グランピングランタン

あお

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第十五章

それだけなんだ

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バイトが終わる時間、22時を回ったー。

「木村、田口、宮下ぁ!上がっていいぞ!」
「お疲れ様でしたー!」

急いで着替える龍と田口。しかしそれ以上に早く着替えた宮下。

「じゃ、2人ともお疲れ様。」
「はえー!お疲れ様でした。」

いつのまに。という感じで宮下を見送る2人。

「宮下さんって謎だよな。」
「良い人なのに謎って、まじで謎だよな。」

そんな話をしながら店を後にした。
外には加奈子と君島が待っていた。

「2人ともお疲れ様ー!」
「ちょっと公園で話ししない?」

居酒屋の近くの公園へ移動する4人。途中、自動販売機で飲み物を買いベンチへ座る。

「ぷはー!疲れた疲れた。」
「疲れたって、今日お客さん少なかったんじゃないの?」
「疲れたって言いたいだけだよ。」
「ばかみたい。」

笑い合う4人。懐かしい雰囲気が4人を包む。

「最近、全然喋れてないもんね。」
「それは高梨が悪いだろ。」

龍がガラにもないことを話す。

「どーいう意味よ?」
「言葉通りだよ。」
「なにそれ最低ー!」

約30分ほどたわいもない会話をして4人は解散した。

「俺は君島送って行くから。」
「じゃ、お疲れ様。」

龍と加奈子は自転車を押しながら帰っていた。

「なんか…。久々だな。お前とこうやって帰るなんて。」
「ほんとだね。」
「……。」
「……。」

すぐ会話は途切れた。

「……。あの、さ。高梨。」
「ん?」
「お前、窪田とどうなんだよ?」
「え?いきなり?」
「そりゃぁぁ~…。やっぱりその話になるでしょ。」

だんだんと鼓動が速くなるのがわかる龍。ドキドキしながら話していた。手も少し震えていた。

「……。私ね、窪田くんに告白されたんだ。」
「だろうな。」
『チャリンチャリーン』

後ろから自転車のベルが聞こえた。振り向くとそこにはー

「は?く、窪田?」

なんと窪田が自転車で来た。

「私が呼んだんだ。」
「え?」
「やぁ、木村君、高梨さん。」

3人は近くの土手の階段に座る。

「今日は私がはっきりしないとって窪田君を呼んだんだ。」
「そうか…。」
「どういうことだよ!?」

龍は軽くパニックになる。

「…告白の結果ということかな?」
「うん。待たせてごめんね。」
「……。」
「私、窪田君とは付き合えない。」

深いため息を吐く窪田。

「どうして?」
「友達からって言って遊んだりしてたんだけど…。私は窪田君のこと好きだよ。けど、ずっと『like』のままなの。『love』にはならないの。」
「………。」
「だからごめんね。こんな形になってしまっー」
「なんだよそれ?こっちはずっと待ってたのにさ。ふざけんなよ。」

怒り始めた窪田。怒気が強まる。

「こんだけ優しくしたのによ?なんだよそれ?ふざけんなよ?それで付き合えないってなんだそれ?いい加減にしろよ?」

加奈子に詰め寄る窪田。手をギュッとして足が動かない加奈子。

「てめー、調子にのんじゃー」
「いい加減にしろよ。」

間に割って立つ龍。

「殴るんなら俺を殴れよ。」
「あ?なんだいい格好しよって?」
「女に振られたぐらいで何言ってんだよ。つまんねぇことすんな。」
「ふざけんな!」

龍の顔面にパンチを入れる窪田。

「っー!」
「龍!!!」

龍の胸ぐらを掴む窪田。

「お前はこいつのなんなんだよ?ただの幼馴染だろ!」

もう1発顔面を殴られる龍。

「はぁはぁはぁ。ふざけんなよ。」
「………。幼馴染だよ。ただの幼馴染さ。それで俺の初恋の人だ。」

鼻血を出し、涙目になりながらも話す龍。

「ずっと初恋のままだよ。ただ、それだけなんだ。そんな人を傷つけられていいわけないだろ。」

胸ぐらを掴んだまま離さない窪田。しかし、通りかかった人が割り込んできた。

「ちょっと何やってんの!やめなさい!!」

ー殴られ気を失った龍。窪田はそこから逃げ、通りかかった人と加奈子が警察と救急車を呼んだ。

「龍…っ!龍っ!!!!!」

龍の身体を摩る加奈子。涙が止まらない。

〔私のせいだ…。私のせいだ!〕

遠くでサイレンの音が聞こえてきた。

ー龍は担架に担ぎ込まれ救急車で搬送されて行った。どういった事情でこんなことが起きたのかを、警察へ話す加奈子。通りかかった大人の人はある程度の話をし、帰って行った。加奈子はなんども頭を下げ見送った。

加奈子は両親が迎えにきた。そのまま龍が搬送された病院へ向かった。
病院へ着くと龍の両親が着いていた。

「高梨さんごめんね。こんなことになって。」

謝る龍のお父さん。

「いやいやいや。龍君は大丈夫ですか?」
「顔が腫れてるだけで、骨とかには異常はないみたい。大丈夫。気を失ってるだけみたいだ。医者も明日明後日には退院できるでしょうって。」
「はぁ~。よかった。うちの方こそすいません。加奈子がご迷惑かけて。」

加奈子は涙を流しながら話し始めた。

「龍が……。守ってくれた…の…。私の変わりに…殴られて…。私の変わりに………。」

号泣し崩れ落ちる加奈子。抱き止める加奈子のお父さん。

「高梨さん。わざわざ来てくれてありがとう。こっちは大丈夫だから。加奈子ちゃん。龍は大丈夫だから。心配するな。」

笑顔で加奈子に話す龍のお父さん。

「守るべき人を守ったんだ。それでだけだよ。龍にとって加奈子ちゃんは大切なんだよ。」

涙を流しながらうんうんと頷く加奈子。

「木村さん。今日は帰りますね。失礼します。」
「気をつけてな。退院したらちゃんと家に挨拶行くんで。わざわざありがとうございました。」 

車に乗り帰路に着く加奈子。涙は止まらなかった。

ーその頃病院では、目を覚ましていた龍。

「お前、殴られたんだってなぁ!」
「笑い事じゃねーってまじで。」

腫れた頬を見ながら笑う龍のお父さん。お母さんは心配そうに見ていた。

「なーに。女1人守ったんだろ?それでいいじゃねーか。そのくらいの男になったんだろよ。」
「そんなんじゃねーって。」
「加奈子ちゃん。泣いてたぞ。泣かせたらだめじゃねーか。早く退院して顔見せな。」
「わかってるよ。」

ー次の日、龍は退院した。
学校にも話が入っていて、先生から電話があった。

『暴力事件』

と処理した学校は、窪田の退学を決定した。


続く。
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