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一章 学生、古物商、聖職者
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「誰から行く? 斎藤君」オフィスビルを出て、日光を全身で浴びながら、要が尋ねる。
「古物商の青年から伺いましょう。元気な学生と要さんの友達に比べたら、だいぶ話が通じそうだ」空から遠慮なく注がれる、季節外れの太陽光に顔をしかめながら、斎藤が答えた。
写真の店番の青年の堅実そうな雰囲気の他にも、斎藤は純粋に、写真の古物店がどんなものなのか気になっていた。
A市での生活は長いが、こんな隠れ家的な怪しい店があるなんて知らなかった。いいなぁ、俺もあんなところで働いてみたい。滅茶苦茶怪しい声で「へへ……いらっしゃい」とか言ってみたい。くだらない妄想を募らせながら、前を歩く要に続く。
「カミキ君からね、お店に居るといいけど」手を後ろで組んでひょこひょこと軽快に歩く要と、ゆっくりとその後を追う斎藤。相変わらず犬の散歩みたいだな。祖父の家で飼っているレトリバーと戯れるような気持ちで、小路に入っていった要を追いかける。
「あ、これだね」「え、これっ⁉」大通りから外れてすぐ、繫華街の外れに位置する小綺麗なレストランが並んだ通りの中、要が唐突に立ち止まる。
「これ店だったのか……」
おおよそ場末の繁華街には似つかわしくない、立派で存在感のある洋館だ。風化し蔦が蔓延った赤レンガ造りの壁や、埃まみれで中が見えない窓ガラスが、湿った雰囲気をこれでもかと醸し出している。繁華街に行こうと通りを歩くたびに、嫌でも目に付く、有名な古い屋敷だった。
ホラーゲームみたいな家だよね。洋館とは道路を挟んだ向かい側に位置するイタリアンレストランで、駅で声を掛けた女性と食事をしながら、そんな話をしたことを思い出す。
「あんなにボロっちいのに、なんで取り壊さないんだろう」普段は出さないような、甘えた声ととろんとした瞳でテーブルの向かいの女性に語りかける。自分のような大男が見せる、ギャップのある仕草に弱い女性が多いのは、過去の経験から気が付いていた。
「ああ、あそこね、誰か住んでるみたいだよ?」鮮やかな緑色のバジルパスタを口に運びながら、女性が明朗な声を上げる。
赤いメタルフレームの眼鏡と、真珠のようなキラキラとした丸い瞳、丁寧に切りそろえられたショートの髪がよく似合う、同年代の女性だった。活発そうな雰囲気と、博学で色々な事を教えてくれるギャップが可愛らしい、一緒に過ごしていて楽しい女性だった。
「何でも、真夏でもフードとスーツの怪しい二人組とか、怪しい引っ越し業者とかが毎日出入りしてるんだって」
「何それ、ただの噂話だろ?」噂話を軽く聞き流すと、斎藤はワインをゆっくりと口に含む。嗅ぎなれないアルコールと果物の混じった香りと、ざらりとした舌触りが口いっぱいに広がる。
「ねえ、この後どうするの? まさかホントにご飯に誘っただけじゃ、ないよね?」パスタが半分程に減った辺りで、女性が緊張と期待が混ざった目線で斎藤を見つめる。
この調子ならイケるな。この通りにホテルあったっけ? 内心したり顔で、斎藤はワイングラスを更に傾ける。
今思えば、引っ越し業者の方は財団だろうな。何かしら資金源になりそうなものを搬入なり輸出なりしてたんだろう。
財団に入りたてで、給料の良さと、同班の上司の面倒見の良さに浮かれていた頃の自分を回想しながら、斎藤は再び洋館と、その周辺を見渡す。
「さ、行こうぜ」要が鈍色の門に手をかける。ぎぎぎ、と軋むような音が、人通りの少ない繁華街に響いた。
「でも本当、この音といい、小汚い外壁といい──」
「バイオハザードみてぇだろ、残念だが中にゾンビはいねぇぞ」
突然の門の内側からの声に、全身の毛が逆立つ。あまりにも自然に、始めから植物のようにそこに生えていたのように、やせぎすでひょろりと背の高い青年が、長い髪をうなじの上で纏めた頭を掻きながら門の前に立っていた。
「何びっくりしてんだ、人類研究財団から今日は店閉めて面接官を待てって通達が来たんだ、暇になったら店の手入れくらいするさ」手にした高枝切りばさみを芝生の上に投げ捨てながら、不機嫌そうに続ける。「屋敷をこの外観に保つのにも努力がいるんだ、むしりすぎない程度に雑草を処理したり、古くなった窓ガラスを曇りガラスに替えたりな」
「趣味の外見なんですね」驚いた様子も、怯む様子もなく、要が素直な感想を漏らす。でも先輩、フレンドリーなのはいい事だけど、それ聞かなきゃいけない事ですか?
「ああ、いい趣味してるだろ? こんな家さっさと売り飛ばしたいんだけどな」嬉しそうに、しかし何処か寂しそうに、青年が静かな笑みを浮かべる。何かある家なんだろうか。母親をここで亡くしたとか。斎藤は勝手に想像を巡らせる。
「立ち話もなんだ、すぐに終わる話なんだろうが、まあ、上がんなよ。中は商品ばっかだけど、お茶ぐらい出せる」
青年がくるりと屋敷に向き直り、そこら中に散らばった鋏やバケツ、小さなトラクターのような芝刈り機を、片付ける素振りも見せず一直線に屋敷に向かって歩き出す。
「行こう、こういうところの来客用のお茶って、何置いてるんだろうね」
要はどこまでも呑気だった。知り合いだからか、青年から滲み出る怪しさや胡散臭さを歯牙にもかけず、蝶つがいの錆びついた門に手をかける。
「ようこそ、古物買取店『亜人館』へ」
「すごい、博物館みたいだ。散らかってるけど」要の口から率直な感想が漏れる。
カメラの部品らしき機械、どこか懐かしいデザインのブリキのロボット、昭和を感じさせる真っ白な陶器のポッドや、華やかな柄の付いた皿が規則正しく、本棚のように天井から床下までずらりと並べられた店内に案内される。元がどんな間取りだったのか想像もつかない程に乱雑に置かれた棚に、用途、材質、大きさ、形、色に至るまで、しっかりと分類された中古品達が詰め込まれていた。
「倒すなよ、どれもこれもこの世に二つとない品だ」青年が自慢げな笑みを見せる。
「この世に二つとない物なら、売りに出さずきちんとしまっておいた方がいいんじゃないかな」しまった。口にした後で、意地悪な質問だったと気がつく。やっちまった。スカウトの為に出向いたのに、いの一番に不快にさせてどうする……
「いいんだよ、出してた方が。ここにあんのは全部、大掃除とかで捨てるのを惜しまれた末にここに流れ着いた、誰かの優しさが詰まった品ばかりだ」手頃な位置に飾られていたブリキの車のおもちゃを撫でながら、青年は意に反して、穏やかな顔を斎藤に向ける。
「押し入れの中に閉じ込められて、いつの間にか大切に使われていたのを忘れられるより、ここで誰かに買われて、もう一度大切に使われるのを待ってた方が、こいつらにとって幸せだろ?」
「大切に使われるとは限らないじゃないか。『中古品だから壊れてもいいや』という気持ちで買っていく客だっているかもしれない」価値を確かめようと、適当な皿に手を伸ばす。
ティーカップに伸ばした手首を、まるで妖怪のような、爪の伸びた白い手が捕らえた。
「え」斎藤が驚いた声を上げる間もなく、視点が手ブレの酷い写真のように、ぐわっと大きく揺れる。コンマ数秒遅れて、引っ張られたのだと気がつく。
混乱の中、手首を握っていた白い手が二本に増え、両手首、関節、肩、首と目まぐるしく、舞うように取り付く位置を変えていく。
視界の揺れが治まった時には、斎藤は青年に後ろから、片腕でハグされるような形で締めあげられていた。
振りほどこうと両腕に力を込める。同時に青年が右の握り拳を目前に差し出した。いつの間にか手に握られていた、かぎ爪のような形状のナイフが鈍く光る。
「言ってろ、お前は二度と店に入れてやらんからな」
顔のすぐ横で、隈だらけの鋭い三白眼が、そのまま刺さるかのように斎藤を睨む。きつい口調と目つきとは裏腹に、青年の声は半笑いのように震えていた。怒っているのか、冗談なのか。
「殺す気かよ」焦りと怯え、皮肉への後悔を悟られないよう、落ち着いた声を絞り出す。二度と店に入れてくれないって、そういう事?
「殺しやぁしねえよ、ただ、人の気持ちと中古品をバカにするとどうなるか、思い知ってもらおうか」黒い刃のナイフが、猫を撫でるように柔らかく、ゆっくりと頬に薄く食い込む。浅い傷だ、大丈夫。命に別状はない。
判断はついたが、鋭い痛みと、目の横で光る凶器が必要以上に脳を焦らせる。大丈夫、大丈夫。死ぬ事はない。だから落ち着け俺。
「斎藤君! どこー!」呑気な要の声が、少し離れた棚の向こう側から聞こえた。「見て見て! 凄いの見つけちゃった!」
「谷内に免じて放してやる。返事してやれ」万力のような力で胴体を締めあげていた左手も、かぎ爪ナイフが光る右手も、するりと糸がほどけるように体から離れた。その場に膝から崩れ落ち、荒い息で思考を落ち着ける。大丈夫だ、大丈夫。もう死ぬことはない。だから大丈夫。
「あれ? 何してんのさ」要がひょっこりと顔を覗かせる。
「彼、転びそうだったんでね。手を差し伸べたんだが、間に合わなかったよ、幸い彼もひっかき傷程度で済んだみたいだし、商品も無事だったからいいんだが」爽やかな微笑を湛え、
「そんなことより、見て見て! ガンダムのブリキ置いてあるよ! 超レアなやつ!」子供のような可愛らしい笑顔でブリキの人形を掲げている。
「お買い上げになさいますか? 千四百円になります」
青年が紳士のように、丁重に礼をする。こんな奴を仲間に引き入れて、一体どうする気なんだ?
「古物商の青年から伺いましょう。元気な学生と要さんの友達に比べたら、だいぶ話が通じそうだ」空から遠慮なく注がれる、季節外れの太陽光に顔をしかめながら、斎藤が答えた。
写真の店番の青年の堅実そうな雰囲気の他にも、斎藤は純粋に、写真の古物店がどんなものなのか気になっていた。
A市での生活は長いが、こんな隠れ家的な怪しい店があるなんて知らなかった。いいなぁ、俺もあんなところで働いてみたい。滅茶苦茶怪しい声で「へへ……いらっしゃい」とか言ってみたい。くだらない妄想を募らせながら、前を歩く要に続く。
「カミキ君からね、お店に居るといいけど」手を後ろで組んでひょこひょこと軽快に歩く要と、ゆっくりとその後を追う斎藤。相変わらず犬の散歩みたいだな。祖父の家で飼っているレトリバーと戯れるような気持ちで、小路に入っていった要を追いかける。
「あ、これだね」「え、これっ⁉」大通りから外れてすぐ、繫華街の外れに位置する小綺麗なレストランが並んだ通りの中、要が唐突に立ち止まる。
「これ店だったのか……」
おおよそ場末の繁華街には似つかわしくない、立派で存在感のある洋館だ。風化し蔦が蔓延った赤レンガ造りの壁や、埃まみれで中が見えない窓ガラスが、湿った雰囲気をこれでもかと醸し出している。繁華街に行こうと通りを歩くたびに、嫌でも目に付く、有名な古い屋敷だった。
ホラーゲームみたいな家だよね。洋館とは道路を挟んだ向かい側に位置するイタリアンレストランで、駅で声を掛けた女性と食事をしながら、そんな話をしたことを思い出す。
「あんなにボロっちいのに、なんで取り壊さないんだろう」普段は出さないような、甘えた声ととろんとした瞳でテーブルの向かいの女性に語りかける。自分のような大男が見せる、ギャップのある仕草に弱い女性が多いのは、過去の経験から気が付いていた。
「ああ、あそこね、誰か住んでるみたいだよ?」鮮やかな緑色のバジルパスタを口に運びながら、女性が明朗な声を上げる。
赤いメタルフレームの眼鏡と、真珠のようなキラキラとした丸い瞳、丁寧に切りそろえられたショートの髪がよく似合う、同年代の女性だった。活発そうな雰囲気と、博学で色々な事を教えてくれるギャップが可愛らしい、一緒に過ごしていて楽しい女性だった。
「何でも、真夏でもフードとスーツの怪しい二人組とか、怪しい引っ越し業者とかが毎日出入りしてるんだって」
「何それ、ただの噂話だろ?」噂話を軽く聞き流すと、斎藤はワインをゆっくりと口に含む。嗅ぎなれないアルコールと果物の混じった香りと、ざらりとした舌触りが口いっぱいに広がる。
「ねえ、この後どうするの? まさかホントにご飯に誘っただけじゃ、ないよね?」パスタが半分程に減った辺りで、女性が緊張と期待が混ざった目線で斎藤を見つめる。
この調子ならイケるな。この通りにホテルあったっけ? 内心したり顔で、斎藤はワイングラスを更に傾ける。
今思えば、引っ越し業者の方は財団だろうな。何かしら資金源になりそうなものを搬入なり輸出なりしてたんだろう。
財団に入りたてで、給料の良さと、同班の上司の面倒見の良さに浮かれていた頃の自分を回想しながら、斎藤は再び洋館と、その周辺を見渡す。
「さ、行こうぜ」要が鈍色の門に手をかける。ぎぎぎ、と軋むような音が、人通りの少ない繁華街に響いた。
「でも本当、この音といい、小汚い外壁といい──」
「バイオハザードみてぇだろ、残念だが中にゾンビはいねぇぞ」
突然の門の内側からの声に、全身の毛が逆立つ。あまりにも自然に、始めから植物のようにそこに生えていたのように、やせぎすでひょろりと背の高い青年が、長い髪をうなじの上で纏めた頭を掻きながら門の前に立っていた。
「何びっくりしてんだ、人類研究財団から今日は店閉めて面接官を待てって通達が来たんだ、暇になったら店の手入れくらいするさ」手にした高枝切りばさみを芝生の上に投げ捨てながら、不機嫌そうに続ける。「屋敷をこの外観に保つのにも努力がいるんだ、むしりすぎない程度に雑草を処理したり、古くなった窓ガラスを曇りガラスに替えたりな」
「趣味の外見なんですね」驚いた様子も、怯む様子もなく、要が素直な感想を漏らす。でも先輩、フレンドリーなのはいい事だけど、それ聞かなきゃいけない事ですか?
「ああ、いい趣味してるだろ? こんな家さっさと売り飛ばしたいんだけどな」嬉しそうに、しかし何処か寂しそうに、青年が静かな笑みを浮かべる。何かある家なんだろうか。母親をここで亡くしたとか。斎藤は勝手に想像を巡らせる。
「立ち話もなんだ、すぐに終わる話なんだろうが、まあ、上がんなよ。中は商品ばっかだけど、お茶ぐらい出せる」
青年がくるりと屋敷に向き直り、そこら中に散らばった鋏やバケツ、小さなトラクターのような芝刈り機を、片付ける素振りも見せず一直線に屋敷に向かって歩き出す。
「行こう、こういうところの来客用のお茶って、何置いてるんだろうね」
要はどこまでも呑気だった。知り合いだからか、青年から滲み出る怪しさや胡散臭さを歯牙にもかけず、蝶つがいの錆びついた門に手をかける。
「ようこそ、古物買取店『亜人館』へ」
「すごい、博物館みたいだ。散らかってるけど」要の口から率直な感想が漏れる。
カメラの部品らしき機械、どこか懐かしいデザインのブリキのロボット、昭和を感じさせる真っ白な陶器のポッドや、華やかな柄の付いた皿が規則正しく、本棚のように天井から床下までずらりと並べられた店内に案内される。元がどんな間取りだったのか想像もつかない程に乱雑に置かれた棚に、用途、材質、大きさ、形、色に至るまで、しっかりと分類された中古品達が詰め込まれていた。
「倒すなよ、どれもこれもこの世に二つとない品だ」青年が自慢げな笑みを見せる。
「この世に二つとない物なら、売りに出さずきちんとしまっておいた方がいいんじゃないかな」しまった。口にした後で、意地悪な質問だったと気がつく。やっちまった。スカウトの為に出向いたのに、いの一番に不快にさせてどうする……
「いいんだよ、出してた方が。ここにあんのは全部、大掃除とかで捨てるのを惜しまれた末にここに流れ着いた、誰かの優しさが詰まった品ばかりだ」手頃な位置に飾られていたブリキの車のおもちゃを撫でながら、青年は意に反して、穏やかな顔を斎藤に向ける。
「押し入れの中に閉じ込められて、いつの間にか大切に使われていたのを忘れられるより、ここで誰かに買われて、もう一度大切に使われるのを待ってた方が、こいつらにとって幸せだろ?」
「大切に使われるとは限らないじゃないか。『中古品だから壊れてもいいや』という気持ちで買っていく客だっているかもしれない」価値を確かめようと、適当な皿に手を伸ばす。
ティーカップに伸ばした手首を、まるで妖怪のような、爪の伸びた白い手が捕らえた。
「え」斎藤が驚いた声を上げる間もなく、視点が手ブレの酷い写真のように、ぐわっと大きく揺れる。コンマ数秒遅れて、引っ張られたのだと気がつく。
混乱の中、手首を握っていた白い手が二本に増え、両手首、関節、肩、首と目まぐるしく、舞うように取り付く位置を変えていく。
視界の揺れが治まった時には、斎藤は青年に後ろから、片腕でハグされるような形で締めあげられていた。
振りほどこうと両腕に力を込める。同時に青年が右の握り拳を目前に差し出した。いつの間にか手に握られていた、かぎ爪のような形状のナイフが鈍く光る。
「言ってろ、お前は二度と店に入れてやらんからな」
顔のすぐ横で、隈だらけの鋭い三白眼が、そのまま刺さるかのように斎藤を睨む。きつい口調と目つきとは裏腹に、青年の声は半笑いのように震えていた。怒っているのか、冗談なのか。
「殺す気かよ」焦りと怯え、皮肉への後悔を悟られないよう、落ち着いた声を絞り出す。二度と店に入れてくれないって、そういう事?
「殺しやぁしねえよ、ただ、人の気持ちと中古品をバカにするとどうなるか、思い知ってもらおうか」黒い刃のナイフが、猫を撫でるように柔らかく、ゆっくりと頬に薄く食い込む。浅い傷だ、大丈夫。命に別状はない。
判断はついたが、鋭い痛みと、目の横で光る凶器が必要以上に脳を焦らせる。大丈夫、大丈夫。死ぬ事はない。だから落ち着け俺。
「斎藤君! どこー!」呑気な要の声が、少し離れた棚の向こう側から聞こえた。「見て見て! 凄いの見つけちゃった!」
「谷内に免じて放してやる。返事してやれ」万力のような力で胴体を締めあげていた左手も、かぎ爪ナイフが光る右手も、するりと糸がほどけるように体から離れた。その場に膝から崩れ落ち、荒い息で思考を落ち着ける。大丈夫だ、大丈夫。もう死ぬことはない。だから大丈夫。
「あれ? 何してんのさ」要がひょっこりと顔を覗かせる。
「彼、転びそうだったんでね。手を差し伸べたんだが、間に合わなかったよ、幸い彼もひっかき傷程度で済んだみたいだし、商品も無事だったからいいんだが」爽やかな微笑を湛え、
「そんなことより、見て見て! ガンダムのブリキ置いてあるよ! 超レアなやつ!」子供のような可愛らしい笑顔でブリキの人形を掲げている。
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