悪役令嬢は嫌なので、放浪して好き勝手します

cqrijy

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閑話 欲深き人魚達

【アリエル】②偽ってはいけないもの

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「なぁアリエル。お前、都長の息子とできてんだろ?」
「……はあ?」

後日。
また元彼に待ち伏せされてた。
おまけに都長の息子って……まさか。

「お前が俺にしたこと、未成年猥褻の冤罪だったよなぁ?  付き合ってたから、ただの痴話喧嘩なのに、なあ?」
「……別れた後のことだから、犯罪は犯罪でしょ?」
「俺はなんの力もない一般人で、お前と付き合ってた過去があるから処分は誓約書だけで済んだけど、都長の息子なら、そうはいかないぜえ?」
「……は、!?」


元彼はアリエルを脅してきた。
レインさんと付き合ってる事実なんて無いのに……でも、冤罪がどういうものかアリエルは知ってる。


「明日の夜、オイスターバー店にこいよ。よく二人で食いに行ったろ。あそこ、美味しかったよなぁ?  俺の名前は忘れても、店は覚えてるだろ?」
「……わかった」

最悪。
ほんと、身から出たサビだわ。




その日の夜『テリーの串焼き』店の前で佇んでいたら店からリリーおねいさんとフィックスさんが出てきた。

「あれぇ?  二人でおでかけー?」
「うん。ちょっと離島にね。夫と夜のお散歩にね。うふふ」
「お散歩……」

背中にヤバそうな武器バットを背負ってるリリーおねいさんに苦笑いする。

「アリエルちゃんはー?」
「アリエルもお散歩だよ」
「ならアリエルちゃんも害獣カチ割り岩タコ獲りにいくー?  今は産卵期で爆殖してるらしいんだけど、港が閉鎖されてるから漁師さんも駆除できなくて、乱獲し放題だよ」
「いえ、結構です。リリーおねいさんに任せます」

アリエル、なんでここに来ちゃうんだろう。今は港が閉鎖されているから、この前はたまたまで、そんなしょっちゅうレインさんがここを通るわけないのに。

「あ、そうだリリーおねいさん、前にこれくれたよね?」

鞄からアレを取り出す。
返さなきゃと思ってたんだ。

「ああ、ブラック・キルギス専用の武器ね」
「アリエル、もう克服したから、これ返すよ」
「そっか」

リリーおねいさんはちらっとアリエルのスカートに目を向けた。どうしたんだろ?

「なら次はこれあげるよ」
「え?」

差し出されたのはまた先が丸いアイスピックみたいな武器。

「元彼がしつこかったら、これで刺すといいよ。刺された人は刺した人のこと、全部忘れるの。人魚が本気で手を出したら、人間なんて簡単に壊れちゃうからね」
「……う、うん」

受け取るとリリーおねいさんはフィックスさんと歩き去っていった。

暫くして、ポケットから鞘付きのナイフを出す。

リリーおねいさん……まさか、ね。


  ◇ ◇ ◇ ◇


色々悩んで考えて、迎えた翌日の夜。
元彼とよく行ったオイスターバー店についた。でも開店してない。看板は出てたのに、店内は真っ暗だ。

元彼はカウンターに一人で座ってた。

「よ、ちゃんときたな。牛乳でも飲むか?  それともなんかジュースでも、」
「その前に、話し合いがしたくて」
「なんだよ?  ……また付きまとうなってか?  安心しろよ、もうしない」
「ううん。アリエルとやりなおさない?」
「…………え」

アリエルもカウンターに座って肘をつく。元彼の手の項にタトゥーが見えた。そうだ、元彼は孤児で名前がなくて、手の項に刻んだタトゥーを見てアリエルがあだ名をつけてあげたんだ。

「それ、ワグナーって名前の鷹でしょ。だからアリエル、あんたのことタカって、呼ぶようになったんだよね」
「…………うん」


それから、思い出話をした。
ひとつ思い出すと、連鎖的にすらすらと記憶が出てくる。
元彼が孤児なのは、彼の親が食べていく為にまだ赤子だった元彼を悪い組織に売ったからだ。身寄りもなくて、汚いことばっかして暮らした過去。でもある日、雇い主の序列が変わって、奴隷のような暮らしから解放されたと言っていた。序列が変わってトップになったある貴族の男に、この国を離れろと言われて、カプルス共和国にきたことも知ってる。

いま思えばあれってタカの汚点なんだよね。アリエルはそんなの気にしないけど、人間はそういうの気にするって知ってる。

「この前……ごめんね。アリエルが公務員試験受けるって言ったの、あれ嘘だよ。アリエル、いつもテキトーに生きてたからさぁ。いっそのこと、二人で人生をやり直そっか?」

今日はナイフは置いてきた。別に付き合う前も今も、恋愛感情なんてなかったけど、円満に解決するには、この方がいいと思った。もしこれでもごねるようなら、リリーおねいさんから貰った武器を使うしかない……。

「聞いてる?」

元彼は何故か天井を見上げていた。

「…………アリエル」
「うん?」
「……お前、本当は人魚なのか?」
「え」
「本当なら、逃げてくれ。ごめん俺、前の彼女に呼び出されたとき、言われたんだ」


突然聞かされた元彼の話は、背筋がひやりとするものだった。

なんでも別れた彼女は、元工作員で、組織の序列が変わる前からの知り合いで、その彼女もカプルス共和国にきていたので、つい立ち話をした時にアリエルのことを話してしまったそうだ。


"あっ……アリエルだ。じゃあ俺、これからデートだから。いってくるわ"
"あの子供が……へぇ。可愛い子じゃない。高く売れそう"
"おい……俺達は、もうそういう事をしないと誓ったから、ワグナー子爵は見逃してくれたんだろ"
"はっ……無一文で追い出すのが情けなの?  体は傷だらけで、それじゃ稼げないって、娼婦にすら景観が悪くなるって追い払われたのよ"
"今度俺がやってる日雇いの仕事紹介するよ。ギルドにも、養殖業とか魔導具屋の護衛とか、割りのいい仕事があるんだ。俺達なら、そうやって生き残っていけるよ"
"……惨めだわ。あれだけ組織に尽くしてきたのに"


彼女はアルレント民で、幼少期から拉致専門の工作員だったこと。他国の外賓を拉致した時に奪った、希少な鑑定の魔導具を持っていること。それでアリエルを鑑定して、価値のある人魚だと知って、アリエルと別れたタカに人魚を売る計画を持ち掛けてきたそうだ。

「アリエルは逃げてくれっ」
「はぁ……その彼女って、殺し屋みたいなものなんだよね?」
「あ、ああ……俺達はまだ手を下したことはないが、その手伝いはやってた」

どうりで気配を消すのがうまい筈だよ。
いきなり現れたもん。
元彼は、アリエルに逃げろって言った時には囲まれてるのに気付いてたんだ。アリエルが復縁しようって言ったから、気が変わったのかな?

「それで、元カノと組んでアリエルのこと売ろうとしたの?」
「ち、違う!  付きまとってたのは、リデルがアリエルのこと狙ってたからだ!  今日だってそのことで警告しとかなきゃって、でもああでも言わないとお前話し合いに来てくれないし、……」
「既に囲まれてるんだけど」
「わかってる。もしリデルが納得しなくても、あの貴族にこの計画が知られたら困るのは向こうだ。アリエルは、絶対に俺が守るからっ!」
「……なんで」
「なんでって、アリエルのこと好きだから!  だって前々から売りに出されてたこの店も、アリエルが気に入ってたから金貯めてオーナー権を買ったんだ!  俺だって将来のこと、ちゃんと考えてるっ」
「……タカ」

そこまでして……。
アリエルのこと、本気で特別に思ってくれてたんだ。

どうしよう……先にタカを連れ出して逃げた方がいいか、それとも囲まれてるこの状況をなんとかするべきか……。そう考えていたら店のドアが開いた。

「ばっかじゃないの。ワグナーに密告する前に、その人魚を拐って、あんたを魚の餌にすれば、ばれっこないんだから」

黒ずくめの四人の男と、一人の女が店に入ってきた。

「初めまして人魚のお嬢さん。私たち組織に捨てられて食い潰れそうなの。だから人魚のお嬢さんを売って、一儲けさせてもらうわ」

ローブのフードを脱いだ女の顔には細かな傷が沢山あった。
そして茶色い髪と瞳、なによりその顔立ちをみて、アリエルはため息をついた。


"アリエルは、俺が幼少期に出会って惹かれた子にそっくりなんだ。初恋だよ。アリエルを見たら、あの頃の気持ちが沸き上がってきて、それで告白したんだ"
"フーン。アリエルとその子、どっちが可愛い?"
"ア、アリエルの方が可愛いよ!"

「……ねぇタカ、あんたの初恋ってこのリデルって女でしょ?」
「……え!?  いや、違っ……」

明らかに狼狽えてる。

「あいつの初恋がリデル?」
「え……し、知らなっ」
「お前ら速攻別れたじゃん」
「なんだ、すれ違い?」
「ならこんな工作やめて、普通に気持ちを伝えろよ」
「っ、ば!  声が大きいっ、き、聞こえるでしょ」

………………フーン。
パパもアリエルにママの面影を見て優しいけど、タカもアリエルにこの女の面影を見て惹かれたんだね。

ちなみにアリエル、別に牡蠣好きじゃないから。このオイスターバー店を気に入ってたの、タカの方でしょ。

「だからオレらは言ったろ。リデルの好きな牡蠣の店なんて買うくらいなんだから、まだリデルのこと好きだって、」
「そ、そんなっ」
「いや、違っ、なに言っ、」


なんだか全てがどうでもよくなってきた。

だからまずはタカの赤面に赤面で返したリデル。


「っ、ぐ……!?」
「お、ぐぅ」
「カッ、はぁぁ……」
「っ、な!  コォォ……」
「貴様、……!?」
「ぐ、っはアアアアりえっっ!?」


全員の鳩尾を本気で殴って気絶させた。

もちろん元彼も。
いや元彼だけは本気の本気で息を止めて渾身の力を込めた。軽く吐血してたけどアリエルはそんなの気にしないから。特別じゃないのに特別扱いはしないから。

リリーおねいさんが例外なだけで、どれだけ鍛えてようと人間が人魚に腕力で勝てるわけがない。アリエル他国にいる彼氏に会いに何千キロも泳ぐ根性もあるからね。

それにリリーおねいさんが例外なだけで、どれだけ魔法に長けた人間でも詠唱し終える前に黙らせるから。アリエル馬鹿じゃないからね。

仕上げとしてリリーおねいさんから貰った武器を全員に刺す。刺したとき何人か飛び起きたから、そのとき顔を見られたからビンタで気絶させて保険でもう全員何回か刺しといた。

タカと別れ話で拗れたお陰でレインさんに出会ったんだもん。だからタカの事、忘れないよ。
でもタカはアリエルのこと、忘れてね。


オイスターバー店を出ると、不思議な形をしたぺらぺらの黒い蝶?  がひらひらと舞っていた。

……綺麗。

なんだかレインさんに会いたくなってきた。
そうだ、さっさと帰って来週教会に持ってく予定の冊子を今夜仕上げよう。
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