21 / 40
20
しおりを挟む顔に熱がこもる。
ティグレさんが認めてくれた事が嬉しいのに。
でも、何をどうしたら良いのか分からなくて。
いつの間にか、私の目からは、またポロポロと雫が零れ落ちていた。
ギョッとしたように、ティグレさんの目が見開かれた。
慌てた様子で、私の顔を大きな両手で包み込む。
親指が、目の下をなぞる。
「“サクラ”・・・どうか泣かないでくれ・・・君が泣いていると、胸が苦しくなるんだ。虐げられても、人々を癒し続け。獣王である俺にまで癒しを与えてくれた。あの回復魔法はとても暖かかった・・・心が凪いで清々しかった・・・あんな辛い思いをしているのに、泣きそうな顔をしていたのに、君の魔法はどこまでも優しくて暖かい。春の陽だまりのようなんだ。
君が隣にいてくれるだけで、俺は何者にも勝てる気がする。俺は、君を裏切らないから。あの日のように、笑っていてほしい。君だけを愛すると誓うから・・・どうか、戻るその日まで、隣にいさせてくれ。」
その、誠実な言葉が、態度が、真っ直ぐな思いが、琥太郎くんにそっくりで。
私は、ポロポロと雫を溢れさせたまま、コクリと頷いてしまった。
すると、ティグレさんはガバッと立ち上がって、私の身体を抱き抱えて雄叫びを上げた。
鼓膜がビリビリと震えるような、おなかの底から響くようなそんな声。
でも、不思議と安心する。
守られているようで、嫌じゃなかった。
雄叫びが消え去った後、あはははは、と笑い声が響いた。
声の方を向くと、魔王が大笑いしていた。
何故そんなに笑っているのか分からず、キョトンとしてしまう。
大きな身体に抱き抱えられ、真横にティグレさんの顔がある。
横を向くと、苦笑いしている彼の顔。
私の視線に気づいたのか、彼はこちらを向くと、困った顔をしながら肩を竦めた。
私が首を傾げていると、魔王が口を開いた。
「あいわかった。人族に無理矢理召喚され、虐げられ、それでもなお、魔族にその身を渡して世界を守ろうとする、聖女の献身をもって、我々魔族は人族の土地に侵攻しないとしよう。今の国境から互いの領土は不可侵だ。攻め込んでくるなら容赦はせぬが、互いの領分を侵さぬのであれば、我々は人族とは戦はせぬよ。」
「なっ!ふざっけんな!」
それを聞いた勇者が、声を荒げ、立ち上がる。
「あーっはっはっは!ふざけるな、だと?巫山戯ているのは、貴様等人族の方だろうが!これ程までに聖属性の扱いに長けた聖女を、貴様等の“好みの顔でない”と言うだけで虐げていたのだろう?そんな聖女を、貴様等の基に置いておくのは勿体無さすぎる。だから、我々が貰い受けるまでだ。それに、聖女自身が、我が四天王である獣王と共に在ることを望んだのだ。何の文句がある。」
ぎろり、と、魔王様は勇者達を見回した。
その視線に勇者達は怯む。
「謀るなよ、人族。貴様等の一国・・・《ルークサンドラ》が勝手に召喚したのであろう聖女は、その身をもって我々魔族の怒りを鎮めた。その献身に感謝こそすれ、裏切り者等とのたまうのは筋違いも良い所だ。
・・・と、まぁ。良い建前も出来たことであるしのぉ。さぁ、勇者共、今の我はとても気分が良い。聖女のおかげで気力も魔力も充分だからな!出血大サービスというやつだ。貴様等の国まで送り返してやろう!」
「まっ!まて!」
「聖女殿!」
勇者や、剣士がこちらに来ようとする。
しかし、高笑いしながら宣言した魔王によって、一瞬にして勇者達の姿は掻き消えた。
10
あなたにおすすめの小説
【完結】ひとつだけ、ご褒美いただけますか?――没落令嬢、氷の王子にお願いしたら溺愛されました。
猫屋敷 むぎ
恋愛
没落伯爵家の娘の私、ノエル・カスティーユにとっては少し眩しすぎる学院の舞踏会で――
私の願いは一瞬にして踏みにじられました。
母が苦労して買ってくれた唯一の白いドレスは赤ワインに染められ、
婚約者ジルベールは私を見下ろしてこう言ったのです。
「君は、僕に恥をかかせたいのかい?」
まさか――あの優しい彼が?
そんなはずはない。そう信じていた私に、現実は冷たく突きつけられました。
子爵令嬢カトリーヌの冷笑と取り巻きの嘲笑。
でも、私には、味方など誰もいませんでした。
ただ一人、“氷の王子”カスパル殿下だけが。
白いハンカチを差し出し――その瞬間、止まっていた時間が静かに動き出したのです。
「……ひとつだけ、ご褒美いただけますか?」
やがて、勇気を振り絞って願った、小さな言葉。
それは、水底に沈んでいた私の人生をすくい上げ、
冷たい王子の心をそっと溶かしていく――最初の奇跡でした。
没落令嬢ノエルと、孤独な氷の王子カスパル。
これは、そんなじれじれなふたりが“本当の幸せを掴むまで”のお話です。
※全10話+番外編・約2.5万字の短編。一気読みもどうぞ
※わんこが繋ぐ恋物語です
※因果応報ざまぁ。最後は甘く、後味スッキリ
包帯妻の素顔は。
サイコちゃん
恋愛
顔を包帯でぐるぐる巻きにした妻アデラインは夫ベイジルから離縁を突きつける手紙を受け取る。手柄を立てた夫は戦地で出会った聖女見習いのミアと結婚したいらしく、妻の悪評をでっち上げて離縁を突きつけたのだ。一方、アデラインは離縁を受け入れて、包帯を取って見せた。
敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています
藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。
結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。
聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。
侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。
※全11話 2万字程度の話です。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
私が嫌いなら婚約破棄したらどうなんですか?
きららののん
恋愛
優しきおっとりでマイペースな令嬢は、太陽のように熱い王太子の側にいることを幸せに思っていた。
しかし、悪役令嬢に刃のような言葉を浴びせられ、自信の無くした令嬢は……
答えられません、国家機密ですから
ととせ
恋愛
フェルディ男爵は「国家機密」を継承する特別な家だ。その後継であるジェシカは、伯爵邸のガゼボで令息セイルと向き合っていた。彼はジェシカを愛してると言うが、本当に欲しているのは「国家機密」であるのは明白。全てに疲れ果てていたジェシカは、一つの決断を彼に迫る。
辺境のスローライフを満喫したいのに、料理が絶品すぎて冷酷騎士団長に囲い込まれました
腐ったバナナ
恋愛
異世界に転移した元会社員のミサキは、現代の調味料と調理技術というチート能力を駆使し、辺境の森で誰にも邪魔されない静かなスローライフを送ることを目指していた。
しかし、彼女の作る絶品の料理の香りは、辺境を守る冷酷な「鉄血」騎士団長ガイウスを引き寄せてしまった。
偉物騎士様の裏の顔~告白を断ったらムカつく程に執着されたので、徹底的に拒絶した結果~
甘寧
恋愛
「結婚を前提にお付き合いを─」
「全力でお断りします」
主人公であるティナは、園遊会と言う公の場で色気と魅了が服を着ていると言われるユリウスに告白される。
だが、それは罰ゲームで言わされていると言うことを知っているティナは即答で断りを入れた。
…それがよくなかった。プライドを傷けられたユリウスはティナに執着するようになる。そうティナは解釈していたが、ユリウスの本心は違う様で…
一方、ユリウスに関心を持たれたティナの事を面白くないと思う令嬢がいるのも必然。
令嬢達からの嫌がらせと、ユリウスの病的までの執着から逃げる日々だったが……
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる