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1章
2話 再会(3)
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こうしてとうとうパーティー当日がやってきた。
例のワンピースは想像以上に素敵で、私を多少は華やかな雰囲気に引き立ててくれた。
お出かけのために美容院で髪をセットしてもらうというのも初めてトライしてみて、普段の自分ではないような気分で父の隣を歩いた。
「陽毬、随分おめかししたんだな。お母さんにそっくりだ」
「似てる? 嬉しいな」
別れたとはいえ父はまだ母を愛していて、母と似ている部分を私に探す。
私にとっても母は美人で高貴なオーラがあって、憧れの女性でもある。
彼女にはもう新しい家庭があって、会える空気じゃないので10歳の頃から面会はしてないけれど。
それでも私と父はいつだって彼女に会いたいと思っている。
ホテル内に用意されたパーティー会場に足を踏み入れると、背後で聞き覚えのある声がした。
「久我先生、お久しぶりです」
(この声って)
ドキッとして振り返ると、そこにはあの日と変わらず美しい瑞樹さんがいた。
この日はロングヘアを後ろで束ね、白のスーツをまとっていた。
スタイルがいい人しか着れないタイトなスーツが見事に似合っていて、男性だとわかる姿だけれど眩しいとしかいえない姿だ。
(こうして見ると、本当に、完全に男性なんだ……女装テクニック凄すぎる)
驚くやら感動するやらしていると、彼は父と挨拶を済ませた後チラと私を見た。
「こちらがお嬢さんですか? 可愛らしい方ですね」
「はじめまして、久我陽毬です。あの、先日……」
「はじめまして、柏木です」
食い気味に言葉を被せられ、完全に初対面という感じで握手を交わされた。
ちょっと強引なくらいのその仕草に、面食らう。
(お客様多いし……覚えてないってこと?)
「ごゆっくり楽しんでくださいね」
「は、はい」
瑞樹さんは私が着ているワンピースを特に話題にするでもなく、どこかよそよそしい感じで手を離すと、父と親しげに会話を始めた。
なんとなく置いてけぼり感をくらった私は、こんなに気合いを入れてきて馬鹿だったかなと感じる。
確かに、瑞樹さんは雲の上の人だ。
毎日たくさんの人と会っているだろうし、忙しい生活の中で一回お店に立ち寄っただけの私を覚えているわけがない。
(何を期待してたんだろう)
『そのワンピース買ってくれたんだ、似合ってるね』
こんな言葉を期待していたのかもしれない。
その期待を胸に、今日まですごく気持ちのいいテンションをキープできていた。
それが、目の前の彼の対応ですっかり落ちていくのがわかる。
(そうだった。こういう感じが私だった……簡単に落ち込んで、自信がなくなるんだよね)
悲しくなるのを誤魔化すように、慣れない高級なシャンパンを思いきって喉に通した。
葡萄の香りを残した薄い黄金色の液体が喉を心地よく流れていく。
「ふう……美味しい」
「いい飲みっぷりですね」
声の方へ視線を向けると、見知らぬ男性が隣で微笑んでいた。
「あの?」
「よろしければもう一杯どうですか」
「あ、ありがとうございます」
新しいグラスを差し出されたので、自然にそれを受け取る。
アルコールは時々しか飲まないので、さっきの一杯だけでもすでに頬が熱い。
「これ、瑞樹さんが選んだシャンパンらしいですよ」
「そうなんですか?」
(そっか、瑞樹さんが……)
そう思うとできるだけ飲みたい気持ちになり、渡されたグラスも半分飲み干す。
「お酒好き?」
「ええと……」
「好きなら、あっちにもっと違う種類もあるよ」
肩にそっと手が添えられ、会場の奥へ誘導されかけたその時──
「失礼、彼女は僕の客です」
肩にかかった手がのけられ、瑞樹さんが男性と私の間に入った。
まるで私を庇うように立つ彼の背中が広くて頼もしい。
「瑞樹さんのお客様でしたか。失礼しました」
男性は焦った様子で私から離れ、逃げるようにその場を去った。
ぼうっとその姿を見送っていると、瑞樹さんがため息まじりにこちらを振り返った。
「君さ……お酒強くないんじゃない?」
「そう、ですね。でも瑞樹さんが選んだシャンパンだと聞いたので」
「だからって初対面の男に勧められるままアルコールを飲むのは感心しないな」
私の手からグラスを取り上げると、代わりに水の入ったコップを渡してくれる。
「ありがとうございます」
「顔、真っ赤。別室で酔い冷ますといいよ」
例のワンピースは想像以上に素敵で、私を多少は華やかな雰囲気に引き立ててくれた。
お出かけのために美容院で髪をセットしてもらうというのも初めてトライしてみて、普段の自分ではないような気分で父の隣を歩いた。
「陽毬、随分おめかししたんだな。お母さんにそっくりだ」
「似てる? 嬉しいな」
別れたとはいえ父はまだ母を愛していて、母と似ている部分を私に探す。
私にとっても母は美人で高貴なオーラがあって、憧れの女性でもある。
彼女にはもう新しい家庭があって、会える空気じゃないので10歳の頃から面会はしてないけれど。
それでも私と父はいつだって彼女に会いたいと思っている。
ホテル内に用意されたパーティー会場に足を踏み入れると、背後で聞き覚えのある声がした。
「久我先生、お久しぶりです」
(この声って)
ドキッとして振り返ると、そこにはあの日と変わらず美しい瑞樹さんがいた。
この日はロングヘアを後ろで束ね、白のスーツをまとっていた。
スタイルがいい人しか着れないタイトなスーツが見事に似合っていて、男性だとわかる姿だけれど眩しいとしかいえない姿だ。
(こうして見ると、本当に、完全に男性なんだ……女装テクニック凄すぎる)
驚くやら感動するやらしていると、彼は父と挨拶を済ませた後チラと私を見た。
「こちらがお嬢さんですか? 可愛らしい方ですね」
「はじめまして、久我陽毬です。あの、先日……」
「はじめまして、柏木です」
食い気味に言葉を被せられ、完全に初対面という感じで握手を交わされた。
ちょっと強引なくらいのその仕草に、面食らう。
(お客様多いし……覚えてないってこと?)
「ごゆっくり楽しんでくださいね」
「は、はい」
瑞樹さんは私が着ているワンピースを特に話題にするでもなく、どこかよそよそしい感じで手を離すと、父と親しげに会話を始めた。
なんとなく置いてけぼり感をくらった私は、こんなに気合いを入れてきて馬鹿だったかなと感じる。
確かに、瑞樹さんは雲の上の人だ。
毎日たくさんの人と会っているだろうし、忙しい生活の中で一回お店に立ち寄っただけの私を覚えているわけがない。
(何を期待してたんだろう)
『そのワンピース買ってくれたんだ、似合ってるね』
こんな言葉を期待していたのかもしれない。
その期待を胸に、今日まですごく気持ちのいいテンションをキープできていた。
それが、目の前の彼の対応ですっかり落ちていくのがわかる。
(そうだった。こういう感じが私だった……簡単に落ち込んで、自信がなくなるんだよね)
悲しくなるのを誤魔化すように、慣れない高級なシャンパンを思いきって喉に通した。
葡萄の香りを残した薄い黄金色の液体が喉を心地よく流れていく。
「ふう……美味しい」
「いい飲みっぷりですね」
声の方へ視線を向けると、見知らぬ男性が隣で微笑んでいた。
「あの?」
「よろしければもう一杯どうですか」
「あ、ありがとうございます」
新しいグラスを差し出されたので、自然にそれを受け取る。
アルコールは時々しか飲まないので、さっきの一杯だけでもすでに頬が熱い。
「これ、瑞樹さんが選んだシャンパンらしいですよ」
「そうなんですか?」
(そっか、瑞樹さんが……)
そう思うとできるだけ飲みたい気持ちになり、渡されたグラスも半分飲み干す。
「お酒好き?」
「ええと……」
「好きなら、あっちにもっと違う種類もあるよ」
肩にそっと手が添えられ、会場の奥へ誘導されかけたその時──
「失礼、彼女は僕の客です」
肩にかかった手がのけられ、瑞樹さんが男性と私の間に入った。
まるで私を庇うように立つ彼の背中が広くて頼もしい。
「瑞樹さんのお客様でしたか。失礼しました」
男性は焦った様子で私から離れ、逃げるようにその場を去った。
ぼうっとその姿を見送っていると、瑞樹さんがため息まじりにこちらを振り返った。
「君さ……お酒強くないんじゃない?」
「そう、ですね。でも瑞樹さんが選んだシャンパンだと聞いたので」
「だからって初対面の男に勧められるままアルコールを飲むのは感心しないな」
私の手からグラスを取り上げると、代わりに水の入ったコップを渡してくれる。
「ありがとうございます」
「顔、真っ赤。別室で酔い冷ますといいよ」
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