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2章

都合のいい女

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 それから幾日かが経った。
 あれからは佐伯さんとも特に進展はなく、私の生活もようやく落ち着きを取り戻していた。
 新たにときめく相手もまだ見つけられないけれど、特に落ち込むこともない。

(こういう平和な日常、久しぶりだな)

 戻ってきた食欲や睡眠にも満足しつつ、ささやかな幸せを喜んでいた。
 なのに、その平和を乱すような事件が起きた。

「ねえ、栞」

 化粧室でメイクを直していると、雅美が何やらそわそわして私を見た。

「坂田さんのこと……聞いた?」
「最近坂田さんとはあまり話してないし、何も知らないけど」
「そっか……」

 私が話を知らないと知り、雅美は次の言葉を渋るように口をつぐむ。
 でも、ここまで言われたら先を聞かないわけにもいかない。

「言いにくいこと?」
「ん……まあね」
(なんだろう。以前から坂田さんにはよく思われてない気がしてたけど)
「私なら平気だから言って?」

 落ち着いてそう言うと、雅美も最近元気を取り戻した私に安心しているのか一つ頷いて口を開いた。

「実は彼女、美島くんと付き合い始めたらしいんだよね」

 どきっとはしたけれど、どこかで”ああそういうことか”と納得している自分がいた。
 私に刺々しい態度だったのも、嫉妬心からだったのかもしれない。

「そっか……」
「落ち着いてる場合じゃないよ! 許せなくない? あの人、近くで栞の話し聞いてたのに」
「雅美が怒ることないよ。私なら平気。圭吾も新しい恋人作ったっておかしくないし」

(そもそも心変わりがきっかけだとしたら、色々納得がいく点も多いし)

 そう言うものの、雅美はやっぱり納得がいかないらしい。

「最初からそういうことだったのかなって思ったら、一緒にランチしてたのも気分悪いし。栞に超失礼だなって思って」
「ありがとう、雅美」

 雅美の優しい気持ちが嬉しくて、私は思わず笑顔を見せていた。

「雅美の気持ちは嬉しいよ。でも私は本当に平気だから」

 私の反応にかなり驚いたようで、雅美は目を瞬かせた。

「驚いたな……栞ってば、ついこの前まで美島くんの事忘れられないでいたのに」
「そうだよね。うーん、時間薬……かな?」

(っていうのは嘘。本当は佐伯さんに魔法をかけられたせいなんだ)

 でもこれは口にするわけにはいかない。
 雅美には申し訳ないけれど、とりあえず私は一人で立ち直ったということにしておこう。

「今も新しい彼氏探し中なんだ。本当に、もう圭吾のことはあんまり考えてないよ」
「そっか」

 ようやく拳を緩めた雅美は、よかったと笑みを見せた。

「今度こそいい彼氏を見つけてね」
「うん。そうする」

 私たちは強く手を握り合い、ふっと笑いあったのだった。
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