『沈黙』はダミーカート[模擬弾]~楽園31~

志賀雅基

文字の大きさ
45 / 59

第44話・現実に舞い戻って会話成立

しおりを挟む
 部屋から出ると大天幕の前にいたコーディーに捕まる。

「分隊長殿は二人揃って中途退学か」
「すみません、そういうのもアリですか?」
「何も強制じゃないんだ、好きにするといいさ。大体あんたらはここ向きじゃないからな」

 そこに食堂からパットとブルースが出てきた。

「シドの兄貴がいないと淋しいっスよ」
「ユーリーの兄貴も元気でいて下せぇよ」

 涙ながらに見送られ、シドとハイファは早々に小型BELに戻る。まもなくエドガーも戻ってきて、BELは再び蒼穹へと上昇した。城の屋上までは殆ど上がって降りるだけ、五分ほどで到着する。抗生物質を置いてきたというエドガーとともに階下へ降り、二人はまずは四階のゲストルームに戻った。

 ショルダーバッグを置いて何気なくシドは窓から外を眺める。
 眼下にはバラ園が広がっていた。既視感のあるそれはヨナムのホテルでTVに映っていた光景そのままである。ただそこを歩いているのはドレスのリポータではなく、モーニングを身に着けてはいるが、どうにも身に馴染んでいない男たちが数人だった。

「あれがキャンプから引き抜かれたチンピラたちってことか」
「じゃないのかな。でもバラの手入れをしてる訳じゃない、何か警戒してるよね?」
「こんな所で敵襲もねぇだろうにな」

 隣にやってきたハイファが首を捻る。シドにも警戒対象が何なのか予想もつかなかった。
 バラ園は見渡す限り続いていて、その先は崖になって落ち込み、勿論真下は海である。

「すっごい、絶景だよね」
「綺麗だよな……で、どうするって?」
「そりゃあ、公爵の話し相手だよ。ほら、行こ」

 と、ゲストルームを出てみたが、城の構造も公爵の居間も分からない。まずは探検するしかないだろうと、エレベーターに乗って最下層の地下に降りた。
 だが地下は二階まであるものの、エレベーターでは地下一階までしか降りられなかった。地下二階へ行こうとしたが、エレベーター内のリモータチェッカが阻んだのだ。

 別室リモータでコードをぶち破るのは簡単である上に、この城の何処かにF4の製造工場があるだろうという予想もついている。地下というのはうってつけだ。
 しかしいきなり客という旨い立場を捨てることもない。ここは大人しく地下一階でエレベーターを降り、倉庫だの野菜などの食材置き場だのを見て回る。

 階段を上がって一階では厨房に食堂にサロンに夜会ができる大広間と、なかなかに愉しい探検となった。エドガーに構造図を流して貰おうと医務室にも寄ったが、姿がなく諦める。
 二階に階段で上がると、ここも紙媒体の図書室やカードルームの他、動物の剥製とハンティングトロフィー、ライフルなどが置かれたホビールームも出入り自由で目に飽きなかった。
 そして執事殿が控えた観音開きの大扉を発見し、ここが公爵の居所だと当たりを付ける。

「すみません、公爵はご在室でしょうか?」
「お待ち申し上げております。さあ、どうぞ中へ」

 扉の片側を開けて貰って中に入ると、そこは日当たりのいいサロンだった。何となく執務室のようなものを想像していたが、多機能デスクなどという無粋なものは見当たらない。だだっ広い空間に革張りのソファやゴブラン織りの椅子とテーブルが配された、居心地の良さを追求したような部屋である。グランドピアノも一台置かれていた。

 窓のバルコニーにも椅子とテーブルが出され、そこに茶色のスーツ姿がある。公爵だ。そっと二人は近寄り、ふわりふわりと風に揺らぐレースのカーテンを避けて声を掛ける。

「お邪魔しても宜しいでしょうか?」
「ああ、シドにユーリー、待っていたよ。座ってくれるかい」

 着席すると同時にメイドが入ってきてコーヒーを淹れ、チョコレートとクッキーの載ったプレートを置いていった。公爵はいつのものだか分からないニューズペーパーを畳んで置くと、テーブルに肘をついて顔の前で指を組む。そして二人をじっと眺めた。

「ロレーナが死んでから三年、友人も招いた事がないんだ。至らない処は許してくれ」

 どうやら完全に現実へと戻っているらしい。

「いえ、そんな……妹姫はお気の毒です」
「知っているのかい?」
「ええ、まあ。エドガーにも聞きましたから」
「そうか。このルフタス星系に於いて王族の力は弱い。それに危機感を覚えた王侯貴族は、それぞれ姫が生まれると政府高官に降嫁させるのが常なんだよ」

「そうなんですか。それで……?」
「政府高官と姻戚関係を保つことで政治家の庇護を得て、王侯貴族は生き存えているんだ」
「それじゃあ、ロレーナ王女もですか?」
「そう、王妹のロレーナにも降嫁命令が下りた。だが相手を嫌ってロレーナは……」

「なるほど、そうでしたか」
「護ってくれるのはジュリアン兄様だけ、常々そう言っていた」

 だが兄王の勅命には背くことができず、あまつさえ妹を説得するように命ぜられた公爵は、自分も乗ったBELから妹が飛び降り自殺するという衝撃の結末を目の当たりにする。

「不憫なことをしてしまったよ。すまないね、湿っぽい話ばかりで」
「いいえ、何でもお話し下さって結構ですから」
「ところで君たちは私に何を訊きたいのかな?」

 真っ直ぐに訊かれてハイファはシドと顔を見合わせた。シドが訊き返す。

「何を訊きたいって、どういうことだ?」
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...

MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。 ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。 さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか? そのほかに外伝も綴りました。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

「がっかりです」——その一言で終わる夫婦が、王宮にはある

柴田はつみ
恋愛
妃の席を踏みにじったのは令嬢——けれど妃の心を折ったのは、夫のたった一言だった 王太子妃リディアの唯一の安らぎは、王太子アーヴィンと交わす午後の茶会。だが新しく王宮に出入りする伯爵令嬢ミレーユは、妃の席に先に座り、殿下を私的に呼び、距離感のない振る舞いを重ねる。 リディアは王宮の礼節としてその場で正す——正しいはずだった。けれど夫は「リディア、そこまで言わなくても……」と、妃を止めた。 「わかりました。あなたには、がっかりです」 微笑んで去ったその日から、夫婦の茶会は終わる。沈黙の王宮で、言葉を失った王太子は、初めて“追う”ことを選ぶが——遅すぎた。

里帰りをしていたら離婚届が送られてきたので今から様子を見に行ってきます

結城芙由奈@コミカライズ連載中
恋愛
<離婚届?納得いかないので今から内密に帰ります> 政略結婚で2年もの間「白い結婚」を続ける最中、妹の出産祝いで里帰りしていると突然届いた離婚届。あまりに理不尽で到底受け入れられないので内緒で帰ってみた結果・・・? ※「カクヨム」「小説家になろう」にも投稿しています

断罪まであと10分、私は処刑台の上で「ライブ配信」を開始した〜前世インフルエンサーの悪役令嬢、支持率100%でクズ王子を逆処刑する〜

深渡 ケイ
ファンタジー
断罪まで、あと10分。 処刑台の上で跪く悪役令嬢スカーレットは、笑っていた。 なぜなら彼女は―― 前世で“トップインフルエンサー”だったから。 処刑の瞬間、彼女が起動したのは禁忌の精霊石。 空に展開された巨大モニターが、全世界同時ライブ配信を開始する。 タイトルは―― 『断罪なう』。 王子の不貞、聖女の偽善、王家の腐敗。 すべてを“証拠付き・リアルタイム”で暴露する配信に、 国民の「いいね(=精霊力)」が集まり始める。 そして宣言される、前代未聞のルール。 支持率が上がるほど、処刑は不可能になる。 処刑台は舞台へ。 断罪はエンタメへ。 悪役令嬢は、世界をひっくり返す配信者となった。 これは、 処刑されるはずだった悪役令嬢が、 “ライブ配信”で王子と王国を公開処刑する物語。 支持率100%の先に待つのは、復讐か、革命か、 それとも――自由か。

ボクが追放されたら飢餓に陥るけど良いですか?

音爽(ネソウ)
ファンタジー
美味しい果実より食えない石ころが欲しいなんて、人間て変わってますね。 役に立たないから出ていけ? わかりました、緑の加護はゴッソリ持っていきます! さようなら! 5月4日、ファンタジー1位!HOTランキング1位獲得!!ありがとうございました!

王子を身籠りました

青の雀
恋愛
婚約者である王太子から、毒を盛って殺そうとした冤罪をかけられ収監されるが、その時すでに王太子の子供を身籠っていたセレンティー。 王太子に黙って、出産するも子供の容姿が王家特有の金髪金眼だった。 再び、王太子が毒を盛られ、死にかけた時、我が子と対面するが…というお話。

処理中です...