俺はヒーローなんかじゃない

ここクマ

文字の大きさ
60 / 68
俺はヒーローになりたかった[大人組過去編]

2人の愛の証明に…side智也

しおりを挟む

崩壊の日は必ず来る。
壊れるのが怖いなら、初めから捨ててしまえばいい。

どうしたって戻らないなら、諦めてしまえばいい。

好きだった気持ちを忘れればいいだけ。
それだけだ。簡単なことだ。

いつも、そうやって乗り越えて来た。
諦めて、忘れて、捨てる。
悲しい気持ちも、うれしかったことでさえ全部、消してしまえばいい。

溢れる涙はきっといつか乾くから。
きっといつか、その涙さえ忘れてしまうから。

だから・・・。



その日は運が悪かった。

学校から家に帰ると、珍しく母の靴があったんだ。
嫌な予感がした。ご飯とか風呂とか、どうでもいい。早く、早く自分の部屋に入らないと。
いつもなら揃える靴を放り出して、けれど、音を立てないように、冷や汗を見ないフリして部屋に急いだ。

扉のノブに触れ、安堵しながら部屋を開けた。

けれど、その人はその部屋の中にいた。

ヒュッと喉が鳴った。

その音が合図みたいに、その人と目が合った。

「かえったのね。」

人の部屋で何してるんだとか、勝手に入るなとか、何で今日は帰りが早いんだとか、本当は聞きたいことなんて山程あったのに、久しぶりに聞いたその人の声に心が負けた。

怖い。
でも、今日は優しい?
怖い。
もしかしたら、前みたいに笑いかけてくれる?
怖い。
全部、許してくれる?

だけど、僕が何をしたっていうんだ。

それでも、また、あの頃に戻れるなら・・・。

そんな馬鹿みたいな考えが頭を回っていると、その人は急に笑顔になった。

その笑顔を望んでいたはずなのに、その人の目が、ずっと僕を睨んでいるようで、咄嗟に目を逸らした。

「ねぇ、智也。あんた、どっちがいい?」

久々に聞く怒鳴り声じゃない優しい声。
けれど、質問の意図が分からなくて母を見る。

「あんたは、1人で生きてけそうだし、別にそれでもいいんだけどさ。一応、本人の意見も聞かないといけないじゃない?」

「ぇ?」

「だから、私と父親、どっちについてくるかって話よ。離婚するの。」

「・・・は?」


壊れるだけしか道がないなら、早く壊してしまえばいいのに。
元に戻らないなら、初めから無くなればいいのに。

けど、でも、それでも、元に戻るかもしれない。
壊れてないなら、治るかもしれない。

嬉しかった気持ちを消さなくていいなら、悲しいのだって消えなくていい。

本当は、壊れて欲しくなんてない。
仲が良ければ、そのほうがいいに決まってる。
悪くたって、喧嘩ばかりだって、自分がいることは愛の証明なんだから。
自分が生きてるってことを、喜んでいたのは2人なんだから。

僕はいらないわけじゃない。


もう、いつからだろう。
いつから、壊れていたんだろう。

喧嘩の原因は違くても、最後は結局息子じぶんのことになる。
どっちが、引き取るのか。引き取ったとして、金はどうするんだ。

こんなことならはじてから・・・。
責任が持てないなら、初めから・・・。

「ねぇ、聞いてるの?」

「少し、考えさせて。」

「…わかったわ。でも、できるだけ早く決めてよね。」


本当は気付いていた。
わかっていた。
僕が、壊してしまったんだ。
僕が生きていたから、2人は壊れてしまったんだ。

僕さえいなければ、もっと2人は、きっと、幸せだったのに。

僕は、1人になった部屋の中で、ただ、呆然と流れるだけの涙をそのままにしていた。

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

昔「結婚しよう」と言ってくれた幼馴染は今日、僕以外の人と結婚する

子犬一 はぁて
BL
幼馴染の君は、7歳のとき 「大人になったら結婚してね」と僕に言って笑った。 そして──今日、君は僕じゃない別の人と結婚する。 背の低い、寝る時は親指しゃぶりが癖だった君は、いつの間にか皆に好かれて、彼女もできた。 結婚式で花束を渡す時に胸が痛いんだ。 「こいつ、幼馴染なんだ。センスいいだろ?」 誇らしげに笑う君と、その隣で微笑む綺麗な奥さん。 叶わない恋だってわかってる。 それでも、氷砂糖みたいに君との甘い思い出を、僕だけの宝箱にしまって生きていく。 君の幸せを願うことだけが、僕にできる最後の恋だから。

【完結・BL】春樹の隣は、この先もずっと俺が良い【幼馴染】

彩華
BL
俺の名前は綾瀬葵。 高校デビューをすることもなく入学したと思えば、あっという間に高校最後の年になった。周囲にはカップル成立していく中、俺は変わらず彼女はいない。いわく、DTのまま。それにも理由がある。俺は、幼馴染の春樹が好きだから。だが同性相手に「好きだ」なんて言えるはずもなく、かといって気持ちを諦めることも出来ずにダラダラと片思いを続けること早数年なわけで……。 (これが最後のチャンスかもしれない) 流石に高校最後の年。進路によっては、もう春樹と一緒にいられる時間が少ないと思うと焦りが出る。だが、かといって長年幼馴染という一番近い距離でいた関係を壊したいかと問われれば、それは……と踏み込めない俺もいるわけで。 (できれば、春樹に彼女が出来ませんように) そんなことを、ずっと思ってしまう俺だが……────。 ********* 久しぶりに始めてみました お気軽にコメント頂けると嬉しいです ■表紙お借りしました

好きだからキスしたい

すずかけあおい
BL
「たまには実晴からキスしてみろ」攻めからキスを求められた受けの話です。 〔攻め〕玲央 〔受け〕実晴

雪を溶かすように

春野ひつじ
BL
人間と獣人の争いが終わった。 和平の条件で人間の国へ人質としていった獣人国の第八王子、薫(ゆき)。そして、薫を助けた人間国の第一王子、悠(はる)。二人の距離は次第に近づいていくが、実は薫が人間国に行くことになったのには理由があった……。 溺愛・甘々です。 *物語の進み方がゆっくりです。エブリスタにも掲載しています

【8話完結】僕の大切な人はBLゲームの主人公でした。〜モブは主人公の幸せのためなら、この恋も諦められます〜

キノア9g
BL
転生先は、まさかのBLゲームの世界。 モブであるリセルは、恋を自覚した瞬間、幼馴染・セスがこの世界の“主人公”だと気づいてしまう。 このまま一緒にいても、いつか彼は攻略対象に惹かれていく運命——それでも、今だけは傍にいたい。 「諦める覚悟をしたのに、どうしてこんなにも君が愛おしいんだろう」 恋の終わりを知っているモブと、想いを自覚していく主人公。 甘さと切なさが胸を締めつける、すれ違いから始まる運命の物語。 全8話。

happy dead end

瑞原唯子
BL
「それでも俺に一生を捧げる覚悟はあるか?」 シルヴィオは幼いころに第一王子の遊び相手として抜擢され、初めて会ったときから彼の美しさに心を奪われた。そして彼もシルヴィオだけに心を開いていた。しかし中等部に上がると、彼はとある女子生徒に興味を示すようになり——。

だって、君は210日のポラリス

大庭和香
BL
モテ属性過多男 × モブ要素しかない俺 モテ属性過多の理央は、地味で凡庸な俺を平然と「恋人」と呼ぶ。大学の履修登録も丸かぶりで、いつも一緒。 一方、平凡な小市民の俺は、旅行先で両親が事故死したという連絡を受け、 突然人生の岐路に立たされた。 ――立春から210日、夏休みの終わる頃。 それでも理央は、変わらず俺のそばにいてくれて―― 📌別サイトで読み切りの形で投稿した作品を、連載形式に切り替えて投稿しています。  エピローグまで公開いたしました。14,000字程度になりました。読み切りの形のときより短くなりました……1000文字ぐらい書き足したのになぁ。

笑って下さい、シンデレラ

椿
BL
付き合った人と決まって12日で別れるという噂がある高嶺の花系ツンデレ攻め×昔から攻めの事が大好きでやっと付き合えたものの、それ故に空回って攻めの地雷を踏みぬきまくり結果的にクズな行動をする受け。 面倒くさい攻めと面倒くさい受けが噛み合わずに面倒くさいことになってる話。 ツンデレは振り回されるべき。

処理中です...