斜陽街

日生ななめ

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二章 われわれのいる意味

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「でね、結局リッヒーの鳴り物入りで、この二人の編入が決まった訳なんだけどさ、この二人がまた曲者で……」「──くせもの? めずらしいね、カナメがそんなこというなんて」
 そのどこか奇妙な物言いに、僕は思わず吹き出してしまう。
「……なにが、おもしろかったの?」「いやぁ、始めて君にあった頃に比べると、相当成長したなぁって」
 目を閉じれば簡単に思い浮かぶ。リッヒーとアキちゃんとはぐれて、始めてこの純白のドームを見つけた日の事。世界を焼くような太陽の光、風も蝉の声もなく神秘的なほどに静まり返った森、薄暗い森の中で、しっとりとした光を放つ白いドーム。
「何言っても『うん』と『そう』しか返事が返って来なかった女の子から、職場の心配されるなんて思わなかったなぁ」「しんぱい、だよ? わたしの、おうじさまだもの」
 再び吹き出す。王子様? 僕が?
「どこで習ったのさ、そんな言い回し」「それこそ、カナメから。ななねんくらいまえにいっかいだけ、えほんのはなししてくれた」
「あぁ、思い出した。リッヒーとアキちゃん始めて連れて来た時だよね」
 森の中に、お姫様がいる。そう語った僕のことを怪しがる二人を連れ、お気に入りだった絵本を抱えて、そよ風と暖かい陽射しに満ちた森を突き進んだ日の事を思い出す。
「……わたし、あのひとたちきらいだな。カナメにうそついてるみたいなんだもん」
 どんなうそを? それは怖くて聞けなかった。たまによそよそしいの気づいてたしね。
「……そっかぁ……二人の事、嫌いかぁ」「きらい」
 流れるように呟かれたその言葉に、苦笑いを浮かべる。
「そこから出れたら、嫌いでも仲良くしてあげてね?」
「……ん。カナメがいうなら、なかよくしてあげる」「ん、ありがとね」
 相槌の真似されるのが気に入ったのか、彼女がくすくすと笑う声が聞こえた。僕も嬉しくて、自然とふふふと小さな笑い声がもれてしまう。くぐもった笑い声と、小さな僕の笑い声。笑い声の輪唱は、響くことも無く森の中に消えていく。


「空、晴れてきたね」後ろでぼんやりと呟いた遥の声が、鳴り響くチャイムの音の中でもはっきりと耳に届いた。
 遥の語る通り、薄い布を被せたかのように太陽の光を阻む曇り空には、ちらほらと久方ぶりに望む青空が覗いていた。
「いいねえ、空も俺達を祝福している。今日はいい事あるぜ」
「本気かお前……」
 皮肉とも慰めともつかない鰰の冗談に、自身も文句で応じる。
 自宅で日常を過ごす目標が、財団の死神とも知らず呼び出しに応じるのを待つだけのこの時間が、斎藤にとっては何よりの苦痛だった。今度の目標はどのタイプだろうな。

玄関の奥からは、ぱたぱたと軽快な足音で階段を駆け下りるのが聞えた。
「……ヘラヘラすんのはここまでだ。俺たちが直接何かした訳じゃなくても、被害者だって事、忘れるな」まっすぐにドアを見据えながら、後ろで待機する二人に警告する。


「はい……ッ!」ドアの隙間から覗いた顔が、物凄い速度で恐怖と焦りで歪んでいく。ああ、このタイプか、財団の事を今の今まで他人事だと思ってたタイプ。ハズレだな。げんなりとしながら目標の顔が写真との相違ない事を確認し、素早くドアのすき間に手をねじ込む。
「……祥子さん、ですよね? 人研財団異能研究課、実働班所属の斎藤です。こちらでの預かってるの安否について、少しお話したい事があります。少々、お時間頂いても宜しいでしょうか」
 ドアが閉じられる前に一息で口上を述べる。こんな事ばっかりしてるから、いや違う。こんな形でしかできないから、ゲリラ的な捜査しか行えないから、財団の評判は悪いんだよな。

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