太陽と月に抱かれて ~異世界で王子を産みなさい!?~

伊東悠香

文字の大きさ
58 / 61

17話 いるべき場所(3)最終話

しおりを挟む
「王妃」
 アンリが私とエリオの間に立ち私たちの手を強く握って、彼女と対峙する。
 ずっと母だと思っていた王妃の存在が、違うとわかった今、アンリはどんな心境なのだろう。
 でも、彼は同様も見せず、凛々しい顔で王妃を見つめていた。
「この国は僕が継ぎます。ジュリとともに」
『呪いのかかったこの国で、何ができる?』
「呪いはもう解けています。あなたはもう消えるだけでしょう?」
『何?』

 アンリが腕を伸ばすと、そこに青い鳥が飛んできて腕にとまった。それは夢で見た、あの死んでしまったことりにそっくりだった。
「父が殺したのだと思っていましたが……あなただったんですね。この小鳥を僕から奪ったのは」
『お前、私の考えを読んで……。ああそうよ。私がその小鳥を殺した。だからどうだっていうの。鳥を相手にしているお前を見るのはイライラさせられたわ。だから殺した……あの場でお前も殺しておけばよかったわね』
 感情だけで話す王妃の声は、次第に獣のような呻きに聞こえてくる。ざわざわと黒いものが肌に響いてきて、吐き気までしてくる。
(なんてひどい人なの……でもこれも、嫉妬のせい。王妃は国王を愛していた……だからなの?)
 私の手を強く握り、アンリは強い眼差しで王妃を見つめた。
「もう僕は大切なものを殺させたりしない。あなたよりずっと大きな魔法を使えるようになったので」
『何……ですって』
 アンリの体から放たれる光に、闇が少しずつ薄らいでいく。王妃の姿も、真っ黒な姿から少しずつ白い衣装に変わっていった。
「地下牢にいて、ボケたんじゃないですか?僕だってずっと子供のままじゃなかったんですよ……ちゃんと魔法を勉強して大人になったんです」
 にこりと微笑むと、アンリは腕をすっとあげて闇を全て振り払ってしまった。
『ああ、やめて。光は嫌い……熱い、熱いわ……溶けてしまう』
 王妃はうめき声をあげながらそこに砂のような白い姿で倒れこむ。その姿は、悪魔のようなそれではなく、1人の若い女性だった。
「王妃。もう全て終わりました。安らかに眠ってください」
 アンリの顔を見上げ、王妃は最後の力を振り絞るように呟いた。
『そう……もうあの、可哀想な泣き虫のアンリではないのね』
「ええ、そうです」
『私も国王との子を……授かりたかった……とても……愛していたから』
 その声は、最初に聞いた時と同じように澄んでいてとても若々しい女性の声だった。
「さようなら、王妃」
 アンリがふっと息を吐くと、砂になった王妃は風に乗って窓から天へと登って行った。
 それを見上げながら、私たちはしばらく言葉をなくしたように無言だった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

完結 辺境伯様に嫁いで半年、完全に忘れられているようです   

ヴァンドール
恋愛
実家でも忘れられた存在で 嫁いだ辺境伯様にも離れに追いやられ、それすら 忘れ去られて早、半年が過ぎました。

五年後、元夫の後悔が遅すぎる。~娘が「パパ」と呼びそうで困ってます~

放浪人
恋愛
「君との婚姻は無効だ。実家へ帰るがいい」 大聖堂の冷たい石畳の上で、辺境伯ロルフから突然「婚姻は最初から無かった」と宣告された子爵家次女のエリシア。実家にも見放され、身重の体で王都の旧市街へ追放された彼女は、絶望のどん底で愛娘クララを出産する。 生き抜くために針と糸を握ったエリシアは、持ち前の技術で不思議な力を持つ「祝布(しゅくふ)」を織り上げる職人として立ち上がる。施しではなく「仕事」として正当な対価を払い、決して土足で踏み込んでこない救恤院の監督官リュシアンの温かい優しさに触れエリシアは少しずつ人間らしい心と笑顔を取り戻していった。 しかし五年後。辺境を襲った疫病を救うための緊急要請を通じ、エリシアは冷酷だった元夫ロルフと再会してしまう。しかも隣にいる娘の青い瞳は彼と瓜二つだった。 「すまない。私は父としての責任を果たす」 かつての合理主義の塊だった元夫は、自らの過ちを深く悔い、家の権益を捨ててでも母子を守る「強固な盾」になろうとする。娘のクララもまた、危機から救ってくれた彼を「パパ」と呼び始めてしまい……。 だが、どんなに後悔されても、どんなに身を挺して守られても、一度完全に壊された関係が元に戻ることは絶対にない。エリシアが真の伴侶として選ぶのは、凍えた心を溶かし、温かい日常を共に歩んでくれたリュシアンただ一人だった。 これは、全てを奪われた一人の女性が母として力強く成長し誰にも脅かされることのない「本物の家族」と「静かで確かな幸福」を自分の手で選び取るまでの物語。

ヤンデレ王子を闇落ちから救ったら愛執まみれの独占欲に囚われました

大江戸ウメコ
恋愛
幼い頃に精霊の祝福である未来視の力が開花し、「夫である第二王子ナハルドに殺される」という己の運命を知った伯爵令嬢ツィーラ。この悲惨な未来を変えるべく、ツィーラは彼を避けようとしたが、ひょんなことから婚約者に選ばれてしまった! ならば、ナハルドが将来闇落ちしないよう、側で彼を支えることを決意する。そんな努力の甲斐あって、ツィーラへの好意を隠さず伝えてくるほど、ナハルドとの関係は良好になった。だけど、彼の並々ならぬ執着心のすべてを、ツィーラはまだ知らなくて――

バッドエンド予定の悪役令嬢が溺愛ルートを選んでみたら、お兄様に愛されすぎて脇役から主役になりました

美咲アリス
恋愛
目が覚めたら公爵令嬢だった!?貴族に生まれ変わったのはいいけれど、美形兄に殺されるバッドエンドの悪役令嬢なんて絶対困る!!死にたくないなら冷酷非道な兄のヴィクトルと仲良くしなきゃいけないのにヴィクトルは氷のように冷たい男で⋯⋯。「どうしたらいいの?」果たして私の運命は?

存在感のない聖女が姿を消した後 [完]

風龍佳乃
恋愛
聖女であるディアターナは 永く仕えた国を捨てた。 何故って? それは新たに現れた聖女が ヒロインだったから。 ディアターナは いつの日からか新聖女と比べられ 人々の心が離れていった事を悟った。 もう私の役目は終わったわ… 神託を受けたディアターナは 手紙を残して消えた。 残された国は天災に見舞われ てしまった。 しかし聖女は戻る事はなかった。 ディアターナは西帝国にて 初代聖女のコリーアンナに出会い 運命を切り開いて 自分自身の幸せをみつけるのだった。

伝説のS級おじさん、俺の「匂い」がないと発狂して国を滅ぼすらしいい

マンスーン
BL
ギルドの事務職員・三上薫は、ある日、ギルドロビーで発作を起こしかけていた英雄ガルド・ベルンシュタインから抱きしめられ、首筋を猛烈に吸引。「見つけた……俺の酸素……!」と叫び、離れなくなってしまう。 最強おじさん(変態)×ギルドの事務職員(平凡) 世界観が現代日本、異世界ごちゃ混ぜ設定になっております。

敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています

藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。 結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。 聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。 侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。 ※全11話 2万字程度の話です。

つまらない妃と呼ばれた日

柴田はつみ
恋愛
公爵令嬢リーシャは政略結婚で王妃に迎えられる。だが国王レオニスの隣には、幼馴染のセレスが“当然”のように立っていた。祝宴の夜、リーシャは国王が「つまらない妃だ」と語る声を聞いてしまい、心を閉ざす。 舞踏会で差し出された手を取らず、王弟アドリアンの助けで踊ったことで、噂は一気に燃え上がる――「王妃は王弟と」「国王の本命は幼馴染」と。 さらに宰相は儀礼と世論を操り、王妃を孤立させる策略を進める。監視の影、届かない贈り物、すり替えられた言葉、そして“白薔薇の香”が事件現場に残る冤罪の罠。 リーシャは微笑を鎧に「今日から、王の隣に立たない」と決めるが、距離を取るほど誤解は確定し、王宮は二人を引き裂いていく。 ――つまらない妃とは、いったい誰が作ったのか。真実が露わになった時、失われた“隣”は戻るのか。

処理中です...