手繋ぎ蝶

楠丸

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8章

~社会観~

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 菜実がグループホームに入居する知的障害者であることが、現住所を突き止めてはっきりと分かってから、さらに一週間と少しが経過した、十一月の初旬だった。店の客達の服装にも冬支度が見え始め、飾りつけや店内コピーも冬を意識したものになり、おでん種や鍋物の具材がコーナーに並んでいた。村瀬に代わって吉富に毅然を突きつけたばかりに心に傷を負った真由美は、しばらく休むという連絡が店長宛てに入ってから、出勤していない。

 村瀬が心に覚えているものは、恥じ入りだった。だが、これまで通り、私的感情を決して表面に出すことなく、割り当てられた仕事をこなしていた。これが自分という人間だと言い聞かせ、声を出し、香川など他の従業員の忙しさをフォローするように心がけ、陳列、品出し、出荷の手伝いに動いた。

 関東甲信越は今週は晴れ続きと、お天気キャスターが言っていたが、月の末から早くも冷え込むという。

 今週の土日休みは、大倉というフルタイムのアルバイターと店長立ち合いの下に話し合って、互いに休日をトレードすることで合意した。労力をとして得た土日休みの目的は、唯の一つだった。電話をかけようとも思ったが、サプライズを与えるほうが盛り上がりがいいと思った。不在は可能性が高くないし、もしも都合が悪かった場合は、別の機会を設ける肚づもりだった。村瀬は大胆な気持ちになっていた。だからこそ取得した土日の二連休だった。

「明日明後日、村瀬さんがいないから、大変ですよ。大倉君はいい子だけど、融通が利かないところがあるからな。小谷さんも、いつから出勤するかまだ分からないし」缶のビールやチューハイ類を補充する村瀬の隣に、解体した段ボールを載せた業務用カートを携えて立つ香川が、溜息を抑えたような表情でこぼした。店内は、いつもと変わらず、齢の行った人達が籠を提げて行き交い、その中に子供が混じる光景だった。

「村瀬さんは土日祝日の客が多い時こそよく頑張るタイプだから、土日に休むってのは何だかこれまでイメージがつかなかったけど、今回は何ですか? 会う相手の都合ですか?」言った香川の顔に、勘ぐったような笑いが浮かんでいる。

「君が知る必要のないことだよ」村瀬は両手に持ったロング缶の青りんごハイを冷蔵ケージの奥へ詰めながら、香川のほうを見ずに答えた。「つれないですね。じゃ、勝手に想像しちゃいますよ」「自由に想像していいよ」空になった正方形の段ボールをばらしながら村瀬が言い放つと、香川はカートの取っ手を持ち、小さく息を吐き出した。軽い呆れを含んだ態度だが、村瀬には気になるものではなかった。

「充分に気をつけたほうがいいですよ、若い女には」

 残して、カートを押してバックヤードへ去る香川の背中には、穏やかに警告する空気があった。言葉に振り返った村瀬の中に、あの手繋ぎ式で目の当たりにした、狂態染みた媚態がまた思い出されたが、明日への期待がそれを帳消しにした。

 十七時に退勤し、実籾で降りると、駅前のコンビニでカルビ弁当と、珍しく発泡酒の350ml缶を二本、それとカマンベールチーズのつまみを買った。煙草は、父親は吸っていたが自分は元から興味がないし、酒は、普段は飲まない。だが、明日を特別日としたい気持ちから、今夜くらいはちょぼちょぼ程度には嗜んでみようと思った。

 風呂にゆっくりと浸かったあとで、カルビ弁当を前に、発泡酒とカマンベールを味わい締めた。テレビは消していた。発泡酒は、苦みの中に甘味を感じた。少量の酒は百薬の長というし、これも休日前の余暇にするのも罪ではないかな、と思えた。ところで、空手はどうしよう。もしまた始めるとすれば、こればかりは、検索して、時間の折に見学などをして、自分に合う教室を根気よく探していくしかない。病災禍で忘年会、新年会の自粛が広がり、そういう席でもなければ酒など飲むことはなかった村瀬には、何年ぶりかはよく覚えていないが、空きっ腹に流し込んだアルコールが血管に巡っていく心地よさに、今は身を任せている。

 時間をかけて発泡酒の酔いをカマンベールとともに楽しんでから、カルビ弁当を掻き込んだ。今日はこんなに簡単だが、明日は、もしもこちらの要望が叶ったら、材料を買い込んで、一緒に食事を作ろう。何を食べたいか訊いた上で、教えながら。それから、向こうが望むのなら。

 帰宅してからテレビは点けず、壁の時計だけが秒針の音を刻む静けさの中に身を置いた。その静けさのなかで、明日のために心身を整理し、準備しようと思った。それは、相手、菜実に対してどれだけ優しく、明日の日に関われるか、ということに尽きた。それは明日だけのものではなく、持続可能な気持ちにしなくてはいけない。つい一週間前のことを思えばなおのことだった。村瀬は、吉富から真由美を守れず、逆に真由美に守ってもらったばかりに、彼女に傷を負わせたからこそだ。

 歯を磨き、かつて兄弟で子供部屋として使い、今は自分の寝室にしている八畳の部屋へ上がった。布団に潜って、ハイネの詩集を読んだ。「きっと墓から出てきたのよ」と通りすがりの少女達から聞えよがしに揶揄される「気の毒なペーター」を読み、読めば読むほどまるで昔の俺のようだと改めて思え、失笑した時になって、意識が遠のく眠気を覚えた。

 消灯し、忘我の深い眠りに落ちて、それくらい経った頃か、意識が上にせり上がり、目を覚ました。

 誰かが部屋にいる気配を感じたためだった。

禍とした恐怖が涌いた。自分でも俊敏と思える動作で上体を起こし、布団から飛び起き、立った。左は開掌、右拳を胸につけた左前構えを取った村瀬の前に、男が立っている。月明りが、中背の丸みのある体躯をし、髪を後ろへ撫でつけた、黒っぽい衣服を着けた男の姿をシルエットを形どって浮き上がらせている。その姿は、闇を割って、にょろっと出現した死神だった。この死神が、何を目的に自分の許に来たのかは分からない。一つ確かに言えることがあるとすれば、家の戸締りを破られたということだ。

 恐怖と驚きのあまり、誰何の声は、出そうにも出ない。家の金、キャッシュカードを狙ったピッキング強盗なら、ひとまず抵抗はせずに、あとから警察に連絡しなければならない。もしも殺し屋なら、殺される前に殺さなければ、自分の命はない。子供の頃に読んだ幽霊スリラー物による「物体化した幽霊」改め、物体化した死神だったら、全力で戦わなければ、命を冥府へ連れ去られる。

 早打ちする自分の鼓動を聞きながら、村瀬は摺り足で、死神のような侵入者に間合を詰めた。男が両肩をさっと下げ、気持ち左前気味に足を配置した。男はいい脱力の姿勢で、力んで構えるのではなく、悠然と立って村瀬の先制を待ち構えているように見えた。村瀬はその時、男の影形、月明りを跳ね返す白い肌、身のこなしなどに、鮮烈な既視感を覚えた。さらに、その時、にやりと端を上げた明太子を思わせる唇が目に入り、それを決定づけた。

「ずば抜けてるっつうにゃ程遠いけど、まずまずにはやれる人間の動きしてんじゃん。俺には元から、まんざら意外とも思えねえけどな。自信持ってもいいんじゃねえかな」

侵入者が発した声とその話し方に、聞きまごいはなかった。

「義毅(よしき)!」村瀬は闇の中で、足かけ二十年会っていなかった弟の名前を叫んだ。

「当たり前だけど、戸締りをしてたんだぞ。どうやって入ったんだ」「あんな旧式の鍵穴とドアガードなんざ、ワイヤー一本だ。その気になりゃ、指紋認証システムだって破れるぜ」

 連絡も予告もなしの夜半の突如とした訪問、それによるおよそ四半世紀ぶりの再会にも驚きを禁じ得ないが、鍵を用いることなく家宅に忍び込む技術を身に着けて兄の前に現れた弟に、抱いていい感情が警戒心なのか、はたまた頼もしさなのかを計りかねた。そんな思いのため、まだ構えが解けず、自分を襲う相手を迎撃する体勢を取っている。十八年という時間に、自分が想像もしていなかったプロフィールを引っ提げて、寝室の闇に潜り込んできた弟に、脅威の心地を覚え、今は再会の喜びは感じない。

「寝込みの時間にいきなり来て、叩き起こしちまったことの迷惑は詫びるよ。驚かしたこともな」生死も分からなかった弟の村瀬義毅が、言って体勢を普通の立ち姿勢に戻し、村瀬も構えを解いた。村瀬は自分の顔が汗に濡れていることに気づいた。

 枕元のリモコンを取って灯りを点けると、あの頃とは変わって、言ってみれば「マイルド悪漢」風の髪と服を洒落込んで着けた弟が微笑して立っていた。

 あの土砂降りの雨の中、リュックを突っかけ、Tシャツの背中を向けて、傘も点さずにこの家の玄関から走り去った夕方以来で、もう三十後半になるはずだが、老けた感じはなく、元からの愛嬌に磨きがかかり、それが若々しさを醸し出している。だが、微笑した顔の目だけが笑っていない。これも彼が幼い頃から時折見せる表情だったが、自分などが知るよしもない間にピッキング侵入技術を習得していたこともさることながら、そこに、社会や人心の深い谷、濃い闇と、これまで関わってきたことが覗い知れる思いがした。

降りたキッチンでマグカップを二つ出し、カフェインレスコーヒーを二人分淹れた。茶の間に胡坐をかいて座った義毅の前に、湯気の立つ赤いマグカップを置くと、感慨の籠ったような顔でカップを見つめ、やがて頬杖をついた彼は両親の遺影を見上げた。
「見ての通りだ。親父もお袋も死んだぞ」村瀬は言って、自分のマグカップを持って義毅の前に座り、二人で円卓を挟んだ。

「確認済みだよ。震災か? それとも感染か?」「親父が平成十九年だ。煙草が好きだったから無理ないけど、咽喉ガンでな。お袋がつい一昨年で、急性多臓器不全だった」「そうか」義毅は時間の流れを悟ったように相槌を返すと、頬杖のままマグカップの取っ手をつまみ、遠い目を、天井近くの空間に向けた。その恰好のまま、しばらく何かを考える様子を見せたのち、マグカップの縁を唇に着け、兄の淹れたカフェインレスコーヒーを啜り始めた。

「トヨニイが今ここに一人でいることを知ったのは、まあ、ひょんなことからなんだけど、別居なのか?」「離婚だ」「子供とは会ってんのか?」「いや、あれ以来会ってないよ。ついこないだ、あの女が金の援助と復縁を求める手紙を送りつけてきた」「それでどうしたんだ」「拒否したよ」村瀬がぼそりと答えると、義毅はマグカップを手に、眉の下がった顔で、目の前の兄を見た。いかにも情けないものを見るような顔だった。

 自分が今、弟からどういう目で見られているかは分かっている。確かに、世に言う格闘というもの単体なら、先しがた彼から受けたレビューそのまま、まずまずということにしておいていいのかもしれない。それでも、それだけに男の値打ちを置く考え方は今の男社会にはそぐわないし、物事への自信のつけようも今は多様的で、喧嘩の類いや格闘に強いことが、真の男らしさ、格好よさとして最終認識されるものではない。それでももしも今の自分が再び武を求めようとしているのであれば、その理由は、あの頃には養えなかった「心の持ち方」を、技術と並行して養う目的を持ってのことだろう、と、自分でそういうことにする。

 そんなことをよぎらせながら、自分が実家に戻っていることを何故義毅が知ったのか、同時に、昼間ではなく真夜中に、犯罪的な手法で家に蘭入してきた理由を問い質したいと思った。

「なあ、義毅、お前のかっ飛んだ性格はよく知ってるよ。だけど、お前も、もう四十に手が届く歳だろう。いくら肉親だって、こんな時間に訪ねてくるなんて常識知らずもいいとこだし、ワイヤー一本だか何だか知らないけど、いきなりこっちが寝てる部屋に入ってくるとかはどうかと思うぞ。俺は強盗かと思ったぜ」「だから、悪かったよ。ちょっとタイミング外したハロウィンのサプライズだと思ってくれりゃいいよ」「あのな、お前な」村瀬は円卓に肘を突いて、顔を乗り出した。義毅は開き直った顔で、視線を左右に配りながらコーヒーを啜った。

「お前、今、仕事は何やってるんだ」村瀬は、以前から最も知りたかったことの質問をぶつけた。

「おい、堅気だろう?」畳みかけるように言うと、円卓の向こうの義毅が、厚い唇をぽっかりと開けるなり、掌を前にして十本の指を立て、おどけた笑いを浮かべた。自分はやくざではない、と言っているのだ。

「まあ、自営だよ」義毅は答えたが、それの真偽は伺えない。

「トヨニイは、まだ銀行なのか?」「銀行はもうとっくに辞めたよ。今は店舗スタッフだ」「コンビニか?」「松戸線沿いのスーパーだ。安いことが売りだけど、そのせいか、客筋はいいとは言えない。だけど、銀行よりは俺に合ってると言えなくもない。コピーは立派でもさほどのメリットのない商品を騙し同然のやり方で勧めたりすることもないし、ない袖を振らせるような回収の話も聞かなくて済むからな」村瀬は黒のマグカップを唇に当てて、二口啜った。

「銀行、やってりゃよかったじゃん」「いや、辞めた理由はそれだけじゃないんだよ」村瀬が返すと、義毅は片方の口の端を、不逞な感じに吊り上げて、また顔を乗り出した。村瀬が説明を試みようとしていることは、目の前の弟は、村瀬が言わずとも察している。

「騙し同然? 騙すから何だっつうんだよ」義毅が静かな凄みを込めたうそぶきを投げかけてきた。その迫力に、村瀬は思わず上体を小さく退いた。

「これは一つのもののたとえだ。縁日の香具師がガキどもに売りつける商品くじは、無駄に時代に合わせたもんが店頭に置いてあっけど、当たんのはたいていしょうもねえもんばっかだ。こいつは昭和育ちの日本人にゃ暗黙の了解だよな。けど、世の中の造りなんてそんなもんだ。安心安全の製品供給をこれ見よがしに謳う企業は、三年毎にぶっ壊れる商品を売りつけて、壊れりゃ修理じゃなくて買い替えを説得する。銀行の金融派生だって、基本、あるもんはリスクで、掲げるリターンなんてもんは屋台の豪華な景品と同じ、餌だ。多くの政治屋の本質は政治献金目当ての利益誘導だし、やくざの本質は、任侠とか仁義じゃねえ、暴力だ。それが普通にまかり通るから、神とか仏をシンボルマークにして、教団を作った人間を第一的に拝んで、強要とかプライバシーの侵害をやりたいだけやって、貧しい信者から金を吸い上げる宗教もなくならねえし、オケラの人間から利息を巻き上げる消費者金融も、一時は社会問題(シャカモン)にまでなりながら、テレビじゃ今だにコマーシャル流してんだろ」「義毅、あのな」「言いてえことは分かるさ。まあ、俺の話を聞けよ」義毅は体勢を作り直した。

「世の中、騙し騙されは、一種の持ちつ持たれつだよ」

 義毅の言うことを、ただの臍曲がり弁として片づけるのは簡単だが、無視もし難いような真実を鼻先に当てられた気分になった。今の村瀬には、胸が騒ぐワードも混じっている。

「この際、ばっさり言うぜ。騙されるほうが悪いんだよ。ちなみに俺は、騙される側、奪われる側に甘んじる人間じゃねえ」

 義毅は言って、にちゃりと笑った。口角は上がっているが、目が笑っていない、狡い笑いだった。お互い子供の頃から見慣れた表情だが、村瀬はこれに「三つ子」を感じる。やはり、この男の生来の気性は、自分とは違う。顔立ちは母親似だが、物事に事なかれだったその母親とも違う。何代か前からの隔世遺伝か、そうでなければ突然変異だろう。

 村瀬は、手繋ぎ式の相手合わせカードだった、動物の図柄が彫り込まれた銀貨のことを思い出していた。犬や鳳凰の裏面にでかでかと彫られていた「純」の漢字一文字に、庇いの感情を持っている自分が確かにいる。

「お前、そんなことをまさか本気で思ってるわけじゃないよな」「本気とか自己欺瞞かとは関係ねえさ。今言ったことは、何も俺の格好つけじゃねえ。俺自身の見聞と、切りゃ血の出る経験がベースだよ」村瀬は呆れようにも呆れも出ないという顔になり、キッチンと仏壇、遺影に目を馳せた。何とか言ってやってくれ。遺した写真の中の両親に頼み込む思いだった。だが、遺影の中の母親はピンクのチューリップハットを被って笑っているだけだし、父親は、ソファに座って、自分はこれまでこれだけ苦労して実績を作ってきたんだ、という静かな自信に満ちた顔でファインダーを見つめているだけで、目の前にいる次男への説教が天井から落ちる気配はない。

「まあ、それはいい。俺が今日ここに来たのは、ちょっくら預けてえもんがあるからなんだ」義毅は懐をまさぐり、クリーム色をした一本の短いスティックを出し、円卓の上に置いた。それはPCのUSBだった。

「PC、持ってんだろ? 時間があっ時に、よかったら見ろよ」「何だ、これは」「あとから、トヨニイの身を助けることになるかもしれねえもんだ」訝しみを隠せない村瀬を前に、義毅が腰を上げた。

「さて、今日はこの辺でお暇すっけど、俺、浄水器の商売もやってっからさ、よかったら、俺が卸してるやつ、買ってくれよ。割引するぜ」義毅は言って、玄関へと歩き出した。

「おい」村瀬はいかつく肩をいからせた弟の後ろ姿に声をかけた。「お前、今、どこに住んでるんだ」「船橋の大神宮のほうだ。商売の社屋とヤサ、兼ねてる」義毅は顔半分を村瀬に向けて答えた。「結婚はしてるのか?」「そいつはこれまで考えたことはねえよ。一人のほうが身軽に動けるもんでね。俺はここが遊び時だって時にすぐに遊んだし、今も別に不自由はねえしな」「そうか。でも、仕事持ってて、一端に納税もしてるんだったら、そろそろ身を固めることを考えてもいいんじゃないか?」「後悔はしたくねえもんでな」義毅は捩じるようにブーツを履きながら言い、含みのある目で村瀬を見た。

「トヨニイがこんなことになっちまったのは、俺の忠告を無視したからだ」「いや、お前、あの時はな‥」「あの時も糸瓜もあるか。早由美ちゃんにしろって、俺はあれほど言ったじゃねえか。少なくとも、あの娘は粉かけじゃなかったぜ。それをあんな派手な式挙げて、新郎スピーチじゃ、あの奥さんへの買い被りまがいのこと言ってさ。俺はまだガキだったけど、あんな居たたまれねえ結婚式ったらなかったよ」

 谷口早由美(たにぐちさゆみ)。実に懐かしい名前だが、村瀬の中に縁の残る感はない。

 袖ヶ浦の団地に住む、母親の友人だった「谷口さんのおばさん」の娘で年齢は村瀬の四つ下、お互いに幼い頃より村瀬の家に出入りし、よく一緒に遊んだ。「お兄ちゃん」と言って、子供時代の村瀬の足許に仔犬のようにまとわりついていた彼女は、村瀬の中では、妹分の域を出ることはなかったが、思春期に入っても、一緒にアニメ映画を観たり、甘味を食べに行ったりする間柄だった。村瀬は小憎らしい弟よりも、この早由美を、本当の妹のように可愛がり、労った。早由美も、少年の村瀬に慕いを寄せて、可愛く甘えた。

 その早由美が村瀬に万年筆を手渡してプレゼントしたのは、彼が第二希望の大学の合格通知が来た時だった。

 おめでとう、と言って、中学の制服姿の彼女から、青いリボンが花を咲かせた万年筆の小箱を受け取った時、村瀬の目からは涙が溢れ出した。それを手の甲で拭いながら、心から礼を言ったが、それでも村瀬の男としての心が、彼女を結婚が前提になるような恋愛の対象として認識しなかった。それを早由美がそねむ様子もないまま数年が過ぎ、八木ヶ谷で所帯を持った村瀬の元に、開業医の歯科医師に嫁いで県外へ行ったという情報が母からもたらされたが、現況は分からず、今となっては過去の人に過ぎない。なお、彼女がくれた万年筆を、村瀬はまだ保管している。

「それは、今さら言われても困ることだよ」言った村瀬を背に、義毅はブーツを履き終えて、上がり待ちから立ち上がった。村瀬に向けた横顔には、呆れの色がある。

「結果論を言えば、俺のあれは、確かに成功した結婚とは言えなかった。だけど、あの時はあの時なりにやっていきようがあると思ってたし、早由美ちゃんは、あまりにも壊れ物の感じがして、奥さんにするとかは何だか罪みたいに思えてたんだよ」「それで、醜い所をさらし合う関係を作ったわけだね、愛のない相手と」「だから、それは」

 村瀬と義毅の間に、数秒の沈黙が垂れこめた。弟の突き刺すような目線を、村瀬は弁解もほどほどに受け止めた。

「これからは、どうするつもりでいるんだよ」何かのかまかけを思わせる義毅の問いかけに、村瀬は戸惑いを覚えた。「何のことだ。老後のことか?」と、ボケを入り交ぜて訊き返した村瀬に、義毅はまた狡い笑いを顔一杯に刻んだ。

「老後っつうのもあながち関連しねえことじゃねえよ」「再婚か?」義毅の笑顔は、おおかたのことを見通しているそれだった。村瀬は臓腑を掴まれたような思いになった。

「相手は、いないこともないよ」「トヨニイ」義毅は半身をひるがえして、村瀬のほうを向いた。

「用足したあとで捨てっかもしれねえとかってちょっとでも思えるんだったら、最初からやめときな。今なら、上手な逃げようもあるはずだよ。けど、そうじゃねえって言い切れんなら、命懸けで相手の全てを買い切る肚ぁ決めろよ。それより他に道はねえぜ」義毅は涼しく言って、ワイヤー一本で外したというドアガードと鍵を開け、ドアを開いた。村瀬は、言われたことの真意を図れない気持ちで、出ていく義毅のあとを追った。

「待てよ。今日、こんな時間にいきなり来た理由を教えてくれないか。寝込みを襲うみたいに忍び込んできたのは、俺に何が言いたかったからなんだ?」村瀬は塀の前に停車された黒いソアラの前で、オートキーのボタンを押した義毅に問うた。「あとへ引けねえ恋愛にゃ、獣並みに感覚を研ぎ澄ます必要があっからだよ」村瀬の顔を見て放った義毅のコメントに、自分の暮らしを覗かれているような寒気立つ感じがあった。

 先回りされて、掴まれているのか。それを思った時、やはり再会を喜べない気持ちになった。

「そんな変な顔すっことはねえよ。俺は今のトヨニイのことは、今日ここに来るまで全然知らなかったよ。俺が今言ったことは、もののたとえだと思ってくれ。ただ、その齢を考えりゃ、乗りとか勢いだけでどうにかなるってことはねえから、次にめとる時には真剣味が要るってことを言いたかっただけなんでな」「頼むから、脅かしまがいのことをやったり言ったりするのはやめてくれ。俺だって、余裕のない毎日の中に希望を見出して生きたいんだ」「分かってるさ。俺だってそうだ。ただし、こっちはトヨニイとは方向性が違うよ。かみさん、子供、義理の親兄弟なんかに振り回されることのねえ我が道を、どこまでも太く短く、だからな、俺は」それを聞いた村瀬は、絹子を思い出した。

「そうか。頑張ってくれ。ところで、連絡先交換は」「追々教える。また来っから」「もう一度訊くけど、あのUSBは何だ?」「昔、だ」「昔?」義毅は村瀬のぽかんとした訊き返しに答えず、リアドアを開けて運転席に乗り込んだ。エンジンがかかり、ロービームのヘッドライトが路面と、電柱の下部を照らした。

 義毅のソアラが駅の方向へ走り去るのを見送る村瀬の胸には、これまで自分が送ってきた人生では経験し得なかったことが、自分の生活を濁流のように呑み込み、自分が想像だにしなかった所へ自分を押しさらう予感が走っていた。

 翌日、村瀬は五時にウェイクした。昨夜零時過ぎに起こったいきなりの再会は、村瀬の心に複雑な不安感と、奇妙な安堵の両方をもたらした。その安堵は、今頃はどこかの無縁墓地に葬られている可能性もよぎっていた弟に命があったばかりか、顔の色艶も良く表情、言葉にも覇気が満ちており、小洒落た装いの外観を調えてソアラなんぞを乗り回していることが確認出来たことによるものだった。そのせいか、企画する菜実とのデートに差し支えない程度の睡眠は摂ることは出来た。

 村瀬は、寝室で衣類を全て脱ぎ捨てると、あらかじめ買っておいたボクサーブリーフと肌着を取って、素裸で階段を降りて浴室へ向かった。髪、体は隅まで入念に洗った。バスタオルで体をさっと拭くと肌着とボクサーブリーフの姿で、居間の棚に置いてあるPCとマウスを円卓に移した。

 USBを差し込み、画面に表示されたデータのタイトルに目を凝らすと、「金沢のケース」という文字が躍った。脅かしの類いはやめてくれ、と義毅に言ってはみたが、ファイルを開くことにさほどの躊躇は覚えていなかった。もしも義毅が言ったように、このUSBに保存されている映像か画像のデータが自分を助けるとかなら、とりあえず、見るだけ見てみようと思った。

 タイトルバーをクリックすると、浴室で幼い女の子がお尻丸出しの真っ裸で、父親の背中を流している映像が映し出された。バス用品のCMのようだが、現在では考えられない放映内容のため、相当昔の制作年度と思われた。それから、当時の最新モデルだったらしいカーステレオのCM、その後、ソバージュの髪をした女がマイクを手に持ち、小さな公園を歩く後ろ姿の映像に変わった。カメラが進むにつれて、滑り台、砂場が女の脇を通り過ぎた。

「昨日、この児童公園で遊んでいた六歳の女の子が、居合わせた二十二歳のアルバイトの男に、暴行を受けて殺されるという事件がありました」ソバージュの女リポーターがカメラのほうを振り向いて述べると、画面右下に、現在では使われていない、仰々しい手書きテロップの見出しが浮かんで出た。 

 フリーアルバイターが女児殺害! と打たれ、一台のブランコをリポーターが指した。略されていないこのライフスタイルの呼称と、女性リポーターの髪を見れば、だいたいの年代が分かる気がする。

「昨日、午後二時半頃、同市に住み、地元の保育園に通う木下紗香ちゃん、六歳がこのブランコを漕いでいたところ、公園に入ってきて、ベンチに座ってジュースを飲んでいた若い男が、何を人の顔をじろじろ見てるんだ、などと紗香ちゃんに言いがかりをつけました。その時、公園には、紗香ちゃんの他に幼稚園児から小学校低学年の子供達が三人ほどいました」息せき切ったリポートをバックに、どこかで補助輪つきの幼児用自転車に乗った、兎のようなツインテールの髪をした女の子の写真が映し出された。

「男は、紗香ちゃんの髪の毛を鷲掴みにしてブランコから引きずり下ろし、髪を掴んで公園の中央まで引っ張ると、紗香ちゃんを地面に引き倒し、背中や頭部を蹴る、踏みつけるなどの暴行を加え始めました。そこへ、同市の六十九歳の男性が、孫を遊ばせるために公園に入ってきました。男の暴行を目撃した男性が、何をしてるんだ、やめろ、と怒鳴ったところ、男は逃走しました。男性は、付近の電話ボックスから、先に119番、次に110番通報をしました。紗香ちゃんは救急車で病院へ搬送される途中、救急隊員による懸命な手当ての甲斐もなく、肋骨骨折による肺臓の損傷、外傷性脳出血で死亡しました。その二時間後、事件現場の公園から2キロ離れた湖北台のファミコンショップにいた、人相、服装などが目撃情報と一致する男を地元警察署の署員が発見、職務質問をしたところ男がその場から逃走しようとしたため、取り押さえて署に連行、取り調べを行うと、男が容疑を認めたため、暴行致死の疑いで、この我孫子市内に住む二十二歳の男を逮捕しました」

 その時、画面に映る写真が、犯人の男の逮捕写真に変わった。自称アルバイト店員 金沢直人容疑者(22)と画面下に、手書きテレビテロップが出ており、若い男の顔が、罪の意識もないような目線を画面の中から投げかけている。写真の背景に、容疑者の称する職業、名前、年齢を読み上げる声が流れていた。

 長髪だが、いわゆるロン毛や、村瀬の詳しくないロッカーとかの髪とは違い、清潔を維持するためのカットを怠って、無造作に伸びてしまった髪をしている。長さは肩口までだが、毛先の束が内側へカーブした形の髪型で、全く整えられている感じがない。思い出してみると、少年だった時分の村瀬も時折見かけたタイプの若者の髪型だったが、映っている顔の造りには、恵みというものがまるでない。丸い輪郭をしているが、陰険な光が籠る一重瞼の三白眼に、黒々とした大きな鼻孔が、ぼこっと正面に開いた顔をしている。胸から上の写真だが、着ているものは、現在は高齢者になっている、その当時の中年域の人向けのシャツらしかった。

「取り調べに対し、金沢容疑者は、アルバイト先を解雇されてむしゃくしゃしてやった、と犯行動機を供述し、驚くべきことに、明日が新作のゲームソフトの発売日なので、もう帰っていいですか、などと、取り調べに当たった署員に訊いたということです」画面は再び公園に立つリポーターに切り替わり、その実況の声は、怒りによる私的興奮を帯びたものになっていた。

「以上、我孫子市から中継でした」ソバージュのリポーターが締めると、見覚えのある顔の司会者が映り、「ありがとうございました」と述べ、「あの連続幼女誘拐殺人事件を始めとして、近年、幼稚なメンタリティを持つ大の青年が、力のない相手に手をかけるような事件が目立って発生しておりますが、親元の無職の生活や、言葉の響きばかりがファッショナブルでかっこいいけれど、その実態は、納税などの義務を放棄した逃避に過ぎないフリーアルバイターという浅はかな流行、また、本来、子供のものであるはずのゲーム、漫画、アニメ、などが今、大人の男達を汚染しつつあるという問題を直視することが、こうした陰湿で悲惨な事件を減らすことに繋がっていくかもしれないと私は思います」司会者がコメントすると、ニュースは、都内に本社を構え、海外にも支社を持つ上場企業商社の粉飾決算疑惑のものに変わった。映像はそこで途切れ、村瀬は、円卓の上に載せた両手を重ねるように組んで、俯いた。

 義毅への、怒りを含んだ抗議の思いがこみ上げた。いくら遠い昔のこととはいえ、こんな気の毒なばかりか、胸糞の悪いニュースを観て悦に入るような人間性向きなど、俺はしていない。身を助けることになるのだか何だか知らないが、とんだ余計なお世話でしかない。まして、俺は今日、これからデートだ。こちらのそういう都合というものは、予想して考えられなかったのか! あの夜中のピッキング侵入といい、このUSBといい、あいつはどこまでこちらを不安に、不快にさせれば気が済むのだ。やっぱり死んでいてほしかった、とさえ思えた。彼が昨夜に述べた抽象的表現には、すでに自分の生活に潜り込み、侵しているようなものが匂っていたこともある。

 死神か疫病神か、反対に援軍として現れたのかも分からない弟が秘める意図を考えるより先に、記録されたニュース映像に大写しになった、金沢という男について、自動的に思考が導かれた。

 映像から分かっただいたいの年代、テロップに表示されていた当時の年齢では、自分とそう変わらない世代の人間だろう。ソバージュの髪がポピュラーだった頃に二十代前半ということは、昭和四十年代生まれと考えるのが普通だ。

 インターネットにアクセスし、「金沢直人」と打ち込んで検索をかけた。何人かの同姓同名の、病院長や会社役員、端役俳優の名前と、あの金沢とは似ても似つかない人物の顔写真が出てきた。九十年代初頭から前半の頃に我孫子市で起こった女児殺害事件の記事は、どれだけスクロールしても見つからなかった。それはこの事件が、今でいう陰キャ、その頃の世の中に履いて捨てるほどいたタイプの「オタク」に属するしがない男が起こした小事件に過ぎず、大規模無差別テロや、数千人の犠牲者を出す大災害、ブリーフ一丁などの奇抜な見た目をした犯人が起こす、複数の死者が出る通り魔事件、それこそ何人もの幼女が誘拐されて猟奇的な方法で殺害されたもの、または少年チンピラ集団が女子高生を拉致監禁、一ヶ月超もの時間をかけて凌辱の限りを尽くして弄んで殺し、遺体を遺棄するといったものほどは注目を集めないものであり、そのため、世間では語り継がれることなく、風化の一途をたどる。

 悪いが、金沢のあの顔で女にもてるはずがない。だが、多少容姿に器量を欠いていても、内側から湧き出る自信が美しさを放ち、人を惹きつけて尊敬される人間は、男女ともにいる。恵まれていない外見を逆手に取り、それを自信に変えて生きている者もいる。その生い立ちなどを含め、金沢が心に抱えていたものが何であったかは分からない。それは果たして、ただ白昼の公園で目が合っただけの、何の罪もない子供を踏み殺すことで晴らせたのか。そんな風に、時空を遡った憤りの気持ちをいくら持ったところで、その理由は、今となっては金沢の中にしかない。だが、彼がどんな目で社会を観ていたかは、火を見るよりも明白だ。人の命を奪って警察に逮捕され、新発売のゲームを買いたいから帰っていいか、などと訊いた時のしれっとした顔、口調までが容易に想像がつくからだ。彼は、社会というものが分からなかったし、それを学ぶ機能が脳になかったということははっきりと言える。だから、子供を一時の衝動で暴行し、死に至らしめたのだ。

 義毅は、「騙されるほうが悪い」と言い切り、自分は騙す側、奪う側の人間であるとほのめかすように言ったが、いずれにせよ、加害側のうそぶきは、自分には理解不可だし、理解などする気もない。

 金沢は、当時すでに二十歳を過ぎていながら、解雇されて当然のような勤務態度をどこかの店か会社で取り、その「むしゃくしゃ」が、犯した罪の免罪符になると信じていたばかりか、警察に逮捕されるということがどういうことなのかが分かっていなかった。それは人生のある段階で、成長が頭打ちになったことを表している。その後、数年の間、どこかに服役したはずだが、今の彼が罪を反省しているとは、理屈抜きに、あの顔からして思えない。

 義毅が社会を観る目は、秀でた要領の良さを武器にして物事を廻し、時に脱法することも厭わない山師のものだが、金沢のそれには、責任の感覚が概念から存在していないような、ハンディキャップめいた稚拙さしか感じ取れない。それを考えた時、非常に、いや、非情に、無情に、忌まわしい答えが導き出される。

 義毅が飯の種にしていることは何だろう。浄水器のオンライン販売だけで住居や車を維持しているなどということはイメージがつかない。彼は当然、利用可能なものは全部利用し、自分自身の利益に繋げるたちの人間であり、まごうことなく、それがあの男の頭脳的ルーティンであって性根だ。弱者、補助の必要な人間に対し、必要以上の憐憫の気持ちを持たないために形成された中身なら、利用対象に、まさか金沢、あるいは菜実のような人と、あのマイクロバスに一緒に乗っていた人達も挙げて、自分の生業を行ってはいないだろうか。だとすれば、その男が、これからも自分にまとわりつくということの意味は、想像もしたくない。たとえ兄弟であっても。いや、身内だからこそだ。

 村瀬は、自分の身に、わりと明瞭な足音を立てて近づいている動乱の雲色を、心の目が捉えた思いになっていた。だが、それでもそれを迎え撃つと、思考のどこかで発せられた言葉を確かに聴いていた。自分の肚が据わり、やるべきことが頭の中で整然としていくのを確かに感じながら、PCの置かれた円卓の前を立ち、コンビーフと茶碗一杯のライス、野菜ジュースの朝食の準備を始めた。

 今の自分が生き抜く力、菜実の存在こそがその源だ、という恋愛信念を胸に満ちさせながら、コンビーフをカットし、よそったライスにのりたまのふりかけをまぶす準備作業を行った。
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