2 / 20
2話 いざマッスルワールドへ!
しおりを挟む
「クッ……なんだこの世界は……」
目を開くと、賑やかな街並みが広がっていた。道沿いにはカラフルな店が並び、やたらとマッチョな男達がスマイルを振りまいている。
町を歩いている人達は男女問わず露出の多い服装で、筋肉を見せびらかしている。
「まさか……文字通りマッチョだらけの世界とは……」
オレは清楚で可憐な少女が好きなのに、この世界の女子はダイナマイトボディばかりだ。
ぴったりとしたTシャツに、爽やかな笑顔。そして、やたらと大きい胸に、健康的な足。
エロい! まぶしいくらいエロい!
しかし、オレが本当に好きなのは筋肉美女じゃないんだっ! 守ってあげたくなるような可愛い少女だっ!
……この世界にはいないんじゃないか!? オレの好きな清楚で可愛い美少女は!?
「……あの、大丈夫ですか?」
「えっ」
振り向くと、そこには究極の美少女がいた。
シャンプーの香りがしそうなサラサラの黒髪。下から覗き込んでくる大きな目。小さな鼻に潤った唇。
年齢は中学生くらいか。体は細身だけど、肌は健康的だ。この世界には珍しいノースリーブのワンピースを着ている。
なんだこの子は!? オレが今まで出会ってきたどの美少女達とも違うぞ! 何かが違う!
本能的に「美少女ぉぉおおおおおお!」と叫びたくなるような、魅力が溢れてる感じだ!
「あの、具合が悪そうですよ? よかったら、店の中で休んでいかれてはどうでしょう?」
「具合が悪そうに見える? オレが?」
オレは健康だけには自信があった。
顔はぽっちゃりしてるし、肌は常に油分が浸透してる。さらに、コレステロールや脂肪といった栄養をたっぷり摂取してる。学食のおばちゃんも「たくさん食べて健康だねぇ」と、毎回ごはんを特盛りにしてくれるほどだった。
「え、だって、そんなに痩せちゃってますよ! 顔色も悪いですし」
「ハッハッハ、そんなわけないだろう。何を言ってるんだきみは……」
そう言って、自分のほっぺたを元気にペチペチ叩いたオレは、生まれて初めて、自分に頬骨があることを知った。
「え……?」
店のガラス窓を見て気づく。
オレはげっそりとやせ細り、実年齢は変わらないものの、まるで武道の達人のような、初老じみた顔つきになっていた。
「ええぇえええええええええ! 痩せてるぅうううううううううううう! っていうか、ちょっと渋くてカッコイイじゃんんかぁああああッ!」
人生で一度もイケメンなどと呼ばれたことのないオレにとっては、痩せただけのこの顔も充分にイケメンだ。なんで痩せたのかは知らないけど、これは嬉しい。
「いいから早く店に入ってください! ……自分でカッコイイとか、重傷ですよ……」
少女の最後の言葉はよく聞き取れなかったが、オレを心配してくれるその表情はめちゃくちゃ健気で可愛かった。
「じゃあ、お言葉に甘えて、休ませてもらおっかなぁ! 金持ってないけどいい?」
「クスッ、大丈夫ですよ。具合が悪い人からお金なんて取りませんから」
「ありがとう! 君は天使だ! いや、筋肉畑に咲く一輪の花だ!」
オレは言語能力をもう少しレベルアップさせておくべきだっと後悔しながら、少女に先導されて店の中に入った。
そこはカフェテリアのようだった。中には色黒マッチョなオッサンや、色白マッチョなオッサンや、ただひたすらにマッチョなオッサン達が、仲良さげに談笑している。
「やぁ! そこのボーイ! ずいぶんと元気がなさそうじゃないかぁ! さては筋トレをさぼってるな?」
「いや、サボるどころか、筋トレなんて生まれてこのかた一度もしたことないぞ」
「「「ハッハッハ」」」
なぜかオレの一言が、オッサン達に大ウケした。中でもダンベルを枕にしてそうな超絶マッチョなオッサンは、テーブルを叩きながら大爆笑している。
いや、テーブルがミシミシ言ってるぞ。
「ティフシー、君のボーイフレンドに君の得意なアレを作ってあげてくれ!」
「はーい」
「え、おごってくれるの!? サンキュー! オッサン、いい人だな!」
「フッ、いいってことさ! 君は見るからにたんぱく質が足りてないようだからな! 彼女のとっておきを飲んで元気を出すといい!」
「そうさ、彼女のとっておきはすごい効くんだ。疲労した体がよみがえるはずさ!」
「ラッキー! 美味しい異世界ドリンク楽しみだーっ!」
ちょうどのどが乾いてたところだ。飲み物なのになぜか「たんぱく質」という単語が聞こえたのは気になるけど、たぶん大丈夫だろう。何よりティフシーとかいうあの可愛い子の手作りジュースだ。たぶん、ほっぺたが落ちるほど美味しいだろう。ほっぺたはもう落ちてるけど。
「はーい、お待たせー!」
「サンキュー! いっただっきま……」
オレは彼女から受け取ったタンブラーを見て、自分の目を疑った。
それは、あまりにも濃くて気色の悪い、紫色だった。上にはラテアートのような感じで、緑色の斑点が散らしてあるのだが、その斑点が紫色に滲み、地獄のようなおぞましい色合いになっている。
それはけっしてポップなパープル&グリーンではなく、前衛的な画家が死ぬ間際に書いたダイイングメッセージと言われた方がしっくりくるほどだ。
「あの、ティフシー? これってちなみに……何?」
「見ての通り、プロテインドリンクですよ!」
世界中が元気になるような、エネルギーに満ちた笑顔で言うティフシー。
この子に悪意がないことはわかった。だからこそ逃げ場がない……!
「そ、そっかぁ……プロテインドリンクかぁ……初めて飲むなぁ……いただきます」
粘度の高い液体が、頬の内側から舌の裏側まで、余すことなく、この世の地獄を伝えてくれた。
「ぐぼぇっ……」
オレは猛烈な吐き気を堪えながら、悪魔のような液体を飲み込む。よくある魔女がグツグツ煮てる鍋の中身は、おそらくこれに近い味だろう。
「あの、そういえば、お名前なんて言うんですか?」
「ぐぉ……ごべ……ば」
「え、ゴディバさんですか?」
違う。オレはそんな高級チョコレートみたいな名前じゃない。
「ズ……ダァアア」
「え、ひょっとして外国の方ですか?」
「素……蓋……」
「あ、素蓋さんなんですね」
ティフシーはオレに顔を急接近させると、太陽が無くなっても生きていけそうなほど明るい笑顔でたずねてきた。
「素蓋さん、元気になりましたか?」
「ゴホッ……グヘァ……ガッハ……」
のどに粘着質な刺激を受けているオレは、生まれて初めてするタイプの咳を繰り返しながら、首を横に振る。
おそらく、今オレは人生でトップ3に入るくらい体調が悪い。たぶん、死の七メートル手前くらいだ。
「そんなっ、プロテインを飲んでも治らないなんて!」
プロテインて万能薬だっけ? 違うよね? ボディビルダーとかが飲むやつだよね?
ティフシーはポンと手を叩くと、オレの手を握った。
思ったより握力が強くて驚いたが、手はやわらかくて温かい。ティフシーのぬくもりと一緒に、オレの体内にエネルギーが注入されてくるかのようだ。
そんな癒し系聖女のようなティフシーは、大きな瞳でオレを見つめる。
「素蓋さん! 店にトレーニング器具があるので、よかったら使っていってください! 元気がないときは、トレーニングですよ!」
「……へ!?」
オレはティフシーの言った言葉をまったく理解できなかった。『三×五=メソポタミア文明ですよね?』と言われたような感じだ。
「ちょっと待って、ティフシー!? 元気がないのにトレーニングっておかしくない!?」
「何言ってるんですかぁ! トレーニングは健康にいいんですよ! ほら、こっち来てください!」
「ちょっと待っ!」
思ったよりも力の強いティフシーに引っ張られて、オレは店の奥へ連れて行かれた。
というか、ティフシーの手を握っていたかったということもあり、オレは抵抗しなかった。
そして奥の部屋に入ると、そこには一人の美女がいた。
黒髪のロングヘア。ぷっくりした唇。そして引き締まった抜群のプロポーション。
黒のパンツに白のワイシャツというフォーマルな服装だが、ヘタに肌を露出させている街中のマッスル女子達よりも、スタイルの良さがずば抜けて綺麗に見える。
そして、何よりも二つ開けたボタンと、その下にある巨大な胸!
まるで太陽を二つ持っているかのような、圧倒的なエネルギー! 引き締まった体から、母性とエロスが飛び出したような二つの丸みに、オレは思わずアホみたいに口を開いた。
「誰?」
「こちらは店のオーナーのシュリカさんです。シュリカさん、こちらは素蓋さんです。具合が悪そうでしたので、こちらでトレーニングをしてもらうことにしました!」
具合が悪いのにトレーニングって、おかしいでしょ! と、このシュリカさんという美女が突っ込んでくれることを祈ったのだが、残念ながらシュリカさんの言葉は違った。
「ティフシー、その前にプロテインは飲ませたの?」
「はい、ちゃんと飲んでいたきましたよ!」
「そう。それでも治らないなんて大変ね」
シュリカさんは蠱惑的な笑みを浮かべ、オレの肩にトンと手を置いた。
「好きなだけ使っていいわ。たっぷり汗流していってね、素蓋くん」
いや、おかしいだろぉおおおおおおおおお!
この世界の治療法は、プロテイン+トレーニングなのか!? 本当の病人だったら絶対悪化するぞ!
「素蓋さん、まずはバーベルから初めてみましょうか?」
「嫌だよ! オレはトレーニングなんてしたくない! みんなにチヤホヤされながら、まったり過ごしたいんだっ!」
「大丈夫ですよ! 慣れてないならお手本を見せますから!」
「いや、お手本なんか見せられてもやらないよっ!」
「そんなこと言わないで、一緒にステキな筋肉作りましょうよ!」
ティフシーはオレの手を握って、キラキラしたまなざしを向けてきた。
長い睫に上目遣いの可愛さと、ギュッと握ってくる両手の絶妙な力強さに、『まぁ、この子がそこまで言うならいいかな』と思いかけた。
いや、でもダメだダメだダメだ!
思い出せオレ。運動会や体育や体力測定でしてきた数々の失敗を!
オレにあんな鉄の塊を持てるわけがない! 目の前のサッカーボールを蹴ったら股間に跳ね返ってくるような運動音痴だぞオレは!
こんなマッチョ御用達のトレーニングなんてしたら、命に関わる!
「ティフシー。実はオレ、鉄アレルギーなんだ!」
「グリップ部分はコーティングしてあるので大丈夫ですよ」
ぐっ! と親指を立ててウインクしてくるティフシー。めちゃくちゃ可愛い。でも、『マックグリスさーん』と、さっきのゴツいおっさんを呼ぶのは止めてほしいな!
「なんだい? ボーイ&ガール。おじさんに筋肉の相談かい?」
「はい。そうなんです! マックグリスさん、素蓋さんにバーベルトレーニングのお手本を見せてあげてくれませんか?」
「はっはっは、ティフシーの頼みなら、お安いご用だよ! いつも美味しいプロテインドリンクを作ってもらってるからね!」
味覚大丈夫かこの人?
色白マッチョのマックグリスは、スポーツバックからグローブとタオル、スポーツドリンクにゴムのチューブ、着替えのTシャツに腹に巻き付けるベルトなどを取り出した。かなり本格的だ。
なんでこんなもん持ち歩いてるんだよ……。
「マックグリスさんは、ボディビルダー育成学校のライセンスを持ってるすごい方なんですよ! ベンチプレスも二百キロ持ち上げられるんです!」
「はっはっは、その通り! 僕に任せてくれれば安心ってわけさ!」
そういって、オレの肩をズバシンッッッ! と叩いてくるマックグリス。危うく肩が外れるところだったぞ!
やっぱり、こんなマッチョのトレーニングなんかに付き合ってたら、命がいくつあっても足りない!
「じゃあ、まずは手始めに、僕の最大重量のスクワットを見せてあげよう」
「いや、お手本でしょ? 適当でいいよ!」
なんで最初からマックスパワーなんだよ。加減を知らないのか?
「わぁ! マックグリスさんの最大重量が見れるなんて! 素蓋さん、ラッキーですよ!」
オレの左腕の辺りを掴んで、ぴょんぴょん飛び跳ねるティフシー。野生の小動物みたいな可愛さだ。
しかも、上下に揺れる胸がポヨンとオレの腕に触れた。
天使のほっぺたのような感触が腕を伝わって脳まで浸透してくる。たっぷりの弾力と、腕を吸い込みそうな柔らかさ。幸せの感触だ!
「た、たしかにコレはラッキーだぁああああ! イヤッホォォォオオオー! テンションあがってきたぜぇええええええ!」
もうオレの左腕はティフシーの胸の感触を一生忘れないだろう。
「ハッハッハ! そんなに期待してくれるのかい? それなら特別に、もう一枚重りをプラスして見せよう! これまで試したことのない三百五十キロさッ!」
なぜか上機嫌なマックグリスは、鉄の棒の左右に、丸い鉄の塊を二つ付け足した。
そんな鉄の重さなんて心底どうでもいいが、オレの頬はさっきからゆるみっぱなしだ。たぶん好きなアーティストに耳元で歌ってもらっているくらいの幸せなフェイスをしているだろう。
「ハッハッハ、さらにプラスして、四百キロにしようかな!」
マックグリスは笑顔でそういうと、さらに円盤を追加した。もはや床が抜けないか心配なレベルだ。
……これ持てる人間とかいるの? ちょっと興味沸いてきた。
「マックグリスさん、本当に大丈夫ですか?」
「フッ、大丈夫さ! 僕の最高のスクワットを見せてあげよう! 君達のアドレナリンは大放出間違いなしさっ!」
爽やかな笑顔で言うと、マックグリスは丸い容器から粉をつまみ、大きな手にすり込んだ。そしてグローブと腹ベルトを装着すると、両足を大きく広げて腰を落とし、棒に指を置く。
「こうして持つ位置を測るのさ。最大限のパフォーマンスを発揮するためには、最高のポジションを握る必要があるからね!」
「ふむふむ、なるほど」
この世界に来るとき記憶力を強化したけど、忘れる能力も強化しておけばよかったな。
いまの知識は絶対一生使わない。
「そして、小指に力を入れてグリップしたら、体幹に力を入れるんだ。そして全身の筋肉に呼びかけるのさッ!」
マックグリスは大きく胸を膨らませると、目を見開いて叫んだ。
「プリーズ! ギブミー! パワーッッッッ! マイマッスル! ヘイッ! マイマッスルッ! ギブミー! パワーッッッ! ギブミィイイイイイッッッ! パァアアアアワァアアアアアアアアッッッッッ!」
「おぉっ」
テレビでしか見たことがないような超重量のバーベルが、マックグリスの膝まで持ち上がった。
このオッサンほんとに凄いな!
「そしてここからが本番さ!」
マックグリスはいい笑顔で言うと、『フンヌァアアアアッッッッ!』とドライヤー並の鼻息をたてながら、さらにバーベルを頭上まで持ち上げた。
顔は血管が浮き出て真っ赤になっている。白い歯を見せてニカッと笑顔を作っているが、目が血走っていて怖い。
「すごいですッ! すごいですよマックグリスさん! 素蓋さん、見てますか!? すごいですよっ!」
ティフシーは春の日差しのような明るい声でオレの耳を喜ばせながら、ぐーに握った手を上下させる。
「マックグリスさん、ナイスマッスルですよっ! あとはスクワットするだけですっ! ファイトマッスルーっ!」
マックグリスは頬の筋肉をぷるぷる震わせながら、バーベルを背中側に回した。
「ふんぬぁああああああああったぁあっ……ぐほぇッ」
「え?」
その瞬間、急にバランスを崩したマックグリスは、オレたちの方へ転んだ。
しかもタイミング悪く、バーベルを持ち上げた瞬間だったので、鉄の塊がオレたちの方へ飛んでくる。
「きゃああああああああああああああーっ!」
思わず興奮してしまいそうなほど可愛い悲鳴をあげるティフシー。この子も女神と同じくらい可愛い声だ。
異世界の美少女と一緒にペチャンコになって死ぬフラグがビンビンに立っていたが、なぜかオレは妙に落ち着いてた。
「よっと」
オレはティフシーの前に一歩踏み出すと、バーベルの端の方を掌底で押して軌道を変えた。バーベルはクルッと半回転して、ティフシーから離れる。
そして、バーベルが床に落下する直前。オレはグリップの部分を握り、ひざを曲げるようにして床にスッと下ろした。
なんか自然にできたな。
これがオレの技術(テクニック)かぁ……。
自分ではあまりすごいという実感がないな。まばたきするくらい簡単だった。
……やっぱりこんな地味な能力じゃなくて、パワーを強化しておけばよかったな。
「ふぇっ」
「なっ」
ティフシーとマックグリスはポカンと口を開けた。そしてたっぷり三秒間固まる。
「えぇええええええええええええええええ!?」
二人はアゴが外れそうなほど口を開いて絶叫した。
「素蓋さん!? なんですか今のパワーは!? そんな筋肉、一体どこに隠してたんですかっっっ!? すごいビューティフルマッスルですよ!」
「キミのマッスルは素晴らしいじゃないかっ! ハッハッハ! キミは素晴らしいぞ! ナイスマッスルッ! スペシャルでプロフェッショナルなマッスルだッ!」
「ボキャブラリー少ないな!」
マッスル連呼しすぎだろ。しかも、オレのもやしボディを絶賛するとか、なんのはずかしめだコレは!?
「素蓋さんっ、本当にすごいですよ! そのビューティフルマッスルがあれば、きっとボディビルダーになれますよ!」
「イエスッ! まさにその通りだ素蓋くん。キミほどの筋肉があれば、世界中の憧れの職業『ボディビルダー』になるのも夢じゃないさ!」
「なにこの新手のいじり方!? なりたくないよ! っていうか、ボディビルダーってそんな人気な職業なの!?」
歌手とか漫画家とか声優とかじゃないのか!?
二人ともヒーローに出会った子供のように、目をキラキラ輝かせている。
「素蓋さんっ、私は筋肉のある男性って、素敵だと思いますよ!」
ティフシーは背伸びして、顔を接近させてくる。子犬のような愛くるしさだ。
「素蓋さん、よかったらこれから毎週、私と一緒にトレーニングしませんかっ?」
「いやだ、オレは筋トレなんか興味ないよ!」
「そんなこと言わないで! 一緒に筋トレしましょうよーっ! そしたら毎日、一緒に汗流せますよ?」
「うっ……!」
こんな異次元の可愛い顔で見つめられたら、断りづらい!
「ねぇ、素蓋さん? とりあえずお試しで、今日泊まっていくのはどうですか?」
「泊まり!?」
「はい、私がシュリカさんに頼んであげますよ!」
シュリカさんていうのは、さっきのあの美女か!
異世界で行く当てなんてないし、こんな美女&美少女とひとつ屋根の下に泊まれるなら……! 悪くない! いや、むしろいいんじゃないか!?
「じゃあ、お言葉に甘えて、今日は泊めてもらおうかな!」
「わーいっ! 朝までたっぷり汗流しましょうね! 素蓋さん?」
「お、おーっ!」
この夜、オレは足腰が立たなくなるまで、ティフシーのトレーニングに付き合わされた。
目を開くと、賑やかな街並みが広がっていた。道沿いにはカラフルな店が並び、やたらとマッチョな男達がスマイルを振りまいている。
町を歩いている人達は男女問わず露出の多い服装で、筋肉を見せびらかしている。
「まさか……文字通りマッチョだらけの世界とは……」
オレは清楚で可憐な少女が好きなのに、この世界の女子はダイナマイトボディばかりだ。
ぴったりとしたTシャツに、爽やかな笑顔。そして、やたらと大きい胸に、健康的な足。
エロい! まぶしいくらいエロい!
しかし、オレが本当に好きなのは筋肉美女じゃないんだっ! 守ってあげたくなるような可愛い少女だっ!
……この世界にはいないんじゃないか!? オレの好きな清楚で可愛い美少女は!?
「……あの、大丈夫ですか?」
「えっ」
振り向くと、そこには究極の美少女がいた。
シャンプーの香りがしそうなサラサラの黒髪。下から覗き込んでくる大きな目。小さな鼻に潤った唇。
年齢は中学生くらいか。体は細身だけど、肌は健康的だ。この世界には珍しいノースリーブのワンピースを着ている。
なんだこの子は!? オレが今まで出会ってきたどの美少女達とも違うぞ! 何かが違う!
本能的に「美少女ぉぉおおおおおお!」と叫びたくなるような、魅力が溢れてる感じだ!
「あの、具合が悪そうですよ? よかったら、店の中で休んでいかれてはどうでしょう?」
「具合が悪そうに見える? オレが?」
オレは健康だけには自信があった。
顔はぽっちゃりしてるし、肌は常に油分が浸透してる。さらに、コレステロールや脂肪といった栄養をたっぷり摂取してる。学食のおばちゃんも「たくさん食べて健康だねぇ」と、毎回ごはんを特盛りにしてくれるほどだった。
「え、だって、そんなに痩せちゃってますよ! 顔色も悪いですし」
「ハッハッハ、そんなわけないだろう。何を言ってるんだきみは……」
そう言って、自分のほっぺたを元気にペチペチ叩いたオレは、生まれて初めて、自分に頬骨があることを知った。
「え……?」
店のガラス窓を見て気づく。
オレはげっそりとやせ細り、実年齢は変わらないものの、まるで武道の達人のような、初老じみた顔つきになっていた。
「ええぇえええええええええ! 痩せてるぅうううううううううううう! っていうか、ちょっと渋くてカッコイイじゃんんかぁああああッ!」
人生で一度もイケメンなどと呼ばれたことのないオレにとっては、痩せただけのこの顔も充分にイケメンだ。なんで痩せたのかは知らないけど、これは嬉しい。
「いいから早く店に入ってください! ……自分でカッコイイとか、重傷ですよ……」
少女の最後の言葉はよく聞き取れなかったが、オレを心配してくれるその表情はめちゃくちゃ健気で可愛かった。
「じゃあ、お言葉に甘えて、休ませてもらおっかなぁ! 金持ってないけどいい?」
「クスッ、大丈夫ですよ。具合が悪い人からお金なんて取りませんから」
「ありがとう! 君は天使だ! いや、筋肉畑に咲く一輪の花だ!」
オレは言語能力をもう少しレベルアップさせておくべきだっと後悔しながら、少女に先導されて店の中に入った。
そこはカフェテリアのようだった。中には色黒マッチョなオッサンや、色白マッチョなオッサンや、ただひたすらにマッチョなオッサン達が、仲良さげに談笑している。
「やぁ! そこのボーイ! ずいぶんと元気がなさそうじゃないかぁ! さては筋トレをさぼってるな?」
「いや、サボるどころか、筋トレなんて生まれてこのかた一度もしたことないぞ」
「「「ハッハッハ」」」
なぜかオレの一言が、オッサン達に大ウケした。中でもダンベルを枕にしてそうな超絶マッチョなオッサンは、テーブルを叩きながら大爆笑している。
いや、テーブルがミシミシ言ってるぞ。
「ティフシー、君のボーイフレンドに君の得意なアレを作ってあげてくれ!」
「はーい」
「え、おごってくれるの!? サンキュー! オッサン、いい人だな!」
「フッ、いいってことさ! 君は見るからにたんぱく質が足りてないようだからな! 彼女のとっておきを飲んで元気を出すといい!」
「そうさ、彼女のとっておきはすごい効くんだ。疲労した体がよみがえるはずさ!」
「ラッキー! 美味しい異世界ドリンク楽しみだーっ!」
ちょうどのどが乾いてたところだ。飲み物なのになぜか「たんぱく質」という単語が聞こえたのは気になるけど、たぶん大丈夫だろう。何よりティフシーとかいうあの可愛い子の手作りジュースだ。たぶん、ほっぺたが落ちるほど美味しいだろう。ほっぺたはもう落ちてるけど。
「はーい、お待たせー!」
「サンキュー! いっただっきま……」
オレは彼女から受け取ったタンブラーを見て、自分の目を疑った。
それは、あまりにも濃くて気色の悪い、紫色だった。上にはラテアートのような感じで、緑色の斑点が散らしてあるのだが、その斑点が紫色に滲み、地獄のようなおぞましい色合いになっている。
それはけっしてポップなパープル&グリーンではなく、前衛的な画家が死ぬ間際に書いたダイイングメッセージと言われた方がしっくりくるほどだ。
「あの、ティフシー? これってちなみに……何?」
「見ての通り、プロテインドリンクですよ!」
世界中が元気になるような、エネルギーに満ちた笑顔で言うティフシー。
この子に悪意がないことはわかった。だからこそ逃げ場がない……!
「そ、そっかぁ……プロテインドリンクかぁ……初めて飲むなぁ……いただきます」
粘度の高い液体が、頬の内側から舌の裏側まで、余すことなく、この世の地獄を伝えてくれた。
「ぐぼぇっ……」
オレは猛烈な吐き気を堪えながら、悪魔のような液体を飲み込む。よくある魔女がグツグツ煮てる鍋の中身は、おそらくこれに近い味だろう。
「あの、そういえば、お名前なんて言うんですか?」
「ぐぉ……ごべ……ば」
「え、ゴディバさんですか?」
違う。オレはそんな高級チョコレートみたいな名前じゃない。
「ズ……ダァアア」
「え、ひょっとして外国の方ですか?」
「素……蓋……」
「あ、素蓋さんなんですね」
ティフシーはオレに顔を急接近させると、太陽が無くなっても生きていけそうなほど明るい笑顔でたずねてきた。
「素蓋さん、元気になりましたか?」
「ゴホッ……グヘァ……ガッハ……」
のどに粘着質な刺激を受けているオレは、生まれて初めてするタイプの咳を繰り返しながら、首を横に振る。
おそらく、今オレは人生でトップ3に入るくらい体調が悪い。たぶん、死の七メートル手前くらいだ。
「そんなっ、プロテインを飲んでも治らないなんて!」
プロテインて万能薬だっけ? 違うよね? ボディビルダーとかが飲むやつだよね?
ティフシーはポンと手を叩くと、オレの手を握った。
思ったより握力が強くて驚いたが、手はやわらかくて温かい。ティフシーのぬくもりと一緒に、オレの体内にエネルギーが注入されてくるかのようだ。
そんな癒し系聖女のようなティフシーは、大きな瞳でオレを見つめる。
「素蓋さん! 店にトレーニング器具があるので、よかったら使っていってください! 元気がないときは、トレーニングですよ!」
「……へ!?」
オレはティフシーの言った言葉をまったく理解できなかった。『三×五=メソポタミア文明ですよね?』と言われたような感じだ。
「ちょっと待って、ティフシー!? 元気がないのにトレーニングっておかしくない!?」
「何言ってるんですかぁ! トレーニングは健康にいいんですよ! ほら、こっち来てください!」
「ちょっと待っ!」
思ったよりも力の強いティフシーに引っ張られて、オレは店の奥へ連れて行かれた。
というか、ティフシーの手を握っていたかったということもあり、オレは抵抗しなかった。
そして奥の部屋に入ると、そこには一人の美女がいた。
黒髪のロングヘア。ぷっくりした唇。そして引き締まった抜群のプロポーション。
黒のパンツに白のワイシャツというフォーマルな服装だが、ヘタに肌を露出させている街中のマッスル女子達よりも、スタイルの良さがずば抜けて綺麗に見える。
そして、何よりも二つ開けたボタンと、その下にある巨大な胸!
まるで太陽を二つ持っているかのような、圧倒的なエネルギー! 引き締まった体から、母性とエロスが飛び出したような二つの丸みに、オレは思わずアホみたいに口を開いた。
「誰?」
「こちらは店のオーナーのシュリカさんです。シュリカさん、こちらは素蓋さんです。具合が悪そうでしたので、こちらでトレーニングをしてもらうことにしました!」
具合が悪いのにトレーニングって、おかしいでしょ! と、このシュリカさんという美女が突っ込んでくれることを祈ったのだが、残念ながらシュリカさんの言葉は違った。
「ティフシー、その前にプロテインは飲ませたの?」
「はい、ちゃんと飲んでいたきましたよ!」
「そう。それでも治らないなんて大変ね」
シュリカさんは蠱惑的な笑みを浮かべ、オレの肩にトンと手を置いた。
「好きなだけ使っていいわ。たっぷり汗流していってね、素蓋くん」
いや、おかしいだろぉおおおおおおおおお!
この世界の治療法は、プロテイン+トレーニングなのか!? 本当の病人だったら絶対悪化するぞ!
「素蓋さん、まずはバーベルから初めてみましょうか?」
「嫌だよ! オレはトレーニングなんてしたくない! みんなにチヤホヤされながら、まったり過ごしたいんだっ!」
「大丈夫ですよ! 慣れてないならお手本を見せますから!」
「いや、お手本なんか見せられてもやらないよっ!」
「そんなこと言わないで、一緒にステキな筋肉作りましょうよ!」
ティフシーはオレの手を握って、キラキラしたまなざしを向けてきた。
長い睫に上目遣いの可愛さと、ギュッと握ってくる両手の絶妙な力強さに、『まぁ、この子がそこまで言うならいいかな』と思いかけた。
いや、でもダメだダメだダメだ!
思い出せオレ。運動会や体育や体力測定でしてきた数々の失敗を!
オレにあんな鉄の塊を持てるわけがない! 目の前のサッカーボールを蹴ったら股間に跳ね返ってくるような運動音痴だぞオレは!
こんなマッチョ御用達のトレーニングなんてしたら、命に関わる!
「ティフシー。実はオレ、鉄アレルギーなんだ!」
「グリップ部分はコーティングしてあるので大丈夫ですよ」
ぐっ! と親指を立ててウインクしてくるティフシー。めちゃくちゃ可愛い。でも、『マックグリスさーん』と、さっきのゴツいおっさんを呼ぶのは止めてほしいな!
「なんだい? ボーイ&ガール。おじさんに筋肉の相談かい?」
「はい。そうなんです! マックグリスさん、素蓋さんにバーベルトレーニングのお手本を見せてあげてくれませんか?」
「はっはっは、ティフシーの頼みなら、お安いご用だよ! いつも美味しいプロテインドリンクを作ってもらってるからね!」
味覚大丈夫かこの人?
色白マッチョのマックグリスは、スポーツバックからグローブとタオル、スポーツドリンクにゴムのチューブ、着替えのTシャツに腹に巻き付けるベルトなどを取り出した。かなり本格的だ。
なんでこんなもん持ち歩いてるんだよ……。
「マックグリスさんは、ボディビルダー育成学校のライセンスを持ってるすごい方なんですよ! ベンチプレスも二百キロ持ち上げられるんです!」
「はっはっは、その通り! 僕に任せてくれれば安心ってわけさ!」
そういって、オレの肩をズバシンッッッ! と叩いてくるマックグリス。危うく肩が外れるところだったぞ!
やっぱり、こんなマッチョのトレーニングなんかに付き合ってたら、命がいくつあっても足りない!
「じゃあ、まずは手始めに、僕の最大重量のスクワットを見せてあげよう」
「いや、お手本でしょ? 適当でいいよ!」
なんで最初からマックスパワーなんだよ。加減を知らないのか?
「わぁ! マックグリスさんの最大重量が見れるなんて! 素蓋さん、ラッキーですよ!」
オレの左腕の辺りを掴んで、ぴょんぴょん飛び跳ねるティフシー。野生の小動物みたいな可愛さだ。
しかも、上下に揺れる胸がポヨンとオレの腕に触れた。
天使のほっぺたのような感触が腕を伝わって脳まで浸透してくる。たっぷりの弾力と、腕を吸い込みそうな柔らかさ。幸せの感触だ!
「た、たしかにコレはラッキーだぁああああ! イヤッホォォォオオオー! テンションあがってきたぜぇええええええ!」
もうオレの左腕はティフシーの胸の感触を一生忘れないだろう。
「ハッハッハ! そんなに期待してくれるのかい? それなら特別に、もう一枚重りをプラスして見せよう! これまで試したことのない三百五十キロさッ!」
なぜか上機嫌なマックグリスは、鉄の棒の左右に、丸い鉄の塊を二つ付け足した。
そんな鉄の重さなんて心底どうでもいいが、オレの頬はさっきからゆるみっぱなしだ。たぶん好きなアーティストに耳元で歌ってもらっているくらいの幸せなフェイスをしているだろう。
「ハッハッハ、さらにプラスして、四百キロにしようかな!」
マックグリスは笑顔でそういうと、さらに円盤を追加した。もはや床が抜けないか心配なレベルだ。
……これ持てる人間とかいるの? ちょっと興味沸いてきた。
「マックグリスさん、本当に大丈夫ですか?」
「フッ、大丈夫さ! 僕の最高のスクワットを見せてあげよう! 君達のアドレナリンは大放出間違いなしさっ!」
爽やかな笑顔で言うと、マックグリスは丸い容器から粉をつまみ、大きな手にすり込んだ。そしてグローブと腹ベルトを装着すると、両足を大きく広げて腰を落とし、棒に指を置く。
「こうして持つ位置を測るのさ。最大限のパフォーマンスを発揮するためには、最高のポジションを握る必要があるからね!」
「ふむふむ、なるほど」
この世界に来るとき記憶力を強化したけど、忘れる能力も強化しておけばよかったな。
いまの知識は絶対一生使わない。
「そして、小指に力を入れてグリップしたら、体幹に力を入れるんだ。そして全身の筋肉に呼びかけるのさッ!」
マックグリスは大きく胸を膨らませると、目を見開いて叫んだ。
「プリーズ! ギブミー! パワーッッッッ! マイマッスル! ヘイッ! マイマッスルッ! ギブミー! パワーッッッ! ギブミィイイイイイッッッ! パァアアアアワァアアアアアアアアッッッッッ!」
「おぉっ」
テレビでしか見たことがないような超重量のバーベルが、マックグリスの膝まで持ち上がった。
このオッサンほんとに凄いな!
「そしてここからが本番さ!」
マックグリスはいい笑顔で言うと、『フンヌァアアアアッッッッ!』とドライヤー並の鼻息をたてながら、さらにバーベルを頭上まで持ち上げた。
顔は血管が浮き出て真っ赤になっている。白い歯を見せてニカッと笑顔を作っているが、目が血走っていて怖い。
「すごいですッ! すごいですよマックグリスさん! 素蓋さん、見てますか!? すごいですよっ!」
ティフシーは春の日差しのような明るい声でオレの耳を喜ばせながら、ぐーに握った手を上下させる。
「マックグリスさん、ナイスマッスルですよっ! あとはスクワットするだけですっ! ファイトマッスルーっ!」
マックグリスは頬の筋肉をぷるぷる震わせながら、バーベルを背中側に回した。
「ふんぬぁああああああああったぁあっ……ぐほぇッ」
「え?」
その瞬間、急にバランスを崩したマックグリスは、オレたちの方へ転んだ。
しかもタイミング悪く、バーベルを持ち上げた瞬間だったので、鉄の塊がオレたちの方へ飛んでくる。
「きゃああああああああああああああーっ!」
思わず興奮してしまいそうなほど可愛い悲鳴をあげるティフシー。この子も女神と同じくらい可愛い声だ。
異世界の美少女と一緒にペチャンコになって死ぬフラグがビンビンに立っていたが、なぜかオレは妙に落ち着いてた。
「よっと」
オレはティフシーの前に一歩踏み出すと、バーベルの端の方を掌底で押して軌道を変えた。バーベルはクルッと半回転して、ティフシーから離れる。
そして、バーベルが床に落下する直前。オレはグリップの部分を握り、ひざを曲げるようにして床にスッと下ろした。
なんか自然にできたな。
これがオレの技術(テクニック)かぁ……。
自分ではあまりすごいという実感がないな。まばたきするくらい簡単だった。
……やっぱりこんな地味な能力じゃなくて、パワーを強化しておけばよかったな。
「ふぇっ」
「なっ」
ティフシーとマックグリスはポカンと口を開けた。そしてたっぷり三秒間固まる。
「えぇええええええええええええええええ!?」
二人はアゴが外れそうなほど口を開いて絶叫した。
「素蓋さん!? なんですか今のパワーは!? そんな筋肉、一体どこに隠してたんですかっっっ!? すごいビューティフルマッスルですよ!」
「キミのマッスルは素晴らしいじゃないかっ! ハッハッハ! キミは素晴らしいぞ! ナイスマッスルッ! スペシャルでプロフェッショナルなマッスルだッ!」
「ボキャブラリー少ないな!」
マッスル連呼しすぎだろ。しかも、オレのもやしボディを絶賛するとか、なんのはずかしめだコレは!?
「素蓋さんっ、本当にすごいですよ! そのビューティフルマッスルがあれば、きっとボディビルダーになれますよ!」
「イエスッ! まさにその通りだ素蓋くん。キミほどの筋肉があれば、世界中の憧れの職業『ボディビルダー』になるのも夢じゃないさ!」
「なにこの新手のいじり方!? なりたくないよ! っていうか、ボディビルダーってそんな人気な職業なの!?」
歌手とか漫画家とか声優とかじゃないのか!?
二人ともヒーローに出会った子供のように、目をキラキラ輝かせている。
「素蓋さんっ、私は筋肉のある男性って、素敵だと思いますよ!」
ティフシーは背伸びして、顔を接近させてくる。子犬のような愛くるしさだ。
「素蓋さん、よかったらこれから毎週、私と一緒にトレーニングしませんかっ?」
「いやだ、オレは筋トレなんか興味ないよ!」
「そんなこと言わないで! 一緒に筋トレしましょうよーっ! そしたら毎日、一緒に汗流せますよ?」
「うっ……!」
こんな異次元の可愛い顔で見つめられたら、断りづらい!
「ねぇ、素蓋さん? とりあえずお試しで、今日泊まっていくのはどうですか?」
「泊まり!?」
「はい、私がシュリカさんに頼んであげますよ!」
シュリカさんていうのは、さっきのあの美女か!
異世界で行く当てなんてないし、こんな美女&美少女とひとつ屋根の下に泊まれるなら……! 悪くない! いや、むしろいいんじゃないか!?
「じゃあ、お言葉に甘えて、今日は泊めてもらおうかな!」
「わーいっ! 朝までたっぷり汗流しましょうね! 素蓋さん?」
「お、おーっ!」
この夜、オレは足腰が立たなくなるまで、ティフシーのトレーニングに付き合わされた。
0
あなたにおすすめの小説
裏切られ続けた負け犬。25年前に戻ったので人生をやり直す。当然、裏切られた礼はするけどね
竹井ゴールド
ファンタジー
冒険者ギルドの雑用として働く隻腕義足の中年、カーターは裏切られ続ける人生を送っていた。
元々は食堂の息子という人並みの平民だったが、
王族の継承争いに巻き込まれてアドの街の毒茸流布騒動でコックの父親が毒茸の味見で死に。
代わって雇った料理人が裏切って金を持ち逃げ。
父親の親友が融資を持ち掛けるも平然と裏切って借金の返済の為に母親と妹を娼館へと売り。
カーターが冒険者として金を稼ぐも、後輩がカーターの幼馴染に横恋慕してスタンピードの最中に裏切ってカーターは片腕と片足を損失。カーターを持ち上げていたギルマスも裏切り、幼馴染も去って後輩とくっつく。
その後は負け犬人生で冒険者ギルドの雑用として細々と暮らしていたのだが。
ある日、人ならざる存在が話しかけてきた。
「この世界は滅びに進んでいる。是正しなければならない。手を貸すように」
そして気付けは25年前の15歳にカーターは戻っており、二回目の人生をやり直すのだった。
もちろん、裏切ってくれた連中への返礼と共に。
ネグレクトされていた四歳の末娘は、前世の経理知識で実家の横領を見抜き追放されました。これからはもふもふ聖獣と美食巡りの旅に出ます。
☆ほしい
ファンタジー
アークライト子爵家の四歳の末娘リリアは、家族から存在しないものとして扱われていた。食事は厨房の残飯、衣服は兄姉のお下がりを更に継ぎ接ぎしたもの。冷たい床で眠る日々の中、彼女は高熱を出したことをきっかけに前世の記憶を取り戻す。
前世の彼女は、ブラック企業で過労死した経理担当のOLだった。
ある日、父の書斎に忍び込んだリリアは、ずさんな管理の家計簿を発見する。前世の知識でそれを読み解くと、父による悪質な横領と、家の財産がすでに破綻寸前であることが判明した。
「この家は、もうすぐ潰れます」
家族会議の場で、リリアはたった四歳とは思えぬ明瞭な口調で破産の事実を突きつける。激昂した父に「疫病神め!」と罵られ家を追い出されたリリアだったが、それは彼女の望むところだった。
手切れ金代わりの銅貨数枚を握りしめ、自由を手に入れたリリア。これからは誰にも縛られず、前世で夢見た美味しいものをたくさん食べる生活を目指す。
【完結】兄の事を皆が期待していたので僕は離れます
まりぃべる
ファンタジー
一つ年上の兄は、国の為にと言われて意気揚々と村を離れた。お伽話にある、奇跡の聖人だと幼き頃より誰からも言われていた為、それは必然だと。
貧しい村で育った弟は、小さな頃より家の事を兄の分までせねばならず、兄は素晴らしい人物で対して自分は凡人であると思い込まされ、自分は必要ないのだからと弟は村を離れる事にした。
そんな弟が、自分を必要としてくれる人に会い、幸せを掴むお話。
☆まりぃべるの世界観です。緩い設定で、現実世界とは違う部分も多々ありますがそこをあえて楽しんでいただけると幸いです。
☆現実世界にも同じような名前、地名、言葉などがありますが、関係ありません。
【完結】捨て去られた王妃は王宮で働く
ここ
ファンタジー
たしかに私は王妃になった。
5歳の頃に婚約が決まり、逃げようがなかった。完全なる政略結婚。
夫である国王陛下は、ハーレムで浮かれている。政務は王妃が行っていいらしい。私は仕事は得意だ。家臣たちが追いつけないほど、理解が早く、正確らしい。家臣たちは、王妃がいないと困るようになった。何とかしなければ…
おばさんは、ひっそり暮らしたい
波間柏
恋愛
30歳村山直子は、いわゆる勝手に落ちてきた異世界人だった。
たまに物が落ちてくるが人は珍しいものの、牢屋行きにもならず基礎知識を教えてもらい居場所が分かるように、また定期的に国に報告する以外は自由と言われた。
さて、生きるには働かなければならない。
「仕方がない、ご飯屋にするか」
栄養士にはなったものの向いてないと思いながら働いていた私は、また生活のために今日もご飯を作る。
「地味にそこそこ人が入ればいいのに困るなぁ」
意欲が低い直子は、今日もまたテンション低く呟いた。
騎士サイド追加しました。2023/05/23
番外編を不定期ですが始めました。
貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。
黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。
この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。
婚約破棄したら食べられました(物理)
かぜかおる
恋愛
人族のリサは竜種のアレンに出会った時からいい匂いがするから食べたいと言われ続けている。
婚約者もいるから無理と言い続けるも、アレンもしつこく食べたいと言ってくる。
そんな日々が日常と化していたある日
リサは婚約者から婚約破棄を突きつけられる
グロは無し
ちゃんと忠告をしましたよ?
柚木ゆず
ファンタジー
ある日の、放課後のことでした。王立リザエンドワール学院に籍を置く私フィーナは、生徒会長を務められているジュリアルス侯爵令嬢アゼット様に呼び出されました。
「生徒会の仲間である貴方様に、婚約祝いをお渡したくてこうしておりますの」
アゼット様はそのように仰られていますが、そちらは嘘ですよね? 私は最愛の方に護っていただいているので、貴方様に悪意があると気付けるのですよ。
アゼット様。まだ間に合います。
今なら、引き返せますよ?
※現在体調の影響により、感想欄を一時的に閉じさせていただいております。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる