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しおりを挟む最後の戦いの時だと言うのに、一瞬その場の時が止まった。
私の言葉の意味を先に気づいた勇者が、慌てたように口を開いた。
「そうだと国王が言っていただろう!早く私を回復するんだ!」
「聖女殿!何をおっしゃっているのです!魔王なんぞに話しかけてはなりません!早くセイル様に回復を!」
剣士も勇者にかぶせるように、声を張り上げた。
でも、私は『完全回復』発動待機のまま、魔王を見据えた。
すると彼は、ふん、と鼻で笑い、嘲笑を浮かべながら、私の問いに答えてくれた。
「何を聞くのかと思いきや・・・何故其方は、我を倒せば自分が帰れる、と思うのか。」
「だって、私を召喚した国の王様が言ったの。『魔王城に、帰還に繋がる魔法陣があるらしい』って。」
「・・・ほぉ、面白い事を言う。召喚陣なんぞ、人族が勝手に作り上げた物。それなのに、何故、魔族の城に帰還させる陣があると思うか。
それにこの城は、我が即位した300年前に、一から創建した城だ。だから、そんな代物があるはずも無し。あと、歴代の魔王の城は宅地開発で綺麗さっぱり無くなっておる。あるわけなかろうが。」
「何を適当な事をほざきやがる!」
「聖女殿!耳を傾けてはなりませぬ!」
呆れたように言い放つ魔王に、拳闘士や剣士が大声を被せてくる。
そんな様子を冷めた目で見ながら、魔王は話を続けた。
「召喚などという鬼畜な所業は、人族の傲りの証拠よ。何故そんな悪辣な愚者供の尻拭いなど、我々魔族がせねばならん。
・・・全く、自国の運営が健全に廻らぬのを、何でもかんでも魔族の所為とする事で、民草の鬱憤を我等に向け。召喚した聖女を魔王討伐やその後の復興の旗印とする事で、民草の信仰を集めて国に金を落とさせる。本当に呆れたものよの、人族の王族は。」
「煩い!黙れぇ!」
魔王の回答を否定するため、勇者が叫び、拳闘士と剣士が魔王に襲いかかる。
「ちょっと!聖女!何魔王なんかの言うこと間に受けてんのよ!馬鹿じゃないの!?早くセイルを回復しなさいよ!」
女魔法使いが、威圧的に私に言ってくる。
そんな事より、端的な魔王の回答を反芻する。
何より、私が思っていた事が全て詰め込まれていた。
都合が良い回答かもしれない。私にとっての甘言で、騙そうとしているのかもしれない。
それでも、勇者達の狼狽えようを見たら、魔王の方が『本当の事』を言っているのではないかと思った。
歓喜に打ち震えそうだ。
私は思わず笑顔になりながら、勇者に問いかけた。
「ねぇ、勇者様。もし帰られないとしたら・・・帰ることのできない私は、どうなるのですか?」
「それはっ、貴女の功績から私の妻として迎えます。行く末は王妃に。」
突然の私の問いに、引きつったような笑顔で、勇者は取り繕う。
その顔に、吹き出しそうになるのを堪えた。
「そう・・・そうなったら、私だけを愛してくれますか?」
「あ、あぁ!貴女だけを愛すると誓おう!だから早く、『完全回復』を!」
「・・・分かりました。」
必死になる勇者が滑稽で、ふふ、と、この世界に来てから、1番の笑みを浮かべた。
「ーーー 嘘つき。」
そして、私は『完全回復』を放った。
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