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第28話
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洟を啜りつつシドは時折ハイファに積もった雪を払い除け、濡れた前髪をかき上げてやる。そうされながらもハイファは驚異的な集中力でレティクルを見つめ続けていた。
すっかり空が黒くなり、対照的に地上は白に塗り込められる。
だが雪明かりとでもいうのだろうか、シドは辺りを意外に明るく感じた。分厚く垂れ込めた雪雲が街の光を反射しているのだ。その代わり耳が痛いほどの静けさが周囲を支配している。たまに傭兵たちであろう酔ったダミ声が下から響いてくるだけだ。
しかし狙撃に関して雪明かりの恩恵はなかった。レーザースコープを通さなければ視界はたった数メートル、白また白の重い緞帳が次から次へと降りて全てを遮ってしまう。
何度もデータを計り直してはハイファに報告していた。気圧が上がってきている。
データの変化を受けてスコープの微調整をするとき以外ハイファは動かない。
振り向いてキースを見ると毛布の塊が白い息を吐き、青い目を覗かせていた。ハイファに出て行けと言われないだけ、状況判断もできていて優秀だとシドは思う。
やや風が収まってきたのを受け、またデータを取って報告する。
唐突に冷え切った気管での呼吸が楽になった。ふいに雪が止んだのだ。
風の唸りが途切れる。ハイファがスコープを調整。時間が流れる。
シドは覗いていたレーザースコープの視界で、宙港ホテル六階左から三番目の窓がくっきりと浮かび上がるのを目にした。明かりが洩れている。オートらしい遮光ブラインドが上げられた。人影が一。侍従かも知れない。
特殊サイトのレーザースコープが逆光線を抑える。人影がクリアになった。ワイングラスを持った男、ウェーブのかかった黒髪、瞳は――。
「標的が現れた」
轟音と共にハイファの躰が大きく前後に揺れた。雪が舞い散る。二射目はない。
「ヒット、ヘッドショット。ターゲットKILL」
ミラッドラインを置いたハイファは肩越しにキースを振り返った。
「死んだのは貴方の弟です、お悔やみ申し上げます。そしておめでとうございます、これでイオタ星系に王は貴方一人です、キース王」
◇◇◇◇
リモータを見れば一時半で、シドは六時間もこうしていたのかと驚いた。驚いたが狙撃ポイントでしみじみしているヒマはない。即、撤退がセオリーだ。
気付けばシドもハイファも殆ど雪に埋もれていた。下から見られないよう屋上のふちから這って後退し、立ち上がる。バサバサと大量の雪が落ちた。毛布の上だったが全身ずぶ濡れだ。髪などは殆ど凍りついている。
立ち上がったのはいいが、細い躰がふらついたのを見てシドが慌てて抱き留めた。
「どうしたハイファ、大丈夫か?」
「ん。スコープに慣れちゃって視野がずれるだけ、すぐ治るから」
シドとキースでミラッドラインを放り出し、荒っぽく雪をかけた。
「ハイファ、行けるか?」
「たぶん、平気」
三人は急いでドアに向かう。廊下を密やかに歩き、エレベーターに乗り込んでシドが二階のボタンを押した。今度も途中で止まらず二階に到着する。
二階からは階段で下りる。こちらの方がフロントから遠く裏口に近いのだ。
一階に着くと、あれだけいた傭兵たちは自室に引っ込んだのか数名に減っていた。三人はロビーの端をさりげなく歩き、裏口から外に出ることに成功する。
足早に裏通りから大通りへと出た。大通りもすっかり人通りがなくなっている。三人は停車していた無人コイルタクシーに乗り込んだ。
超長距離狙撃で稼いだ貴重な時間だった。
リサリア軍中央駐屯地にほど近い、ビジネスホテルが集中しているエリアをシドが座標指定して発進させる。再び降りだした雪の中、軍用コイル数台とすれ違った。更には軍用BELが何機も低空を飛んでいく。まだ緊急配備までは張られていないようだった。
十五分ほど走らせて停止したタクシーを降りる。
辺りを見渡すと目の前にオリエントホテルなるビルがあり、ハイファの唇の色を見たシドは迷わずそこに決めて、エントランスのリモータチェッカに右手首を翳した。三人はホテル内入って見回したが、この時間のフロントは無人だった。
頭からずぶ濡れの目立つ三人には好都合、だが無人フロントのパネルにはトリプルルームの空きはなかった。結局、大真面目なキースの『遠慮するな』という言葉に、セミダブルとシングルの二部屋のキィロックコードをクレジットと交換に手に入れ、エレベーターで二十二階建ての十五階に上がる。
「一五〇七と一五〇八は……あった。ここだね」
食事もまだだったが何はともあれリフレッシャを浴びて着替えないと三人とも凍えきっている。シングルの一五〇八号室にキースが消えるのを見届けて、シドとハイファは隣の一五〇七号室に入りロックをした。
室内はごくシンプルでフリースペースは殆どないビジネスホテルである。
どちらからともなく互いの腰に腕を回しソフトキスを交わした。それだけで鋭かった若草色の瞳が随分と和らぐ。
「お前、先にリフレッシャ……は、ハックシュン!」
協議の結果、覗いてみたら意外に広かったバスタブに湯を溜めて一緒に入ることになった。濡れた衣類を全てダートレスに放り込んでスイッチを入れる。
リフレッシャを交代で浴び、二人してバスタブに身を沈めた。
「ああ、融けるーっ。気持ちいい~っ!」
「気持ちいいが……気持ち良すぎるから、ンなにくっつくなよ」
「無心になって、無心に」
「そういうお前こそ」
互いに色々と我慢をしながら体を充分温め、ドライモードで全身を乾かしてバスルームを出た。止まっていたダートレスから服を出して身に着ける。
「キースに発振する?」
「一人飯も淋しいだろうからな」
発振するとキースは眠たげな顔をしてやってきた。
「食事よりもベッドが嬉しいのだが」
そう言いながらも今後の計画のこともある。キースは欠伸を洩らしながらソファに座り、ハイファが淹れたインスタントコーヒーの紙コップに口をつけた。
備え付けの端末で三人分のルームサーヴィスを頼むと二人もコーヒーで一息つく。シドは約七時間ぶりの煙草タイムだ。
引きずってきた椅子に前後逆に腰掛け、しみじみ旨そうに紫煙を吐くのを横目で見ながら、ハイファはリモータからリードを引き出して端末に繋いだ。ホテルの管理コンから都市のインフラ管理コンへ、そこから軍のインフラへと辿り、中央駐屯地の中枢コンへと侵入する。
「相変わらずの手並みだな」
「もっと褒めて」
「あとで褒美をやる」
「ふふん……あ、ルームサーヴィスがきたみたいだね」
電子音がして振り向くとリフトのランプが灯っていた。ハイファとシドが立ちトレイを持ってきてソファの間のロウテーブルに置いた。三人で食事に取りかかる。
約十四時間ぶりの食事は瞬く間に三人の胃袋に収まった。コーヒーを淹れなおすと電子情報との格闘も仕切り直しだ。
「手始めに武器密輸の件なんてどう?」
「コンスタントに出るサタデーナイトスペシャル、兵器工場での不良品だな」
「それと武器庫の使い古しだったよね。まずは使い古しからだけど……これだ。中央駐屯地から出た中古品なんかの事故品は、全てが民間会社に下取りに出されてる」
「下取りってことは、まだ武器としての価値があるってことか?」
「ううん、そうじゃなくて鋼材としての下取りみたいだね。一キロ幾らって風に」
「ふうん。じゃあ、兵器工場の方はどうだ?」
「ちょっと待って」
ここでもコルダと同様に検索しただけで、開示された情報を閲覧することができた。
「こっちも同じく不良品は民間会社に払い下げになってるよ」
「もしかして同じ会社なのか?」
「ビンゴ引いたかも知れない。どっちもエヴァンズ商会っていう会社だよ。代表取締役社長がウィリアム=エヴァンズ、取り扱い業務は鋼材その他、地金の輸出」
「ふ……ん。他星に武器を流すルートも持ってるってことだな」
「そう。このエヴァンズ商会は、ロニアにも出張所を構えてる」
「ロニアマフィアがテラ本星を含む他星に捌いてやがるのか」
キナ臭い話の陰に大概出てくるロニアには、刑事として日頃から手を焼いているのだ。
「で、次はロタール=クリューガーだな」
半分眠っていたキースが猫のように青い目を見開いた。
「そうなんだけど、この人、中央駐屯地内の兵舎に住んでて、ランダムに他の駐屯地に行く以外は出てこないみたいだよ」
「ワーカホリックって奴だな。どうするか……いよいよキースの出番かもな」
注視されて欠伸混じりにキース、
「僕は僕以外に一人、それもいつもの半分の距離しか跳ばせない。どうするんだ?」
「半分でも的確に跳んでくれればそれでいいよ。これが中央駐屯地の配置図……ロタール=クリューガーの自室がこれで、総司令官室がここだよ」
「ほう、そこまで分かるのか。大したものだな」
真剣な面持ちでキースは地図を見つめて頷く。
「二人で百メートル、これさえあればいけるだろう」
それを聞いて当然のごとく、シドとハイファのどちらもが名乗りを挙げた。
「僕が行くよ」
「駐屯地内、総司令官室にか? 俺が行く」
「貴方は無理だよ、その腕じゃ兵士に化けられないじゃない」
「お前らこそバカみたいに目立つの、知ってるか?」
暫し言い争ったが、どちらも譲らず答えは出なかった。
眠さも限界らしいキースは、ソファから立ち上がって二人に手を振る。
「明日、いや、今日か。どちらでもいい、決めておいてくれ。それと僕は朝に弱い。申し訳ないが昼を過ぎないと使い物にならないから、そのつもりでいてくれ」
それだけ言うとキースは隣の部屋に戻っていった。
キースを送って戻ってきたハイファがリモータを見る。
「あーあ、もう三時半だよ」
「そろそろ寝るか」
「寝ちゃうの? ご褒美は?」
すっかり空が黒くなり、対照的に地上は白に塗り込められる。
だが雪明かりとでもいうのだろうか、シドは辺りを意外に明るく感じた。分厚く垂れ込めた雪雲が街の光を反射しているのだ。その代わり耳が痛いほどの静けさが周囲を支配している。たまに傭兵たちであろう酔ったダミ声が下から響いてくるだけだ。
しかし狙撃に関して雪明かりの恩恵はなかった。レーザースコープを通さなければ視界はたった数メートル、白また白の重い緞帳が次から次へと降りて全てを遮ってしまう。
何度もデータを計り直してはハイファに報告していた。気圧が上がってきている。
データの変化を受けてスコープの微調整をするとき以外ハイファは動かない。
振り向いてキースを見ると毛布の塊が白い息を吐き、青い目を覗かせていた。ハイファに出て行けと言われないだけ、状況判断もできていて優秀だとシドは思う。
やや風が収まってきたのを受け、またデータを取って報告する。
唐突に冷え切った気管での呼吸が楽になった。ふいに雪が止んだのだ。
風の唸りが途切れる。ハイファがスコープを調整。時間が流れる。
シドは覗いていたレーザースコープの視界で、宙港ホテル六階左から三番目の窓がくっきりと浮かび上がるのを目にした。明かりが洩れている。オートらしい遮光ブラインドが上げられた。人影が一。侍従かも知れない。
特殊サイトのレーザースコープが逆光線を抑える。人影がクリアになった。ワイングラスを持った男、ウェーブのかかった黒髪、瞳は――。
「標的が現れた」
轟音と共にハイファの躰が大きく前後に揺れた。雪が舞い散る。二射目はない。
「ヒット、ヘッドショット。ターゲットKILL」
ミラッドラインを置いたハイファは肩越しにキースを振り返った。
「死んだのは貴方の弟です、お悔やみ申し上げます。そしておめでとうございます、これでイオタ星系に王は貴方一人です、キース王」
◇◇◇◇
リモータを見れば一時半で、シドは六時間もこうしていたのかと驚いた。驚いたが狙撃ポイントでしみじみしているヒマはない。即、撤退がセオリーだ。
気付けばシドもハイファも殆ど雪に埋もれていた。下から見られないよう屋上のふちから這って後退し、立ち上がる。バサバサと大量の雪が落ちた。毛布の上だったが全身ずぶ濡れだ。髪などは殆ど凍りついている。
立ち上がったのはいいが、細い躰がふらついたのを見てシドが慌てて抱き留めた。
「どうしたハイファ、大丈夫か?」
「ん。スコープに慣れちゃって視野がずれるだけ、すぐ治るから」
シドとキースでミラッドラインを放り出し、荒っぽく雪をかけた。
「ハイファ、行けるか?」
「たぶん、平気」
三人は急いでドアに向かう。廊下を密やかに歩き、エレベーターに乗り込んでシドが二階のボタンを押した。今度も途中で止まらず二階に到着する。
二階からは階段で下りる。こちらの方がフロントから遠く裏口に近いのだ。
一階に着くと、あれだけいた傭兵たちは自室に引っ込んだのか数名に減っていた。三人はロビーの端をさりげなく歩き、裏口から外に出ることに成功する。
足早に裏通りから大通りへと出た。大通りもすっかり人通りがなくなっている。三人は停車していた無人コイルタクシーに乗り込んだ。
超長距離狙撃で稼いだ貴重な時間だった。
リサリア軍中央駐屯地にほど近い、ビジネスホテルが集中しているエリアをシドが座標指定して発進させる。再び降りだした雪の中、軍用コイル数台とすれ違った。更には軍用BELが何機も低空を飛んでいく。まだ緊急配備までは張られていないようだった。
十五分ほど走らせて停止したタクシーを降りる。
辺りを見渡すと目の前にオリエントホテルなるビルがあり、ハイファの唇の色を見たシドは迷わずそこに決めて、エントランスのリモータチェッカに右手首を翳した。三人はホテル内入って見回したが、この時間のフロントは無人だった。
頭からずぶ濡れの目立つ三人には好都合、だが無人フロントのパネルにはトリプルルームの空きはなかった。結局、大真面目なキースの『遠慮するな』という言葉に、セミダブルとシングルの二部屋のキィロックコードをクレジットと交換に手に入れ、エレベーターで二十二階建ての十五階に上がる。
「一五〇七と一五〇八は……あった。ここだね」
食事もまだだったが何はともあれリフレッシャを浴びて着替えないと三人とも凍えきっている。シングルの一五〇八号室にキースが消えるのを見届けて、シドとハイファは隣の一五〇七号室に入りロックをした。
室内はごくシンプルでフリースペースは殆どないビジネスホテルである。
どちらからともなく互いの腰に腕を回しソフトキスを交わした。それだけで鋭かった若草色の瞳が随分と和らぐ。
「お前、先にリフレッシャ……は、ハックシュン!」
協議の結果、覗いてみたら意外に広かったバスタブに湯を溜めて一緒に入ることになった。濡れた衣類を全てダートレスに放り込んでスイッチを入れる。
リフレッシャを交代で浴び、二人してバスタブに身を沈めた。
「ああ、融けるーっ。気持ちいい~っ!」
「気持ちいいが……気持ち良すぎるから、ンなにくっつくなよ」
「無心になって、無心に」
「そういうお前こそ」
互いに色々と我慢をしながら体を充分温め、ドライモードで全身を乾かしてバスルームを出た。止まっていたダートレスから服を出して身に着ける。
「キースに発振する?」
「一人飯も淋しいだろうからな」
発振するとキースは眠たげな顔をしてやってきた。
「食事よりもベッドが嬉しいのだが」
そう言いながらも今後の計画のこともある。キースは欠伸を洩らしながらソファに座り、ハイファが淹れたインスタントコーヒーの紙コップに口をつけた。
備え付けの端末で三人分のルームサーヴィスを頼むと二人もコーヒーで一息つく。シドは約七時間ぶりの煙草タイムだ。
引きずってきた椅子に前後逆に腰掛け、しみじみ旨そうに紫煙を吐くのを横目で見ながら、ハイファはリモータからリードを引き出して端末に繋いだ。ホテルの管理コンから都市のインフラ管理コンへ、そこから軍のインフラへと辿り、中央駐屯地の中枢コンへと侵入する。
「相変わらずの手並みだな」
「もっと褒めて」
「あとで褒美をやる」
「ふふん……あ、ルームサーヴィスがきたみたいだね」
電子音がして振り向くとリフトのランプが灯っていた。ハイファとシドが立ちトレイを持ってきてソファの間のロウテーブルに置いた。三人で食事に取りかかる。
約十四時間ぶりの食事は瞬く間に三人の胃袋に収まった。コーヒーを淹れなおすと電子情報との格闘も仕切り直しだ。
「手始めに武器密輸の件なんてどう?」
「コンスタントに出るサタデーナイトスペシャル、兵器工場での不良品だな」
「それと武器庫の使い古しだったよね。まずは使い古しからだけど……これだ。中央駐屯地から出た中古品なんかの事故品は、全てが民間会社に下取りに出されてる」
「下取りってことは、まだ武器としての価値があるってことか?」
「ううん、そうじゃなくて鋼材としての下取りみたいだね。一キロ幾らって風に」
「ふうん。じゃあ、兵器工場の方はどうだ?」
「ちょっと待って」
ここでもコルダと同様に検索しただけで、開示された情報を閲覧することができた。
「こっちも同じく不良品は民間会社に払い下げになってるよ」
「もしかして同じ会社なのか?」
「ビンゴ引いたかも知れない。どっちもエヴァンズ商会っていう会社だよ。代表取締役社長がウィリアム=エヴァンズ、取り扱い業務は鋼材その他、地金の輸出」
「ふ……ん。他星に武器を流すルートも持ってるってことだな」
「そう。このエヴァンズ商会は、ロニアにも出張所を構えてる」
「ロニアマフィアがテラ本星を含む他星に捌いてやがるのか」
キナ臭い話の陰に大概出てくるロニアには、刑事として日頃から手を焼いているのだ。
「で、次はロタール=クリューガーだな」
半分眠っていたキースが猫のように青い目を見開いた。
「そうなんだけど、この人、中央駐屯地内の兵舎に住んでて、ランダムに他の駐屯地に行く以外は出てこないみたいだよ」
「ワーカホリックって奴だな。どうするか……いよいよキースの出番かもな」
注視されて欠伸混じりにキース、
「僕は僕以外に一人、それもいつもの半分の距離しか跳ばせない。どうするんだ?」
「半分でも的確に跳んでくれればそれでいいよ。これが中央駐屯地の配置図……ロタール=クリューガーの自室がこれで、総司令官室がここだよ」
「ほう、そこまで分かるのか。大したものだな」
真剣な面持ちでキースは地図を見つめて頷く。
「二人で百メートル、これさえあればいけるだろう」
それを聞いて当然のごとく、シドとハイファのどちらもが名乗りを挙げた。
「僕が行くよ」
「駐屯地内、総司令官室にか? 俺が行く」
「貴方は無理だよ、その腕じゃ兵士に化けられないじゃない」
「お前らこそバカみたいに目立つの、知ってるか?」
暫し言い争ったが、どちらも譲らず答えは出なかった。
眠さも限界らしいキースは、ソファから立ち上がって二人に手を振る。
「明日、いや、今日か。どちらでもいい、決めておいてくれ。それと僕は朝に弱い。申し訳ないが昼を過ぎないと使い物にならないから、そのつもりでいてくれ」
それだけ言うとキースは隣の部屋に戻っていった。
キースを送って戻ってきたハイファがリモータを見る。
「あーあ、もう三時半だよ」
「そろそろ寝るか」
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