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第四章 新たな一歩

80 監督の思惑

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 「「「……え? 予定調和?」」」

 フロージアとの激戦を終えたばかりの俺たちに、アウラス監督から予想外の言葉が浴びせられる。

 「え、えっと、予定調和とは……?」

 「ほっほ、そのままの意味じゃよ。
 まあ色々と気になるじゃろうが、ここは敵陣、誰が聞き耳を立てているかわからんからのう。またオグレスに戻ったら話すわい。
 それまではこのこと、そして今回の試合で感じたことを自分の中で整理しておいてくれい」

 いきなりだとは思ったが、俺も整理しておきたいことはたくさんあるので好都合だ。
 もちろん、これからどう進んでいくのかも考えなくてはいけないしな。

 「はーい、じゃあオグレスに帰るわよ。
 ここから近いしこのまま歩きで宇宙船へ向かってそのまま帰るわ。だから大して時間はかからないわね。
 あんまりいい思い出はないかもだけど、このフロージアの綺麗な雪景色も見納めだから気になる人は目に焼き付けておくこと!
 じゃあ付いてきてね」

 言われた通りフィロさんに付いてスタジアムを後にする。
 みんな、監督の言う通り黙って考え込んでいるようだ。
 俺も頭を整理するか。

 初めての他星での試合。
 やはり印象に残っているのは星の特性の活かし方だろう。
 今回のフロージアだって、試合が終わって改めて考えても単純な実力は俺たちの方がかなり上。それでも結果は俺たちの敗北。
 コート次第では格上を食うことだって可能、か。

 こういう面では、星自体には特性が無いオグレスは不利だな。とはいえ、今回の試合もオグレスの科学力が無ければ更に悪い結果で終わっていただろう。
 それぞれの星の特性や特徴を活かすことは、俺の想定を遥かに超えた重要な要素だな。

 次に印象に残ったのは、相手チームの悪意か。
 幸い大きな怪我ではなかったようだが、それでもクレに相手選手が突っ込んだときは本当に焦った。
 カード上等の直接的な攻撃だけではなく、星の重要な施設を破壊してまでコートの有利を強固なものにしたことだってそうだ。

 相手にとって、俺たちは倒さなくてはならない敵だという感情が痛いほど伝わってくる。
 星の存亡をかけた戦い――戦争なんだもんな。
 何があってもおかしくない。本当に気が抜けないな。

 そしてこれも忘れてはいけない、ブラドに関してだ。
 前回ギガデス戦で発揮した力、火事場の馬鹿力と片付けられていたが、今回またしても発揮した以上そうも言っていられないだろう。
 もしかしたら、俺たちがニューグレ世代であることと何か関係しているのかも。気になる情報だ。

 そして最後は俺。
 今回の試合、作戦を考えはしたが、フィールドプレーヤーとしては何もできていない。
 俺がもう少しフィールドプレーヤーとしての活躍をできていたのなら、結果は変わっていたんじゃないだろうか。
 自分が弱い側の人間だということはとうの昔に理解していたつもりだが、それでも悔しくはあるな。

 ここで改めてアウラス監督の"予定調和"という言葉について考えてみる。
 ここでの意味はそのまま、俺たちが負けるのは想定通りだということだろう。

 正直意図が思い当たらないわけではない。
 おそらく俺たちに緊張感を持たせるためだろうな。
 今回のトーナメントで1番の強敵は間違いなくエクセラル。単純な実力で負けてる以上、このままでは勝つのは難しい。

 いや、それだけではないだろう。
 エクセラルだけではない。試合はエクセラルに勝って終わりではないからだ。
 本戦は予選を勝ち抜いた強豪が集まっている。俺たちはそんな本戦も勝ち抜かねばならない。

 今よりも一回りも二回りも成長する必要がある。
 そのため、ここで一度負けることにより、後がない状態を生み出し、俺たちを更に必死にさせることは理にかなっているといえる。

 もしかしたら監督は今回のフロージアの作戦も読んでいたのかもしれないな。
 その上でギリギリ負けるように誘導したのかも。
 もし点差を付けられてぼろ負けしていたら、エクセラルとの得失点差が更に開き本戦出場は絶望的になっていただろうし、そこのところを読み違えるような人でもないだろう。

 だが、それなら一つだけ疑問が生まれるが……。

 などと考えているうちにオグレスへと到着する。
 いい感じに頭も整理できたな。

 「ほっほ、自分の中でまとめることはできたかのう?」

 宿舎へとワープした俺たちへアウラス監督はそう告げる。

 「はい、監督の意図はだいたいわかりました。しかし一つだけ疑問があります」

 「ほう、なんじゃ? 言ってみい」

 「今回の敗北の相手はフロージア。そのフロージアは既に1敗しているし、メラキュラとエクセラルにこれから勝つのなら勝ち点的な詰みは防がれています。
 しかし、得失点差は違います。エクセラルはフロージアに点差をつけて勝っています。もしこのままエクセラルに勝ったとして、おそらく勝ち点が同じになる以上結果は得失点差で決められる。その場合、俺たちの勝ち目は薄いのでは?」

 「確かに、エクセラルはフロージアに8-0で勝ったらしいな。これだけでも既に厳しいが、これに加えてもしメラキュラやギガデスにも点差をつけて勝った場合、エクセラルに得失点差で勝つことは不可能に近くなるだろう」

 クレも俺に同意する。
 この通り、エクセラルに得失点差で勝つのが無理ならば、得失点差の関与しない4勝0敗でこの予選を終わらせるのが最善のはずだ。
 それは監督もわかっているはず、その上でわざと負ける選択を取った理由が知りたい。

 「ほっほ、もっともな疑問じゃのう。
 じゃが、その答えはすぐにわかるはずじゃわい。
 フィロ、どうじゃ?」

 入り口の方を向き呼びかけるアウラス監督。その後すぐフィロさんが入ってきてこう答える。

 「は、はい、問題ありません。
 裏の試合、エクセラル対メラキュラの試合は2-1でエクセラルの勝ちです」

 2-1!? 裏の試合はエクセラルホームでの試合だと聞いていた。メラキュラがホームの利点を活かせないならぼろ負けしていることも覚悟していたが……。

 「も、もしかしてメラキュラって結構強いチームなんですか……?」

 「ちと違うのう。
 今回問題なのは、エクセラルじゃ」

 「エクセラル……?」

 「エクセラルは今足に爆弾を抱えておる。故に満足のいくプレーができなかったようじゃのう」

 「言葉が足りないですよアウラス監督。
 私が順を追って説明するわね」

 ここからはフィロさんに説明してもらう。
 聞いた話を簡潔にまとめると、エクセラルは今フロージアの仕掛けた罠により満足に足を動かせない状態らしい。だから、今のエクセラルが大量得点をすることは無理だと判断されているようだ。

 「でも、それならチームのメンバーを変えたらいいと思うんスけど、やっぱり制限とかあるんスか?」

 「ええ。
 この大会、最初に登録したメンバーからは基本的に交代することができないわ。一応、やむを得ない理由があった場合のみ1人に限って交代は可能だけど、それだけね」

 「なるほどっス」

 もしベンチのメンバーと交代しても全員が万全な状態で試合をすることは不可能だったのか。
 フロージア……エグい罠を仕掛けるな……。
 とはいえ、そんなハンデを背負っても試合にはしっかり勝つエクセラルも流石の強敵だな。

 「いやしかし、それはここから得失点差を伸ばさないことにはなりますが、それだけです。今ある得失点差を埋められるものではありません。
 エクセラルは既に8点ものアドバンテージを得ていますが、そこに関してはどうお考えなのですか?」

 「ほっほ、それこそ簡単じゃ。
 お前さんらには、メラキュラ戦でその得失点差を埋められるくらいの大量得点をして勝ってもらう」

 「え!? 8点ですか!?」

 「何を慌てておるんじゃ。メラキュラは特別強いチームではない。ハンデを背負ったエクセラルに負けたことから一目瞭然じゃろう。そもそも、サッカーが上手い星なら大会が始まる前から名が通っているはずじゃ。
 フィロ、そういう話は聞いたことがあるか?」

 「いえ、メラキュラがサッカーに精通しているという話は聞いたことがないですね」

 「だ、そうじゃ。つまり、そんなメラキュラにすら勝てないようでは、この先勝ち抜くのはしんどくなってくるじゃろうな」

 「どうでもいいけどよお!
 こんなぺちゃくちゃ喋ってる時間なんてあんのか?
 他の星はどうとか関係ねえだろ。負けて後がない俺たちはただただ必死に練習するだけなんじゃねえの?」

 口を挟んだのはヒル。相変わらず極端な意見だが今回はもっとも。
 確かに今1番重要なことは俺たちが強くなることだ。

 「ほっほ、その通りじゃ。というわけで、ポチッとな」

 「「「へ?」」」

 その瞬間、俺はどこか別の場所へと飛ばされる。ワープされたのか? ここはどこだ? みんなはどこだ?
 辺りを見回していると、目の前に電子モニターが現れる。

 「戸惑っていることかのう?
 そこは特訓場。突然じゃが、お前さんらには今から特訓をしてもらう。じゃあ、頑張ってくれい」
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