グローリー・リーグ -宇宙サッカー奮闘記-

山中カエル

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第四章 新たな一歩

86 VSクレ 前編

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 「負けたああああああああああああああ」

 「1-3か。この短期間で、中々の成果じゃのう」

 アウラス監督からのアドバイスを聞き、俺は特訓を再開した。

 正直前よりは手応えはある。
 まだ相手選手が何を考えているかまで推測するのは難しいが、目線から死角を見つけ出し数的有利を作ることは形にできたと思う。

 だがそれでも勝つには至らない。
 それは当然、相手にあの選手がいるからだ。

 相手にして改めて思う、クレは上手い。
 個人技だけじゃなく、味方に合わせたパスを出し、試合の流れのコントロールもできる。

 しかし、新たな戦い方を知り、広くフィールドを見ることを心がけてる今、新しく気づくこともある。
 それはクレの......特にパスが、普段に比べると質が低いことだ。
 いくらオグレスの科学力とはいえあのレベルの選手を完璧に再現することはできなかったのだろう。
 まあ、そんなクレ相手でも勝てないのが現状なのだが……。

 「それでどうじゃ? そろそろ日付けも変わったころじゃ。そろそろ終わっておくかのう」

 「終わる!? でも、俺まだ目標を……」

 「ほっほ、安心せい。今日の分の目標は達成しておるわ」

 「え、でもまだ俺勝ててない……」

 「クレートに勝つのは今のお前さんじゃまだ無理じゃよ。お前さんは無理な目標に燃えるタイプじゃからそう言っただけじゃわい」

 そうだったのか。
 そういえば俺が1番効率良く特訓できるとかなんとか言ってたけど、こういうところまで考えられているみたいだな。
 なら返す答えは一つ。

 「はい、それならまだやらせてもらいます」

 「ほ?」

 「確かに俺は無理な目標に燃えるタイプです。例え無理でも限界まで試してみたい。
 それに……あのアウラス監督が無理という課題、俄然達成したくなってきました」

 「……面白い男じゃ。
 それなら最後のアドバイスをやる、心して聞けい」

 「はい!」

 ***

 ー8時間後ー

 「はぁ……はぁ……」

 何時間経った?
 疲れた。
 身体は当然だが、試合中常に頭を使っているせいで精神的な疲労も大きい。

 だが止められない。ううん、止めたくない。
 楽しいんだ。
 少しずつだが、自分が成長しているのを肌で感じる。見える世界が変わっていく。
 今なら一歩先の自分になれる気がする。

 「もう一戦、お願いします」

 「了解じゃわい」

 もう何度体験したかわからない試合開始の瞬間。
 勝負はこの瞬間から始まっている。

 今回は俺たちチーム龍也から試合が始まる。
 当然だが、俺とクレ以外のチームメンバーは毎度変わるので思考を覚えることはできない。

 相手のチームはオーソドックスなフォーメーションだ。攻めと守りのバランスがいいチームに見える。

 試合が始まった。味方はパスを出しながら上がっていく。
 今回はクレが前の方のポジションにいる。つまり、チャンスの回だ。確実に点を取りたい。

 俺についてるマークは1人。そして近くには味方選手Aと相手ディフェンスが1人ずつ。お互いに牽制しあっている。

 味方がドリブルでこちらに向かってくる、ここからは基本の動きだ。

 俺のマークについてるディフェンスは味方選手A相手の接近に一度目をやる。その隙を見逃さず、俺はそいつの死角に入る。

 「なっ、どこへ!?」

 焦るだろう。そして、その慌てた動きをもう1人のディフェンスは見逃さない。

 「おい、どうした」

 こちらに目が向いた瞬間、俺はわざとそいつから見える位置に寄り、味方のパスを受ける体制を整える。

 ここで大切なのは、相手ディフェンスが位置につくこと。
 今相手ディフェンスは動きを起こした俺に注目している。そして、自分がそいつへのパスをカットできそうな位置にいると気づけば、必ず俺を狙ってくる。

 すると、相手ディフェンスは、元々マークしていた味方選手Aへの寄せが甘くなる。

 「ここだ!」
 「ふっ!」

 味方はこの隙をつき、マークを抜けパスを受ける。
 相手ディフェンスは俺に注目していたためすぐに対応できていない。

 成功だ。ボールを保持していない俺一人でディフェンス二人の注意を引き、味方に有利な状況を作り出した。

 そして、この攻めはまだ終わらない。

 ゴール前へと抜け出す味方。
 シュートをする瞬間、ここでもまだ俺にできることはある。

 キーパーはシュートを止めるため相手の動きを予測する必要がある。
 ここで俺がやるべきことは、キーパーに思考させる余裕を与えないこと。そのためには情報量を増やせばいい。

 相手のキーパーは、二人のディフェンスが近くにいる俺へのパスは無いと判断していると思われる。思考に集中するために余計な情報を頭から消すのは基本だ。

 実際、俺がボールを触れたとしてもこの状況でシュートを打つことはないだろう。

 しかし、打てないから何もしないわけではない。
 ここでも死角を利用する。

 味方がシュートを打つ少し前、俺はコートの右隅へ向かって走り出す。
 その位置だと、確実にパスは来ないしシュートも打てない。
 だが、この位置はキーパーの死角だ。
 シュートを打てない、意識すべきでない選手だと頭ではわかっていても、急に視界から消えた選手を意識しないことは不可能だ。

 キーパーが一度俺を見る。

 「今だ!」

 キーパーに生じた隙を活かすよう俺は叫ぶ。
 その叫びに合わせて味方のシュート。

 「なっ、くっ……そお!」

 俺に気を取られていたキーパーは反応が一手遅れる。
 放たれたボールはキーパーの手の少し先を通り……

 「ゴーーーーーーーーーール!」

 無事ネットを揺らした。
 1-0。オフ・ザ・ボールを上手く活用し、先制点を得ることに成功した。

 ここまでは順調。
 そしてここからは相手チームの攻めのターン。
 勝負だ……クレ!

 ***

 試合開始8分、チームクレのボールで試合が再開する。

 警戒すべきはやはりクレ。
 クレのいる攻めを警戒している都合上、俺たちのチームは比較的守りを厚くしている。つまり、クレが関与しなければ実力の同じ俺たちのチームは守りきることが可能だ。

 クレと複数の味方ディフェンスが対峙する。
 当然、クレ対策は考えてある。

 まずはクレの死角に入る。
 そして味方と相手の位置関係からパスを出しそうな選手を見極め、パスを出そうとする瞬間に……飛び出す!

 「なっ!?」

 凡百の選手ならここでパスを出し俺にカットされていただろう。
 しかしクレは違う。視野の広いクレは俺の動きが目に入った瞬間、次の展開を予測しパスを出さない選択をした。

 「やるな龍也、今のは危なかった」

 「くそっ、奪いたかったんだけどな」

 だがこれでいい。
 クレが足を止めている間に味方ディフェンスが更に詰める。

 俺とクレ以外の選手もそこそこ実力が高く設定されてある。
 3人に囲まれればいくらクレといえども対応できない。

 「チッ」

 奪われることを恐れクレは後ろへとボールを戻す。

 いいぞ。
 この調子でクレさえ無力化できていればなんとでもなる。
 先制点も取れているし過去一でいい流れかもしれない。

 体制を立て直したクレによる再びの攻撃。
 今度も味方ディフェンスが2人クレへと当たる。

 この状況ならいける。
 今度の俺は、ディフェンスの死角に入った。

 これが今回の特訓で受け取った、アウラス監督からの最後のアドバイスだ。
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