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第三章 謎と試練

79 どちらの勝利

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 「試合終了! この試合! 3-2でフロージアの勝利!」

 「「「…………」」」

 時間切れ……終わった。間に合わなかった。
 あと少し……あと少しのところまでは来たのだが……あと一歩及ばなかった……。

 負け、か。

 しかし何故だろう。悲壮感は漂っていない。それは、仲間たちの顔を見回しても同じだった。

 もちろん負けは悔しい。
 しかし、スポーツは勝ち負けが全てじゃない。大事なのは内容だ。
 今回の試合、みんなが力を尽くして戦った。
 正々堂々と、全力で戦い抜いた。
 誰が不満を覚えようか。

 とはいえ、地球の危機に近づいたのもまた事実。
 だが、これで終わりではない。
 予選は総当たり戦。
 残り2試合を勝ちで終わらせられれば、得点次第ではあるが本戦へと駒を進めることは可能だ。
 それに今回はアウェイの不利な試合。この点差は充分健闘した結果だと言える。

 だから今は、チームが一丸となって戦い抜いたことに、そして、サッカーを全力で楽しめたことに浸ればいい。

 「みんな」

 俺たちに声をかける者が1人。

 「悪かった!」

 謝罪の言葉を口にする。

 「不甲斐ないプレーをして、みんなに迷惑をかけた。
 最初から上手くやれていれば、この試合も勝てたかもしれない」

 彼の言葉を全員が黙って聞く。
 一見するとネガティブな言葉。
 しかし、誰も不安そうな顔をしていない。
 当然だ。声を聞けばわかる。今までの彼とは違うことを!

 「だから! 今回の分は次からの試合で取り返す!
 それまで……また俺を信じてくれるか……?」

 顔を見るまでもない、ここにいる全員の答えは同じだ。

 「ああ! これからもよろしくな! ヘンディ!」

 「ったく、甘えやつらだぜ。
 いいか、俺は違う。もしまた同じようなプレーをしやがったら、容赦なくコートから追放する。
 よく覚えとけ!」

 「……ああ、肝に銘じとくよ。
 ありがとう、ヒル」

 「あ? 礼を言われるようなことしてねえよ! オラ!」

 何より、この一体感こそ。どんな勝利より価値のあるものじゃないだろうか。

 ***

 「…………」

 「い、一応勝ちですけど……」

 「…………」

 「……勝ちは当然ですわ。
 私たちに必要だったのはそれ以上でしたのに」

 「…………」

 「……あの、アマトさん……?」

 「……いや、大丈夫です。考えはまとまりました」

 「考え……ですの?」

 「はい、失敗を引きずっていても良いことはありませんからね。
 ポジティブに考えましょう。今回の試合。ダメなことばかりではありません。
 まず1つ目に、彼らは強い」

 「それが……良いことですの?」

 「はい。
 対エクセラルです。僕たちの本戦出場の前提条件としてエクセラルの一敗がありました。
 今まで期待できるのはホームのメラキュラくらいでしたが、今回の彼らのプレーを見て、もしかしたらエクセラルにも勝て得るチームなのではないかと思うことができました。
 今回大量に得点をして勝てたとして、エクセラルが負けなければ意味がありませんからね。
 彼らのモチベーションアップに貢献できたのなら一概に無駄とも言えないでしょう。
 得点は残り2試合で稼ぐことにします」

 「なるほどですわ。
 して、他にもいいことがあるんですの?」

 「ですね。これは予想の域を出ませんが……。
 途中、地面が揺らされたじゃないですか」

 「ああ。恥ずかしながら私もこかされてしまいましたわ」

 「あの技、どういう原理かはわかりませんが、オグレスの様子を見るに即席で使ったと思われます。
 すると、彼はどこから着想を得たのかという疑問が浮かびます。
 もちろん、自然に沸いた可能性もありますが、彼らの前の対戦相手を覚えていますか?」

 「ええと、確か……ギガデスでしたかしら?」

 「正解です。
 ギガデスの特徴は力の強さ。もしかしたら、彼はそこで相手に使われた技から着想を得たのかもしれません」

 「なるほど。つまり、私たちがギガデスと試合をするときに、対策をしておくことができるということですわね」

 「はい。当然、これは予想の域を出ませんが、対策しておく価値はあるでしょう」

 「この短時間でそこまで考えていらしたとは。やはり、アマトさんは素敵ですわ……!」

 「ありがとうフリア。
 みなさん! 今回は上手くいかなかったかもしれません! しかし、これで終わったわけではありません!
 これからの試合に向けて、この大会を勝ち抜くために、また練習を続けましょう」

 「「「はい!」」」

 「オグレス……今回のところは痛み分けとしておきましょう。
 しかし、最後に笑うのは僕たちです」

 ***

 「うぇーい! 勝ったぜ! ミアちゃん! アリスちゃーん! 未来ちゃん!」

 「お疲れ、ラーラ」
 「凛ちゃんもお疲れ様~。ナイスシュートだったよぉ~」
 「2人とも凄かったです!」

 「ちょちょちょ!? スルー!?」

 「お疲れ、レオ。いいプレーだった」

 「あー!? 別に男に褒められても嬉しくないんだが!」

 「なんだよ……」

 「あ、レ、レオさん! えっと……あの……色々とフォロー、ありがとうございました!」
 「パスも上手かったじゃん、ボクからもお礼言っとくよ」

 「ラーラちゃん……凛ちゃん……。おう! 次からもばしばし頼ってくれていいんだぜ!」

 「そういえばレオ。お前パスの練習には全然参加しないから苦手なのかと思っていたんだが、かなり上手いんだな。何故参加しなか――」
 「しーっ! しーっ! クレートくん、今はその話しないでもいいんじゃないかなー」

 「? 何故」

 「んなことよりペペは? あいつの姿が見えねえんだが」

 「ああ、そういえばいないな。
 確か試合中にトイレに行くとか言ってた気がするが、確かに戻ってきた覚えもないな」

 「……ふーん」

 ***

 「ほっほ、こんなところにいたのか。もう試合は終わったぞい」

 「……へぇ」

 「なんじゃ、勝ち負けが気にならんかのう?」

 「別にー、チラホラだけど歓声が聞こえてくるってことはそういうことでしょー?」

 「ほうほう、それくらいは気にしておるんじゃな」

 「……。それより何か用ー? あんまり見られたい姿じゃないんだけどー」

 「見られたくない、か。
 本当にあの男に似ておるのお」

 「!?
 あの男って……知ってるのか……?」

 「ほっほ、昔に少しのう」

 「……あんた、何者なんだ?」

 「それはどうでもいいことじゃのう。
 ほれ、もう帰る時間じゃ。お前さんもベンチに戻ってきた方がいいぞい」

 「…………」

 ***

 「ヘンディさん」

 「なんだ、ザシャ」

 「ごめんなさいっス。試合中、俺、酷いこと言ってしまったっス」

 「いやいや、何を謝ることがあるんだよ。
 あのときの俺はダメだった。だからザシャは俺に怒った。それだけだろ?」

 「でも……」

 「そんな顔すんなって!
 俺は、お前みたいな後輩を持てて嬉しいぞ。
 俺の育てた後輩が、こんなに立派に成長したんだからな」

 「ヘンディさん……!」

 「それで、もう一度お前に話がある。
 あのときの俺はダメだった。だけど、これからの俺は違う。
 俺はこれから変わっていくつもりだ。
 あのときはああ言っていたが、これからの俺に付いてきてくれるか……?
 って言っても、まだほとんどプレーも見せられてないけどな」

 「いや! そんなことないっス!
 あのプレーで充分伝わってきたっスよ!
 あのプレーは間違いなく、俺が憧れたヘンディさん……いや、それ以上だったっス!
 これからも付いていくっスよ!」

 「そうか……ありがとう。
 これからもよろしくな!」

 「はいっス!」

 無事仲直りを果たしたヘンドリックとザシャ。
 しかしその裏で、彼らの話を聞いていたある人物が苦悶の表情をしているのだが、それは今の2人には知る由もないことだった。

 ***

 「ほっほ、全員揃ったかのう。
 それじゃ改めて、試合お疲れ様じゃ。
 今回の試合は負けてしまったが、これは予定調和じゃ、気にしなくていいわい」

 「「「……え? 予定調和?」」」
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