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俺はヒーローになりたかった[大人組過去編]
2人の愛の証明に…side智也
しおりを挟む崩壊の日は必ず来る。
壊れるのが怖いなら、初めから捨ててしまえばいい。
どうしたって戻らないなら、諦めてしまえばいい。
好きだった気持ちを忘れればいいだけ。
それだけだ。簡単なことだ。
いつも、そうやって乗り越えて来た。
諦めて、忘れて、捨てる。
悲しい気持ちも、うれしかったことでさえ全部、消してしまえばいい。
溢れる涙はきっといつか乾くから。
きっといつか、その涙さえ忘れてしまうから。
だから・・・。
その日は運が悪かった。
学校から家に帰ると、珍しく母の靴があったんだ。
嫌な予感がした。ご飯とか風呂とか、どうでもいい。早く、早く自分の部屋に入らないと。
いつもなら揃える靴を放り出して、けれど、音を立てないように、冷や汗を見ないフリして部屋に急いだ。
扉のノブに触れ、安堵しながら部屋を開けた。
けれど、その人はその部屋の中にいた。
ヒュッと喉が鳴った。
その音が合図みたいに、その人と目が合った。
「かえったのね。」
人の部屋で何してるんだとか、勝手に入るなとか、何で今日は帰りが早いんだとか、本当は聞きたいことなんて山程あったのに、久しぶりに聞いたその人の声に心が負けた。
怖い。
でも、今日は優しい?
怖い。
もしかしたら、前みたいに笑いかけてくれる?
怖い。
全部、許してくれる?
だけど、僕が何をしたっていうんだ。
それでも、また、あの頃に戻れるなら・・・。
そんな馬鹿みたいな考えが頭を回っていると、その人は急に笑顔になった。
その笑顔を望んでいたはずなのに、その人の目が、ずっと僕を睨んでいるようで、咄嗟に目を逸らした。
「ねぇ、智也。あんた、どっちがいい?」
久々に聞く怒鳴り声じゃない優しい声。
けれど、質問の意図が分からなくて母を見る。
「あんたは、1人で生きてけそうだし、別にそれでもいいんだけどさ。一応、本人の意見も聞かないといけないじゃない?」
「ぇ?」
「だから、私と父親、どっちについてくるかって話よ。離婚するの。」
「・・・は?」
壊れるだけしか道がないなら、早く壊してしまえばいいのに。
元に戻らないなら、初めから無くなればいいのに。
けど、でも、それでも、元に戻るかもしれない。
壊れてないなら、治るかもしれない。
嬉しかった気持ちを消さなくていいなら、悲しいのだって消えなくていい。
本当は、壊れて欲しくなんてない。
仲が良ければ、そのほうがいいに決まってる。
悪くたって、喧嘩ばかりだって、自分がいることは愛の証明なんだから。
自分が生きてるってことを、喜んでいたのは2人なんだから。
僕はいらないわけじゃない。
もう、いつからだろう。
いつから、壊れていたんだろう。
喧嘩の原因は違くても、最後は結局息子のことになる。
どっちが、引き取るのか。引き取ったとして、金はどうするんだ。
こんなことならはじてから・・・。
責任が持てないなら、初めから・・・。
「ねぇ、聞いてるの?」
「少し、考えさせて。」
「…わかったわ。でも、できるだけ早く決めてよね。」
本当は気付いていた。
わかっていた。
僕が、壊してしまったんだ。
僕が生きていたから、2人は壊れてしまったんだ。
僕さえいなければ、もっと2人は、きっと、幸せだったのに。
僕は、1人になった部屋の中で、ただ、呆然と流れるだけの涙をそのままにしていた。
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