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第一章 さらば地球

10 頑張らせていただきまあす!

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 「全員が協力してくれるとは……! 期待以上だ。本当にありがとう!」

 協力を表明した俺たちはトール会長から改めてお礼を言われる。

 「さて、これからも私が君たちのサポートをしていきたいのだが、生憎私には地球での仕事がたくさんあるのでね、ここに長居することはできないんだ。
 したがって私の代わりに君たちのサポートをしてくれる人を用意した。優秀な人だ、頼りにしてくれ」

『我々は宇宙人だ。地球を侵略する』

 突如後ろから声がして振り返る。すると……

 「はじめまして! 宇宙人の声でお馴染み、オグレス星人のフィロよ。地球人のみんな、よろしくね!」

 まさかの本人! 話し方的に男だと思っていたから女性だったのは驚きだ。
 しかもかなりの美人。ややつり目のキリッとした顔立ちにウェーブがかった綺麗な髪、そしてモデルのような体型。これには隣のレオが目をハートにするのも当然だ。

 「彼女はオグレス星と地球との交流を担当している大臣、の娘さんだ。娘とはいえ優秀さは折り紙付き、あの宇宙人の素晴らしく荘厳なセリフも彼女が自分で考えたんだよ」

 「ちょっと! トールおじ様! その言い方馬鹿にしてるでしょ! 宇宙人らしさが出るようにかなり研究したのに!」

 あの時のセリフ、思い返してみれば確かに厨二臭いセリフも結構あった気がするな……。
 それにしても楽しい人だ。宇宙人と本格的に戦うことが決まり、多少なり不安を抱いていた俺たちにとってこの明るさはありがたい。

 「はい! というわけでトールおじ様に代わって私があなたたちをサポートします! ここオグレス星で分からないことがあったら何でも私に聞いて!」

 「はい!」

 フィロさんがそう言うや否やレオが手を挙げる。

 「! じゃあレオくん! 質問どうぞ!」

 「はい! フィロちゃんは今彼氏いますか!?」

 「!? な、なんですかいきなり!?
 ……い、いませんけどなにか!」

 「フィロちゃんさんはどんな男の人がタイプなんですかー?」

 今度はペペがにやにやしながら質問を投げかける。2人とも状況にすぐ順応してふざけられるあたり大物だなと俺は謎に感心してしまう。

 「え、そ、それは……かっこよくて、高身長で、経済力があって、イケメンで、私がダラダラしてても優しく養ってくれそうな……って何言わせるのよ!」

 お、思ってた以上に面白い人だな……。これはもしかして残念美人というカテゴリに分類される人なのか……。

 「もう! そういう質問は終わり! 他に質問はない!?」

 「はい!」

 「はいそこ! ペペくん! 変な質問は無しだからね!」

 「わかってますって~。
 えっと、俺たちってー、宇宙初めてだからわからないことだらけなんですけどー、まあまず最初は言葉かなー。フィロちゃんさんと俺たちで言葉通じてるのってこのイヤホンのおかげー?」

 イヤホン、会長室に集められた時に貰ったものだ。言われた通り今もつけっぱなしにしている。

 「ええ、そうよ。元々これは交易用に作られたものなの。宇宙って基本星ごとに使用言語が違うからこれはかなり画期的な発明だったわ」

 「へぇー、てことは今回の大会でも使われてる感じー?」

 「ご名答。ゼラからの要請で参加星全てに配ったわ。幸いにも全ての星の言語データは入ってたし。だから試合相手との意思疎通は可能よ」

 「なるほど。じゃあ次はー、時間とか季節とかそういう系かなー」

 「まあ気になるわよね。簡潔に言うと地球とほとんど同じよ。というか私たちみたいに人型の生物が文化を発展させられる星って必然的に似たような環境になるの。だからオグレスにも四季はあるし朝昼夜の概念もある。もちろん365日とか24時間とかそういう細かいところまで全く同じじゃないけど地球と似たような雰囲気で過ごせると思うわ」

 「ふむふむ。他にはー……気候かなー。俺たちが生活するところの気候って地球でいうとどんな感じー?」

 「えっとね。地球でいう温帯ね。もっと詳しくいうと温暖湿潤気候、国だと日本に近いかしら」

 「へぇー、結構住みやすい感じかー。てか地球に詳しいなー、フィロちゃんさんは」

 「当然! 私! 優秀! だから!」

 フィロさんはえっへんと胸を叩く。見た目の割に恋人のいない原因を垣間見た気がした。
 というよりこの詳しさ、これがフィロさんがこの役に選ばれた理由なのかな。地球にかなりの理解があり俺たちとも円滑なコミュニケーションを取れそうな人材。
 などと適当に分析していると、トール会長が会話に割り込み話を始める姿が見えた。

 「時間の都合上少しだけ話をさせてもらうよ。昨日話した地球に一度だけ戻る件についてだ。そのために先に今の地球の状況を話そうと思う」

 今の地球の状況か。宇宙人襲来は茶番だった以上あの後何かあったってことはないだろうが、それでもパニックになっている様子は想像できる。

 「今、地球では宇宙人とのサッカー勝負は地球人が勝利したと報じられた。しかしそれで終わりではないことを君たちもよく知っているはずだ。
 だがこの茶番について話すわけにもいかない。そこで中間案として、試合後新たな勢力が現れて宇宙人と組んで戦うことになったという設定にして情報を流した。かなり無理があるが宇宙人が絡んでる時点で今更だろう。地球人にも最低限の危機感を持ってもらいたいしね」

 うーん。確かにかなり無理があるがトーナメントや茶番について話せない以上仕方がないのか。とはいえだったらなんでこんなやり方にしたのかが少しだけ引っかかる。茶番を行った理由も意図も理解したがもっといいやり方が無かったとも思えない。他に何か意図があったりするのだろうか……。

 「というわけで今地球はかなり荒れている。そんな状態で君たちが戻ったと知られるとマスコミに質問攻めにされることは避けられないだろう。
 したがって、君たちは人知れず地球に戻り、信用できる数人にだけ挨拶をするという流れになる。今のうちに挨拶しておきたい人を教えてくれ、私からコンタクトを取っておこう」

 数人か……。うーん、家族とあとは――

 「だが、地球の現状をこのままにしておくわけにもいかないのでね、代表として1人だけマスコミのインタビューに答えてもらいたい。
 その代表とは、山下龍也くん、君だ」

 「……え!? 俺ですか!? なんで……?」
 まさか指名されるとは思わず別のことを考えていた俺は突然のことに少し狼狽える。

 「それは……君がこのチームのキャプテンだからさ!」

 トール会長から予想外の言葉が飛び出す。

 「え、お、俺がキャプテン!? なぜですか!?
 キャプテンなら経験者のヘンドリックやアランが相応しいと思いますが……」

 「いや、確かに2人も優秀だが、このチームのキャプテンは君だ。
 アウラス監督も言っていたよ。自分の意図を読み取り、チームメイトに的確な指示を出し、試合を勝利に導いた君がキャプテンに相応しいと。
 よろしく頼むよ、龍也くん」

 「でも……」
 確かにキャプテンに憧れていなかったかと言うと嘘になる。それは俺が憧れた選手、ガル・イーザンもキャプテンだったからだ。憧れた人に追いつきたいのは当然のこと。
 しかし今のこの癖の強いチームをまとめられる自信は俺には無い。
 どう返そうか迷っていると。

 「いいじゃないか! この前の試合も龍也の指示が無くちゃ勝てなかったんだ! 俺は適任だと思うぜ!
 それに俺なんかはまだまだだ。宇宙人と戦うことを即決できなかったし、まだ少しだけ迷いがある。それに……。……こんなんじゃキャプテンにはなれないよな。
 任せたぜ。よろしくな、龍也!」

 ヘンドリックが背中を押してくれる。その言葉は凄く嬉しい。でも……。

 「申し訳ありませんが僕は反対です。龍也くんが優秀な選手だというのは認めています。しかし、確か彼は日本代表ではキャプテンではなかった。つまりキャプテンとしての経験が浅いというのも事実。
 宇宙人との戦いでキャプテンはかなり重要な役割になるでしょう。龍也くんに任せるという判断は少しリスキーなのでは?」

 逆にアランは厳しい意見を述べる。優しいアランだからこそチームメイトやこれからのことを考えての意見だろう。そして当然これは的を得ている。俺だって正直アランと同じ意見だ。

 「重要な役割だからこそだよ。宇宙人相手とのサッカーは地球でのものとは全く違うものになってくるだろう。だからこそ地球でのキャプテン像に囚われない選手をキャプテンにする必要があるんだ。
 もちろんリスキーなのは理解しているよ。しかしリスクを背負わずして勝てるほど甘い大会ではないんだ」

 「ですが……」

 トール会長の言葉にもまだ納得がいっていない様子のアラン。そしてそれは俺も同じ。どうしても自信が湧かない……。

 「ぼ、僕も龍也さんが適任だと思います! 龍也さんは僕をダメなやつなんかじゃないって言ってくれた。こんな僕にも励ましの言葉を送ってくれた!
 僕は龍也さんのチームで戦いたい……!」

 「俺も賛成です。前の試合、龍也の叫びで力が湧いた気がしました。龍也には前を向かせてくれる力がある。俺はそんな龍也にならついていきたいと思える」

 ネイトやクレが俺に期待をしてくれている。そしてこれを聞いたアランも……

 「……はあ。わかりました。皆さんを信じます。
 龍也くん。わかっていると思いますが、とても重大な役目です。……よろしくお願いします」

 みんなの期待が、想いが伝わってくる。

 「……ここまで言われて受けないわけにはいかないですよね」

 不安はある。それでも俺を信じてくれるみんなの為にも……!

 「山下龍也! キャプテンとして精一杯頑張らせていただきます! よろしくお願いしまあす!」
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