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第四章 ならず者たちの挽歌
第二百十六話 クロード再び
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サイクロプスのいた階の上。セオドアはアレックスとドワイトの遺体を担ぎ、ロナルドは彼を護衛する形で出口へ向かっていた。
ロナルドは松明を左手に、鎖分銅を右手に持って火吐きネズミを迎え撃つ準備をしていたが、その必要はなかった。サイクロプスが死んだことで、洞窟内の魔獣は一時的に勢いを失っていたのだ。
たまに彼らの前に現れる者がいたとしても意味はない。
「来やがったか」
目の前に一匹の火吐き鼠が現れると、ロナルドは鎖分銅を回し始めた。しかしセオドアはそれを制した。
「ロナルド、下がってろ」
セオドアは一歩前に出て火吐き鼠を睨みつけた。
失せろ。俺たちを阻む者には容赦しない。セオドアがそう念じていたのかどうかは定かではないが、彼の無言の圧力を前に、一匹のはぐれ火吐き鼠は怯えて逃げて行った。
セオドアにとってアレックスは特別な存在だった。そのアレックスの遺体を埋葬し、供養するためならなんでもする。その気迫が、洞窟内の魔獣をより一層遠ざけた。その後も数回、魔獣に遭遇する場面があったが、誰も彼に挑もうとはしなかった。
順路を記憶していたロナルドの先導のおかげで、二人は最短ルートで一階まで戻ることができた。出口は近い。遠くからかすかに夕日が差し込んでいた。
「おっさん、もうすぐ出口だぜ」
ロナルドが言った。
「ああ。だがおそらくあの特殊部隊の連中は……」
「だよな。ここでお縄か。せめてお頭とドワイトに墓ぐらい立ててやりたかったな」
二人はここに来て諦めムードになった。クーランの特殊部隊はたった二人で切り抜けられるような相手ではない。来るときはアレックスがいたから切り抜けられたにすぎない。薄々わかっていたことだが、二人はなんともやるせない気分だった。
「あと、気になってた事があるんだ」
ロナルドは重ねて、一層暗い表情で言った。セオドアも、彼がなにを気にしているか想像がついた。
「……口封じか」
「やっぱあんたも考えてたか」
「そりゃそうだ。あの一つ目の巨人。あれは間違いなく重大な機密に触れるものだ。だからあの連中は途中で俺たちを追うのをやめた」
サイクロプス、守護聖獣、オーブ……。あの場でこれらの意味を把握していたのはハリルたち三人だけだったが、目撃者の存在もクーラン帝国にとっては厄介なもの。このあと暗殺される可能性も当然考えられる。
セオドアは大きなため息をついた。
「いままでさんざ社会に迷惑かけてきたんだ。俺たちは始末されても文句を言える立場ではない」
「だな。それにお頭たちの後を追えると思えば、少しは割り切れないこともねぇか」
二人は覚悟を決め、ゆっくりと出口に向かって歩いた。
「よう! セオドア! 元気か?」
そこでいきなり、聞き覚えのある声が聞こえてきた。夕日が逆光になってシルエットしか見えなかったが、セオドアはそれが誰か、一瞬で理解した。
「おまえ、クロード・コンスタンタンか!」
出口のすぐ手前に立っていたのは彼の因縁の相手、クロードだった。
ロナルドは松明を左手に、鎖分銅を右手に持って火吐きネズミを迎え撃つ準備をしていたが、その必要はなかった。サイクロプスが死んだことで、洞窟内の魔獣は一時的に勢いを失っていたのだ。
たまに彼らの前に現れる者がいたとしても意味はない。
「来やがったか」
目の前に一匹の火吐き鼠が現れると、ロナルドは鎖分銅を回し始めた。しかしセオドアはそれを制した。
「ロナルド、下がってろ」
セオドアは一歩前に出て火吐き鼠を睨みつけた。
失せろ。俺たちを阻む者には容赦しない。セオドアがそう念じていたのかどうかは定かではないが、彼の無言の圧力を前に、一匹のはぐれ火吐き鼠は怯えて逃げて行った。
セオドアにとってアレックスは特別な存在だった。そのアレックスの遺体を埋葬し、供養するためならなんでもする。その気迫が、洞窟内の魔獣をより一層遠ざけた。その後も数回、魔獣に遭遇する場面があったが、誰も彼に挑もうとはしなかった。
順路を記憶していたロナルドの先導のおかげで、二人は最短ルートで一階まで戻ることができた。出口は近い。遠くからかすかに夕日が差し込んでいた。
「おっさん、もうすぐ出口だぜ」
ロナルドが言った。
「ああ。だがおそらくあの特殊部隊の連中は……」
「だよな。ここでお縄か。せめてお頭とドワイトに墓ぐらい立ててやりたかったな」
二人はここに来て諦めムードになった。クーランの特殊部隊はたった二人で切り抜けられるような相手ではない。来るときはアレックスがいたから切り抜けられたにすぎない。薄々わかっていたことだが、二人はなんともやるせない気分だった。
「あと、気になってた事があるんだ」
ロナルドは重ねて、一層暗い表情で言った。セオドアも、彼がなにを気にしているか想像がついた。
「……口封じか」
「やっぱあんたも考えてたか」
「そりゃそうだ。あの一つ目の巨人。あれは間違いなく重大な機密に触れるものだ。だからあの連中は途中で俺たちを追うのをやめた」
サイクロプス、守護聖獣、オーブ……。あの場でこれらの意味を把握していたのはハリルたち三人だけだったが、目撃者の存在もクーラン帝国にとっては厄介なもの。このあと暗殺される可能性も当然考えられる。
セオドアは大きなため息をついた。
「いままでさんざ社会に迷惑かけてきたんだ。俺たちは始末されても文句を言える立場ではない」
「だな。それにお頭たちの後を追えると思えば、少しは割り切れないこともねぇか」
二人は覚悟を決め、ゆっくりと出口に向かって歩いた。
「よう! セオドア! 元気か?」
そこでいきなり、聞き覚えのある声が聞こえてきた。夕日が逆光になってシルエットしか見えなかったが、セオドアはそれが誰か、一瞬で理解した。
「おまえ、クロード・コンスタンタンか!」
出口のすぐ手前に立っていたのは彼の因縁の相手、クロードだった。
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