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しおりを挟む「なりません!聖女殿!」
悲鳴のような剣士の声が響く。
私の膨大な魔力を練り上げた『完全回復』は、黄金色に輝き、対象を包み込んだ。
「聖女殿!」
剣士が絶望の声を上げる。
拳闘士の、女魔法使いの、そして、勇者の顔が私に向いた。
何が起きたのか、理解できなかったのだろう。
信じられないモノを見る目で、こちらを向いた。
「ふはっ!ふははははははぁっ!!!」
魔王の高笑いが、闘技場に響き渡った。
私の放った『完全回復』は魔王へと向かい、魔王の身体は黄金色の光に包まれている。
「何してるのよぉ!!馬鹿じゃないの!さっさと止めなさいよ!」
「グズだとは思っていたが、ここまでとはな!この裏切り者!!」
女魔法使いの罵倒を聞いて、魔王に向かっていた拳闘士が踵を返し、私に向かって拳を振り上げた。
ドガァン!!
と音を立てて、私の結界が彼の攻撃を阻んだ。
剣士は、魔王に向けて剣を下ろしたが、魔王の周囲にも結界が張られ、攻撃は通らない。
特級の聖魔法である『完全回復』は強力で。
術の発動中は、術の行使者も受け手も強固な『結界』に守られる。
発動が終わるまでは、誰にも傷つけられない。
「くそっ!ふざけんじゃねぇ!このクソアマっ!死ねよ!」
激怒している拳闘士を見ても、怖いとか、そんな感情すら沸き起こらない。
私は、静かに拳闘士に顔を向けた。
目が合った拳闘士は、振り上げた拳を振り下ろせず、私と対峙する。
「煩いなぁ・・・アンタが死ねばいい、このどクズ。」
「なっ・・・!?」
私は作った笑顔を貼り付けたまま、反論した。
私が反抗するなど思ってもみなかったのだろう。
拳闘士は目を見開き、口をぱくぱくさせている。
「・・・これまでのアンタ達の扱いから、私はアンタ達が味方なんて、これっぽっちも思っちゃいない!召喚した聖女を放逐するのは外聞が悪いから、妃として囲って?でも、ソコの魔法使いさんを側妃にして、私はお飾りなんでしょう?で、ソコの処女厨な拳闘士の性奴隷的扱いにするとか・・・そこまで言われて、今更仲間だとか味方だとか、馬鹿じゃないの!?」
「なんで、その、話・・・」
「戦いの前の晩だっていうのに、エッチな事して、馬鹿でかい声でそんな話してるって、アンタ達の方が裏切り者でしょうが!!
・・・私が何も言わないからって、何も考えてないわけじゃない!自分の事を大事にしてくれない相手なんか、助けるわけないじゃん!
アンタ達なんか、大っ嫌いだ!!
大切な家族も!友達も!大好きな彼氏までも!私から奪った犯罪者だ!!
アンタ達みんな死ねばいいんだっ!!
ーーー みんな魔王に殺されちゃえ!!!」
私が叫ぶと同時に、パリン!と弾け割れる音がして、魔王が眩い光に包まれた。
魔王は自分の身体をペタペタと触り、満面の笑みを浮かべる。
「くっ・・・くはははっ!なんと素晴らしい回復力だ!体力も魔力も完全に回復しているではないか!」
「聖女殿・・・」
「お・・・おい・・・」
「そんな・・・いや、よ・・・」
「・・・」
魔王の反応に、拳闘士も女魔法使いも絶望の表情を、剣士は悲しげな顔で、私を見た。
憎悪の表情を浮かべた勇者と目が合った私は、ヤケクソのような笑みを浮かべ返した。
「・・・ふふっ、もうこれで、この世界は魔王に滅ぼされる未来一択だね!?ねぇ、ねぇ?どんな気分?聖女を蔑ろにしたせいで裏切られて、世界を救えなかった、栄誉を逃した、お間抜けな勇者様とそのご一行様!!!」
今まで馬鹿にされていた分、その思いをぶつけるべく嘲りの言葉を放つ。
勇者も、拳闘士も、女魔法使いも、憎悪に顔を歪めた。
剣士だけは、唇を噛みしめ、泣きそうな表情になる。
その顔を見て、私は大きく息を吸い込んで叫んだ。
「ーーー あははははっ!!ざまぁぁみろっ!!!!!」
心の底から大声と笑い声が湧き出した。
だけれど、目の前がぼやけて、温かいモノが頬を流れていくのは、止められなかった。
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