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閑話 欲深き人魚達
【アリエル】③偽ってはいけないもの
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翌日。
何故か宿の女将さんが腰痛で入院したので、ご飯は串焼き店で食べることにした。
「黒パンとサラダとスープと目玉焼きとカリカリベーコンを一人前と、あと林檎一個下さい」
「いいよ。銀貨2枚と銅貨6枚ね」
「はい」
鞄からお金を出して渡す。
平和だ。ぼったくられることもなく食事が喉を通らないこともない。
鞄に入れた冊子はあとで教会に持っていこう。
お腹一杯になって林檎は食べれなかったので持って帰ることにした。
「っ、アリエル!?」
「……え」
レインさんが店に入ってきた。
息を切らしてる。
どうしたんだろ?
「昨夜はどこへ行ってたんだ!」
「え」
「遅くまで外にいただろ? 昨日あの女将さんがボクのところにきて、アリエルがまだ帰らないって、心配していたんだぞ!」
「……女将さんが?」
確か宿の女将さんはいつも杖をついてたけど、まさかアリエルのこと無理して探して、腰を痛めた?
「……ア、アリエルね。昨夜はまた元彼にしつこくされて、話し合いをしてたの。それで遅くなっちゃって」
「またあいつか? くそっ! 誓約書だけじゃ効き目がなかったのか! 待ってろ、なんとか伝手を辿って、」
「う、ううん。もういいの。リリーおねいさんのお陰で、アリエルのことは忘れてもらったから。もう大丈夫なの。全部終わったことなの」
「そう、か……」
「うん」
リリーおねいさんの名前を出すと、レインさんも納得したようで、それ以上問いつめてくることはなかった。
「彼女は、一見きつく見えるが、中身は正義感が強く、芯のある人だ。普段から、言葉の端々にそれを感じる」
リリーおねいさん……レインさんから信頼が厚い。羨ましい。
「おいちぃょぅ!」
「可愛い可愛い。タコの甘酢もお食べ」
「わぁ、ありがとうございます! これめっちゃ食べたかったんです! ワカメとキュウリが調和して更にタコが旨味を効かせてるぅ~♪」
「リリーは可愛いねぇ。あとで海底にお散歩にいくでしょ」
「はいっ♪これで巨大シジミを割ります♪そして海鮮汁を……うっぷぷ♪」
リリーおねいさんは手に鋼鉄の仮面のような、またヤバそうなものを出した。あれも魔導具かな?
あ、そういやアレがあった。
鞄から双眼鏡型の魔導具を取り出す。
昨夜リデルの鳩尾を殴った時、違和感があって服を捲ったら隠し持ってた鑑定の魔導具。表面に少しヒビが入っちゃったけど、奪っといたんだ。きちんと機能するようなら、こういうの好きそうなリリーおねいさんにあげよう。
とりあえずそれでリリーおねいさんが手に持った仮面を見る。
息がしやすい鉄仮面──超強金鉄石に、破壊神の血と火山深海魚の逆鱗を練り合わせた奇跡のような鉄仮面。破壊神の血の効果で頭突きで大岩をも砕く。火山深海魚の逆鱗の効果で海や火山でも息がしやすくなる。
「……っ、おい、アリエル?」
……う~ん。目がまわってきた。
リリーおねいさん自体がやばいのに。そんなやばいもの持ってどうしたいの?
視点をリリーおねいさんに向けると【鑑定不可】と出た。その横にいたフィックスさんは鑑定できたけど、その瞬間【測定値を越えているため鑑定不可】と出て魔導具にピキピキとヒビが入っていく。やばっ、壊れた?
「おいアリエル。双眼鏡は外で使うものだ」
ぐいっと肩を掴まれてその反動でレインさんを視てしまった。
レイン・ヒステル
17歳 指揮者
HP 9866/9872
MP 588/588
【スキル】
継承(未覚醒)
あ、いけない。
覗き見しちゃった。
レインさん、家名もあるんだ。知らなかった。
魔導具を膝に置いてレインさんを見る。きょとんした顔を返され、いつも大人っぽいけど、そんな表情は17歳ぽいと思った。
それに……。
アリエル・ヒステル……うん。悪くない。
「……でも指揮者ってなんだろ?」
「楽器の扱いや演奏に長けた人に派生する称号だよ」
「ぅ」
リリーおねいさんに肩に手を置かれた。
「あれはあげるよ。収納に腐るほどあるからね」
「え?」
「要らなかったら、アリエルちゃんの腕力で折って棄てといて」
リリーおねいさんはアリエルの鞄をぽんぽんと叩いてから、店の二階へ上がっていった。
あれって……武器のことだよね?
鞄から取り出して鑑定してみる。
恋と魔法のアイスピック──一回刺すと好感度を初期値に戻す。二回刺すと初対面から攻略をやり直せる。三回刺すと攻略対象者から除外され、その後は人生が交わることはなくなる。
……へぇ。
よくわからないけど、一回刺すと関係を知り合いに戻せて、二回刺すと関係を他人に戻せるのはなんとなくわかった。三回目は……完全に忘れて、出会わなくなるということ?
「アリエル、いつも言ってるが、君は隙がありすぎる。そんなんだから元彼に付きまとわれたんだ。今までの行いを正して、これからは真面目に暮らすんだ。品とは日々の生活習慣で滲み出るものだ。アリエル、正直言って君は……下品だ。だからあんなことは、相手が誰であろうと二度としてはいけない」
「……は、はい」
以前レインさんに……は、裸で飛び掛かったことですね。
これはアリエルの汚点だ。
レインさん相手だからそう思うようになったわけで、今までのアリエルの行いを考えると、アリエルって汚点だらけの人生しか歩んでない。
「例えいくら悲しくとも、寂しくとも、愛を等価に己を安売りしてはいけない」
「は、はい」
"二回刺すと初対面から攻略をやり直せる"
鞄の中のアイスピックをぎゅっと握りしめる。
いまレインさんの中でアリエルは、下品……。もうやだ。出会いからやり直したい。
「アリエル、聞いているのか?」
「は、はい」
んもうっリリーおねいさん、なんでこんなのアリエルに渡すのよぅ。使いたくなっちゃ……と思ったらフードを被ったタカとリデル、あと昨夜の四人の男が店に入ってきて、びっくりして咄嗟に鞄で顔を隠した。
いや、一人につき8回くらい刺したから、アリエルには気付かない筈……。
「じゃあ皆さんとりあえずビールでも」
「そうだね。あとつまみも」
「なんか皆昨日知り合ったばかりなのに、昨夜は息の合った連携プレーでしたね」
「そうね。ゾンビを首吊りさせて夜光蝶からコショウを収穫する時なんか、たまたま出会った怪しい鉄仮面の女冒険者の助言があったとはいえ、何故か皆ゾンビを拐ってグルグル巻きにするの手慣れてたわ」
「凄く怪しかったけど絶対に逆らってはいけない圧がある冒険者でしたよね」
「てかなんで我々ギルドにいたんでしょ?」
「それな、ほんとそう思った。気付いたらコショウ集めてたって感じ。でも儲かったし」
「あ、そうだよかったら私たち、6人でパーティーを組んで、コショウ専門の冒険者になりませんか?」
「それな、俺もそう思った」
「俺は最近オイスターバー店を買ったんですが、そこの2階を我々のクランにしませんか?」
「それ、いいね! ……てかここ高そうだし、むしろ市場で酒とつまみでも買って今からそこ行かない? ほら、だってコショウの報酬は明日振り込まれるし」
「そ、そうね。私、あまり手持ちないし」
「じゃあとりあえず移動しましょうか」
観察していると6人は席には座らず、そそくさと店を出て行った。
"人生が交わることはなくなる"
へぇ。そういうことなんだ。
改めて凄い魔導具だと震えた。リリーおねいさん、なんてやばいもの渡すんだろう。喉がカラカラだ。
「すみません。お茶を下さい」
「いいよ。金貨20枚ね」
「……」
フィックスさんがアリエルの目の前に物凄く高そうな茶葉缶をそのまま置いた。
「へぇ。香山茶葉か。アリエルは紅茶を嗜んでいるんだな」
「……い、いえ」
アリエル、またなんかリリーおねいさん関連で気に障ることしましたか?
やっぱりやめときますと断ると、リリーおねいさんが二階から降りてきた。
「おーまーたー♪」
可愛いワンピース姿だ。
髪もお化粧も清楚。
「リリー、今夜はどこにも行かないで。俺といて。お願い」
「勿論です! やはり一晩でもフィックスさんと離れると体調が悪くなると解りましたので、もう夜はフィックスさんとしか遊びに出掛けません!」
「よかった。さ、お散歩にいこっか。水筒は持った?」
「はい!」
ぴったり寄り添って店を出る二人に親指をかじる。羨ましい……。
「アリエル……寂しいのは解るが、その、爪を噛むのはやめなさい」
「え」
「癖になるから」
レインさんはアリエルの頭を撫でて、それから鞄からはみ出ていた冊子を見て言った。
「アリエルが何かひとつ頑張る度、ボクがこうやって褒めてあげるから。その、親代わりにはなれないけど、アリエルの頑張りは認めてあげれるから」
「レインさん……」
「寂しくとも、何か打ち込めるものを探そう。な?」
「? う、うん」
その後はレインさんの提案で宿の女将さんのお見舞いにいった。女将さんはアリエルがナイフで剥いた林檎を美味しそうに食べてくれた。そのあと驚愕の事実を教えてくれた。
◇ ◇ ◇ ◇
「ただいまぁ」
出費が重なって一週間ぶりに離島に戻ると、パパとママがテーブルの前に座って神妙な面持ちをしていた。
「アリエル、大事な話があるんだ」
「ええ。そこに座って」
「ああ、ママここ数年妊活してたんだって? 女将さんから聞いたよー」
「「え!?」」
「別にアリエルいてもいなくても気を遣わなくていいよー」
「っ、ば! アリエル! に、人魚はな、凄いんだぞ! とても子供に見せられるものじゃ、」
「ク、クルーヤさん言わないでぇ……!」
「いや知ってるし。アリエルも人魚だし」
冷蔵庫から牛乳を取り出して飲む。
「パパとママやりまくってるんでしょー。アトリエは隠れ蓑で、アリエルがいない普段はパパこのテーブルで仕事しながらママとしてるって、」
「っ、な! 儂らはただアリエルに妹がいた方がいいかと、おおお思って!」
「そ、そうよ! あんの女将さん! アリエルになんてこと教えて……!」
「はいはい、わかったから。女将さん、宿畳んで腰の療養で暫くこの離島に住むから。てかアリエルと女将さん、空き家に暮らすから、ほんと気にしないでー」
「「ぇえっ!?」」
こっそり教えてくれたけど、女将さんも人魚だからね。理解はあると思うよ。
「アリエル! お前のママは絶叫派なんだぞ! そのせいでお前は海や宿に逃げて実家に寄り付かなくなってしまった!」
「っ、いやあぁあクルーヤさぁん言わないでぇ」
「いや知らないよ」
気を遣って二人きりにしてたんだけどね。
邪険にされているわけじゃなくてよかった。
あと、来年には妹ができるのも知れてよかった。
ふぅーっと脱力して無造作に鞄をテーブルに置くとリリーおねいさんから貰ったあれが見えた。
一時は元彼を星にして両親にこのアイスピック刺してアリエルを生んだことも忘れてもらおうと思ったけど、悩んで考えた末に思い留まった。
人生なんとかなるものね。
だから、アリエル。
なんとかなる精神で、レインさんに対してもまだやり直せると信じてる。今はまだ下品な印象だろうけど、偽らずに、以前のアリエルのまま。真面目にレインさんに接してしていこう。
……それでも駄目な時は、
やり直すしかないよねぇ。
「なんて顔してんのよ? ……もしかしてまた彼氏が増えた? あんたパパに紹介する人は、結婚が決まった相手だけにしなさいよ」
「うん。紹介できるよう、頑張るよ」
「……そう。ほらアリエル、今からご飯だから。手洗って」
「はぁーい」
鞄からはみ出たそれを中に戻して、なにくわぬ顔でキッチンで手を洗った。
何故か宿の女将さんが腰痛で入院したので、ご飯は串焼き店で食べることにした。
「黒パンとサラダとスープと目玉焼きとカリカリベーコンを一人前と、あと林檎一個下さい」
「いいよ。銀貨2枚と銅貨6枚ね」
「はい」
鞄からお金を出して渡す。
平和だ。ぼったくられることもなく食事が喉を通らないこともない。
鞄に入れた冊子はあとで教会に持っていこう。
お腹一杯になって林檎は食べれなかったので持って帰ることにした。
「っ、アリエル!?」
「……え」
レインさんが店に入ってきた。
息を切らしてる。
どうしたんだろ?
「昨夜はどこへ行ってたんだ!」
「え」
「遅くまで外にいただろ? 昨日あの女将さんがボクのところにきて、アリエルがまだ帰らないって、心配していたんだぞ!」
「……女将さんが?」
確か宿の女将さんはいつも杖をついてたけど、まさかアリエルのこと無理して探して、腰を痛めた?
「……ア、アリエルね。昨夜はまた元彼にしつこくされて、話し合いをしてたの。それで遅くなっちゃって」
「またあいつか? くそっ! 誓約書だけじゃ効き目がなかったのか! 待ってろ、なんとか伝手を辿って、」
「う、ううん。もういいの。リリーおねいさんのお陰で、アリエルのことは忘れてもらったから。もう大丈夫なの。全部終わったことなの」
「そう、か……」
「うん」
リリーおねいさんの名前を出すと、レインさんも納得したようで、それ以上問いつめてくることはなかった。
「彼女は、一見きつく見えるが、中身は正義感が強く、芯のある人だ。普段から、言葉の端々にそれを感じる」
リリーおねいさん……レインさんから信頼が厚い。羨ましい。
「おいちぃょぅ!」
「可愛い可愛い。タコの甘酢もお食べ」
「わぁ、ありがとうございます! これめっちゃ食べたかったんです! ワカメとキュウリが調和して更にタコが旨味を効かせてるぅ~♪」
「リリーは可愛いねぇ。あとで海底にお散歩にいくでしょ」
「はいっ♪これで巨大シジミを割ります♪そして海鮮汁を……うっぷぷ♪」
リリーおねいさんは手に鋼鉄の仮面のような、またヤバそうなものを出した。あれも魔導具かな?
あ、そういやアレがあった。
鞄から双眼鏡型の魔導具を取り出す。
昨夜リデルの鳩尾を殴った時、違和感があって服を捲ったら隠し持ってた鑑定の魔導具。表面に少しヒビが入っちゃったけど、奪っといたんだ。きちんと機能するようなら、こういうの好きそうなリリーおねいさんにあげよう。
とりあえずそれでリリーおねいさんが手に持った仮面を見る。
息がしやすい鉄仮面──超強金鉄石に、破壊神の血と火山深海魚の逆鱗を練り合わせた奇跡のような鉄仮面。破壊神の血の効果で頭突きで大岩をも砕く。火山深海魚の逆鱗の効果で海や火山でも息がしやすくなる。
「……っ、おい、アリエル?」
……う~ん。目がまわってきた。
リリーおねいさん自体がやばいのに。そんなやばいもの持ってどうしたいの?
視点をリリーおねいさんに向けると【鑑定不可】と出た。その横にいたフィックスさんは鑑定できたけど、その瞬間【測定値を越えているため鑑定不可】と出て魔導具にピキピキとヒビが入っていく。やばっ、壊れた?
「おいアリエル。双眼鏡は外で使うものだ」
ぐいっと肩を掴まれてその反動でレインさんを視てしまった。
レイン・ヒステル
17歳 指揮者
HP 9866/9872
MP 588/588
【スキル】
継承(未覚醒)
あ、いけない。
覗き見しちゃった。
レインさん、家名もあるんだ。知らなかった。
魔導具を膝に置いてレインさんを見る。きょとんした顔を返され、いつも大人っぽいけど、そんな表情は17歳ぽいと思った。
それに……。
アリエル・ヒステル……うん。悪くない。
「……でも指揮者ってなんだろ?」
「楽器の扱いや演奏に長けた人に派生する称号だよ」
「ぅ」
リリーおねいさんに肩に手を置かれた。
「あれはあげるよ。収納に腐るほどあるからね」
「え?」
「要らなかったら、アリエルちゃんの腕力で折って棄てといて」
リリーおねいさんはアリエルの鞄をぽんぽんと叩いてから、店の二階へ上がっていった。
あれって……武器のことだよね?
鞄から取り出して鑑定してみる。
恋と魔法のアイスピック──一回刺すと好感度を初期値に戻す。二回刺すと初対面から攻略をやり直せる。三回刺すと攻略対象者から除外され、その後は人生が交わることはなくなる。
……へぇ。
よくわからないけど、一回刺すと関係を知り合いに戻せて、二回刺すと関係を他人に戻せるのはなんとなくわかった。三回目は……完全に忘れて、出会わなくなるということ?
「アリエル、いつも言ってるが、君は隙がありすぎる。そんなんだから元彼に付きまとわれたんだ。今までの行いを正して、これからは真面目に暮らすんだ。品とは日々の生活習慣で滲み出るものだ。アリエル、正直言って君は……下品だ。だからあんなことは、相手が誰であろうと二度としてはいけない」
「……は、はい」
以前レインさんに……は、裸で飛び掛かったことですね。
これはアリエルの汚点だ。
レインさん相手だからそう思うようになったわけで、今までのアリエルの行いを考えると、アリエルって汚点だらけの人生しか歩んでない。
「例えいくら悲しくとも、寂しくとも、愛を等価に己を安売りしてはいけない」
「は、はい」
"二回刺すと初対面から攻略をやり直せる"
鞄の中のアイスピックをぎゅっと握りしめる。
いまレインさんの中でアリエルは、下品……。もうやだ。出会いからやり直したい。
「アリエル、聞いているのか?」
「は、はい」
んもうっリリーおねいさん、なんでこんなのアリエルに渡すのよぅ。使いたくなっちゃ……と思ったらフードを被ったタカとリデル、あと昨夜の四人の男が店に入ってきて、びっくりして咄嗟に鞄で顔を隠した。
いや、一人につき8回くらい刺したから、アリエルには気付かない筈……。
「じゃあ皆さんとりあえずビールでも」
「そうだね。あとつまみも」
「なんか皆昨日知り合ったばかりなのに、昨夜は息の合った連携プレーでしたね」
「そうね。ゾンビを首吊りさせて夜光蝶からコショウを収穫する時なんか、たまたま出会った怪しい鉄仮面の女冒険者の助言があったとはいえ、何故か皆ゾンビを拐ってグルグル巻きにするの手慣れてたわ」
「凄く怪しかったけど絶対に逆らってはいけない圧がある冒険者でしたよね」
「てかなんで我々ギルドにいたんでしょ?」
「それな、ほんとそう思った。気付いたらコショウ集めてたって感じ。でも儲かったし」
「あ、そうだよかったら私たち、6人でパーティーを組んで、コショウ専門の冒険者になりませんか?」
「それな、俺もそう思った」
「俺は最近オイスターバー店を買ったんですが、そこの2階を我々のクランにしませんか?」
「それ、いいね! ……てかここ高そうだし、むしろ市場で酒とつまみでも買って今からそこ行かない? ほら、だってコショウの報酬は明日振り込まれるし」
「そ、そうね。私、あまり手持ちないし」
「じゃあとりあえず移動しましょうか」
観察していると6人は席には座らず、そそくさと店を出て行った。
"人生が交わることはなくなる"
へぇ。そういうことなんだ。
改めて凄い魔導具だと震えた。リリーおねいさん、なんてやばいもの渡すんだろう。喉がカラカラだ。
「すみません。お茶を下さい」
「いいよ。金貨20枚ね」
「……」
フィックスさんがアリエルの目の前に物凄く高そうな茶葉缶をそのまま置いた。
「へぇ。香山茶葉か。アリエルは紅茶を嗜んでいるんだな」
「……い、いえ」
アリエル、またなんかリリーおねいさん関連で気に障ることしましたか?
やっぱりやめときますと断ると、リリーおねいさんが二階から降りてきた。
「おーまーたー♪」
可愛いワンピース姿だ。
髪もお化粧も清楚。
「リリー、今夜はどこにも行かないで。俺といて。お願い」
「勿論です! やはり一晩でもフィックスさんと離れると体調が悪くなると解りましたので、もう夜はフィックスさんとしか遊びに出掛けません!」
「よかった。さ、お散歩にいこっか。水筒は持った?」
「はい!」
ぴったり寄り添って店を出る二人に親指をかじる。羨ましい……。
「アリエル……寂しいのは解るが、その、爪を噛むのはやめなさい」
「え」
「癖になるから」
レインさんはアリエルの頭を撫でて、それから鞄からはみ出ていた冊子を見て言った。
「アリエルが何かひとつ頑張る度、ボクがこうやって褒めてあげるから。その、親代わりにはなれないけど、アリエルの頑張りは認めてあげれるから」
「レインさん……」
「寂しくとも、何か打ち込めるものを探そう。な?」
「? う、うん」
その後はレインさんの提案で宿の女将さんのお見舞いにいった。女将さんはアリエルがナイフで剥いた林檎を美味しそうに食べてくれた。そのあと驚愕の事実を教えてくれた。
◇ ◇ ◇ ◇
「ただいまぁ」
出費が重なって一週間ぶりに離島に戻ると、パパとママがテーブルの前に座って神妙な面持ちをしていた。
「アリエル、大事な話があるんだ」
「ええ。そこに座って」
「ああ、ママここ数年妊活してたんだって? 女将さんから聞いたよー」
「「え!?」」
「別にアリエルいてもいなくても気を遣わなくていいよー」
「っ、ば! アリエル! に、人魚はな、凄いんだぞ! とても子供に見せられるものじゃ、」
「ク、クルーヤさん言わないでぇ……!」
「いや知ってるし。アリエルも人魚だし」
冷蔵庫から牛乳を取り出して飲む。
「パパとママやりまくってるんでしょー。アトリエは隠れ蓑で、アリエルがいない普段はパパこのテーブルで仕事しながらママとしてるって、」
「っ、な! 儂らはただアリエルに妹がいた方がいいかと、おおお思って!」
「そ、そうよ! あんの女将さん! アリエルになんてこと教えて……!」
「はいはい、わかったから。女将さん、宿畳んで腰の療養で暫くこの離島に住むから。てかアリエルと女将さん、空き家に暮らすから、ほんと気にしないでー」
「「ぇえっ!?」」
こっそり教えてくれたけど、女将さんも人魚だからね。理解はあると思うよ。
「アリエル! お前のママは絶叫派なんだぞ! そのせいでお前は海や宿に逃げて実家に寄り付かなくなってしまった!」
「っ、いやあぁあクルーヤさぁん言わないでぇ」
「いや知らないよ」
気を遣って二人きりにしてたんだけどね。
邪険にされているわけじゃなくてよかった。
あと、来年には妹ができるのも知れてよかった。
ふぅーっと脱力して無造作に鞄をテーブルに置くとリリーおねいさんから貰ったあれが見えた。
一時は元彼を星にして両親にこのアイスピック刺してアリエルを生んだことも忘れてもらおうと思ったけど、悩んで考えた末に思い留まった。
人生なんとかなるものね。
だから、アリエル。
なんとかなる精神で、レインさんに対してもまだやり直せると信じてる。今はまだ下品な印象だろうけど、偽らずに、以前のアリエルのまま。真面目にレインさんに接してしていこう。
……それでも駄目な時は、
やり直すしかないよねぇ。
「なんて顔してんのよ? ……もしかしてまた彼氏が増えた? あんたパパに紹介する人は、結婚が決まった相手だけにしなさいよ」
「うん。紹介できるよう、頑張るよ」
「……そう。ほらアリエル、今からご飯だから。手洗って」
「はぁーい」
鞄からはみ出たそれを中に戻して、なにくわぬ顔でキッチンで手を洗った。
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