聖女は前世ヒモでしたが

@midorimame

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第一章 聖女転生

第30話 議会での承認

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 後日、俺はルクスエリム王と共に議会へと赴いていた。あの帝国戦の後で初の議会への出席である。帝国戦以前の俺は、ルクスエリムのお飾りのように側に居るだけだった。だが今日は聖女支援財団の資金の使い方について、議会で元老院や教会や貴族の奴らに報告せねばならない。

 さいっこうにめんどくせえ。それに尽きる。

 訝し気な表情の元老院の爺さん達と、俺を好奇の眼差しで見て来る貴族の連中。本来は適当にあしらいたい奴らだが、俺の職場の上司である教皇や枢機卿連中が目を見張っている。そんな中でもっとも大嫌いな、ドモクレーなんかと話をしなければならないのだ。

 ゲロが出そうだ。

「失礼いたします。議会の皆々様がお揃いになりました」

 使用人のいでたちの女が俺の部屋に告げに来た。仕事なのでスティーリアをお供に連れているが、一緒にいられるのはここの控室まで。俺は部屋を出てルクスエリムの控室へと向かわねばならない。

「ではスティーリア、待っていてね」

「はい。大変なお仕事ですが、既に陛下とも示し合わせているのです。特に問題は起きないと思いますよ! 頑張ってくださいませ!」

 へいへい。スティーリアは慰めるのが上手いなあ…

「行ってきます」

 そして俺が控室を出て、迎えの女と共にルクスエリムの部屋へと向かう。そして連れてきてくれた女性が俺に告げた。

「こちらのお部屋です」

 ああ、いかないで! 初めて会う君! 俺を一人にしないで! 

 無情にもルクスエリムの部屋の扉が開かれる。すると部屋の中にルクスエリム王が座っていた。

 「フラルよ、そう堅くならずとも良い。話は終わっているのだ。後は形式上の報告をするのみ。昔から現場で仕事をするのが好きなお前の事だが、決まった話をするだけと思えば気が楽だろ」

 珍しくルクスエリムが俺に気を使っている。それだけ俺は酷い表情をしているのだろう。気を取り直してルクスエリムに答える。

「お気遣いありがとうございます。いつもは陛下の側に居るだけでございましたが、本日は私が話さねばなりません。多少緊張するものですね」

「お前はカルアデュールの戦いの英雄ぞ! 胸を張ればよい」

 違うのだ。緊張しているわけではないのだ…、これから行く場所が嫌なのだ。そんな俺の考えを知らずに、側に立っていた近衛騎士団長のバレンティアが言った。

「それでは陛下、聖女様。参りましょう」

 コイツは一応護衛の為にここにいるのだが、特別な場所に入れる俺と自分が似たような境遇にあると思っている。だからこの時は、やたらと親密な雰囲気を醸し出してくるのだ。

「大丈夫ですよ」

 ほらね。めっちゃ俺を気遣っている風を装っている。もしかしたら本心なのかもしれないが、俺の心に入り込もうとして来ているようで嫌だ。セクハラだ。

「もちろんです。陛下とのお話も終わっております。心配ご無用」

 議会に続く石廊下を歩きながら、ルクスエリムの後で俺達が会話をしていた。

「親密なのだな」

 前を歩いているルクスエリムが振り向きもせずに、変な言葉をぶっこんで来た。

 やめてくれ! 俺はコイツとは全く仲良く無いのだ! 親密であるはずがない!

 俺が嫌な顔をしていたのだろう。バレンティアがルクスエリムに言った。

「どうでしょう? 陛下…聖女様は嫌がっているようにも感じますが?」

「フラルよ、どうなのだ?」

 んぐぐぐぐ! ここで、いやぁ…俺コイツ大っ嫌いっすよ。イケメンだか氷の騎士だか知らないが、自然体でカッコもつけない。それなのにめっちゃ女にモテてるこいつは、間違いなく俺の敵だ。無理っす! と言いたいところだが…そんな事を言うわけにもいかず…

「親密などとおやめ下さい。私は公務に集中したいのです。まして異性と親密などとの醜聞が世に聞かれたらなんと言われるでしょう。私は聖女なのでございます。陛下」

「はっはっはっ! この国では聖女が結婚してはならんと言う法律はないぞ、そなたは修道女とは違うのだ。役職上、教会に属しているだけだしな。ましてや聖女の血を絶やしてはならんのだから、いずれは誰か良き男と添い遂げねばなるまい」

 はあっ! うそ! 今まで全く考えていなかった! 聖女の血? ルクスエリムよ申し訳ないが聖女は俺の世代で終わりだよ。絶対。

 俺はルクスエリムに答えなかった。

 通路の先にある扉の前に衛兵がおり、俺達を見てビシッと敬礼をする。そしてルクスエリムが扉の前に立つと、衛兵は扉を押して開けるのだった。

 こっからが嫌なのよ…

 議事堂内部には登壇する場所があり、そこからすり鉢状に沢山の座席が備え付けられている。そして既にそこには議会の連中が座っていた。

 見渡す限り…女は俺一人。

 そう、ここは爺さんから若いのから俺以外が全員男なのだ。俺以外、三百人近い人間がすべて男という地獄。俺の全身にプツプツと鳥肌が立ってきた。前世日本では女の議員が先進国の中でも一番少ないと言われていたが、そんなもんじゃない。ここに女は俺しかいないのだ。

 俺が下心を持って目下進めている、貴族の娘勉強会はこれを少しでも改善したいからなのである。俺が最初にこの議会に出た時、めちゃくちゃ驚いたものだった。この国は完全な男尊女卑の世界だったのだ。

「ルクスエリム陛下が入廷いたしました!」

 大きな声で衛兵が告げると、座っていた皆がざっと立ち上がった。ルクスエリムが椅子に座るまで皆が立っている。ルクスエリムが登壇し皆に告げる。

「それでは議会を始める! 議長! 進めてくれ」

 ルクスエリムが座席に座ると、ザッ! と皆が礼をして席に座る。議長が皆に本日話し合う内容を告げ、皆の承認を得て会議を進めていくのだった。俺の話す内容は経理に関するので、財務大臣への報告となり会議の後半の方となる。

 各省の議題があげられそれについて協議をしていく。だがここで前世日本と違う事は、居眠りをしている政治家が居ないと言う事だ。皆が真剣に話をしているのは、それぞれに利権が絡むからである。

 まあ…、前世の日本でも利権が絡む人は元気だったような気がするけど。

「それでは、財務大臣! お願いします」

 議長にふられた財務大臣が、恰幅の良いお腹を持ち上げて立ち上がる。

「陛下。それでは発言をさせていただきます」

「うむ」

「えー、この度は聖女様の方からお話があると言う事です。それでは聖女様よろしいですかな?」

  嫌だけど…

「はい」

 そして俺が登壇すると、爺さんやおっさんが俺をジロジロと見る。

 ヤメロ! 減る! 俺を見るな!

「此度は発言の場を頂きましてありがとうございます」

 パチパチパチパチと拍手される。

「私の為に財団が用意された事は周知の事実かと思われます」

 そう言っただけで、パチパチパチパチ! と拍手された。まだ何も言ってない。

「皆様の善意のおかげで、聖女を支援するという資金が集められました」

 またパチパチパチパチ! ウザい。他のおっさんらと同じように黙って聞け。

「そして先日の帝国戦についてでございます」

 ひときわ大きな拍手が起きる。それについては未だ熱が冷めやらぬようだった。それだけ歴史的快挙だったらしく、議会は熱狂的な雰囲気に包まれていく。まるでアイドルのコンサートのようだ。

「実を申しますと、かなりの人数の帝国兵を捕虜としております。現状帝国からの返答はまとまっておらず、捕虜返還までは帝国兵の食糧など経費がかかっております」

 ざわざわとおっさんらが騒めくが、この件は既に話がついているはずだった。急進派には全て処刑すべきだ! というような過激な発言もあったらしいが話はついている。こう言う事はお金で解決するのが一番なのだ。それに今回はかなりの帝国貴族を捕える事が出来た。今回の戦費および保釈金、そして補償金の提示は既に帝国に送っている。そして帝国からの譲歩案を待っている所だった。

「それが今、アルクス領の財政を圧迫しているのです。そこで私は私の為に作られた財団の資金を、それのたて替えに使おうと思っております。異議のある方はこの場でお申し出ください」

 後からは受け付けないよーん。すると声が上がる。

「恐れ入ります!」

 ドモクレー伯爵が手を上げた。

 議長がドモクレーを名指しする。

「ドモクレー伯爵」

「は! 発言をお許しください! あれはあくまでも聖女を援助する為の財源です。アルクス領の事はアルクス領で、ミラシオン伯爵がやるべきなのではないでしょうか?」

 やっぱりそう来たか。ミラシオンの手腕は国中の誰もが知っている所、だからこそ帝国との国境の領を任されているのだ。イケメンである事と、ルクスエリムとの信頼関係を妬む者も多い。ドモクレーもその一人で、ブサメンがイケメンを妬んでいるのだ。

 まあ仕方ないので俺が答える事にする。

「申し訳ありませんが、此度の捕虜の数は尋常ではありません。それを管理するに、王都から大勢の兵が差し向けられているのです。こればかりは国で支援していかねばならない事、アルクス領兵ばかりではなく王都からの兵の維持も必要なのです。兵站を維持する為には資金が必要なのです。私はそのために! 国の為にお金を使いたいと思っています」

 だがドモクレーが引き下がらない。

「ミラシオン卿だからと言う事はございませんか?」

 ああ…なるほど、アイツがイケメンだから聖女である俺が協力したいと思っているって事ね。そんなわけあるかい! アイツの為に俺が頑張ろうと思ってるんじゃない、俺が女の子達と幸せに暮らしていく為にやるんじゃい! なんであんなイケメンの為に俺が頑張ると思うんだか。

「関係はございません。これは私と陛下とのお話によって決まった事、ルクスエリム陛下のご指示である事をお忘れなく」

 するとドモクレーが慌てた顔をする。

「は、はは! わかりました。それでは私からはこれで!」

 ドモクレーが汗を拭きながら下がっていく。するとルクスエリムが俺をフォローしてくれた。

「聖女は快く受け入れてくれたのだよ。未だ帝国からの返答は無いのだ、もしかするとそれが無駄になるかもしれないと知っての事。皆も言いたいことがあるだろうが、ここは聖女とわしに一任してくれるかの?」

 ルクスエリムが言うと、ことさら盛大な拍手が起きた。これで聖女支援財団の資金の流れが決まった。後は王宮に任せて俺はノータッチでいられる!

 ソフィアは分かってくれるよね! こんなに嬉しい事はない!
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