太陽と月に抱かれて ~異世界で王子を産みなさい!?~

伊東悠香

文字の大きさ
2 / 61

2話 第二の王子

しおりを挟む
 後ろで小さく声がし、振り返るとそこには比較的身長が低めの人物が立っていた。可愛らしい顔立ちだが、身なりを見ると男性のようだ。青い瞳で私を冷ややかに見つめている。

(あ、もしかしてこの人が)
「エリオ?」
「そうですが、唐突に呼ばれると驚きますね」
 驚いているという顔でもないのに、エリオはそう言って眉間にしわを寄せた。
 態度から見るに、私はあまり歓迎されていない。
「あなたのことはだいたい聞いています、ジュリ。そしてあちらでのデータも揃い、この国の後継者を産むには問題のない女性と判断しました」
「アンリといい、さっきから何を言ってるのかさっぱり分からないんだけど?」
 誘拐にしては、何だか全体が堂々としている。
 私を何かしらの目的でさらったのは事実なのだろうけど、その目的もちょっと理解しがたいもののようだ。
 私の予想は的中し、エリオは信じられない話を始めた。
「カリーナ王国は病に伏した国王の呪いにより、女性が一人もいない国となってしまいました。規則的にはあってはいけないのですが、後継者を絶やすことの方が問題です。なので、あなたのいた世界から後継者を産める女性を一人王子に選んで来ていただきました。それがあなたです」
「……ん?」
(聞き間違いかな?後継者を産む女性って言った?)
 エリオはため息をつきながら、私の頭の先からつま先までをジロジロと見る。
「しかしアンリ様は本当にこの方がいいと思ったんでしょうか。処女なのはいいとして、あまりにも普通すぎる気が……」
「っ!」
 自分が処女だということも知られているし、さっきの話はどうやら嘘でもないみたいだ。事情は意味不明だけれど、私は女性がいないこの国に、子どもを産むためにさらってこられたのだ。
「待って、無理だよ。私はあなたの言う通り普通の女だし、異性関係もない。王子の相手ってことは、妃候補ってことでもあるだろうし……それは無理だよ?」
 とりあえず話を合わせるために言ってみるけど、どうにも現実感がない。
 これは何か壮大な夢でも見ていると考えた方がリアルな気がした。

「ジュリが王妃になることはないですから、安心してください。あなたはただ、後継者を産むだけのために連れてこられたんですから」
「な……」
 エリオの飄々とした表情に、軽く背筋が寒くなる。
「まあ、男性を相手にする手ほどきは必要のようですが。アンリ王子がそれは整えてくれそうですから言う通りにしてくださいね」
 言い渡すように告げると、エリオは持っていた手帳をパタンと閉じる。そして軽く髪をかきあげ、初めて表情に笑みを浮かべた。
「これから2人目の王子、リュカ様がいらっしゃいますが。あの方は女性を愛する気がないので、どうにかその気にしてください」
「リュカ様?え……王子って2人いるの?」
「この国はアンリ様派と、リュカ様派に分かれております。どちらか先に後継者を持った方を新国王とする決まりなので、そこも知っておいたほうがいいでしょう」
 意味深に笑みを浮かべたまま、エリオは私に一応の礼をしてそつのない動きで部屋を出て行った。

 やっと1人になった部屋で、私は頭を抱える。
(どうしよう、どうしよう。これって物語でよくある、異世界へ来てしまったというやつかな?逃げるにも世界が違うから、逃げようがない……)
 窓の外に見える風景も、世界のどの国とも違うような気がする。
 空には三日月と満月が二つ出ていた。
「これは……完全に違う世界だ」
 夢じゃないとしたら、私はここで後継者を産むまでは元の世界にも戻してもらえないようだ。どうして自分がこんなことに……。
 絶望的な気持ちになっていると、また扉が開く音がした。
「へえ……本当に女がいる」
 顔を上げると、アンリと顔立ちの似た黒髪の男性が私を見つめていた。
(この人が……2人目の王子、リュカ?)
「アンリが適当に選んできた割には、まあまあか」
 私の近くまで寄ってくると、顎をくいと上げられる。その強引な態度で、アンリとは違う人だというのがすぐに分かる。
「抱きたいと思えるほどじゃないが」
 くすっと笑った声が耳に響き、体にぞくっと変な痺れが走った。
 
「エリオが……あなたは女性を愛する気はないと」
「そうだな。でも抱けないわけじゃない……試してみるか?」
「い、いえっ!」
 警戒心バリバリで体を離すと、彼はくすくすと笑う。私をからかって遊んでるみたいだ。
「冗談だ。さっき言った通り抱く気にならない女は相手にしない。でも夜はこの部屋にいないと周りがうるさいからな……隣で眠ることくらいは許そう」
「……っ」
 上から目線のリュカの言葉に、女としてのプライドが壊された感じがする。エリオが言った「リュカ様をその気にさせる」のは相当難しそうだ。
(まあ、手を出されないと分かってるのは安心だけど)
 私はこのめちゃくちゃな展開の中で、今夜だけはとりあえず安心して眠れそうだと思って少しほっとした。
「何を安心しているんだ?」
「え?」
「どちらかの子を身篭らないと、三ヶ月で消されるのを知らないのか」
「え……ええっ」
 リュカは私の本気で驚く姿を見て、やや哀れんだような表情をした。
 こういうところを見ると、若干情もある人なのかなと思わされる。
「助かる方法としては、やはり後継者を産んで国の信頼を得ることだな。そうすれば生きて元の世界に戻してやれるだろう」
「……無茶苦茶ですね」
 誘拐された上に、子供を産まないと殺されるとか。
 ありえないけど、私のいた世界の法律も通用しないのだろうから、騒いで抵抗したって無駄なわけだ。
(……万事休す)
 私は泣きたくなったけれど、泣いても状態が変わるでもない。
 仕方なくベッドに潜ると、そのまま目を閉じた。
(目が覚めたら全部嘘だったってことにならないかな)
 小さく震えながら眠ろうとしていると、隣に体を横たえたリュカがそっと肩を抱いた。
「怖いのか」
「いえ……大丈夫です」
(こんな人に、弱いところ見せたくない)
 もっと笑われたりするのかと思ったけれど、彼はそのまま髪を撫でて低い声で言った。

「すぐに弱音を吐かないところは気に入った……今夜はゆっくり休め」

 その手の感触は不思議なほど温かくて、私は疲れもあったのかそのままふっと意識を失うように眠ってしまった。
 
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

完結 辺境伯様に嫁いで半年、完全に忘れられているようです   

ヴァンドール
恋愛
実家でも忘れられた存在で 嫁いだ辺境伯様にも離れに追いやられ、それすら 忘れ去られて早、半年が過ぎました。

五年後、元夫の後悔が遅すぎる。~娘が「パパ」と呼びそうで困ってます~

放浪人
恋愛
「君との婚姻は無効だ。実家へ帰るがいい」 大聖堂の冷たい石畳の上で、辺境伯ロルフから突然「婚姻は最初から無かった」と宣告された子爵家次女のエリシア。実家にも見放され、身重の体で王都の旧市街へ追放された彼女は、絶望のどん底で愛娘クララを出産する。 生き抜くために針と糸を握ったエリシアは、持ち前の技術で不思議な力を持つ「祝布(しゅくふ)」を織り上げる職人として立ち上がる。施しではなく「仕事」として正当な対価を払い、決して土足で踏み込んでこない救恤院の監督官リュシアンの温かい優しさに触れエリシアは少しずつ人間らしい心と笑顔を取り戻していった。 しかし五年後。辺境を襲った疫病を救うための緊急要請を通じ、エリシアは冷酷だった元夫ロルフと再会してしまう。しかも隣にいる娘の青い瞳は彼と瓜二つだった。 「すまない。私は父としての責任を果たす」 かつての合理主義の塊だった元夫は、自らの過ちを深く悔い、家の権益を捨ててでも母子を守る「強固な盾」になろうとする。娘のクララもまた、危機から救ってくれた彼を「パパ」と呼び始めてしまい……。 だが、どんなに後悔されても、どんなに身を挺して守られても、一度完全に壊された関係が元に戻ることは絶対にない。エリシアが真の伴侶として選ぶのは、凍えた心を溶かし、温かい日常を共に歩んでくれたリュシアンただ一人だった。 これは、全てを奪われた一人の女性が母として力強く成長し誰にも脅かされることのない「本物の家族」と「静かで確かな幸福」を自分の手で選び取るまでの物語。

ヤンデレ王子を闇落ちから救ったら愛執まみれの独占欲に囚われました

大江戸ウメコ
恋愛
幼い頃に精霊の祝福である未来視の力が開花し、「夫である第二王子ナハルドに殺される」という己の運命を知った伯爵令嬢ツィーラ。この悲惨な未来を変えるべく、ツィーラは彼を避けようとしたが、ひょんなことから婚約者に選ばれてしまった! ならば、ナハルドが将来闇落ちしないよう、側で彼を支えることを決意する。そんな努力の甲斐あって、ツィーラへの好意を隠さず伝えてくるほど、ナハルドとの関係は良好になった。だけど、彼の並々ならぬ執着心のすべてを、ツィーラはまだ知らなくて――

バッドエンド予定の悪役令嬢が溺愛ルートを選んでみたら、お兄様に愛されすぎて脇役から主役になりました

美咲アリス
恋愛
目が覚めたら公爵令嬢だった!?貴族に生まれ変わったのはいいけれど、美形兄に殺されるバッドエンドの悪役令嬢なんて絶対困る!!死にたくないなら冷酷非道な兄のヴィクトルと仲良くしなきゃいけないのにヴィクトルは氷のように冷たい男で⋯⋯。「どうしたらいいの?」果たして私の運命は?

存在感のない聖女が姿を消した後 [完]

風龍佳乃
恋愛
聖女であるディアターナは 永く仕えた国を捨てた。 何故って? それは新たに現れた聖女が ヒロインだったから。 ディアターナは いつの日からか新聖女と比べられ 人々の心が離れていった事を悟った。 もう私の役目は終わったわ… 神託を受けたディアターナは 手紙を残して消えた。 残された国は天災に見舞われ てしまった。 しかし聖女は戻る事はなかった。 ディアターナは西帝国にて 初代聖女のコリーアンナに出会い 運命を切り開いて 自分自身の幸せをみつけるのだった。

敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています

藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。 結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。 聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。 侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。 ※全11話 2万字程度の話です。

敗戦国の姫は、敵国将軍に掠奪される

clayclay
恋愛
架空の国アルバ国は、ブリタニア国に侵略され、国は壊滅状態となる。 状況を打破するため、アルバ国王は娘のソフィアに、ブリタニア国使者への「接待」を命じたが……。

伝説のS級おじさん、俺の「匂い」がないと発狂して国を滅ぼすらしいい

マンスーン
BL
ギルドの事務職員・三上薫は、ある日、ギルドロビーで発作を起こしかけていた英雄ガルド・ベルンシュタインから抱きしめられ、首筋を猛烈に吸引。「見つけた……俺の酸素……!」と叫び、離れなくなってしまう。 最強おじさん(変態)×ギルドの事務職員(平凡) 世界観が現代日本、異世界ごちゃ混ぜ設定になっております。

処理中です...