26 / 32
第26話
しおりを挟む
「ところでキース。前にもキプルに忍び込んだって言ってたよね。そのときは何処にBELを隠したのかな?」
「BELではなくコルダ宙港からシャトル便で第三惑星リサリアに出て、またキプル行きのシャトル便に乗ったんだ。一日留守にしたらクラウスが真っ赤になって――」
「っつーことは、BELで行くのは初めてなのか?」
「そうだ」
「そうだって……じゃあBELで行って撃ち墜とされる想定はしてないの!?」
「だから天の配剤、別室員というのは潜入のノウハウも持っているんじゃないのか?」
思わずハイファは後部座席を振り向いた。
「シドっ! 何処が『俺たち任せにしてない』っていうのサ!」
「何のことだか分からねぇな」
目を泳がせながら言い放ったシドを前にハイファは頭を抱える。
「そんな、いったいどうするの?」
「どうするも何も、宙港に用があるフリして駐めておきゃいいじゃねぇか」
「ここにもテラ連邦軍の軍通衛星MCSくらい上がってる。そのルックダウン機能をリサリア軍が利用してない保障はないんだし、アンノウンとして撃ち墜とされるかも知れないよ?」
「手動操縦、超低空で侵入するしかねぇだろ」
「簡単にそんな……もう、信じられない!」
ハイファの怒りを静めようと機に積んであった非常糧食品を物色すると、ラベルを剥がせば飲める紙コップのコーヒーがあった。前席の二人に配給する。
ひとくち飲んだコーヒーをシドに渡してハイファは暗い声で言った。
「じゃあ、何処からどっちを狙うかくらいは、想定してるの?」
「ああ、それは考えてある。傭兵が集まるホテルが幾つもあるんだが、その屋上から宙港ホテルのローマンを狙えないかと思っている。気に入らなければプロの目で変更してくれ」
「明日までしかいないローマンを先に殺るんだね」
期限付きとはいえターゲットの居場所が分かっているのは非常に有利だ。
「で、ロタール=クリューガー総司令官は?」
訊かれてキースは顔を曇らせる。
「それが問題なんだが……いつもは中央駐屯地にいることくらいしか分からないんだ」
「軍にカチコミは蜂の巣だよな」
ハイファの頭を悩ませることがどんどん降り積もりつつあったが、キプル宙港に近づいて機がオートで高度を下げ減速し始めると、撃ち墜とされる危険がかなり遠ざかったのを知る。
コルダから北に七千五百キロ、キプル付近は雪が降っていたのだ。
「これだけ降ってると目視での迎撃はないんじゃねぇか?」
「曲芸並みの低空飛行せずに済みそう、やっぱり日頃の行いだよね」
誰も誉めないので自分で誉めて、ハイファは不審に思われないよう機をオートで飛ばせる最低高度にセットし、迂回してキプルの街からやってきた風に装う策に出た。
その甲斐あってか宙港管制にコントロールを渡す際も何ら疑われることなく、スムーズに宙港メインビルの屋上駐機場へと誘導されランディングする。まずは第一段階クリアだ。
降機してみると屋上面はヒータで温められ、雪は融かされて歩きやすくなっていた。
「へえ。ここも意外に立派なメインビルだよね」
「まだリサリア軍に占領される前に建てたものだが、そう言われると嬉しい」
「宙港ホテルは?」
「こっちだ」
雪が吹き付ける中、キースはロングコートの裾を翻し、白い息を吐いて屋上を歩いてゆく。大事なスナイプの下見だ。ハイファは真剣な面持ちでキースを追い、隣の細長いオレンジ色の八階建てビルに見入った。シドも黙ってビルを眺める。
スポッタだからといって緩んではいられない。スナイパーが負傷でもすれば、その役目が回ってくるのだ。
足元は暖かいとはいえ、風雪に晒された細い躰が芯まで凍りついてしまいそうなくらいの間ハイファは宙港ホテルを見つめ、白一色に閉ざされた街があるらしい方角を透かし見てから、ようやく踵を返した。
「ハイファお前、それじゃ寒いだろ」
「一応、スーツは断熱素材でギリギリ限界内だけど」
「やせ我慢するな、何処かでコート買おうぜ」
「キースがコート着てくる訳だよね」
エレベーターを待っている間、三人は互いの雪を払い合う。
一階のロビーフロアに降り、二人はまずインフォメーション端末でキプルの地図をダウンロードした。そこからハイファは別室カスタムメイドリモータを端末に繋ぎ、宙港ホテルの管理コンにまで入り込み、構造図やローマン王の一行が宿泊している部屋、王の行動のタイムテーブルまでをハッキングで探り出す。
「どうだ、行けそうか?」
「王の部屋は六階窓側で、ほら、ここなんだけど……うーん」
「雪だもんなあ」
傍でキースはじっと待ちながら時折目薬を差したりしている。
ロビーフロアは少数の一般客と、それを上回る数の戦闘服を着た兵士たちが闊歩していた。停戦は破れ、すっかり戦時下に戻ってしまったようだ。
「盗るものは分捕ったから、いいよ、喫煙ルーム行くんでしょ?」
「煙草は外で吸うからいい、狭い場所で俺たちは目立ちすぎる」
傭兵らしき者たちは殆どが執銃を晒していたが、これだけ大きな得物をスーツ姿で担いでいるのは、いかにも人目を惹く。そうでなくとも隻腕にツインズだ。
「と、そこの売店に寄らせてくれ」
新しく明るい宙港の売店は品揃えも豊富で、衣料品から食品や雑貨までが綺麗に陳列され、デパートのような雰囲気だ。そこに掛けられていたロングコートをシドは手に取る。
「ハイファ、これ着られるなら買っちまおうぜ」
「ん、ちょっと待って」
超小型反重力装置付きで軽いミラッドラインをキースに預け、煉瓦色のコートを試着した。合わせがダブルのロングトレンチは細身でハイファの細い躰に綺麗に添う。
「あ、すごい、裾も裄もぴったりかも」
「ほう、金髪が映えるじゃないか。なかなか趣味がいいな」
「じゃあこれ、決まりな」
「ごめん、これもお願い」
ハイファが付け足したのは薄い革の手袋だ。
即買いでシドがクレジットを支払い、ハイファはコートの上にベルトパウチを着け直した。
寒さ対策をしてエントランスから出ると、シドは二人を待たせて一本だけ煙草を灰にする。吸い殻パックを仕舞うと無人コイルタクシーに乗り込んだ。
全長百七十七センチのアンチ・マテリアル・ライフルを苦労して積み込み、発進してキプルの街を目指す。ここもコルダと同様に宙港と街は一本道で繋がっていた。
街の入り口に辿り着くとクレジット清算して三人はタクシーを降りる。
「この大通りから一本裏の通りに傭兵ばかり宿泊するホテルが集中しているんだ」
「できるだけ宙港に近いホテルがいいな」
「では、少し歩くしかないな」
時刻は十八時半、元より雪で恒星イオタは見えなかったが徐々に空は薄暗くなりかけていた。だが雪の白さで却って辺りは明るいようにも思われる。
大通りはやはり目立つので、早々に三人は裏通りを歩くことにした。
道を一本入っただけで我に返ったように静かになる。
そこはホテルだけでなくマンションなどの住宅も多いエリアのようだった。ビルにもオフィスの看板はなく、一階のテナントショップもスーパーマーケットや雑貨店などで、人々の生活に密着したものが殆どだ。今は雪で白いが緑の多い公園なども見受けられる。
何となくシドがホッとしたのも束の間、ホテルを見上げつつ歩いていると、何かがシドの対衝撃ジャケットの背に当たって落ちた。足元を見ると雪玉が転がっている。直径五センチくらいの雪玉がまた飛んできて今度はハイファの腕に当たった。
「大丈夫か、ハイファ?」
「これくらい平気だって。でも何なんだろ?」
また雪玉が飛んできて次はキースの胸に当たる。
振り返ると数人の人影が小径に走り込むのがシドの目に映った。人影はどう見ても子供だったがイタズラとしては結構、悪質な部類だ。
気にせず三人は歩を進めたが雪玉は何度も投げられた。痛くなどないが気分のいいものでもない。それも何故かシドにばかり集中し始める。
「何だってこんな所で、こんな攻撃の矢面に立たなきゃならねぇんだ?」
「貴方、そういう顔してるから」
「これは地顔だって言ってんだろ。くそう、覚えてやがれ」
そのままゆるゆると歩いていると、また雪玉が飛んできて足元に落ちた。途端にシドは小さな人影を追って傍の公園に走り込む。
ハイファとキースがのんびり雪を踏んで公園に足を踏み入れると、雪の積もった錆だらけの箱ブランコの前でシドが男の子の襟首を捕まえていた。
テラ標準歴で十三、四歳に見える少年は、いかにも悪ガキといった風情で全身で暴れている。だが隻腕とはいえ刑事のシドに敵いはしない。
「シド。あーた、捕まえてどうするんですか?」
「こういうときの常套だ。……おい、『お前の親に連絡するぞ?』」
ふいに暴れるのを止めた少年はシドを睨みつけた。
「親にいいつけられるもんなら、いいつけてみろ! 天国まで発振が届くんならな!」
「って、お前、親がいねぇのか?」
茶色い髪に茶色い目をした少年をシドはまじまじと眺めてから手を離す。少年は逃げなかった。悔しげに顔を歪めて立ち尽くしている。
柔らかな口調でハイファが訊いた。
「ご両親は戦争で亡くなったのかな?」
俯いて肯定した少年にシドは頭を下げる。
「そうか。すまん、悪いことを言っちまった。許してくれ」
少年は不思議そうにシドとハイファにキースを見上げた。
「あんたら、そんな大砲持ってるけど本当に兵隊なのか? その、片腕もないしさ」
「一昨日志願して、やっぱり傭兵は止めたんだが、何処か変に見えるか?」
「何だ、それ。変なの」
真面目に訊いたシドに少年は笑いだしていた。その笑顔に安心したのか、隠れていた子供たちが何人も現れる。五、六歳から十二、三歳くらいまでの男女取り揃えて九人もの子供がいた。その中にハイファは見知った顔を見つけて驚く。
「ジュリア、どうしてこんな所にいるの?」
咎めるような口調ではなかったが、ジュリアは泣きそうな顔をハイファに向けていた。
「BELではなくコルダ宙港からシャトル便で第三惑星リサリアに出て、またキプル行きのシャトル便に乗ったんだ。一日留守にしたらクラウスが真っ赤になって――」
「っつーことは、BELで行くのは初めてなのか?」
「そうだ」
「そうだって……じゃあBELで行って撃ち墜とされる想定はしてないの!?」
「だから天の配剤、別室員というのは潜入のノウハウも持っているんじゃないのか?」
思わずハイファは後部座席を振り向いた。
「シドっ! 何処が『俺たち任せにしてない』っていうのサ!」
「何のことだか分からねぇな」
目を泳がせながら言い放ったシドを前にハイファは頭を抱える。
「そんな、いったいどうするの?」
「どうするも何も、宙港に用があるフリして駐めておきゃいいじゃねぇか」
「ここにもテラ連邦軍の軍通衛星MCSくらい上がってる。そのルックダウン機能をリサリア軍が利用してない保障はないんだし、アンノウンとして撃ち墜とされるかも知れないよ?」
「手動操縦、超低空で侵入するしかねぇだろ」
「簡単にそんな……もう、信じられない!」
ハイファの怒りを静めようと機に積んであった非常糧食品を物色すると、ラベルを剥がせば飲める紙コップのコーヒーがあった。前席の二人に配給する。
ひとくち飲んだコーヒーをシドに渡してハイファは暗い声で言った。
「じゃあ、何処からどっちを狙うかくらいは、想定してるの?」
「ああ、それは考えてある。傭兵が集まるホテルが幾つもあるんだが、その屋上から宙港ホテルのローマンを狙えないかと思っている。気に入らなければプロの目で変更してくれ」
「明日までしかいないローマンを先に殺るんだね」
期限付きとはいえターゲットの居場所が分かっているのは非常に有利だ。
「で、ロタール=クリューガー総司令官は?」
訊かれてキースは顔を曇らせる。
「それが問題なんだが……いつもは中央駐屯地にいることくらいしか分からないんだ」
「軍にカチコミは蜂の巣だよな」
ハイファの頭を悩ませることがどんどん降り積もりつつあったが、キプル宙港に近づいて機がオートで高度を下げ減速し始めると、撃ち墜とされる危険がかなり遠ざかったのを知る。
コルダから北に七千五百キロ、キプル付近は雪が降っていたのだ。
「これだけ降ってると目視での迎撃はないんじゃねぇか?」
「曲芸並みの低空飛行せずに済みそう、やっぱり日頃の行いだよね」
誰も誉めないので自分で誉めて、ハイファは不審に思われないよう機をオートで飛ばせる最低高度にセットし、迂回してキプルの街からやってきた風に装う策に出た。
その甲斐あってか宙港管制にコントロールを渡す際も何ら疑われることなく、スムーズに宙港メインビルの屋上駐機場へと誘導されランディングする。まずは第一段階クリアだ。
降機してみると屋上面はヒータで温められ、雪は融かされて歩きやすくなっていた。
「へえ。ここも意外に立派なメインビルだよね」
「まだリサリア軍に占領される前に建てたものだが、そう言われると嬉しい」
「宙港ホテルは?」
「こっちだ」
雪が吹き付ける中、キースはロングコートの裾を翻し、白い息を吐いて屋上を歩いてゆく。大事なスナイプの下見だ。ハイファは真剣な面持ちでキースを追い、隣の細長いオレンジ色の八階建てビルに見入った。シドも黙ってビルを眺める。
スポッタだからといって緩んではいられない。スナイパーが負傷でもすれば、その役目が回ってくるのだ。
足元は暖かいとはいえ、風雪に晒された細い躰が芯まで凍りついてしまいそうなくらいの間ハイファは宙港ホテルを見つめ、白一色に閉ざされた街があるらしい方角を透かし見てから、ようやく踵を返した。
「ハイファお前、それじゃ寒いだろ」
「一応、スーツは断熱素材でギリギリ限界内だけど」
「やせ我慢するな、何処かでコート買おうぜ」
「キースがコート着てくる訳だよね」
エレベーターを待っている間、三人は互いの雪を払い合う。
一階のロビーフロアに降り、二人はまずインフォメーション端末でキプルの地図をダウンロードした。そこからハイファは別室カスタムメイドリモータを端末に繋ぎ、宙港ホテルの管理コンにまで入り込み、構造図やローマン王の一行が宿泊している部屋、王の行動のタイムテーブルまでをハッキングで探り出す。
「どうだ、行けそうか?」
「王の部屋は六階窓側で、ほら、ここなんだけど……うーん」
「雪だもんなあ」
傍でキースはじっと待ちながら時折目薬を差したりしている。
ロビーフロアは少数の一般客と、それを上回る数の戦闘服を着た兵士たちが闊歩していた。停戦は破れ、すっかり戦時下に戻ってしまったようだ。
「盗るものは分捕ったから、いいよ、喫煙ルーム行くんでしょ?」
「煙草は外で吸うからいい、狭い場所で俺たちは目立ちすぎる」
傭兵らしき者たちは殆どが執銃を晒していたが、これだけ大きな得物をスーツ姿で担いでいるのは、いかにも人目を惹く。そうでなくとも隻腕にツインズだ。
「と、そこの売店に寄らせてくれ」
新しく明るい宙港の売店は品揃えも豊富で、衣料品から食品や雑貨までが綺麗に陳列され、デパートのような雰囲気だ。そこに掛けられていたロングコートをシドは手に取る。
「ハイファ、これ着られるなら買っちまおうぜ」
「ん、ちょっと待って」
超小型反重力装置付きで軽いミラッドラインをキースに預け、煉瓦色のコートを試着した。合わせがダブルのロングトレンチは細身でハイファの細い躰に綺麗に添う。
「あ、すごい、裾も裄もぴったりかも」
「ほう、金髪が映えるじゃないか。なかなか趣味がいいな」
「じゃあこれ、決まりな」
「ごめん、これもお願い」
ハイファが付け足したのは薄い革の手袋だ。
即買いでシドがクレジットを支払い、ハイファはコートの上にベルトパウチを着け直した。
寒さ対策をしてエントランスから出ると、シドは二人を待たせて一本だけ煙草を灰にする。吸い殻パックを仕舞うと無人コイルタクシーに乗り込んだ。
全長百七十七センチのアンチ・マテリアル・ライフルを苦労して積み込み、発進してキプルの街を目指す。ここもコルダと同様に宙港と街は一本道で繋がっていた。
街の入り口に辿り着くとクレジット清算して三人はタクシーを降りる。
「この大通りから一本裏の通りに傭兵ばかり宿泊するホテルが集中しているんだ」
「できるだけ宙港に近いホテルがいいな」
「では、少し歩くしかないな」
時刻は十八時半、元より雪で恒星イオタは見えなかったが徐々に空は薄暗くなりかけていた。だが雪の白さで却って辺りは明るいようにも思われる。
大通りはやはり目立つので、早々に三人は裏通りを歩くことにした。
道を一本入っただけで我に返ったように静かになる。
そこはホテルだけでなくマンションなどの住宅も多いエリアのようだった。ビルにもオフィスの看板はなく、一階のテナントショップもスーパーマーケットや雑貨店などで、人々の生活に密着したものが殆どだ。今は雪で白いが緑の多い公園なども見受けられる。
何となくシドがホッとしたのも束の間、ホテルを見上げつつ歩いていると、何かがシドの対衝撃ジャケットの背に当たって落ちた。足元を見ると雪玉が転がっている。直径五センチくらいの雪玉がまた飛んできて今度はハイファの腕に当たった。
「大丈夫か、ハイファ?」
「これくらい平気だって。でも何なんだろ?」
また雪玉が飛んできて次はキースの胸に当たる。
振り返ると数人の人影が小径に走り込むのがシドの目に映った。人影はどう見ても子供だったがイタズラとしては結構、悪質な部類だ。
気にせず三人は歩を進めたが雪玉は何度も投げられた。痛くなどないが気分のいいものでもない。それも何故かシドにばかり集中し始める。
「何だってこんな所で、こんな攻撃の矢面に立たなきゃならねぇんだ?」
「貴方、そういう顔してるから」
「これは地顔だって言ってんだろ。くそう、覚えてやがれ」
そのままゆるゆると歩いていると、また雪玉が飛んできて足元に落ちた。途端にシドは小さな人影を追って傍の公園に走り込む。
ハイファとキースがのんびり雪を踏んで公園に足を踏み入れると、雪の積もった錆だらけの箱ブランコの前でシドが男の子の襟首を捕まえていた。
テラ標準歴で十三、四歳に見える少年は、いかにも悪ガキといった風情で全身で暴れている。だが隻腕とはいえ刑事のシドに敵いはしない。
「シド。あーた、捕まえてどうするんですか?」
「こういうときの常套だ。……おい、『お前の親に連絡するぞ?』」
ふいに暴れるのを止めた少年はシドを睨みつけた。
「親にいいつけられるもんなら、いいつけてみろ! 天国まで発振が届くんならな!」
「って、お前、親がいねぇのか?」
茶色い髪に茶色い目をした少年をシドはまじまじと眺めてから手を離す。少年は逃げなかった。悔しげに顔を歪めて立ち尽くしている。
柔らかな口調でハイファが訊いた。
「ご両親は戦争で亡くなったのかな?」
俯いて肯定した少年にシドは頭を下げる。
「そうか。すまん、悪いことを言っちまった。許してくれ」
少年は不思議そうにシドとハイファにキースを見上げた。
「あんたら、そんな大砲持ってるけど本当に兵隊なのか? その、片腕もないしさ」
「一昨日志願して、やっぱり傭兵は止めたんだが、何処か変に見えるか?」
「何だ、それ。変なの」
真面目に訊いたシドに少年は笑いだしていた。その笑顔に安心したのか、隠れていた子供たちが何人も現れる。五、六歳から十二、三歳くらいまでの男女取り揃えて九人もの子供がいた。その中にハイファは見知った顔を見つけて驚く。
「ジュリア、どうしてこんな所にいるの?」
咎めるような口調ではなかったが、ジュリアは泣きそうな顔をハイファに向けていた。
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
ママと中学生の僕
キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。
天才天然天使様こと『三天美女』の汐崎真凜に勝手に婚姻届を出され、いつの間にか天使の旦那になったのだが...。【動画投稿】
田中又雄
恋愛
18の誕生日を迎えたその翌日のこと。
俺は分籍届を出すべく役所に来ていた...のだが。
「えっと...結論から申し上げますと...こちらの手続きは不要ですね」「...え?どういうことですか?」「昨日、婚姻届を出されているので親御様とは別の戸籍が作られていますので...」「...はい?」
そうやら俺は知らないうちに結婚していたようだった。
「あの...相手の人の名前は?」
「...汐崎真凛様...という方ですね」
その名前には心当たりがあった。
天才的な頭脳、マイペースで天然な性格、天使のような見た目から『三天美女』なんて呼ばれているうちの高校のアイドル的存在。
こうして俺は天使との-1日婚がスタートしたのだった。
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
屈辱と愛情
守 秀斗
恋愛
最近、夫の態度がおかしいと思っている妻の名和志穂。25才。仕事で疲れているのかとそっとしておいたのだが、一か月もベッドで抱いてくれない。思い切って、夫に聞いてみると意外な事を言われてしまうのだが……。
あるフィギュアスケーターの性事情
蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。
しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。
何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。
この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。
そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。
この物語はフィクションです。
実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。
上司、快楽に沈むまで
赤林檎
BL
完璧な男――それが、営業部課長・**榊(さかき)**の社内での評判だった。
冷静沈着、部下にも厳しい。私生活の噂すら立たないほどの隙のなさ。
だが、その“完璧”が崩れる日がくるとは、誰も想像していなかった。
入社三年目の篠原は、榊の直属の部下。
真面目だが強気で、どこか挑発的な笑みを浮かべる青年。
ある夜、取引先とのトラブル対応で二人だけが残ったオフィスで、
篠原は上司に向かって、いつもの穏やかな口調を崩した。「……そんな顔、部下には見せないんですね」
疲労で僅かに緩んだ榊の表情。
その弱さを見逃さず、篠原はデスク越しに距離を詰める。
「強がらなくていいですよ。俺の前では、もう」
指先が榊のネクタイを掴む。
引き寄せられた瞬間、榊の理性は音を立てて崩れた。
拒むことも、許すこともできないまま、
彼は“部下”の手によって、ひとつずつ乱されていく。
言葉で支配され、触れられるたびに、自分の知らなかった感情と快楽を知る。それは、上司としての誇りを壊すほどに甘く、逃れられないほどに深い。
だが、篠原の視線の奥に宿るのは、ただの欲望ではなかった。
そこには、ずっと榊だけを見つめ続けてきた、静かな執着がある。
「俺、前から思ってたんです。
あなたが誰かに“支配される”ところ、きっと綺麗だろうなって」
支配する側だったはずの男が、
支配されることで初めて“生きている”と感じてしまう――。
上司と部下、立場も理性も、すべてが絡み合うオフィスの夜。
秘密の扉を開けた榊は、もう戻れない。
快楽に溺れるその瞬間まで、彼を待つのは破滅か、それとも救いか。
――これは、ひとりの上司が“愛”という名の支配に沈んでいく物語。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる