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第28話
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バーカウンターのサイフォンで淹れたコーヒーを配る今枝執事に京哉が訊いた。
「小田切さんの様子はどうなんでしょうか?」
「先程、皆さまと同じものを食されましてございます」
それなら心配はなかろうと思って京哉はデザートを味わう。二杯目のコーヒーを貰いながら京哉と御前は至福の煙草タイムだ。霧島はいつも通りディジェスティフのブランデーを飲み始める。怪我をしている自覚が薄いのか香坂もブランデーだ。
煙草二本で満足したらしい御前は立ち上がると皆にひらひらと手を振って三階の自室に戻る。姿勢のいい和服の背が消えると霧島が京哉に灰色の目で合図した。
その婀娜っぽいような切れ長の目には溢れそうなくらいの情欲が湛えられていて、急に気恥ずかしくなった京哉は思わず三本目の煙草に火を点けてしまう。
そこでタイミングを見計らったように香坂が立ち上がり、ふらついたのを霧島が危うく支えた。酔ったのか貧血か分からないが香坂は顔を白くしている。
「今枝、香坂の部屋は変わっていないのか?」
「はい。鳴海さまのお部屋の手前のままでございます」
「体調も考えず飲むからだ。怪我人の世話を焼くヒマはないと言っただろう」
文句を言いつつ霧島は目を瞑ってしまった香坂を担ぎ上げた。どうやら京哉にお姫さま抱っこにつけられたクレームを忘れてはいないらしい。
それでも京哉は面白い筈もなく、心配して駆け寄るようなあざとい真似もできなくて、煙草を吸いながらエレベーターの方に去る二人を見送った。
霧島も京哉に一言たりとも声を掛けたりしなかった。
自分はいったい何をしているのだろうと思いつつ京哉は黙々と煙草を吸う。
五本目の煙草を灰にして自分も四階の部屋に戻った。霧島の姿はなかった。隣の自室に戻らず京哉の部屋に入り浸っているのが常だ。更に五本チェーンスモークしつつまさか香坂の部屋にまだいるのかと思い、一応霧島の部屋を確かめに出た。
するとドアについたステンドグラスの小窓から明かりが洩れている。人のいる気配も濃厚に漂っていた。
あんなに欲しそうな目をしていたのに、どうしてこの部屋に来ないのか。急激に育った不安から京哉はサイドボードのウィスキーとグラスを出して飲み始めた。
◇◇◇◇
霧島は香坂の部屋に入るとベッドに香坂を放り出した。大怪我の小田切は今日から別の部屋だ。それはともかく労働をさせられて部屋が暑く感じられ、タイを緩めてドレスシャツのボタンもふたつ外した。次には思い切りベッドを蹴り飛ばす。
「具合の悪いふりはやめろ、酔っ払いもどきが」
顔色こそ白いが京哉の前でわざと倒れたふりをしたのだと霧島は看破していた。しかしいつまでも馬鹿げた演技に振り回されていられない。
だからこそ釘を刺すつもりで香坂と一対一になる機会を作ったのだが、案の定、笑いながら香坂が起き上がると、話し合いどころか非常に腹が立ってきて再びベッドを蹴りつける。
そして低い声を押し出した。
「私も京哉もあんたのオモチャではない。いい加減にしてくれ」
「僕にだって霧島さんを好きになる権利くらいはある。違うか?」
「ああ、違うな。あんたは私が好きなのではない。私の背後にある霧島カンパニーが好きなのだろう。反論できるなら聞いてやるが、どうだ?」
聞いて薄く笑った香坂に対して霧島は油断してしまっていた。相手が誰であれ素手での接近戦で負ける気はしなかったからだ。だが急に腰に抱き付かれて引き寄せられベッドに倒れ込む。意外なまでの力で香坂は霧島にのしかかり組み敷いていた。
しかしこの段階ではまだ霧島は香坂など敵ではなかった。けれど押し退けようとした時、ホワイトのドレスシャツの左肩を血が染めているのを目に映し動きを止めた。
馬鹿げた演技でもここまで必死になれるならいっそ立派かと考えて一瞬だけ隙ができる。拙いと思った時にはくつろげた襟の辺りを香坂に吸われていた。押し返したがもう遅かった。
既に首筋には独特の痛みの感触が残っている。わざわざ鏡で確かめなくても自分の見た目がどういう状態か察して溜息が洩れた。
「そんなに厭世的な顔をしなくてもいいだろ。霧島さんだってこんなになってるし」
「触るな、それは京哉のものだ。それに擦りつけるな」
「つれないな。僕なら躰だけでも構わないのにさ」
「嘘もつくな。あんたは香坂堂白藤支社の悪事が露見した際、私経由で霧島カンパニーが窮地に陥った香坂堂コーポレーションの援護射撃に出るよう仕向けたいだけだ」
「まあ、そういうおまけもあるけどね」
「退け。私は打算で人を抱かん」
低い声で言い切った霧島の灰色の目に本気の怒りが揺らめいているのに気付いて、香坂は怯えを目によぎらせて退いた。霧島は身を起こすとベッドから滑り降り、やはり真っ先に洗面所の鏡を見に行く。
すると思った通りに襟でも隠れない処にべったりと赤く濃く吸い上げられた痕が残っていた。これで霧島を懐柔できるという思考回路が謎すぎた。霧島が京哉と別れさえすれば自分の意のままになるという論理がさっぱり分からない。
本当に小田切といい香坂といい、まとめて海に捨ててやろうかと思う。
うんざりしながら携帯で医師を呼び、香坂の怪我を診てくれるよう申し付けると、すぐにやってきた医師と看護師にニヤニヤされた。
自分でも相当馬鹿なことと思いつつ赤い痕を消す方法がないか医師に訊いて呆れられ、看護師からは妙に同情される。
「可哀相ねえ」
「そう思うなら何とかする方法を考えてくれ。これでは京哉の前に出られん」
「あら、わたしが可哀相って言ったのはその鳴海くんのことよ。じゃあ、コンシーラーでも貸してあげましょうか。一時的には消えるけれど、どう?」
だがコンシーラーとやらはシャワーで落ちてしまうと聞いて諦めた。
シニカルかつ霧島にも遠慮のない若い医師は面白半分に、喉風邪を引いたふりで首に包帯を巻く作戦だの、いっそ階段から落ちて頸椎を捻挫しコルセットを装着する作戦だのを口にしたが、完全に遊ばれていると分かっていたので香坂の部屋をあとにする。
いつも自然と開ける京哉の部屋のドアを通過して自分の部屋に入った。
ジャケットを脱ぐとソファに放り出して、また洗面所の鏡を見てから己の勃ち上がったままの躰の中心を見下ろす。京哉が欲しくて堪らないのにこれは情けなかった。携帯で京哉に連絡しようにも上手い言い訳を思いつかない。
仕方なく霧島はサイドボードからウィスキーを出しカットグラスに注いで飲み始めた。京哉とまるで同じ行動ではあるが、こちらは殆ど酔わない体質なので単なる時間潰しだった。
◇◇◇◇
隣の自室に戻っていた時間からして霧島が香坂を抱いたなどとは全く思っていなかった京哉だが、弱いクセに飲んだストレートウィスキーが想像力を増幅させて怖くなった。
二杯目のウィスキーを飲み終えた頃には霧島の部屋を訪ねることも携帯で話すこともできなくなっている。
殆ど妄想に近い想像が予想となり、まるで現実のように映像化してちらついた。
「あああ、だめだ、だめだ! お風呂にでも入って気分を替えようっと」
伊達眼鏡と装備品を帯革ごと外し、スーツを脱いでタイを解くとクローゼットの扉に掛けて風通しする。ショルダーホルスタを外して脱衣所で残りの服を脱いだ。洗濯乾燥機に放り込んでスイッチを入れると自分もバスルームで丸洗いだ。薄いヒゲも綺麗に剃る。
シャワーで泡を流してしまい、オートで溜められているバスタブの湯に浸かった。
「はあ~っ、気持ちいい。忍さんのバカ、イカレポンチ」
飲んでいるので長湯することなく上がり、バスタオルで躰を拭ってドライヤーで髪も乾かした。乾かして櫛を通してみると結構な長さまで伸びたのが分かる。
本来ならとっくに服務規程違反の範疇だが、上司の霧島が咎めないのを幸いにそのままだ。おそらく今回のような特別任務が増えて偽装しやすいという点から、本部長も黙認なのだろう。
霧島本人もそれほど短髪ではないが、整髪料を使わなくても殆ど毎朝濡らしてかき上げてしまうので規定に引っ掛かりはしない。その辺り自分は特別扱いの気がした。
大したことでもなく、上司の霧島が監督責任を問われるのなら髪くらい幾らでも切るが、長い指で撫でて貰うのは好きなので撃つのに支障がない限りは現状の長さくらい維持したいと思う。いつでもどんな時でも霧島の特別だと実感していたかった。
あの長い指を切なく想いながら下着と白いシルクサテンのパジャマを身に着ける。もう一組置かれたサイズの大きなお揃いのパジャマを眺めて更に切なくなった。
どうしてこんなに遠慮しなければならないのか謎である。だが霧島の都合も考えず自分の疑問を解消して満足するだけなら、さっさと隣の部屋に突撃していた。
恐れるあまりパッシヴになってしまっているようだが、実際はそうじゃないと京哉は思う。恐れる時間を長引かせても待ち続けるのは霧島を信じているからだ。
霧島に何があったのかは知らないが、霧島もこの自分を信じてくれているのなら必ずこの部屋に来てくれる。あんな目をして我慢するなんて霧島らしくない。
しかし霧島には香坂と何かやましいことがあったのでは、そう考えた京哉の最初の読みは鋭かった訳だが、そんなことなど知らない京哉はベッドに横になり待つ態勢に入った。
けれど慣れないサラリーマン生活の疲れとウィスキーのお蔭で幾らも経たずまぶたが重くなる。
眠気に抗おうとする半面、ほんの少しだけ昼寝くらいの時間ならと思った。いつもの温かな腕枕を恋しく思いながら京哉は舌の回らない口で呟く。
「ううう、本当に放置プレイだ……」
無意識に毛布を引っ張り上げた京哉は眠りに引き込まれていった。
「小田切さんの様子はどうなんでしょうか?」
「先程、皆さまと同じものを食されましてございます」
それなら心配はなかろうと思って京哉はデザートを味わう。二杯目のコーヒーを貰いながら京哉と御前は至福の煙草タイムだ。霧島はいつも通りディジェスティフのブランデーを飲み始める。怪我をしている自覚が薄いのか香坂もブランデーだ。
煙草二本で満足したらしい御前は立ち上がると皆にひらひらと手を振って三階の自室に戻る。姿勢のいい和服の背が消えると霧島が京哉に灰色の目で合図した。
その婀娜っぽいような切れ長の目には溢れそうなくらいの情欲が湛えられていて、急に気恥ずかしくなった京哉は思わず三本目の煙草に火を点けてしまう。
そこでタイミングを見計らったように香坂が立ち上がり、ふらついたのを霧島が危うく支えた。酔ったのか貧血か分からないが香坂は顔を白くしている。
「今枝、香坂の部屋は変わっていないのか?」
「はい。鳴海さまのお部屋の手前のままでございます」
「体調も考えず飲むからだ。怪我人の世話を焼くヒマはないと言っただろう」
文句を言いつつ霧島は目を瞑ってしまった香坂を担ぎ上げた。どうやら京哉にお姫さま抱っこにつけられたクレームを忘れてはいないらしい。
それでも京哉は面白い筈もなく、心配して駆け寄るようなあざとい真似もできなくて、煙草を吸いながらエレベーターの方に去る二人を見送った。
霧島も京哉に一言たりとも声を掛けたりしなかった。
自分はいったい何をしているのだろうと思いつつ京哉は黙々と煙草を吸う。
五本目の煙草を灰にして自分も四階の部屋に戻った。霧島の姿はなかった。隣の自室に戻らず京哉の部屋に入り浸っているのが常だ。更に五本チェーンスモークしつつまさか香坂の部屋にまだいるのかと思い、一応霧島の部屋を確かめに出た。
するとドアについたステンドグラスの小窓から明かりが洩れている。人のいる気配も濃厚に漂っていた。
あんなに欲しそうな目をしていたのに、どうしてこの部屋に来ないのか。急激に育った不安から京哉はサイドボードのウィスキーとグラスを出して飲み始めた。
◇◇◇◇
霧島は香坂の部屋に入るとベッドに香坂を放り出した。大怪我の小田切は今日から別の部屋だ。それはともかく労働をさせられて部屋が暑く感じられ、タイを緩めてドレスシャツのボタンもふたつ外した。次には思い切りベッドを蹴り飛ばす。
「具合の悪いふりはやめろ、酔っ払いもどきが」
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だからこそ釘を刺すつもりで香坂と一対一になる機会を作ったのだが、案の定、笑いながら香坂が起き上がると、話し合いどころか非常に腹が立ってきて再びベッドを蹴りつける。
そして低い声を押し出した。
「私も京哉もあんたのオモチャではない。いい加減にしてくれ」
「僕にだって霧島さんを好きになる権利くらいはある。違うか?」
「ああ、違うな。あんたは私が好きなのではない。私の背後にある霧島カンパニーが好きなのだろう。反論できるなら聞いてやるが、どうだ?」
聞いて薄く笑った香坂に対して霧島は油断してしまっていた。相手が誰であれ素手での接近戦で負ける気はしなかったからだ。だが急に腰に抱き付かれて引き寄せられベッドに倒れ込む。意外なまでの力で香坂は霧島にのしかかり組み敷いていた。
しかしこの段階ではまだ霧島は香坂など敵ではなかった。けれど押し退けようとした時、ホワイトのドレスシャツの左肩を血が染めているのを目に映し動きを止めた。
馬鹿げた演技でもここまで必死になれるならいっそ立派かと考えて一瞬だけ隙ができる。拙いと思った時にはくつろげた襟の辺りを香坂に吸われていた。押し返したがもう遅かった。
既に首筋には独特の痛みの感触が残っている。わざわざ鏡で確かめなくても自分の見た目がどういう状態か察して溜息が洩れた。
「そんなに厭世的な顔をしなくてもいいだろ。霧島さんだってこんなになってるし」
「触るな、それは京哉のものだ。それに擦りつけるな」
「つれないな。僕なら躰だけでも構わないのにさ」
「嘘もつくな。あんたは香坂堂白藤支社の悪事が露見した際、私経由で霧島カンパニーが窮地に陥った香坂堂コーポレーションの援護射撃に出るよう仕向けたいだけだ」
「まあ、そういうおまけもあるけどね」
「退け。私は打算で人を抱かん」
低い声で言い切った霧島の灰色の目に本気の怒りが揺らめいているのに気付いて、香坂は怯えを目によぎらせて退いた。霧島は身を起こすとベッドから滑り降り、やはり真っ先に洗面所の鏡を見に行く。
すると思った通りに襟でも隠れない処にべったりと赤く濃く吸い上げられた痕が残っていた。これで霧島を懐柔できるという思考回路が謎すぎた。霧島が京哉と別れさえすれば自分の意のままになるという論理がさっぱり分からない。
本当に小田切といい香坂といい、まとめて海に捨ててやろうかと思う。
うんざりしながら携帯で医師を呼び、香坂の怪我を診てくれるよう申し付けると、すぐにやってきた医師と看護師にニヤニヤされた。
自分でも相当馬鹿なことと思いつつ赤い痕を消す方法がないか医師に訊いて呆れられ、看護師からは妙に同情される。
「可哀相ねえ」
「そう思うなら何とかする方法を考えてくれ。これでは京哉の前に出られん」
「あら、わたしが可哀相って言ったのはその鳴海くんのことよ。じゃあ、コンシーラーでも貸してあげましょうか。一時的には消えるけれど、どう?」
だがコンシーラーとやらはシャワーで落ちてしまうと聞いて諦めた。
シニカルかつ霧島にも遠慮のない若い医師は面白半分に、喉風邪を引いたふりで首に包帯を巻く作戦だの、いっそ階段から落ちて頸椎を捻挫しコルセットを装着する作戦だのを口にしたが、完全に遊ばれていると分かっていたので香坂の部屋をあとにする。
いつも自然と開ける京哉の部屋のドアを通過して自分の部屋に入った。
ジャケットを脱ぐとソファに放り出して、また洗面所の鏡を見てから己の勃ち上がったままの躰の中心を見下ろす。京哉が欲しくて堪らないのにこれは情けなかった。携帯で京哉に連絡しようにも上手い言い訳を思いつかない。
仕方なく霧島はサイドボードからウィスキーを出しカットグラスに注いで飲み始めた。京哉とまるで同じ行動ではあるが、こちらは殆ど酔わない体質なので単なる時間潰しだった。
◇◇◇◇
隣の自室に戻っていた時間からして霧島が香坂を抱いたなどとは全く思っていなかった京哉だが、弱いクセに飲んだストレートウィスキーが想像力を増幅させて怖くなった。
二杯目のウィスキーを飲み終えた頃には霧島の部屋を訪ねることも携帯で話すこともできなくなっている。
殆ど妄想に近い想像が予想となり、まるで現実のように映像化してちらついた。
「あああ、だめだ、だめだ! お風呂にでも入って気分を替えようっと」
伊達眼鏡と装備品を帯革ごと外し、スーツを脱いでタイを解くとクローゼットの扉に掛けて風通しする。ショルダーホルスタを外して脱衣所で残りの服を脱いだ。洗濯乾燥機に放り込んでスイッチを入れると自分もバスルームで丸洗いだ。薄いヒゲも綺麗に剃る。
シャワーで泡を流してしまい、オートで溜められているバスタブの湯に浸かった。
「はあ~っ、気持ちいい。忍さんのバカ、イカレポンチ」
飲んでいるので長湯することなく上がり、バスタオルで躰を拭ってドライヤーで髪も乾かした。乾かして櫛を通してみると結構な長さまで伸びたのが分かる。
本来ならとっくに服務規程違反の範疇だが、上司の霧島が咎めないのを幸いにそのままだ。おそらく今回のような特別任務が増えて偽装しやすいという点から、本部長も黙認なのだろう。
霧島本人もそれほど短髪ではないが、整髪料を使わなくても殆ど毎朝濡らしてかき上げてしまうので規定に引っ掛かりはしない。その辺り自分は特別扱いの気がした。
大したことでもなく、上司の霧島が監督責任を問われるのなら髪くらい幾らでも切るが、長い指で撫でて貰うのは好きなので撃つのに支障がない限りは現状の長さくらい維持したいと思う。いつでもどんな時でも霧島の特別だと実感していたかった。
あの長い指を切なく想いながら下着と白いシルクサテンのパジャマを身に着ける。もう一組置かれたサイズの大きなお揃いのパジャマを眺めて更に切なくなった。
どうしてこんなに遠慮しなければならないのか謎である。だが霧島の都合も考えず自分の疑問を解消して満足するだけなら、さっさと隣の部屋に突撃していた。
恐れるあまりパッシヴになってしまっているようだが、実際はそうじゃないと京哉は思う。恐れる時間を長引かせても待ち続けるのは霧島を信じているからだ。
霧島に何があったのかは知らないが、霧島もこの自分を信じてくれているのなら必ずこの部屋に来てくれる。あんな目をして我慢するなんて霧島らしくない。
しかし霧島には香坂と何かやましいことがあったのでは、そう考えた京哉の最初の読みは鋭かった訳だが、そんなことなど知らない京哉はベッドに横になり待つ態勢に入った。
けれど慣れないサラリーマン生活の疲れとウィスキーのお蔭で幾らも経たずまぶたが重くなる。
眠気に抗おうとする半面、ほんの少しだけ昼寝くらいの時間ならと思った。いつもの温かな腕枕を恋しく思いながら京哉は舌の回らない口で呟く。
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