゃ~……フィックスさんは私を甘やかしすぎですよぅ」
「そう?  リリーは本当に抜けてるからね。俺に甘やかされてるように感じるんだね」

というかフィックスさんの方こそ、体力がありすぎて私を世話してる自覚がないのでは?
あの怒濤の発情期ですら疲れた顔を一瞬も見せなかったもん。

「フィックスさん」

浴槽のへりに腰を下ろしているフィックスさんの膝に真っ正面から顔を乗せる。気持ちいい肌。少し人間とは違う質感だけど、足に抱きついて頬をすりすりしちゃう。

あ、フィックスさんの大事なところには、きちんとタオルをかけていますよ。あるとどうしても私の視線がそこにいってしまうのでね。にゃはは。

「なに笑ってるの?」
「う~ん……膝が気持ちいぃ……」
「俺の足首にリリーのが当たってるんだけど」

ザハァっと片足を持ち上げられた。
おっと、落ちないように咄嗟に体勢を保とうとすると、平均台で猫が伸びをしてるような姿勢になってしまうわけで……。

「器用だね」
「……もうっ、お尻見ないで!」
「落ちないでね」
 
ゆさゆさと足を揺らすフィックスさん。新しい遊びを思い付いたのかな?

「わっ、結構揺れる~!」
「……うん、揺れてるね」

もう、どこ見て言ってるの。
私は体幹でバランスを取りつつ、一歩ずつフィックスさんに近付いていく。
太腿を踏みしめて後ろ足が膝を通過。足長いよねぇ。

「到着♪」

肩に手を置いて、ゴールと言わんばかりにちゅっと額にキスをしてから顔を覗きこむ。おっ、目が笑ってる。楽しんでもらえたようだ。

「……リリー、体は辛くない?」
「え?  快調だよ」
「そう……朝まで抱いていい?」

顔を覗きこんだまま、いきなり瞳孔が縦長になって腹にズクンとした重い衝撃が走る。滑り落ちそうになるのを支えられた。

「ぁあああっ!」

強く抱きついて快感を受け流す。
肌が栗立って乳首が尖る。どこもかしこもフィックスさんの肌に触れるだけでゾクゾクする。
肩に顎を乗せて身震いする。
愛撫も挿入も無しに達した。
過ぎ去った、呼吸を整える。
ギリっと奥歯を噛んで、その歯軋りが聞こえるように音を立てる。

「た、のしい……ですか?」
「……ごめんね。怒った?」
「…………い、いけど……私、気絶しないようになったので、」
「…………」

あぁー……言ってもうた。
だってフィックスさん、凄いムラムラしてるんだもん。いきなり豹変するとは、我慢してたのかな?
私の気絶しない、その言葉にフィックスさんがぴくっと反応した。その驚いた顔見たかったなぁ。

「本当に、しんじゃうから……手加減して下さいね?」
「ごめん聞こえない」
「んにゃあ!?」

ガブっと肩を噛まれてのけ反った。
なんて声だしてんだ。フィックスさんが喉の奥で笑ってる。それはもう淫らに低く、脳内を犯すような声で。

ガシッと両手で顔を掴まれたので抗議する。

「こっち見て」
「しぬ、朝までこれされたらしぬって!」
「目ぇ開けて」
「そういうの視姦って言うんですよ!  もう私の体には飽きたんですか!?」

凄い勢いで抱き締められて怒気と色気を含んだ声で『ばか』って囁かれた。お腹が痛いくらいきゅんきゅんする。ばか、に興奮してる場合じゃない。いま達したら気絶無効でも気絶する。

「向こうではこうやって愛し合うんだよ」
「向こう!?  死後の世界の話ですか!?」
「海王蛇は発情期に、こうやって生命の危機を感じさせて、排卵させて孕ませるんだよ」
「……な、ら、発情期に……排卵、させたらいいじゃないですかぁ……」

普段は通常運転でさぁ。

「俺は嫌がっても止めないし、肝心な場面では甘やかさないよ。発情期に知ったでしょ?  なのにリリーがさっき俺をそう思ったのは、なんでだろうね?」
「……甘やかすの定義が、」

私は甘えて負担をかけているつもりでも、規格外のフィックスさんには負担がかかっていないということでは?
今だって全然働いてないのにニートまっしぐらな結婚生活しか見えてこない。
いやそれより、夫婦になることが決まったのだ。だからこういう……性生活に関しては事前にきちんと話し合わなければいけない。
考えたくもないけど……もし、もしもフィックスさんがセックスレスとかになったとして、私が求めた時に抱かずに目だけで対応されたら絶対泣く。家出する。テリーさんに愚痴を溢す。義母のフィクサーナさんに泣き付く。

今は目だけで達する私を見て興奮したり、反応を楽しんでいるかもしれないけど、それが塩対応の道具として使われるかもしれないのだ!
だからこういうことは、きちんと話しておかなければ!

「フィックスさん、私は貴方に抱かれてめちゃくちゃにされるのが……その、好きです」
「うん」
「……でも、一人だけよがっているのは、その、寂しいじゃないですかぁ……私だって、フィックスさんが乱れているところを、その……ね?」

意図的に哀れみを含んだ声を出す。
それはもう精一杯に。
そしてそっと目を開けると、金色に戻った目が間近にあったのでホッとして胸元に垂れかかった。

「好きだよ、リリー……愛してる」

ずっとそう言われる私でありたい。
あぁ髪を撫でてくれる手が気持ちいい。
ベットに戻ったら今夜は沢山サービスしよう。この前泣いて嫌がっちゃった膝立ち拘束騎乗位だって、それ以上に恥ずかしいことだって。

「リリー」
「うん?」

顔を上げると額にキスが落ちてきた。
優しく目を細めたフィックスさんに、キスをやり返そうと首に腕をまわすと──。

「リリーは恥ずかしがり屋だから……その一人でよがってる時だけ、俺に愛してるって気絶するまで言ってくれるからね。もう味しめちゃった。でも今夜は気絶しないで、ずっと言ってくれるんだよね?」
「……うそん」

やけにキラキラとした縦長の瞳孔とかち合った。
フィックスさん、性的なことに関しては結構裏表激しい人なのかもしれな──。
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