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しおりを挟む「・・・ティグレ、さん?」
「おぅっ!」
サムズアップに、いい笑顔。
にわかには信じられなかった。
謝りたかった人が、目の前にいて。
こんなに都合よく、助けてくれるなんて。
でも、でも・・・
「ごっ・・・ごめん、なさいっ・・・!」
「ん?何がだ?」
「だって、私、わたしっ・・・諦めた、の・・・あっちに帰ること・・・それ、に、魔王に・・・この、世界の破滅を、願っちゃった、から・・・」
「大丈夫・・・ぜーんぶ分かってるから。安心しろ、な?」
彼は、ぼろぼろと泣き出した私の頭を、その大きな手で撫でてくれた。
「上級冒険者の拳闘士ティグレだと!?何故貴様がここに居る!!」
「何よ!魔王と繋がってたの!?この人族の裏切り者がっ!」
すると拳闘士と女魔法使いが、怒りを露わにして叫んだ。
「ハァ?別に?裏切りも何も、そもそも俺、人族じゃねェからな。」
「なっ?!」
ティグレさんはそう言うと、ふっ、とお腹に力を入れるようにして、少し前屈みの姿勢になる。
ぐぐ、っと身体が膨らむような感じがすると、ボン、と音を立てて、ティグレさんの姿が変わった。
「あな、たは・・・」
目の前に現れたのは、身体は2メートルくらいのがっしりとした体格に、虎柄の長い尻尾。
そしてキラキラと光る金髪から丸っこい耳を生やした、綺麗な琥珀色の瞳の強面さん。
「き・・・貴様っ!」
「『獣王 ティーガ』だとっ!!何故生きてる!」
「あぁ。獣人の生命力はハンパないから。それになァ、冒険者のティグレは、俺が人族の国で活動する時の人化した姿だからなァ。」
驚愕する剣士と拳闘士。
それはそうだ。
魔族である獣人が、それも『獣王』が人に変身して、人族の中で活動しているなんて。
「ふふ・・・そんな大事なことバラしていいのぉ?上級冒険者が魔族だったなんて、私達を騙していたって事じゃない!でもこの情報で、もうアナタの信用は地に落ちたわ!諜報活動も出来なくなる。ソコの裏切り者の聖女を助けるために、馬鹿な事したわねぇ。」
女魔法使いが、ワザと煽るような言葉を選んで、獣王を挑発する。
・・・そうだ、私の所為で、彼は秘密を明かしてしまったんだ。
「ティ・・・グレ、さん?」
どう償えば良いかわからず、とにかく謝ろうとしたけど。
彼を、なんて呼んでいいかも分からなくなって。
たどたどしく、冒険者名で呼んでしまった。
でも、彼は気にする事なく笑顔を向けてくれた。
「ん?どしたァ?・・・あぁ、“サクラ”が気に病むようなことは、何にもないさァ。俺が人化して活動してることなんか、パーティーメンバーはともかく、冒険者ギルド職員や各国のお偉方には周知の事実だからな。」
「はぁ?!」
「何ですって!?」
次から次へと新事実すぎて、頭がパニックになってきた。
渦中の彼は、大したことじゃない、と言った風で話を続けた。
「むしろ、この話を知らないのは、ソコの馬鹿勇者の母国の《ルークサンドラ》と、あとは、ずっと鎖国状態の《サイハー》、この2国くらいだから。
魔獣の活性化の所為で、魔族の国側だけでなく、人族側の国にも影響が出ていたからなァ。何年も前から、獣人達は人化の術で、人族と共闘している。
だから今回、《ライトリクス》を通った時に、そこの馬鹿勇者と剣士は、ライトリクス国王から説明されただろ。『魔族と仲良くやってんのに、引っ掻き回すんじゃねぇ』ってよ。聞いてなかったのか?」
「ふざっけるな!何がっ魔族と共闘だ!?あんな人族の面汚しどもに何故従う必要がある!」
ティグレさんに殴られ、闘技場の壁まで吹っ飛ばされていた勇者が、瓦礫の山から立ち上がり、彼に襲い掛かった。
しかし、ティグレさんは剣の軌道を籠手で受け止め、そのままなぎ飛ばした。
「別に?お前等は従う必要ないさ。サル山のサルのように自国で勇者ゴッコやってる分は好きにすりゃいい。ただ、そのお遊びに他国を巻き込むんじゃねぇって事と・・・召喚なんて、非人道的な行いで、人の人生狂わせんじゃねぇ。ってこった。」
ぐわり、と殺気が辺りに広がった。
私達が戦った時と全然違う、魔王と対峙した時のような・・・いや、それよりも、もっと強い殺気。
最初の戦いで、これを受けていたら、絶対に勝てなかった、くらいに。
濃密な殺気に当てられた剣士と拳闘士は青ざめ、女魔法使いはガタガタと震えていた。
勇者は・・・表情が抜け落ちたように呆然としていた。
しばらくそのままで、勇者達4人を眺めていたティグレさんは、くるり、と私の方を向いた。
「なぁ、“サクラ”。祖国と切り離され、こんなクズで馬鹿な奴等に虐げられてもなお、矜恃を捨てず、抗うその姿勢。俺は、君の魂の強さと美しさに、魅了されてしまったんだ。
・・・せめて、君の故郷に帰還する術が見つかるまででいい。どうか俺と一緒にいてくれないか?」
そう言って、ティグレさんは、私の前に跪き。
うやうやしく私の左手をとると、まるで物語の騎士のように、手の甲に口付けた。
琥珀色の目が細められた甘い笑顔で見上げられ、私の顔が、ぽふん、と音を立てたんじゃないかと思うほどに、熱くなった。
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