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序章 宇宙人襲来

03 仲間たち

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『時間だ。グラウンドに来い』

 ついに試合だ。
 緊張しながらグラウンドに向かおうとする俺をトール会長が呼び止める。

 「少し待ってくれ。先にこれを渡しておきたい」
 そう言ってイヤホンのようなものを俺に渡した。

 「これは?」
 「これはイヤホン型の翻訳機。耳につけておくと望む言語に即座に翻訳してくれる優れものだ。初対面の者たちと言葉も通じない中チームを組むのは流石に無理があると思ってね」

 確かに。冷静になって考えてみるとコミュニケーションが取れないのは致命的だ。
 俺にはそんな事まで考えてる余裕は無かったしやっぱり会長になるだけあって視野が広いな、などと考えつつイヤホンをつける。

 「それでは皆! とりあえずは11人集まって良かったよ。だがここからが本番だ、プレッシャーを与えるようで申し訳ないが、君たちの試合に地球の未来がかかっている。何がなんでも勝ってくれ! 幸運を祈る……!」

 トール会長はそう言葉を告げ部屋を後にする。俺も自分たちの役割の重大さを改めて感じつつ気を引き締める。すると……

 「おや、君は……?」

 部屋から出たトール会長が何かを口にする。扉の外を見てみると、見慣れた白い髪。あれは……

 「え! 未来!? なんでここに!?」

 そこにいたのは俺が少し前に突き放した未来。逃げさせたはずなのになんで……。

 「えへへ、ついてきちゃった」

 「『ついてきちゃった』じゃないって! すみませんトール会長、いますぐ帰らせますから!」

 そんな俺の言葉に対し、トール会長は少し考える仕草を見せた後こう返す。

 「いや、その必要はないよ。未来さんだね? マネージャー希望ということでいいかい?」

 「はいっ!」

 トール会長の質問に対し、未来は元気よく返事をする。

 「ありがとう。ではよろしく頼むよ」

 「ちょ、ちょっと待ってください! トール会長! ほんとにいいんですか? こう言っちゃあれですけど邪魔になったりとか……」

 あっさり受け入れたことに驚きつつも、俺はトール会長に言葉をぶつける。

 「いや、大丈夫だよ。マネージャーがいたらチームの士気も上がるだろうしね」

 「そ、そうかもしれませんけど……」

 「では私は少しやる事があるため先にグラウンドに行っているよ。また後で会おう」

 まだ腑に落ちない気持ちもあったが、トール会長が去ってしまったためこれ以上追求することはできなかった。仕方なく俺は未来に向き合う。

 「未来、逃げたんじゃなかったのかよ」

 「だって龍也くんがあんな下手くそな演技してまで追い返そうとするんだもん。これ以上話してても無駄だなーって思って逃げたふりしたの。ごめんね? でも大丈夫! 私、全力でサポートするから!」

 そうして綺麗なガッツポーズを決める未来。
 それにしてもまさか俺の嘘がバレていたとは……。しかも下手くそって……ま、まじか……。
 しかもトール会長の許可も貰ってしまってもう追い返すこともできない。頭を悩ませていると

 「おーいおいおいおい! 誰なんだこのかわい子ちゃんは!」

 そう俺たちに話しかけてきたのはフランス代表レオ・シルバ。サッカーはもちろん上手だが、それ以上に女好きで有名な選手だ。顔もなんというかモテる男の顔って感じがしている。

 「日本代表のマネージャーだよ」

 「へぇー! めっちゃ可愛いじゃんか!
 はじめまして、俺はレオ。趣味は料理とギター――」

 確かに未来は綺麗な白い髪にセミロングの髪型がすごく似合っていて目もくりっとしていてやや童顔で身長も小さくて仕草も犬みたいで幼なじみの俺目線からしても可愛いとは思うけど、なんかこいつにベタベタされるのは嫌だな。なんて親みたいな事を考えていると、今度は別の男に話しかけられる。

 「おい、なんで無視すんだよ」
 話しかけてきたのは藤森将人ふじもりまさと。俺と同じ日本代表のメンバーだ。
 もちろん存在は認識していた。だが……

 「なんだよ将人。俺は今からの試合で緊張してるんだ、お前に構ってる余裕なんて無いんだよ」
 「はっ、宇宙人なんかにビビってんのか。相変わらず大したことない野郎だな。お前よりは吉良きらさんにいてほしかったが仕方ねえ、よーし勝負だ。今回の試合でどっちが多く点を決めれるか、勝った方が真のエースストライカーな」
 「は? 今はそんなことしてる場合じゃないだろ。それに予選で多く点決めた俺が上で決まってる」
 「たった1点じゃねえか。決勝だと俺の方が多く点取った」
 「予選の総得点で勝ち負けを決めるって言い出したのはお前の方だろ。潔く負けを認めろよな」
 「言ったけどあれは俺が準決勝で怪我で途中退場した時点で撤回だ。フェアじゃねえ」
 「くだらん言い訳を……」

 ……まただ。こいつと話してるとすぐに熱くなる。だから今は話したくなかったんだ。
 そもそもなんでこいつはこんなに俺に絡んでくるんだ。まあ適当に流せない俺も俺だが……

 そんなふうに言い争っていると

 「楽しそうなこと話してんなあ! 俺様も混ぜてくれよ!」

 そう大声で言いながら近づいてきたのは、アメリカ代表のブラド・イーガン。体はこの中の誰よりも大きく、髪型もいかついので威圧感がある。ワントップながら強靭な肉体と持ち前のパワーで数多のゴールを奪ってきたアメリカの攻撃の要だ。

 「より多く点を決めた方がエースストライカー、シンプルでいいじゃねえか。だが次の試合1番多く点を決めるのは俺様だ。エースストライカーなんて戯言は俺様がいない日本チームで話すんだな」

 「ちょ、ちょっとブラドさん、初対面でそれは言い過ぎというかなんというか……」

 ブラドを宥めるように会話に参加してきたのは同じくアメリカ代表のネイト・オリヴァー。パスはかなり上手いがそれ以外はそこそこといったイメージの選手だ。肌も白く前髪が目にかかっている見た目からも推察できるようにあまり活発なタイプではない。そのためこういう場には来ないイメージだったが……。

 「いいんだよネイト、スポーツはなめられたら終わりだからな。
 おいお前らぁ! 後ろで黙ってるお前らもだよ! 一応チームって扱いだが俺様はお前らみたいな雑魚仲間とは思っちゃいねえ。宇宙人くらい俺様1人で倒してやるから指くわえて見ときやがれ!」

 ブラドはそう言った後、ネイトを連れ笑いながら去っていった。

 「なんスかあいつ、俺たちのこと雑魚って。感じ悪いっスねぇ」
 「ははは、まあそんな気にすんなって! それにあれくらい肝が据わってた方が今の状況だと良いのかもしれないぞ!」
 ドイツ代表ザシャ・ヴォルフとヘンドリック・ゲーデが言葉を交わす。ヘンドリックは集まったメンバーの中では唯一のゴールキーパーで、ディフェンダーのザシャとの完璧な連携でドイツの守備を強固なものにしてきた。ドイツ代表ではキャプテンをしていたのでかなり頼れる選手だろう。ザシャは未来を除くと集まったメンバーの中で唯一の年下の選手だが、それを感じさせない高い実力を有している。

 「頼れる味方になって頂けそうですね」
 オランダ代表のキャプテン、アラン・バルテがヘンドリックに同意する。彼のプレイはとにかく優しい。相手を傷つけるようなプレイは絶対にせず、仲間のピンチは積極的にフォローする。スポーツマンシップに溢れた素晴らしい選手と評判だ。キャプテンとしても細かなサポートが多く信頼されている。それに加えて高身長でかなりの美形でお金持ちと非の打ち所がない。非常に羨ましい。

 「そういうもんなんスかねぇ」

 そんな3人の会話を聞いていると、何やら騒がしい存在がこちらに近づいてくる。

 「うえええええ、龍也くんー! 将人先輩ー! レオ先輩が! レオ先輩がぁー」

 「いやいやー、未来ちゃん。巫女なんて日本人らしくてめっちゃいいじゃん! だからちょーっとだけそれっぽい仕草してほしいだけだって!」

 「嫌ー! 恥ずかしいですー!」

 未来はそう言いながら俺たちの後ろに隠れる。なんか宇宙人に攻められているとは思えない緊張感の無さだな。

 「あははっ、いきなり引かれてるじゃん! モテ男くん大丈夫かー?」
 笑いながらそう言ったのはブラジル代表ペペ・アボダカ。小柄ながらサッカーの長い歴史の中でもトップクラスの天才児として有名だ。しかしそのプレイスタイルはかなり独特で、初対面で連携をとるのは難しいように思える。

 「はっ! これだから恋愛初心者は困る。恋愛マスターの俺から言わせてもらうとこの反応は照れ隠し。9割落ちてると言っても過言じゃないな」

 「へぇ~、未来ちゃんだっけ? そうなのか?」

 「……えぇっと、そうですねぇ。もう10割かな、落ちてほしいって思ってます!」

 「「えっ!?」」

 笑顔で放たれる未来の辛辣な言葉にレオとペペが一瞬固まる。俺も焦って一瞬固まる。

 「なんて、冗談ですって~。あははっ」

 そんな感じで会話を流す未来。未来は突然爆弾発言かますからなぁ。それこそ9割は冗談だろうけど……。

 「ほ、ほらな! 冗談言い合えるくらい仲良くなってるんだよ! す、すげえだろ!」

 「お前……めちゃくちゃ声震えてるぞ……」

 「…………」

 レオ、強く生きろよ……。俺は少しだけ同情心が芽生え心の中でエールを送ることにした。

 と、そんな中冷めた目で俺たちを見つめてる人物が2人。
 1人目はロシア代表の司令塔、クレート・スカンツィオ。特に得意としているのはパスだが、ドリブルシュートディフェンス等全てにおいて高水準。加えてペペとは違って正統派な選手だ。味方なのは正直かなり心強い。
 そしてもう1人はアルゼンチン代表ヒル・ロジャ。アランとは反対にラフプレーが多い危険な選手として知られている。それに目付きもかなり悪いため見た目の印象もかなり怖い。実力はかなりのものだが簡単に信頼、協力するのは難しいな。

 「面白いやつばかりで楽しいな! だけど今からは地球の命運をかけた試合だ。気を引き締めていこう……! もちろん緊張しすぎない程度にな!」

 ヘンドリックはそう言いながら俺の方を見て笑う。
 流石ドイツ代表キャプテン、こんな時でもチームメイトのケアは欠かさないのか。

 「気使われてやんの」
 「うるせぇ」
 少し効く将人の煽りを何とか流しつつ俺たちはグラウンドに到着した。
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