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「まずは、どこから話そうか。…私はこの地を治める領主で、リョウ・カノと言う」
涼しい夜中にカノが蝋燭を片手にやって来て、ベッドの端に座った。
「それで…君が今、逃亡中の飛人・トオトセということで間違いないね?」
「……うん…」
トオトセはベッドの上であぐらをかいたまま、ぎゅうとクッションを胸の前で抱いて小さく頷いた。
もはや、嘘を吐く必要も、逃げる必要もなかった。
数日ぶりの食事の後、カノの腹心だという執事・シノに風呂に入れられて、隅々まで(それこそ羽の一本一本まで)磨かれ抜かれ、トオトセは本来の清らかな美しさを取り戻した。
そして、またすぐにおいしい夕食を与えられて、もう抵抗する気も疑う気も起きなかった。シーツも寝間着も清潔なものに替えられ、今はとても気分がよい。
ちなみに寝間着は、シノが翼を外に出せるようにと背中の部分を切り取っている。
賭けに負けたとばかり思っていたが、どうやらそうでもなかったみたいだ。オレにもようやくツキが回って来たらしい。
「…君にはたくさん傷もあるようだ。…差し支えなければ、どうして君が奴隷として捕まったのか教えてくれるかい?」
トオトセは俯いた。
腕や背中など誰にでも見える位置にあるのだから、それについて聞かれるのは当たり前のことだと頭では理解はできるが、今は話したくなかった。
背中なんて特に虐待による痕がはっきり残っていることだろう。昔の傷から、最近のものまで…。
一言も話そうとしないトオトセに無理に口を割らせるでもなく、カノはその苦労を知らない白い手で彼の頬に触れた。
ゆっくりと顔を上げさせると、トオトセの瞳が不安で揺れているのが分かった。
「…話を変えようか、君はこれからどうしたい?」
「……飛人の里に帰りたい」
ぽつりと彼は答えた。
「そうか。それなら、しばらくはうちでゆっくりしていくといいよ。見たところ、君は栄養失調みたいだから、きちんと食事をとって体を休めるべきだ。それに、傷も癒した方がいいね」
「…あんた、どうしてそこまで…。オレなんか見ず知らずの赤の他人なのに…」
すると、カノは曖昧に微笑んでみせた。
星のように青い瞳が、優しく瞬く。
「…昔ね、小鳥を助けたことがあったんだ。私がまだ、子供の頃の話だ」
「小鳥…?」
「そう、君みたいに白い翼の小さな鳥だった。その子は翼をけがしてしまって、飛べなくなっていたところ、この屋敷の庭で保護したんだ。しかし、何かを飼うというのは初めての経験だったから、結局はうまく世話してやることもできずに死なせてしまってね…」
「…それは残念、だったな」
カノがこつんとおでこを合わせる。ふたりの距離がゼロになる。
「だから、今度こそ小鳥を助けたい…と言ったら、君は信じてくれる?」
「……言っておくけど、オレはそんじょそこらの小鳥じゃないぜ」
トオトセは少し挑発するように答えたが、カノはふっと笑った。そしておでこを離して、立ち上がる。
「明日はやることがたくさんある。今日はゆっくり休みなさい」
彼は静かに部屋から退出した。
涼しい夜中にカノが蝋燭を片手にやって来て、ベッドの端に座った。
「それで…君が今、逃亡中の飛人・トオトセということで間違いないね?」
「……うん…」
トオトセはベッドの上であぐらをかいたまま、ぎゅうとクッションを胸の前で抱いて小さく頷いた。
もはや、嘘を吐く必要も、逃げる必要もなかった。
数日ぶりの食事の後、カノの腹心だという執事・シノに風呂に入れられて、隅々まで(それこそ羽の一本一本まで)磨かれ抜かれ、トオトセは本来の清らかな美しさを取り戻した。
そして、またすぐにおいしい夕食を与えられて、もう抵抗する気も疑う気も起きなかった。シーツも寝間着も清潔なものに替えられ、今はとても気分がよい。
ちなみに寝間着は、シノが翼を外に出せるようにと背中の部分を切り取っている。
賭けに負けたとばかり思っていたが、どうやらそうでもなかったみたいだ。オレにもようやくツキが回って来たらしい。
「…君にはたくさん傷もあるようだ。…差し支えなければ、どうして君が奴隷として捕まったのか教えてくれるかい?」
トオトセは俯いた。
腕や背中など誰にでも見える位置にあるのだから、それについて聞かれるのは当たり前のことだと頭では理解はできるが、今は話したくなかった。
背中なんて特に虐待による痕がはっきり残っていることだろう。昔の傷から、最近のものまで…。
一言も話そうとしないトオトセに無理に口を割らせるでもなく、カノはその苦労を知らない白い手で彼の頬に触れた。
ゆっくりと顔を上げさせると、トオトセの瞳が不安で揺れているのが分かった。
「…話を変えようか、君はこれからどうしたい?」
「……飛人の里に帰りたい」
ぽつりと彼は答えた。
「そうか。それなら、しばらくはうちでゆっくりしていくといいよ。見たところ、君は栄養失調みたいだから、きちんと食事をとって体を休めるべきだ。それに、傷も癒した方がいいね」
「…あんた、どうしてそこまで…。オレなんか見ず知らずの赤の他人なのに…」
すると、カノは曖昧に微笑んでみせた。
星のように青い瞳が、優しく瞬く。
「…昔ね、小鳥を助けたことがあったんだ。私がまだ、子供の頃の話だ」
「小鳥…?」
「そう、君みたいに白い翼の小さな鳥だった。その子は翼をけがしてしまって、飛べなくなっていたところ、この屋敷の庭で保護したんだ。しかし、何かを飼うというのは初めての経験だったから、結局はうまく世話してやることもできずに死なせてしまってね…」
「…それは残念、だったな」
カノがこつんとおでこを合わせる。ふたりの距離がゼロになる。
「だから、今度こそ小鳥を助けたい…と言ったら、君は信じてくれる?」
「……言っておくけど、オレはそんじょそこらの小鳥じゃないぜ」
トオトセは少し挑発するように答えたが、カノはふっと笑った。そしておでこを離して、立ち上がる。
「明日はやることがたくさんある。今日はゆっくり休みなさい」
彼は静かに部屋から退出した。
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