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しおりを挟む5対1、しかもゾンビアタックなのは変わらない。
徐々に魔王の体力を削ることができている。しかし、魔王はワザと攻撃を受けているように見える。
私達なんて簡単に倒せるだろうに、拮抗しているような戦い方だ。
もしかしたら、獣王からの報告で、魔王は私の意図を・・・なんて思ったけど。
そんな都合が良い事は、期待しちゃダメだ。
今私が出来ることを、やるだけだから。
勇者も、拳闘士も、女魔法使いも、大技ばかりを繰り出していく。
隙をついて、魔王は私を狙い撃ちするが、剣士がそれを阻む。
「聖女!魔力ポーション寄越せ!」
「私にもよ!」
自分の手持ちの魔力回復用のポーションを使い切り、彼らは私の持分に手をつけてきた。
私がいくら魔法鞄を持っていると言っても、衣装ケース10個分くらいのモノ。
テントや食料なんかも入っていたし、調合用の薬草だって入っていた。
この戦いの前に、薬草は全て調合したから。ポーション自体は衣装ケース1個分くらいしかなくて。
そのうち、魔力ポーションは半分。
あの国で色んな話をしてくれた冒険者さん達が言っていた。
『回復』は、体力やケガの回復に効く。でも、魔力を回復するような術式はないから、ポーション頼み。
魔法で魔力まで充填できるのは、特級の聖魔法である『完全回復』だけだから。
魔力切れは命取りだから、余裕があるときに魔力ポーション用意しておくこと。
そして、攻撃役は余程の事がない限り、後衛、特に回復や支援役の魔力ポーションは使わない。
生命線である回復役が魔力切れを起こしたら、それこそパーティー全滅に繋がるから・・・と。
それなのに、彼らは躊躇なく私の魔力ポーションを強請る。
・・・これで、私が『回復』を出来なくなる下地もできた。
思い描いた時が、場面が、もうすぐやってくる。
私の心は、仄暗い歓びで満たされていく。
*
戦いは拮抗した状態で進み。
互いに満身創痍。
魔王も、あと何撃かで倒せるところまで来た。
彼らのおかげで、魔力ポーションも通常ポーションも、全てなくなった。
私は最後の1本になった魔力ポーションを飲み干した。
私が作った、1本だけの最上級品。
魔力をほぼ全回復してくれる代物だ。
『完全回復』は、私のフル魔力の9割を使う。
本当に最後の切り札。
私は『完全回復』の準備をする。
「聖女!勇者を完全回復だ!!」
それを見ていた拳闘士が、偉そうに叫んできた。
勇者も、大技を放つ態勢に入る。
確かに、回復した勇者が大技一撃を放てば、確実に魔王は倒れるだろう。
魔王は、私を攻撃することなく、拳闘士と女魔法使い、そして剣士の攻撃をいなすだけだった。
そして。
もう少しで、『完全回復』の術式が完成する時。
魔王の紅い目が、私を見据えた。
その目は、何故か優しげに見えて、私は思わず問いかけた。
「ーーーねぇ、魔王様。貴方を倒せば、私は元の世界に帰れるの?」
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