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74.子ども扱い
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※※※明日生視点です。
季節の変わり目ということなのだろうか。
甲斐さんが風邪をひいてしまった。
うつるといけないからって救護室へ泊まりに行ってしまって、一人は慣れてるけどやっぱり寂しい。
諒さんと覚さんがいれば、泊まりにおいでって言ってくれるんだろうけど、ここ二日会ってない。
夜穂先輩をつきあわせて遅くまで談話室に居座ってた。
「明日生。もう消灯時間になるぞ?」
「……ああ、うん。そうですね」
「貴也いないし俺もひとりだから、泊まりに行ってやろうか?」
夜穂先輩が真面目な顔で過保護なことを言い出して、つい笑ってしまった。
「なんですか、また誘う気ですか?」
笑い話にして返してやる。
「そんな気なかったけど、そんな色っぽく笑われると、それもいいって思うなあ!」
「夜穂先輩、僕から色々聞き出したいだけでしょ?」
「おう、悪いか」
最近、あのひとが好きすぎて苦しくて仕方ないから、話して聞いてもらったらスッキリするんだろうか。
「話すと長くなるから朝になっちゃいますよ」
「俺よりお前の方が先にダウンする方に賭けてもいいぞ」
そういえば夜穂先輩は甲斐さんの次くらいのトップクラスの成績らしい。
部活をやりながらこの学校でそこまでの成績が出せるってことは普段夜かなり遅くまで勉強してるんだろう。
「じゃあ、僕の話聞いてくれて僕が先に寝たらなにかおごりますよ」
負けるのは分かってるけど、夜穂先輩は仕送りもない大変な苦学生だ。
夜穂先輩にもプライドがあるし、こんな名目でもなければ助けてあげる機会はない。
「お、サンキュ!」
「まだ分からないですよ。お礼は結果が出てからね」
そのまま手ぶらで夜穂先輩は179号室へ来た。
「俺、どこで寝るんだ?」
「甲斐さんのベッド?」
「怒られそうじゃね? お前のベッドで一緒に寝ようぜ」
そう言って僕の返事も聞かずに夜穂先輩は下段のベッドに潜り込んだ。
「変なとこ触らないでくださいよ」
仕方ないから僕も同じベッドに入って、くまの目覚ましの時間をセットする。
「ケチケチすんなよー」
お互い向かい合って、布団をかぶった。
「そんなこと言って、別に僕のこと全然好みじゃないくせに」
夜穂先輩はニッと笑って僕の肩に腕をかけてきた。
暖かい。
「お前だってそうじゃん? さて、そろそろ話せよ。一年以上前に好きだって言ってたやつって今と一緒?」
「ああ、もう一年以上経ったんですね……」
僕はぽつぽつと『あのひと』を好きになったことを話した。
もちろん、二人の片方が『あのひと』で、二人が入れ替わっていることは話せない。
「……そういう恋もあるもんなのか」
唸る夜穂先輩に、ぼやいた。
「最近はもう好きすぎて苦しいんですよね。聞いてもらったらちょっとすっきりするのかなって思ったんですけど」
「バカだなあ、明日生。そんなの、たとえ両想いになったって苦しいもんは苦しいと思うぞ」
えっ、万が一成就してもこの苦しいのはなくならない?
「そうなんですか!?」
「でも、そのうち慣れるだろ、苦しいのにも」
似つかわしくない少し大人っぽい落ち着いた表情で夜穂先輩が言うから、訊いてみた。
「夜穂先輩は慣れたんですか?」
「……少しは慣れた気がするな」
「……夜穂先輩、どうして良実先輩に好きっていうんですか? 望む答えは返って来ないのわかってるのに」
夜穂先輩はふわっと鮮やかな笑みを見せた。
「答えなんかいらねえよ。言いたいから言うんだよ」
そんな笑顔ばかりでいたら、良実先輩はメンクイだからどうにかうまく収まってしまう気がするのに。
「………………そんなもんですか」
「そんなもんだよ。さて、聞いてほしい話はもう終わりなのか?」
夜穂先輩が僕の背中をポンポンと軽く叩いた。
このひとは体温が高いから暖かい。
このまま寝てしまいたくなる。
……そういえばあの二人も暖かかった。
よくあの時は平然と眠れたな。
眠る前に、夜穂先輩に言っておきたくて息を吐いた。
「夜穂先輩、『あのひと』見ても好きにならないでくださいよ」
「好みじゃねえよ」
「そういえば、夜穂先輩の好みって?」
「良実」
夜穂先輩は短く呟くと目を閉じた。
どんな良実先輩を思い出してるんだろうか。
「もう寝るんですか?」
「話ならいくらでも聞いてやるよ」
目を開けて、にっこりと笑いかけられる。
「『あのひと』の話なら、いくらでもできますけど、夜穂先輩まで好きになられたら困りますもん」
「俺、頭ん中良実のことばっかで困ってるんだよ。むしろ誰かが頭に入ってくるなら歓迎するけどな」
「……僕、もう寝ます。また今度続き聞いてください。おやすみなさい」
目を閉じると、夜穂先輩が僕の頭を撫でた。
頭を撫でられるのは気持ちが良くて好きだ。
みんな、年下の僕によくこうしてくれる。
同情されてるのでも、甘ったれでもいいんだ。
見た目が老けてるのもあって、僕は小さい頃から子ども扱いされなかった。
そういういろんなツケが回ってきているんだろう。
でも、大人っぽく見えたって、大人だって、寂しいときは寂しいんだ。
季節の変わり目ということなのだろうか。
甲斐さんが風邪をひいてしまった。
うつるといけないからって救護室へ泊まりに行ってしまって、一人は慣れてるけどやっぱり寂しい。
諒さんと覚さんがいれば、泊まりにおいでって言ってくれるんだろうけど、ここ二日会ってない。
夜穂先輩をつきあわせて遅くまで談話室に居座ってた。
「明日生。もう消灯時間になるぞ?」
「……ああ、うん。そうですね」
「貴也いないし俺もひとりだから、泊まりに行ってやろうか?」
夜穂先輩が真面目な顔で過保護なことを言い出して、つい笑ってしまった。
「なんですか、また誘う気ですか?」
笑い話にして返してやる。
「そんな気なかったけど、そんな色っぽく笑われると、それもいいって思うなあ!」
「夜穂先輩、僕から色々聞き出したいだけでしょ?」
「おう、悪いか」
最近、あのひとが好きすぎて苦しくて仕方ないから、話して聞いてもらったらスッキリするんだろうか。
「話すと長くなるから朝になっちゃいますよ」
「俺よりお前の方が先にダウンする方に賭けてもいいぞ」
そういえば夜穂先輩は甲斐さんの次くらいのトップクラスの成績らしい。
部活をやりながらこの学校でそこまでの成績が出せるってことは普段夜かなり遅くまで勉強してるんだろう。
「じゃあ、僕の話聞いてくれて僕が先に寝たらなにかおごりますよ」
負けるのは分かってるけど、夜穂先輩は仕送りもない大変な苦学生だ。
夜穂先輩にもプライドがあるし、こんな名目でもなければ助けてあげる機会はない。
「お、サンキュ!」
「まだ分からないですよ。お礼は結果が出てからね」
そのまま手ぶらで夜穂先輩は179号室へ来た。
「俺、どこで寝るんだ?」
「甲斐さんのベッド?」
「怒られそうじゃね? お前のベッドで一緒に寝ようぜ」
そう言って僕の返事も聞かずに夜穂先輩は下段のベッドに潜り込んだ。
「変なとこ触らないでくださいよ」
仕方ないから僕も同じベッドに入って、くまの目覚ましの時間をセットする。
「ケチケチすんなよー」
お互い向かい合って、布団をかぶった。
「そんなこと言って、別に僕のこと全然好みじゃないくせに」
夜穂先輩はニッと笑って僕の肩に腕をかけてきた。
暖かい。
「お前だってそうじゃん? さて、そろそろ話せよ。一年以上前に好きだって言ってたやつって今と一緒?」
「ああ、もう一年以上経ったんですね……」
僕はぽつぽつと『あのひと』を好きになったことを話した。
もちろん、二人の片方が『あのひと』で、二人が入れ替わっていることは話せない。
「……そういう恋もあるもんなのか」
唸る夜穂先輩に、ぼやいた。
「最近はもう好きすぎて苦しいんですよね。聞いてもらったらちょっとすっきりするのかなって思ったんですけど」
「バカだなあ、明日生。そんなの、たとえ両想いになったって苦しいもんは苦しいと思うぞ」
えっ、万が一成就してもこの苦しいのはなくならない?
「そうなんですか!?」
「でも、そのうち慣れるだろ、苦しいのにも」
似つかわしくない少し大人っぽい落ち着いた表情で夜穂先輩が言うから、訊いてみた。
「夜穂先輩は慣れたんですか?」
「……少しは慣れた気がするな」
「……夜穂先輩、どうして良実先輩に好きっていうんですか? 望む答えは返って来ないのわかってるのに」
夜穂先輩はふわっと鮮やかな笑みを見せた。
「答えなんかいらねえよ。言いたいから言うんだよ」
そんな笑顔ばかりでいたら、良実先輩はメンクイだからどうにかうまく収まってしまう気がするのに。
「………………そんなもんですか」
「そんなもんだよ。さて、聞いてほしい話はもう終わりなのか?」
夜穂先輩が僕の背中をポンポンと軽く叩いた。
このひとは体温が高いから暖かい。
このまま寝てしまいたくなる。
……そういえばあの二人も暖かかった。
よくあの時は平然と眠れたな。
眠る前に、夜穂先輩に言っておきたくて息を吐いた。
「夜穂先輩、『あのひと』見ても好きにならないでくださいよ」
「好みじゃねえよ」
「そういえば、夜穂先輩の好みって?」
「良実」
夜穂先輩は短く呟くと目を閉じた。
どんな良実先輩を思い出してるんだろうか。
「もう寝るんですか?」
「話ならいくらでも聞いてやるよ」
目を開けて、にっこりと笑いかけられる。
「『あのひと』の話なら、いくらでもできますけど、夜穂先輩まで好きになられたら困りますもん」
「俺、頭ん中良実のことばっかで困ってるんだよ。むしろ誰かが頭に入ってくるなら歓迎するけどな」
「……僕、もう寝ます。また今度続き聞いてください。おやすみなさい」
目を閉じると、夜穂先輩が僕の頭を撫でた。
頭を撫でられるのは気持ちが良くて好きだ。
みんな、年下の僕によくこうしてくれる。
同情されてるのでも、甘ったれでもいいんだ。
見た目が老けてるのもあって、僕は小さい頃から子ども扱いされなかった。
そういういろんなツケが回ってきているんだろう。
でも、大人っぽく見えたって、大人だって、寂しいときは寂しいんだ。
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