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序章 旅立ち
第三話 幼馴染
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ジャンはイール城に併設された学校を卒業したあと一年ほど父の手伝いをしていたが、その日は休みだったため、ジェラールが王様に会いに行っているあいだ近所をぶらぶらすることにした。
(母さんが心配するのもわかるけど、やっぱりずっとこの島にいるのは嫌なんだよな)
彼はそんなことを考えながら、見慣れた町の通りを歩いていた。そして幼馴染のシェリーの家の近くまで来た。
(まだ許可が下りるかわかんないけど、一応シェリーにも伝えておくか)
彼はそう思ってシェリーの家を訪ねた。
「すみませーん!」
「はーい!」
シェリーの家の玄関先で声をかけると、エプロンをかけたシェリーの母が表へ出てきた。
「あら、ジャンくんじゃないか。どうしたんだい?」
「うん、ちょっとシェリーに用があって」
「そうかい。シェリーなら部屋にいるよ。上がっていきな」
「ありがとう、おばちゃん」
ジャンは二階にあるシェリーの部屋へと向かった。
「おーい、シェリー、いるかー?」
ジャンはドアの外からシェリーに呼びかけた。
「いなーい」
(こいつ……)「おい、今日は大事な話があるんだ。入れてくれよ」
「愛の告白なら間に合ってるわよー」
(このヤロウ……)「んなわけねぇだろ! おまえみたいな暴力女、誰が告白なんかするかよ!」
ジャンがそう吐き捨てると、部屋の中からドアに近づいて来る足音が聞こえてきた。そしてドアが開くと、そこに現れたシェリーは間髪置かず、ジャンのみぞおちに強烈な突きを叩き込んだ。ジャンは無防備な腹に重い一撃を食らい、息も絶え絶えにせき込んでしまった。
「ごふっ! げほっ! げほっ!」
「だーれが暴力女よ、このバカ!」
「いや、そういうところが……」
「なんか言った?」
「いえ、なんにも言ってません」
「ほら、入んなさい」
「はいぃ……」
ジャンは前かがみで腹を押さえながらシェリーの部屋に入り、椅子に腰かけ、しばらくじっとして呼吸を整えた。
「げほっ、んっ……。あ、あ。あー、やっとまともに息ができた」
ちょっと挨拶のつもりで足を運んだ幼馴染の家で、彼は危うく窒息するところだった。
シェリーは金髪で眼のパッチリした十八歳の少女だ。黒髪細目の母とは対照的な容姿で、まだ少女の面影を残しながらも容姿端麗、性格は明るく活発で、頭もいい。おまけに格闘術にも長けていて、学校の武術の授業では指導教員と互角以上にわたり合うほどだった。そんな彼女は異性からモテるのはもちろん、同性からも憧れの的として慕われていた。
シェリーは女手ひとつで自分を育てた母のことを誰よりも尊敬しており、学校を卒業する前から母の経営している定食屋の手伝いをして家計を支えていた。そんなしっかり者のシェリーは、幼馴染でいろいろとだらしがないジャンに対して、なにかと厳しいところがあった。
「で、なんなの? 大事な話って」
「あー、そうそう。実は俺、この島を出ることになったんだ」
親指を立てて得意げにそういうジャンを見て、シェリーは心底呆れた顔をし、これ以上ないぐらい大きなため息をついた。
「はぁー、あんたねぇ……。どうせまた外の世界で活躍してビッグになるんだとか言って、マリアさんを困らせてるんでしょ?」
「なっ……、そ、そんなこと……」
「やっぱりね。そんなことだろうと思った。あんたねぇ、素手じゃあたしに手も足も出ないぐらい弱いのに、島を出てやっていけると思ってんの? 外の世界はここと違って魔獣だって出るのよ」
「弱いって、それはおまえがバカ力なだけ……」
「なんか言った!?」
「いえ、なんにも言ってません」
「ったく……。それに仕事はどうすんのよ? 家業は?」
「いや、俺がその……外で稼いで……」
「あんたね、ろくなあてもないのにどうやって稼ごうっていうのよ? 頭も悪いんだし、あんたひとりでどうにかなるわけないでしょ? ほんとバカなんだから」
「ば、バカとか言うなよ」
「バカなんだからしかたないじゃない。ほら、女のあたしに言われてしょげちゃってさ。島を出たい? 俺が外で稼ぐ? あんたみたいなダメな奴にそんなことできるわけないでしょ? まったく、ジェラールさんとマリアさんの間になんでこんなぽんこつが生まれたんだか……。ほら、こんなところで油売ってないで、とっとと家に帰って二人に謝ってらっしゃい。もう島を出たいなんて言いませんって」
「そんなぁ……」
「ほら、とっとと帰った帰った。つまんないことで時間とらすんじゃないわよ、まったく」
シェリーの一方的な暴言にジャンはすっかり意気消沈してしまい、肩を落としたままシェリーの家をあとにした。
(母さんが心配するのもわかるけど、やっぱりずっとこの島にいるのは嫌なんだよな)
彼はそんなことを考えながら、見慣れた町の通りを歩いていた。そして幼馴染のシェリーの家の近くまで来た。
(まだ許可が下りるかわかんないけど、一応シェリーにも伝えておくか)
彼はそう思ってシェリーの家を訪ねた。
「すみませーん!」
「はーい!」
シェリーの家の玄関先で声をかけると、エプロンをかけたシェリーの母が表へ出てきた。
「あら、ジャンくんじゃないか。どうしたんだい?」
「うん、ちょっとシェリーに用があって」
「そうかい。シェリーなら部屋にいるよ。上がっていきな」
「ありがとう、おばちゃん」
ジャンは二階にあるシェリーの部屋へと向かった。
「おーい、シェリー、いるかー?」
ジャンはドアの外からシェリーに呼びかけた。
「いなーい」
(こいつ……)「おい、今日は大事な話があるんだ。入れてくれよ」
「愛の告白なら間に合ってるわよー」
(このヤロウ……)「んなわけねぇだろ! おまえみたいな暴力女、誰が告白なんかするかよ!」
ジャンがそう吐き捨てると、部屋の中からドアに近づいて来る足音が聞こえてきた。そしてドアが開くと、そこに現れたシェリーは間髪置かず、ジャンのみぞおちに強烈な突きを叩き込んだ。ジャンは無防備な腹に重い一撃を食らい、息も絶え絶えにせき込んでしまった。
「ごふっ! げほっ! げほっ!」
「だーれが暴力女よ、このバカ!」
「いや、そういうところが……」
「なんか言った?」
「いえ、なんにも言ってません」
「ほら、入んなさい」
「はいぃ……」
ジャンは前かがみで腹を押さえながらシェリーの部屋に入り、椅子に腰かけ、しばらくじっとして呼吸を整えた。
「げほっ、んっ……。あ、あ。あー、やっとまともに息ができた」
ちょっと挨拶のつもりで足を運んだ幼馴染の家で、彼は危うく窒息するところだった。
シェリーは金髪で眼のパッチリした十八歳の少女だ。黒髪細目の母とは対照的な容姿で、まだ少女の面影を残しながらも容姿端麗、性格は明るく活発で、頭もいい。おまけに格闘術にも長けていて、学校の武術の授業では指導教員と互角以上にわたり合うほどだった。そんな彼女は異性からモテるのはもちろん、同性からも憧れの的として慕われていた。
シェリーは女手ひとつで自分を育てた母のことを誰よりも尊敬しており、学校を卒業する前から母の経営している定食屋の手伝いをして家計を支えていた。そんなしっかり者のシェリーは、幼馴染でいろいろとだらしがないジャンに対して、なにかと厳しいところがあった。
「で、なんなの? 大事な話って」
「あー、そうそう。実は俺、この島を出ることになったんだ」
親指を立てて得意げにそういうジャンを見て、シェリーは心底呆れた顔をし、これ以上ないぐらい大きなため息をついた。
「はぁー、あんたねぇ……。どうせまた外の世界で活躍してビッグになるんだとか言って、マリアさんを困らせてるんでしょ?」
「なっ……、そ、そんなこと……」
「やっぱりね。そんなことだろうと思った。あんたねぇ、素手じゃあたしに手も足も出ないぐらい弱いのに、島を出てやっていけると思ってんの? 外の世界はここと違って魔獣だって出るのよ」
「弱いって、それはおまえがバカ力なだけ……」
「なんか言った!?」
「いえ、なんにも言ってません」
「ったく……。それに仕事はどうすんのよ? 家業は?」
「いや、俺がその……外で稼いで……」
「あんたね、ろくなあてもないのにどうやって稼ごうっていうのよ? 頭も悪いんだし、あんたひとりでどうにかなるわけないでしょ? ほんとバカなんだから」
「ば、バカとか言うなよ」
「バカなんだからしかたないじゃない。ほら、女のあたしに言われてしょげちゃってさ。島を出たい? 俺が外で稼ぐ? あんたみたいなダメな奴にそんなことできるわけないでしょ? まったく、ジェラールさんとマリアさんの間になんでこんなぽんこつが生まれたんだか……。ほら、こんなところで油売ってないで、とっとと家に帰って二人に謝ってらっしゃい。もう島を出たいなんて言いませんって」
「そんなぁ……」
「ほら、とっとと帰った帰った。つまんないことで時間とらすんじゃないわよ、まったく」
シェリーの一方的な暴言にジャンはすっかり意気消沈してしまい、肩を落としたままシェリーの家をあとにした。
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