悪役令嬢は嫌なので、放浪して好き勝手します

cqrijy

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閑話 ヒューテック家の人々

【公爵】近くて気付かないもの

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御前会議のため家を空けた。
王家に救援を要請したのだ。結果、陛下には詳しい経緯を話さなければならなかったが、ある程度の事情は把握していたらしい。要請を受ける、その条件として、娘に掛けた千里眼を解除しろと言われた。このままでは身を滅ぼすと警告されたが、それだけは従えなかった。
解除すれば、生死すらわからなくなるのだ。


王宮を出ると、一人の男が待ち構えていた。帽子の隙間から覗く片眼鏡に、内心舌打ちした。

「やあ公爵。最近ベゴニアの姿を見ないが、家に閉じ込めているのかな?」
「……何度言わせる気だ。たかが子爵が、公爵夫人を名で呼ぶな」
「私はベゴニアの元婚約者だからね。ああ、今はよき友人だよ?」

ワグナー子爵。
妻の元婚約者じゃない、政略婚の相手だった。
当時夜会で一目ベゴニアを見てから、付きまとうようになった。その執着心は図りしれないものがある。家督を継ぎ、齢四十を過ぎても、未だ独身だ。更に妻の面影があるアマリリスを娶ろうと、破格の結納金まで提示してきた。

「友人?  昔も今も、手紙の返事すらなかったろ、さっさと諦めろ」
「諦めたよ。ベゴニアには辺境伯がいたから諦められたんだ。彼ほどベゴニアを愛している男はいないからね。惚れた女の頼みなら、友人との仲を取り持つほど懐の深い男だ。君とは違う」

だから私も彼の自己犠牲を見習おうと思ってね、そう囁いて封が閉じられた分厚い封筒を渡してきた。
相変わらず癪に障る野郎だ。

「中身は金か?  たかが成金子爵が、公爵家の娘を手に入れられるとでも?」
「思ってるよ。まず、私の邸宅に迎えたら好きなだけ自由にさせてやる。金も労力も惜しまない。あの子にはそれだけの価値があるからね。ああそうだ、自由にさせて、好きな男ができたらその男を愛人にしてやってもいいかな。そしたらあの子は心から笑ってくれる気がするんだ。君じゃなく私のことをお父様と呼んでくれるかもしれないな」
「狂ってる」
「……あの子を一目見て、幸せしたいと感じたんだ。昔のベゴニアのように、しがらみに囚われて苦しむ様は、君への憎悪を募らせるだけだった。……愛する女との子を、あそこまで政治の道具として扱うとは、君の方こそ狂ってる」
「…………」
「その封筒の中身は、あの子が自由を手にする為のプレゼントだよ。当時ベゴニアの為にと用意した豪邸も、金も、宝石も、全て手付かずで残ってるからね。その家に用意した使用人も、主がくるのを今か今かと待ち兼ねているよ」
「…………」

立ち去る子爵の肩を咄嗟に掴んでいた。ワグナー家は兵器を主に財を築き、子爵まで成り上がった。今も各国の武器商や、後ろめたい組織と繋がりが深い。
くそ。こんな奴に縋るなど、不本意でしかない。

「……アマリリスは、行方知れずだ」
「…………はぁ。やはりそうか。どこにもいない。この私ですら、居場所がわからない。だから君に会いに来たのだが、外れだったか」

溜め息混じりに差し出してきた手に封筒を返す。

「なにか情報は?  ……どんな些細なことでも、構わない」
「……隣国に海の魔女と呼ばれる占い師がいる」
「占い師?」
「虹色の瞳を持つ、何百年も前から各国の首脳陣が縋る本物の巫女だ。陛下なら即位した時に会っている筈。しかし二度目は望めない。予言を賜るのも生涯に一度だけ。巫女を護る守護神が常に眼を光らせているらしいからな」
「隣国……カプルス共和国か?」
「ああ。王太子なら次期国王として一度だけ会える筈だ。だから縋るなら私ではなく、王太子に媚でも売って取り縋るんだな」

じゃあな、そう言って踵を返した子爵は足を止めて振り返らずに言った。

「あの子がいま幸か不幸か、それだけ聞いたらどうだ?  前者なら、連れ戻そうだなんて考えるな」
「…………そういう訳には、いかない」

先に王家が見つけたとしても、最悪、病死として処理すれば、アマリリスを自由にしてやれる。せめて死んだ御者の側に手頃な死体でも転がっていればよかったのだが。捜査に向かわせた騎士は御者の遺体しか見ていない。近くの森で発見された盗賊らしき五体の死体も、毒殺されていて顔が判別できる状態だった。アマリリスの身代わりとして、どれか一体だけでも遺体の損傷が激しければ、それならば、千里眼で生きている事を知りながら、知らないふりもできた。

「情報、感謝する」
「ハッ。相変わらず自分勝手な野郎だ」


子爵が立ち去り、片膝をついた。
先程、元帥を退くことも、陛下に伝えた。公爵という身分だけでは稀少な魔力ポーションを手に入れることも難しくなるだろう。だがどれだけ体を蝕もうと、この千里眼も、解除する気はない。探すのを諦められない。例えこの身が滅んでも。遠くからでもいい。私の存在を感じていて欲しい。それが父親としてアマリリスに示せる、自分勝手な愛情表現だ。
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