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3話 役割
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次の日、お茶のような香りで目が覚めた。
むくりと起きると、やはりそこは昨夜見た光景と一緒で、あれが夢じゃなかったことにがっかりする。
「おはようございます、ジュリ」
驚いて顔を向けると、エリオが朝から面白くなさそうな表情で立っていた。
「おはよう」
「その格好で寝たんですか」
「え、あ……」
私は仕事途中のままこの世界に連れてこられ、疲れて眠ってしまった。だから、今も会社の制服のままだ。
(着替えなんて持ってないし、どうにもならないじゃない)
エリオはため息をつきながらも私に洋服を一式差し出した。
「何にせよ、あなたは今の所国で唯一の女性なのですから、それなりに綺麗にしていてください。必要なものがあれば私を呼んでください、できるだけ用意するようにします」
「わかった」
エリオの言い方はトゲがあって好きじゃないけれど、世話を妬いてくれるのだから感謝はしなくちゃいけないだろう。
(悲しんだり暴れたりしても、意味がないもの……諦めてこの現状、受け入れたほうがいいよね)
私は案外諦めのいい性格だ。
元々そうというより、29年生きてきたらそういう性格になっていた。
期待しないほうがいい。受けいれて生きたほうが楽。そんなことの繰り返しで、少しずつ情熱みたいなものは消えていったように思う。
「それで、朝食ですが。とりあえず今はアンリ様が魔法でそれらしいものを出せるようにしてくれているので、それを食べてください」
部屋の奥に設置されたテーブルには、湯気を立てたプレートが見えた。
「魔法でご飯が出せるの?」
「料理を担当していたのは皆女性だったので。男は兵士になるよう育てられますので、今のところ料理ができる者がいないのです」
「へえ……大変だね」
ベッドから降りると、私はスクランブルエッグのようなものをスプーンで少し食べてみた。すると、口の中に何か苦いものが広がって喉を通らない。
「う……ごめん。これは食べられない」
(ありえないまずさ……これ、みんな食べてるの?)
エリオは困った表情をしながら肩を落とした。
「いいんです。アンリ様も料理はしたことがないので、味を表現できないのでしょう。国の他の者たちは、それぞれ工夫して男が料理しているようですが…」
「そうなの」
こうなると、いよいよ男女平等というか、家事は女のものっていう考えを国全単位で考えた方が良さそうだと思ってしまう。
そんなおせっかいなことを考えつつも、私は調理室を教わって食事くらいなら自分が作ると申し出た。
「え、あなたが?城にはざっと50人はいますよ」
「50!?」
さすがにその多さを三食作るのは無理だ。
仕方ないから私はレシピを教えるから、主要な人以外のものは、男性で作って欲しいとお願いした。
「わかりました。ではアンリ様、リュカ様、それと私の3人の分は作ってもらっていいですか?他は作れるように今日から訓練させますので」
「うん、わかった。じゃあとりあえず朝は4人分作ればいいのね」
「リュカ様は朝は必要ないので3人分、夜はアンリ様が不要なので3人分です」
「了解!」
私は目に付く食材を手にして、何が作れるか考える。
その様子を見ていて、エリオは今までになく柔らかな口調で言った。
「変わった人ですね……自分の状況を分かってるんですか?」
「分かってるよ。でも受け入れてるの、もうこうなったら元の世界に戻れるまで頑張るしかないから」
ポトフとハンバーグにしようと決めて、動き出すと、エリオは肩をすくめて笑った。
「なるほど、アンリ様がお気に召した理由が少し分かりました」
「え、どういうこと?」
「あなたの存在に何か言葉にならないパワーを感じます」
そう微笑むと、エリオは丁寧にお辞儀をした。
「朝食が出来たらおしらせください。それでは……よろしくお願いします」
エリオが出て行くと、私は妙な気持ちで料理を始める。
(異世界で王子とその従者のためにご飯を作るなんて、なかなか面白い体験をしている。元の世界に戻って話しても、誰も信用しないだろうな……)
そんなことを考えながら手を動かしていると、不思議と後ろ向きな気持ちにはならなかった。
むくりと起きると、やはりそこは昨夜見た光景と一緒で、あれが夢じゃなかったことにがっかりする。
「おはようございます、ジュリ」
驚いて顔を向けると、エリオが朝から面白くなさそうな表情で立っていた。
「おはよう」
「その格好で寝たんですか」
「え、あ……」
私は仕事途中のままこの世界に連れてこられ、疲れて眠ってしまった。だから、今も会社の制服のままだ。
(着替えなんて持ってないし、どうにもならないじゃない)
エリオはため息をつきながらも私に洋服を一式差し出した。
「何にせよ、あなたは今の所国で唯一の女性なのですから、それなりに綺麗にしていてください。必要なものがあれば私を呼んでください、できるだけ用意するようにします」
「わかった」
エリオの言い方はトゲがあって好きじゃないけれど、世話を妬いてくれるのだから感謝はしなくちゃいけないだろう。
(悲しんだり暴れたりしても、意味がないもの……諦めてこの現状、受け入れたほうがいいよね)
私は案外諦めのいい性格だ。
元々そうというより、29年生きてきたらそういう性格になっていた。
期待しないほうがいい。受けいれて生きたほうが楽。そんなことの繰り返しで、少しずつ情熱みたいなものは消えていったように思う。
「それで、朝食ですが。とりあえず今はアンリ様が魔法でそれらしいものを出せるようにしてくれているので、それを食べてください」
部屋の奥に設置されたテーブルには、湯気を立てたプレートが見えた。
「魔法でご飯が出せるの?」
「料理を担当していたのは皆女性だったので。男は兵士になるよう育てられますので、今のところ料理ができる者がいないのです」
「へえ……大変だね」
ベッドから降りると、私はスクランブルエッグのようなものをスプーンで少し食べてみた。すると、口の中に何か苦いものが広がって喉を通らない。
「う……ごめん。これは食べられない」
(ありえないまずさ……これ、みんな食べてるの?)
エリオは困った表情をしながら肩を落とした。
「いいんです。アンリ様も料理はしたことがないので、味を表現できないのでしょう。国の他の者たちは、それぞれ工夫して男が料理しているようですが…」
「そうなの」
こうなると、いよいよ男女平等というか、家事は女のものっていう考えを国全単位で考えた方が良さそうだと思ってしまう。
そんなおせっかいなことを考えつつも、私は調理室を教わって食事くらいなら自分が作ると申し出た。
「え、あなたが?城にはざっと50人はいますよ」
「50!?」
さすがにその多さを三食作るのは無理だ。
仕方ないから私はレシピを教えるから、主要な人以外のものは、男性で作って欲しいとお願いした。
「わかりました。ではアンリ様、リュカ様、それと私の3人の分は作ってもらっていいですか?他は作れるように今日から訓練させますので」
「うん、わかった。じゃあとりあえず朝は4人分作ればいいのね」
「リュカ様は朝は必要ないので3人分、夜はアンリ様が不要なので3人分です」
「了解!」
私は目に付く食材を手にして、何が作れるか考える。
その様子を見ていて、エリオは今までになく柔らかな口調で言った。
「変わった人ですね……自分の状況を分かってるんですか?」
「分かってるよ。でも受け入れてるの、もうこうなったら元の世界に戻れるまで頑張るしかないから」
ポトフとハンバーグにしようと決めて、動き出すと、エリオは肩をすくめて笑った。
「なるほど、アンリ様がお気に召した理由が少し分かりました」
「え、どういうこと?」
「あなたの存在に何か言葉にならないパワーを感じます」
そう微笑むと、エリオは丁寧にお辞儀をした。
「朝食が出来たらおしらせください。それでは……よろしくお願いします」
エリオが出て行くと、私は妙な気持ちで料理を始める。
(異世界で王子とその従者のためにご飯を作るなんて、なかなか面白い体験をしている。元の世界に戻って話しても、誰も信用しないだろうな……)
そんなことを考えながら手を動かしていると、不思議と後ろ向きな気持ちにはならなかった。
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