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第四章 新たな一歩

98 ミコト襲来

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 「つ、疲れた……」

 5日目の特訓を終え、宿舎へと戻ってくる。
 昨日のあれお化け屋敷もあり何かが変わったかと少し期待もあったが、そんなことは無く、相も変わらず力には目覚められないままだ。
 それは俺だけでなくブラドとヘンディ以外の全員がそう。取っ掛りすら得られていないのが現状だ。特訓場の評価はかなり高いんだがな、力を目覚めさせる以外は割と上手くいってるのだが……うーん……。

 試合はもう明明後日、会場次第ではもう明日しか練習できないのだというのに、これは不安が残る。

 ……というか、昨日のことを思い出しただけで震えが……俺ってあんまりホラー耐性無かったんだな……。ほんと、想像の何十倍もの凝りようだった。

 しかしあの特訓も嫌な思い出ばかりではない。己のホラー耐性を過信して油断していたことにも気づけたし、何よりみんなのビビり散らかした顔が見れたのは面白かったしな。
 まあ、あれだけビビってた凛がそんなに怖がってなさそうだったのは不満だが。

 今回怖がる素振りを見せなかったのは、レオとザシャ、そしてアリス。
 このレベルのホラーで怖がらないのなら、メラキュラでも怖がることなく動けるだろう。
 だが、アリスはマネージャー。試合に出られるのはレオとザシャだけだ。もちろん、昨日不参加だったメンバーがどうかはわからないが、それでも人数不足感は否めない。

 俺たちの目標は大量得点。
 本当に可能なのだろうか。

 それに、ネイトもまだ戻ってきていない。
 試合までには戻ってきてほしかったが、これはもう戻ってこない可能性まで考えておいた方が良さそうだな……。

 とはいえ、兎にも角にも今重要なのは明日の会場決めだ。
 ホーム会場を引くことができれば状況はかなり楽になるが……うーん、楽観的に考えるのはダメだよなぁ……などと考えながら宿舎内をブラブラする。
 結局会えていないクレを今日も探しているのだが、相変わらず見つからないな。
 すると……

 「んー? 君、迷子?
 仕方ないなぁ、このイケメンお兄さんがお家まで案内してあげるよ。
 ほら、家はどっちだ? あと連絡先も教えてくれたら嬉し――」
 「馴れ馴れしすぎるじゃろうが。我を誰と心得る」

 レオと……聞いたことあるような無いようなあるような声が聞こえてくる。
 近寄り顔を見てみると、やっぱりあの子だ。

 「えっと……こんなところで何をしているのですか、ミコトさん」

 「……うぬか。理由なんぞより早くこの変質者を退けい」

 「へ、変質者!? それはキツいってえ。
 てか龍也、知り合い? 誰誰?」

 「えっと、知り合いというか……」

 いや、まじでなんで星の最重要人物様がこんなところにいるんだよ……。

 ***

 とりあえず、ミコトちゃんの命令通りにレオを退けた俺は、改めて話を始める。

 「それで、なんでここに?」

 しばらく黙った後、少し苦い顔をしながらミコトちゃんは口を開く。

 「……家出じゃ」

 「い、家出?」

 「……なんじゃその反応は。子どもっぽいとでも思っておるのか? 元はといえばうぬのせいでもあるんじゃぞ」

 「え、お、俺!?」

 俺のせい!? なんだろう。全然心当たりが無い。

 「えっと、なんの事だがさっぱり……」

 「察しが悪いの。うぬのガールフレンドじゃ。生意気にもエリラを訪ねて来おって」

 「がーるふれんど?」

 「なぜわからんのじゃ。未来といったかの、あやつじゃ」

 「!? み、未来と俺はそんな関係じゃ!?」

 「んなことはどうだっていいわ。我が言いたいのはやつが来て迷惑しておるということじゃ」

 未来……どこに行ったのかは教えてもらえなかったから心配してたんだけど、そうか、エリラに行っていたのか。
 確かに未知の力という不思議な現象に向き合うためには、エリラという特異な環境に身を置くのは理にかなっているのかもしれないな。

 それに未来は元々神社の子。エリラと神社には共通点が多いし何かが起こってもおかしくはない。
 こういう行動力の高さは未来らしいな。

 「なにをニマニマしておるのじゃ!
 迷惑じゃからさっさと連れ帰れと言っておろうに!」

 「そうだった。えっと、未来が何か迷惑を……?」

 「そうじゃ。迷惑じゃ」

 「…………」

 「…………」

 「ええっと、どんな迷惑を……?」

 「…………」

 「……?」

 「迷惑は迷惑じゃ。それ以上は必要ないわ」

 「えぇ……」

 迷惑の詳細については何も話さないミコトちゃん。
 いくら迷惑と言われてもどんな迷惑をかけたかわからないことには何もできない。
 頑張ろうとしている未来を、適当な理由で連れ戻したくはないしな。

 どうしようか迷っていると、ちょうど俺のテルに連絡が入る。
 誰からの連絡かだけ確認しようとしたら、その相手はカグラさん。タイミング的にミコトちゃんに関してかと思い内容も確認する。

『やあやあキャプテンくん。
 今ちょうど、ミコトちゃんに会ってるみたいだね。いやー、ありがたい。
 もう知ってると思うけどミコトちゃんが家出しちゃって。一応私も影から見守ってはいるんだけど……あ、私が監視してることはくれぐれもミコトちゃんには気づかれないよう頼むよ』

『どうして家出なんかしたんですか? ミコトちゃん教えてくれなくて。
 それに、そもそもミコトちゃんみたいな重要人物が家出なんかいいんですか!?』

『いいかダメかで言えばもちろんダメなんだけど、予言の一族の娘って重大すぎる立場の子だからね。予言者が途切れることは絶対にあってはならないことだし、自分の役目が嫌にならないよう、多少のわがままは許しているんだ』

 なるほど。後継者は1人しかいない上に絶対に途切れさせてはいけない、ときたら確かに中々難しいよな。当然、役目に合わないと思っている子も今までにはいただろうが、そんな子でもどうにかして予言者になってもらわないとダメなわけだし。

『それで、この事にも関わってくるんだけど、その、ミコトちゃんは、なんというかあまり予言者に乗り気でなくてね。
 そんな時に未来ちゃんがやって来て、彼女が結構熱意を持って頑張っているわけだから、それが疎ましくなって家を出てきたって流れかな』

 そういうことか。それはまあ悪いハマり方しちゃったなぁ。
 そういえば以前に未来とエリラに行った時も、ミコトちゃんは未来の頑張ってという言葉に微妙な顔をしていたな。未来を嫌がっていたのではなくて、応援に対して嫌だと思っていたということか。

『状況は理解しました。それで、俺は何を?』

『少しの間でいいから、ミコトちゃんの面倒を見てくれないか?
 いや、責任を放り投げているわけではないぞ!?
 君たちも行き詰まっていると聞いている。何か新しい存在がそれを打ち砕く要因になるかもしれない。もちろん、それはミコトちゃんに対しても、に対しても同じ。
 どうだい?』

『そういうことなら。
 少しの間ってことは、しばらくしたらカグラさんが迎えに来るってことですか?』

『まあ、そんな感じかな。それじゃあよろしく頼むよ。もしもの時のために、私も遠くから見守ってはいるからな』

『了解です』

 「なんじゃ、人と顔を合わせているというのにテルばかり弄りおって。聞いておるのか、おい!」

 カグラさんからの頼み。今日寝るまでの時間潰しと思えば全然いいだろう。彼女の言う通り行き詰まったこの状況を打開するきっかけになるかもしれない。

 それに、エリラから来たんだ。ミコトちゃんがいるということはもしかして……

 辺りを見回す。すると……予想通り、も近くにいた。

 「あ、えっと、お久しぶりです……龍也さん」

 「ああ、久しぶりだな、ネイト」
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