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第44話・現実に舞い戻って会話成立
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部屋から出ると大天幕の前にいたコーディーに捕まる。
「分隊長殿は二人揃って中途退学か」
「すみません、そういうのもアリですか?」
「何も強制じゃないんだ、好きにするといいさ。大体あんたらはここ向きじゃないからな」
そこに食堂からパットとブルースが出てきた。
「シドの兄貴がいないと淋しいっスよ」
「ユーリーの兄貴も元気でいて下せぇよ」
涙ながらに見送られ、シドとハイファは早々に小型BELに戻る。まもなくエドガーも戻ってきて、BELは再び蒼穹へと上昇した。城の屋上までは殆ど上がって降りるだけ、五分ほどで到着する。抗生物質を置いてきたというエドガーとともに階下へ降り、二人はまずは四階のゲストルームに戻った。
ショルダーバッグを置いて何気なくシドは窓から外を眺める。
眼下にはバラ園が広がっていた。既視感のあるそれはヨナムのホテルでTVに映っていた光景そのままである。ただそこを歩いているのはドレスのリポータではなく、モーニングを身に着けてはいるが、どうにも身に馴染んでいない男たちが数人だった。
「あれがキャンプから引き抜かれたチンピラたちってことか」
「じゃないのかな。でもバラの手入れをしてる訳じゃない、何か警戒してるよね?」
「こんな所で敵襲もねぇだろうにな」
隣にやってきたハイファが首を捻る。シドにも警戒対象が何なのか予想もつかなかった。
バラ園は見渡す限り続いていて、その先は崖になって落ち込み、勿論真下は海である。
「すっごい、絶景だよね」
「綺麗だよな……で、どうするって?」
「そりゃあ、公爵の話し相手だよ。ほら、行こ」
と、ゲストルームを出てみたが、城の構造も公爵の居間も分からない。まずは探検するしかないだろうと、エレベーターに乗って最下層の地下に降りた。
だが地下は二階まであるものの、エレベーターでは地下一階までしか降りられなかった。地下二階へ行こうとしたが、エレベーター内のリモータチェッカが阻んだのだ。
別室リモータでコードをぶち破るのは簡単である上に、この城の何処かにF4の製造工場があるだろうという予想もついている。地下というのはうってつけだ。
しかしいきなり客という旨い立場を捨てることもない。ここは大人しく地下一階でエレベーターを降り、倉庫だの野菜などの食材置き場だのを見て回る。
階段を上がって一階では厨房に食堂にサロンに夜会ができる大広間と、なかなかに愉しい探検となった。エドガーに構造図を流して貰おうと医務室にも寄ったが、姿がなく諦める。
二階に階段で上がると、ここも紙媒体の図書室やカードルームの他、動物の剥製とハンティングトロフィー、ライフルなどが置かれたホビールームも出入り自由で目に飽きなかった。
そして執事殿が控えた観音開きの大扉を発見し、ここが公爵の居所だと当たりを付ける。
「すみません、公爵はご在室でしょうか?」
「お待ち申し上げております。さあ、どうぞ中へ」
扉の片側を開けて貰って中に入ると、そこは日当たりのいいサロンだった。何となく執務室のようなものを想像していたが、多機能デスクなどという無粋なものは見当たらない。だだっ広い空間に革張りのソファやゴブラン織りの椅子とテーブルが配された、居心地の良さを追求したような部屋である。グランドピアノも一台置かれていた。
窓のバルコニーにも椅子とテーブルが出され、そこに茶色のスーツ姿がある。公爵だ。そっと二人は近寄り、ふわりふわりと風に揺らぐレースのカーテンを避けて声を掛ける。
「お邪魔しても宜しいでしょうか?」
「ああ、シドにユーリー、待っていたよ。座ってくれるかい」
着席すると同時にメイドが入ってきてコーヒーを淹れ、チョコレートとクッキーの載ったプレートを置いていった。公爵はいつのものだか分からないニューズペーパーを畳んで置くと、テーブルに肘をついて顔の前で指を組む。そして二人をじっと眺めた。
「ロレーナが死んでから三年、友人も招いた事がないんだ。至らない処は許してくれ」
どうやら完全に現実へと戻っているらしい。
「いえ、そんな……妹姫はお気の毒です」
「知っているのかい?」
「ええ、まあ。エドガーにも聞きましたから」
「そうか。このルフタス星系に於いて王族の力は弱い。それに危機感を覚えた王侯貴族は、それぞれ姫が生まれると政府高官に降嫁させるのが常なんだよ」
「そうなんですか。それで……?」
「政府高官と姻戚関係を保つことで政治家の庇護を得て、王侯貴族は生き存えているんだ」
「それじゃあ、ロレーナ王女もですか?」
「そう、王妹のロレーナにも降嫁命令が下りた。だが相手を嫌ってロレーナは……」
「なるほど、そうでしたか」
「護ってくれるのはジュリアン兄様だけ、常々そう言っていた」
だが兄王の勅命には背くことができず、あまつさえ妹を説得するように命ぜられた公爵は、自分も乗ったBELから妹が飛び降り自殺するという衝撃の結末を目の当たりにする。
「不憫なことをしてしまったよ。すまないね、湿っぽい話ばかりで」
「いいえ、何でもお話し下さって結構ですから」
「ところで君たちは私に何を訊きたいのかな?」
真っ直ぐに訊かれてハイファはシドと顔を見合わせた。シドが訊き返す。
「何を訊きたいって、どういうことだ?」
「分隊長殿は二人揃って中途退学か」
「すみません、そういうのもアリですか?」
「何も強制じゃないんだ、好きにするといいさ。大体あんたらはここ向きじゃないからな」
そこに食堂からパットとブルースが出てきた。
「シドの兄貴がいないと淋しいっスよ」
「ユーリーの兄貴も元気でいて下せぇよ」
涙ながらに見送られ、シドとハイファは早々に小型BELに戻る。まもなくエドガーも戻ってきて、BELは再び蒼穹へと上昇した。城の屋上までは殆ど上がって降りるだけ、五分ほどで到着する。抗生物質を置いてきたというエドガーとともに階下へ降り、二人はまずは四階のゲストルームに戻った。
ショルダーバッグを置いて何気なくシドは窓から外を眺める。
眼下にはバラ園が広がっていた。既視感のあるそれはヨナムのホテルでTVに映っていた光景そのままである。ただそこを歩いているのはドレスのリポータではなく、モーニングを身に着けてはいるが、どうにも身に馴染んでいない男たちが数人だった。
「あれがキャンプから引き抜かれたチンピラたちってことか」
「じゃないのかな。でもバラの手入れをしてる訳じゃない、何か警戒してるよね?」
「こんな所で敵襲もねぇだろうにな」
隣にやってきたハイファが首を捻る。シドにも警戒対象が何なのか予想もつかなかった。
バラ園は見渡す限り続いていて、その先は崖になって落ち込み、勿論真下は海である。
「すっごい、絶景だよね」
「綺麗だよな……で、どうするって?」
「そりゃあ、公爵の話し相手だよ。ほら、行こ」
と、ゲストルームを出てみたが、城の構造も公爵の居間も分からない。まずは探検するしかないだろうと、エレベーターに乗って最下層の地下に降りた。
だが地下は二階まであるものの、エレベーターでは地下一階までしか降りられなかった。地下二階へ行こうとしたが、エレベーター内のリモータチェッカが阻んだのだ。
別室リモータでコードをぶち破るのは簡単である上に、この城の何処かにF4の製造工場があるだろうという予想もついている。地下というのはうってつけだ。
しかしいきなり客という旨い立場を捨てることもない。ここは大人しく地下一階でエレベーターを降り、倉庫だの野菜などの食材置き場だのを見て回る。
階段を上がって一階では厨房に食堂にサロンに夜会ができる大広間と、なかなかに愉しい探検となった。エドガーに構造図を流して貰おうと医務室にも寄ったが、姿がなく諦める。
二階に階段で上がると、ここも紙媒体の図書室やカードルームの他、動物の剥製とハンティングトロフィー、ライフルなどが置かれたホビールームも出入り自由で目に飽きなかった。
そして執事殿が控えた観音開きの大扉を発見し、ここが公爵の居所だと当たりを付ける。
「すみません、公爵はご在室でしょうか?」
「お待ち申し上げております。さあ、どうぞ中へ」
扉の片側を開けて貰って中に入ると、そこは日当たりのいいサロンだった。何となく執務室のようなものを想像していたが、多機能デスクなどという無粋なものは見当たらない。だだっ広い空間に革張りのソファやゴブラン織りの椅子とテーブルが配された、居心地の良さを追求したような部屋である。グランドピアノも一台置かれていた。
窓のバルコニーにも椅子とテーブルが出され、そこに茶色のスーツ姿がある。公爵だ。そっと二人は近寄り、ふわりふわりと風に揺らぐレースのカーテンを避けて声を掛ける。
「お邪魔しても宜しいでしょうか?」
「ああ、シドにユーリー、待っていたよ。座ってくれるかい」
着席すると同時にメイドが入ってきてコーヒーを淹れ、チョコレートとクッキーの載ったプレートを置いていった。公爵はいつのものだか分からないニューズペーパーを畳んで置くと、テーブルに肘をついて顔の前で指を組む。そして二人をじっと眺めた。
「ロレーナが死んでから三年、友人も招いた事がないんだ。至らない処は許してくれ」
どうやら完全に現実へと戻っているらしい。
「いえ、そんな……妹姫はお気の毒です」
「知っているのかい?」
「ええ、まあ。エドガーにも聞きましたから」
「そうか。このルフタス星系に於いて王族の力は弱い。それに危機感を覚えた王侯貴族は、それぞれ姫が生まれると政府高官に降嫁させるのが常なんだよ」
「そうなんですか。それで……?」
「政府高官と姻戚関係を保つことで政治家の庇護を得て、王侯貴族は生き存えているんだ」
「それじゃあ、ロレーナ王女もですか?」
「そう、王妹のロレーナにも降嫁命令が下りた。だが相手を嫌ってロレーナは……」
「なるほど、そうでしたか」
「護ってくれるのはジュリアン兄様だけ、常々そう言っていた」
だが兄王の勅命には背くことができず、あまつさえ妹を説得するように命ぜられた公爵は、自分も乗ったBELから妹が飛び降り自殺するという衝撃の結末を目の当たりにする。
「不憫なことをしてしまったよ。すまないね、湿っぽい話ばかりで」
「いいえ、何でもお話し下さって結構ですから」
「ところで君たちは私に何を訊きたいのかな?」
真っ直ぐに訊かれてハイファはシドと顔を見合わせた。シドが訊き返す。
「何を訊きたいって、どういうことだ?」
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