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しおりを挟む慌てた様子の魔族側のメンバー。
見上げると、ティグレさんは、強面顔の眉が寄り、怒っている風に見える顔で私を見下ろす。
でも3年一緒にいて分かるのは、この顔は、とっても心配してくれている顔。
ーーー もう、いい加減、蹴りをつけなきゃ。
「おおっ!それでは早速の我が国に向かう準備を!我らが国王がお待ちしております!」
使者達は安堵の表情を浮かべ、これで国王様が報われる、だの、我が国も持ち直せる、だの、好き勝手にヒソヒソしていた。
その様子にイラッとして。
私は彼らを睨みつけた。
「・・・勘違いなさらないで下さい。
3年もの間見つからなかった帰還陣が、本物であるのかの確認をするだけです。
魔王様、屍人王グラハム様の同行許可を頂けませんか?
それに、ティグレさん、シロエさん、アイザックさん、一緒についてきてもらえますか?」
「あぁ、構わぬぞ。」
「無論、サクラが嫌だって言っても、俺はついて行くつもりだった。」
「当たり前だよ。全世界の魔法使いに喧嘩売ったようなもんだからね。売られた喧嘩は買うよ?」
「何言ってんだ。《グランブルー》のメンバーの一大事だろうが。頼まれんくても、一緒に行ってやる。」
魔王様は二つ返事でオッケーをくれる。
ティグレさんは、ぎゅうぎゅうと私を抱きしめ、シロエさんには肩を軽く叩かれ、アイザックさんには頭をぐしゃぐしゃと撫でられた。
グラハム様やアイリーン様、部屋に控える護衛の人達も、ほっとした様子で笑ってくれた。
やっぱり、ココは、みんなは、私の居場所になってくれている。
帰りたい気持ちはある。
けれど、帰れたとしても、此処に戻ってきたいと思ってしまう気持ちが、生まれてしまったのだと、強く感じた。
《ルークサンドラ》の帰還陣が本物でなければ、もう、諦めよう。
お世話になったこの国に、骨を埋める覚悟をしよう。
それを口に出す覚悟はまだ無いけれど。
決着がついたら、しっかり話そう。
使者達が慌てふためく。
お呼び立てするのは聖女様だけで、とか、他国の視察を受け入れる準備は、とか、ぐちゃぐちゃいっている。
そんな中、色々考えて、私は顔を上げた。
不意に、くすり、と笑う声が聞こえた。
見ると、魔王様が優しげな顔でこちらを見ている。
目が合うと、にやりと口角を上げて頷いた。
・・・何だろうか、この見透かされた感。
私の心臓が跳ね上がると同時に、魔王様は使者達に顔を向け言い放つ。
「屍人王グラハムよ。聖女サクラに付き、魔法使いシロエと共に《ルークサンドラ》の帰還陣の検分に赴け。龍王アーガイル、獣王ティーガ。聖女サクラの護衛として同行し、彼の地に帰還陣が無ければ、聖女を召喚した陣を破壊してこい。」
「「「御意に」」」
「なっ!?」
「はいはーい、ティーガ。これ渡しておくわぁ。」
魔王様の指示に焦る使者達を尻目に、アデリーン様が、スパン、と何かをティグレさんに投げて寄越す。
難無く右手でキャッチした彼は掌を開く。
私も一緒に覗き込むと、掌には指輪が転がっていた。
「向こうにいる諜報部隊のコ達にはそれを見せなさい。それがあれば、あのコ達への指揮権はアンタにあるのが分かるはず。好きに状況確認してちょーだい。」
「分かった。感謝する。」
「さぁ!話は決まった。このような胸糞悪い話は、尻尾を掴んだ時点で、サッサと片付けるに限る。貴様らもまとめて、そちらの国に送ってやろう!」
慌てふためく使者達を尻目に、魔王様は、使者と私達を《ルークサンドラ》の王城前へと転送した。
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