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第27話
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「お兄ちゃん、兵隊さんだったの?」
「ジュリアはお父さんを兵隊に殺されたんだ」
笑いを収めた少年がジュリアのふわふわのブルネットを撫でる。
「みんな、父さんか母さんを兵隊に殺されてるんだ。僕みたいに両方殺された奴もいる」
「それで兵隊が憎かったのか?」
子供たちが頷き俯いていると遠くからジュリアたちを呼ぶ声が聞こえてきた。やがて声の持ち主が姿を現す。モーリンともう一人、年配の女性がいた。
「えっ、ハイファス……どうしてここに?」
訝しげな顔をしたモーリンと目立つ三人組を見て口を開けていた年配の女性にハイファは事情を話す。モーリンは少年を睨んだ。
「ビル=エヴァンズ、貴方たち、またやったのね!」
どうやら常習犯らしい子供たちのうち、年長の者はふてぶてしくそっぽを向き、幼い者は泣き声で合唱を始める。そんな子供たちを年配の女性は一声でその場に座らせた。
「申し訳ありませんでした。わたくし、養護施設ブロッサムハウスの責任者でブリジット=ヘンシャルと申します。ほら、あんたたち、謝りなさい!」
子供たちは一様に頭を垂れてはいたが年長者はニヤニヤ笑いでつつき合いだ。
民間交易艦の事故で家族全員を亡くし、六歳から施設で育ったシドはその光景に既視感と親近感を覚える。イタズラならば先輩、しかられるのは大先輩だ。
「もういいから好きにさせてやってくれ」
その言葉で子供たちは「わあっ」と雪まみれの遊具に散る。残ったのはビルと呼ばれた少年とジュリアだけ、ジュリアは箱ブランコに乗り、ビルが押して揺らしてやっていた。
改めてシドとハイファは自己紹介し、キースは黙ったままブリジットの話を聞く。
「ブロッサムハウスは片親ないし両親を戦災で亡くして、親族も育てきれなくなった子供たちを預かっているんです」
「モーリンもそこで働いているんだね?」
「一人でジュリアを抱えて困っているときに募集があって、住み込みでずっと」
「こんなに沢山の子供たちが待ってるから、ここに帰ってきたのかな?」
「ええ。ビルたちにテラ本星の話を聞かせてあげる約束だったんです」
箱ブランコを揺らしていたビルが笑顔をモーリンに振り向けた。
「僕はいつか絶対にテラ本星に行くんだ。みんなをつれて戦争のないテラ本星に」
「そういうのは黙って胸に秘めとくもんだぞ」
途中で夢を語ると死亡フラグという、いわゆる戦争映画の法則など知らないビルは怪訝な顔をする。その間にハイファはブリジットから福祉に対する予算削減の愚痴と、美味しいプリンのレシピを聞き出していた。
ずっと黙って話を聞いていたキースがクシャミをしてシドとハイファは本来の目的を思い出す。薄暮の中で遊ぶ子供たちに手を振った。
歩き出しながら雪まみれになったキースの頭とコートをハイファは払ってやる。
「ごめんね、キース。風邪引いちゃったかな?」
「いや、単なる条件反射だろう。僕の躰は病気にも強い」
「ならいいけど。風邪引かせちゃったら誘拐の罪も重くなりそうだしね」
更に二十分近く歩いてハイファがひとつの建物を見上げた。
「あのホテル、屋上に上がってみたいな」
指さしたのは二十階まではないくらいの、クリーム色の外壁を持ったビルだった。仰ぎ見ると屋上はいわゆる『載っけてるだけ』らしく柵もフェンスもない。
「入るんならキースのリモータIDを偽装しねぇと拙いんじゃねぇか?」
「あ、そういうのもあったね。じゃあ僕のIDをキースに移植するよ」
「そんなことができるのか?」
「このリモータに入ってるソフトならね」
リードを引き出して相互に繋ぎ、キースのリモータに表層プログラムを流し込んだ。シュルシュルとリードを仕舞ってハイファは自分のリモータを操作する。
「これでキースはハイファス=ファサルートで、僕はユーリー=ニコノフだからね」
準備ができると三人はホテルの裏口の前に立った。リモータチェッカに交互にリモータを翳すとシドがセンサ感知する。裏口からでも客は歓迎しているらしく難なくオートドアは開いた。中から大勢の人間の気配が流れ出してくる。
ホテル内にそっと三人は足を踏み入れた。気配を感じた通り、見通しの良いロビーからエレベーターホールまでのあちこちで戦闘服の男たちがたむろしては喋り、大声で笑っていた。
「フロントを通さずに上がれそうだね」
「エレベーター、こっちだ」
なるべく人目に付かぬようシドの先導で男たちの間をすり抜けエレベーターに乗り込んだ。階数表示を見れば、ここは十八階建てらしい。最上階を目指す。
途中一度も止まらずに十八階に着き、残りは階段を使った。屋上面に出るドアはオートでなくキィロックも掛かっていなかった。
「ラッキィ。雪のお蔭かな、誰もいないよ」
のっぺりとした屋上面は、いっそ清々しいほど白一色だった。だが高さは十九階で風があるためかシドが思っていたよりも積雪は薄かった。それでも三十センチ近くは積もっているだろうか。
一歩踏み出して新雪にズボッと足が埋まる。片腕で危うくバランスをとりながら、もう一歩前に出た。ずぶずぶと埋まり、コットンパンツの膝から下を雪まみれにして濡らしつつ、出てきたドアのある建屋の裏まで無人なのを確かめてから屋上のふち近くまで進んだ。
その間も降り積む雪で頭から真っ白、融け流れて湯気が立つ。
「うーっ、冷てぇっ!」
「滑って転ばないでよね」
「無闇に進むと落っこちるんじゃないか?」
「そういうお前らは俺の足跡辿ってやがるのかよ」
「だって貴方が一番体温、高そうなんだもん」
「低体温、さっさと下見しろ」
言いつつシドは弾薬袋に入れてあったレーザースコープを受け取り宙港方面を偵察する。雪で煙る遥か彼方の宙港ホテルを捉えようと倍率変更ダイアルを調整した。
なかなか捉えられずに焦ったが、外壁がオレンジ色だったお蔭で何とか視野に収める。だがオートで割り出された距離を見て落胆した。
「なあ、二千八百五十メートルあるぞ。風もある。この条件は無理じゃねぇか?」
幾ら既に三キロを成功させていても、それは最高にコンディションを整えられた射場での話だ。これはあまりに条件が悪すぎた。
「六階左から三枚目の窓、見える?」
「たぶん遮光ブラインドが降りてる気がする。こいつで見てもその程度だ」
銃付属のスコープよりも高倍率の双眼鏡をシドから受け取って、ハイファはアイピースを目に当てる。数秒で離してミラッドラインを下ろしバイポッドを立て、雪で濡れるのにも構わずにその場で伏射姿勢を取った。レンズカバーを跳ね上げてスコープを覗く。
ハイファが迷った時間は五分ほどだった。立ち上がって宣言する。
「これ以上、好条件の場所はない。ここでやる」
「現在時、十九時二十七分。決行は?」
「現在時より作戦行動に入る……今日は十九時には視察から戻ってる筈なんだよね」
「もうあそこにいるってことか」
「おそらくは」
と、ハイファは愛銃をショルダーホルスタごと外してシドに手渡した。軽く踏み固めた雪の上に腹這いとなり、また伏射姿勢を取る。シドが読み上げるデータと勘とでスコープのダイアルを微調整した。
革手袋を嵌め、左手で銃後端下のハンドル、右手でグリップを握ってしっかり肩付けした。可動式トリガガードをスライドさせて除け、人差し指をトリガに掛ける。
三十センチほども離れたスコープを覗いたまま、それきりハイファは動きを止めていた。
スポッタとしてシドもハイファの右側で同じく腹這いでレーザースコープを覗く。
ハイファの緊張感が伝染したように、抑えた固い声でキースが訊いた。
「例えば、窓に大量に弾を撃ち込むというのは拙いのか?」
「人に当たれば一発で上半身と下半身に両断するほどの威力がある。ターゲット以外が被弾すればタダでは済まない」
「いつまで待つんだ?」
「ターゲットの姿を捉えるまで」
それは雪が止み、遮光ブラインドが上げられ、窓際にローマン王が立つまでということだ。一晩待ってもあるかどうか分からない、その千載一遇のチャンスを待ち、このまま雪の中でハイファは狙い続けるのである。
スナイパーという人種を、ハイファを、初めてキースは空恐ろしく感じた。
背後にハイファを庇いながらも思い切り突き進むシドが爆発的に燃える恒星ならば、ハイファは細く粘く、とろりと密やかに低い温度で燃え続ける陰火だった。
「キース。ホテルを取るならここを出て、別のホテルにチェックインして」
「遠慮せず言ってくれ、僕がいると邪魔か?」
「関係ない。関係ないから、いなくても同じ」
空は黒くなりかかっている。そっとキースはドアまで戻り、階段を降りた。
人目を忍んで十八階の廊下を辿り、リネン室を見つけてセンサ感知してみる。キィロックもなくスムーズに開いた。中に誰もいないのを見取ってから入り込み、棚に毛布が積んであるのを発見する。ピンクとブルーのどちらにしようかと悩み、結局両方を一枚ずつ持ち出した。
悠々と毛布を抱えて屋上の二人の許に戻る。
「何だ、キース。帰ってきたのかよ?」
「この毛布でも敷くといい。腹を冷やして下すのは勧められないからな」
「気の利く王サマだな。ハイファ、動けるか?」
「貴方と交代でなら」
「俺にそいつを撃てってか?」
何とか毛布の一枚を下敷きにすると正直シドはホッとした。スポッタを続行する。キースは毛布を頭から被って二人の後ろ、雪の上に腰を下ろした。
「まさかキース、カネを持っていないんじゃねぇのか?」
「はっきり言って泊まれるほどの持ち合わせがないような気がする」
「シケた王サマだな。まあ、コルダにいれば不要だろうが。貸してやるから――」
「いや、いい。人一人を殺すのがどれだけ難しいのか、僕はここで見ていなければならない、そんな気もしているんだ」
「そうか。風邪引かないでくれ……は、ハックシュン!」
「ジュリアはお父さんを兵隊に殺されたんだ」
笑いを収めた少年がジュリアのふわふわのブルネットを撫でる。
「みんな、父さんか母さんを兵隊に殺されてるんだ。僕みたいに両方殺された奴もいる」
「それで兵隊が憎かったのか?」
子供たちが頷き俯いていると遠くからジュリアたちを呼ぶ声が聞こえてきた。やがて声の持ち主が姿を現す。モーリンともう一人、年配の女性がいた。
「えっ、ハイファス……どうしてここに?」
訝しげな顔をしたモーリンと目立つ三人組を見て口を開けていた年配の女性にハイファは事情を話す。モーリンは少年を睨んだ。
「ビル=エヴァンズ、貴方たち、またやったのね!」
どうやら常習犯らしい子供たちのうち、年長の者はふてぶてしくそっぽを向き、幼い者は泣き声で合唱を始める。そんな子供たちを年配の女性は一声でその場に座らせた。
「申し訳ありませんでした。わたくし、養護施設ブロッサムハウスの責任者でブリジット=ヘンシャルと申します。ほら、あんたたち、謝りなさい!」
子供たちは一様に頭を垂れてはいたが年長者はニヤニヤ笑いでつつき合いだ。
民間交易艦の事故で家族全員を亡くし、六歳から施設で育ったシドはその光景に既視感と親近感を覚える。イタズラならば先輩、しかられるのは大先輩だ。
「もういいから好きにさせてやってくれ」
その言葉で子供たちは「わあっ」と雪まみれの遊具に散る。残ったのはビルと呼ばれた少年とジュリアだけ、ジュリアは箱ブランコに乗り、ビルが押して揺らしてやっていた。
改めてシドとハイファは自己紹介し、キースは黙ったままブリジットの話を聞く。
「ブロッサムハウスは片親ないし両親を戦災で亡くして、親族も育てきれなくなった子供たちを預かっているんです」
「モーリンもそこで働いているんだね?」
「一人でジュリアを抱えて困っているときに募集があって、住み込みでずっと」
「こんなに沢山の子供たちが待ってるから、ここに帰ってきたのかな?」
「ええ。ビルたちにテラ本星の話を聞かせてあげる約束だったんです」
箱ブランコを揺らしていたビルが笑顔をモーリンに振り向けた。
「僕はいつか絶対にテラ本星に行くんだ。みんなをつれて戦争のないテラ本星に」
「そういうのは黙って胸に秘めとくもんだぞ」
途中で夢を語ると死亡フラグという、いわゆる戦争映画の法則など知らないビルは怪訝な顔をする。その間にハイファはブリジットから福祉に対する予算削減の愚痴と、美味しいプリンのレシピを聞き出していた。
ずっと黙って話を聞いていたキースがクシャミをしてシドとハイファは本来の目的を思い出す。薄暮の中で遊ぶ子供たちに手を振った。
歩き出しながら雪まみれになったキースの頭とコートをハイファは払ってやる。
「ごめんね、キース。風邪引いちゃったかな?」
「いや、単なる条件反射だろう。僕の躰は病気にも強い」
「ならいいけど。風邪引かせちゃったら誘拐の罪も重くなりそうだしね」
更に二十分近く歩いてハイファがひとつの建物を見上げた。
「あのホテル、屋上に上がってみたいな」
指さしたのは二十階まではないくらいの、クリーム色の外壁を持ったビルだった。仰ぎ見ると屋上はいわゆる『載っけてるだけ』らしく柵もフェンスもない。
「入るんならキースのリモータIDを偽装しねぇと拙いんじゃねぇか?」
「あ、そういうのもあったね。じゃあ僕のIDをキースに移植するよ」
「そんなことができるのか?」
「このリモータに入ってるソフトならね」
リードを引き出して相互に繋ぎ、キースのリモータに表層プログラムを流し込んだ。シュルシュルとリードを仕舞ってハイファは自分のリモータを操作する。
「これでキースはハイファス=ファサルートで、僕はユーリー=ニコノフだからね」
準備ができると三人はホテルの裏口の前に立った。リモータチェッカに交互にリモータを翳すとシドがセンサ感知する。裏口からでも客は歓迎しているらしく難なくオートドアは開いた。中から大勢の人間の気配が流れ出してくる。
ホテル内にそっと三人は足を踏み入れた。気配を感じた通り、見通しの良いロビーからエレベーターホールまでのあちこちで戦闘服の男たちがたむろしては喋り、大声で笑っていた。
「フロントを通さずに上がれそうだね」
「エレベーター、こっちだ」
なるべく人目に付かぬようシドの先導で男たちの間をすり抜けエレベーターに乗り込んだ。階数表示を見れば、ここは十八階建てらしい。最上階を目指す。
途中一度も止まらずに十八階に着き、残りは階段を使った。屋上面に出るドアはオートでなくキィロックも掛かっていなかった。
「ラッキィ。雪のお蔭かな、誰もいないよ」
のっぺりとした屋上面は、いっそ清々しいほど白一色だった。だが高さは十九階で風があるためかシドが思っていたよりも積雪は薄かった。それでも三十センチ近くは積もっているだろうか。
一歩踏み出して新雪にズボッと足が埋まる。片腕で危うくバランスをとりながら、もう一歩前に出た。ずぶずぶと埋まり、コットンパンツの膝から下を雪まみれにして濡らしつつ、出てきたドアのある建屋の裏まで無人なのを確かめてから屋上のふち近くまで進んだ。
その間も降り積む雪で頭から真っ白、融け流れて湯気が立つ。
「うーっ、冷てぇっ!」
「滑って転ばないでよね」
「無闇に進むと落っこちるんじゃないか?」
「そういうお前らは俺の足跡辿ってやがるのかよ」
「だって貴方が一番体温、高そうなんだもん」
「低体温、さっさと下見しろ」
言いつつシドは弾薬袋に入れてあったレーザースコープを受け取り宙港方面を偵察する。雪で煙る遥か彼方の宙港ホテルを捉えようと倍率変更ダイアルを調整した。
なかなか捉えられずに焦ったが、外壁がオレンジ色だったお蔭で何とか視野に収める。だがオートで割り出された距離を見て落胆した。
「なあ、二千八百五十メートルあるぞ。風もある。この条件は無理じゃねぇか?」
幾ら既に三キロを成功させていても、それは最高にコンディションを整えられた射場での話だ。これはあまりに条件が悪すぎた。
「六階左から三枚目の窓、見える?」
「たぶん遮光ブラインドが降りてる気がする。こいつで見てもその程度だ」
銃付属のスコープよりも高倍率の双眼鏡をシドから受け取って、ハイファはアイピースを目に当てる。数秒で離してミラッドラインを下ろしバイポッドを立て、雪で濡れるのにも構わずにその場で伏射姿勢を取った。レンズカバーを跳ね上げてスコープを覗く。
ハイファが迷った時間は五分ほどだった。立ち上がって宣言する。
「これ以上、好条件の場所はない。ここでやる」
「現在時、十九時二十七分。決行は?」
「現在時より作戦行動に入る……今日は十九時には視察から戻ってる筈なんだよね」
「もうあそこにいるってことか」
「おそらくは」
と、ハイファは愛銃をショルダーホルスタごと外してシドに手渡した。軽く踏み固めた雪の上に腹這いとなり、また伏射姿勢を取る。シドが読み上げるデータと勘とでスコープのダイアルを微調整した。
革手袋を嵌め、左手で銃後端下のハンドル、右手でグリップを握ってしっかり肩付けした。可動式トリガガードをスライドさせて除け、人差し指をトリガに掛ける。
三十センチほども離れたスコープを覗いたまま、それきりハイファは動きを止めていた。
スポッタとしてシドもハイファの右側で同じく腹這いでレーザースコープを覗く。
ハイファの緊張感が伝染したように、抑えた固い声でキースが訊いた。
「例えば、窓に大量に弾を撃ち込むというのは拙いのか?」
「人に当たれば一発で上半身と下半身に両断するほどの威力がある。ターゲット以外が被弾すればタダでは済まない」
「いつまで待つんだ?」
「ターゲットの姿を捉えるまで」
それは雪が止み、遮光ブラインドが上げられ、窓際にローマン王が立つまでということだ。一晩待ってもあるかどうか分からない、その千載一遇のチャンスを待ち、このまま雪の中でハイファは狙い続けるのである。
スナイパーという人種を、ハイファを、初めてキースは空恐ろしく感じた。
背後にハイファを庇いながらも思い切り突き進むシドが爆発的に燃える恒星ならば、ハイファは細く粘く、とろりと密やかに低い温度で燃え続ける陰火だった。
「キース。ホテルを取るならここを出て、別のホテルにチェックインして」
「遠慮せず言ってくれ、僕がいると邪魔か?」
「関係ない。関係ないから、いなくても同じ」
空は黒くなりかかっている。そっとキースはドアまで戻り、階段を降りた。
人目を忍んで十八階の廊下を辿り、リネン室を見つけてセンサ感知してみる。キィロックもなくスムーズに開いた。中に誰もいないのを見取ってから入り込み、棚に毛布が積んであるのを発見する。ピンクとブルーのどちらにしようかと悩み、結局両方を一枚ずつ持ち出した。
悠々と毛布を抱えて屋上の二人の許に戻る。
「何だ、キース。帰ってきたのかよ?」
「この毛布でも敷くといい。腹を冷やして下すのは勧められないからな」
「気の利く王サマだな。ハイファ、動けるか?」
「貴方と交代でなら」
「俺にそいつを撃てってか?」
何とか毛布の一枚を下敷きにすると正直シドはホッとした。スポッタを続行する。キースは毛布を頭から被って二人の後ろ、雪の上に腰を下ろした。
「まさかキース、カネを持っていないんじゃねぇのか?」
「はっきり言って泊まれるほどの持ち合わせがないような気がする」
「シケた王サマだな。まあ、コルダにいれば不要だろうが。貸してやるから――」
「いや、いい。人一人を殺すのがどれだけ難しいのか、僕はここで見ていなければならない、そんな気もしているんだ」
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