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第32話
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土曜夜の間に警視庁から県警捜一に対し、香坂堂白藤支社の会計部長と原材料研究部長の二名を、村西正行と福本清孝及び大釜勝重殺害の重要参考人として極秘裏に任意同行するよう依頼がなされた。
けれど会計部長の三谷利一と原材料研究部長の高橋耕史は白藤市郊外の自宅から姿を消していて、週が明けても杳として行方が分からないままだった。
だが香坂堂白藤支社に出勤する必要もなくなった京哉と霧島には、やはり関係ないことだった。しかし左鎖骨骨折の小田切の身を預かっている責任もあり、霧島と京哉も保養所住まいのまま月曜の朝から白いセダンで県警機捜に出勤した。
霧島隊長と鳴海秘書の姿を見て本日上番一班長の竹内警部補が鋭い号令を掛ける。
「気を付け! 出張から無事に戻られた隊長と鳴海巡査部長に敬礼!」
振り返った皆が最敬礼し霧島と京哉も同じく身を折って答礼した。互いに顔を見合わせると安堵で皆が笑い出す。謎な出張のたびに隊長か秘書が重傷というパターンが続いたからだ。無事だったので皆が安堵し気抜けした訳である。
ひとしきり笑ってから今朝下番する三班の栗田が沈鬱な面持ちで口を開いた。
「でも副隊長は残念でしたよね」
「私も麻雀の対戦相手がいなくなって淋しい限りだ」
「きっと副隊長も草葉の陰から隊長のオンライン名人戦、応援してるっすよ」
皆も悪乗りし洟を啜ってみせる。何処から調達してきたのか知れないが、栗田が副隊長のデスクに白い花瓶を置いた。更に花瓶に造花のカーネーションを挿す。確かそれはトイレの隅にいつから放置されていたか分からない、埃で変色した代物だった。
「気の毒な副隊長、安らかに眠って下さい」
そこで詰め所の出入り口から小田切がむっつりした表情で現れる。
「誰が草葉の陰で安らかなんだい、栗田巡査部長?」
「わあっ、化けて出た!」
「だからコンクリで固めてやると言ったんだ」
「隊長までそれかい。コンクリートじゃなくてギプスで肩は固められたけど、そいつはともかくとしてこの職場が俺にだけ酷く冷たいのはどうしてかなあ?」
「小田切さんの気のせいですよ、気のせい。転ばないように、ほら座って下さい」
「やっぱり京哉くんは優しいなあ」
その優しい京哉くんは皆に茶を淹れ配ったあと、香坂も警視庁に戻ってしまいヒマで仕方なく椅子を温めにきた怪我人にも容赦なく溜まった書類仕事を振り分けた。
そして自分も煙草を吸いながら書類に手を付けようとしたが、ポケットから出てきたのは香坂堂の社員証だった。
眺めると『社員でなくなった場合は速やかに返却のこと』と書いてある。
「隊長と副隊長の社員証は何処ですか?」
「お前と同じ、ポケットの中だが」
「あ、俺も持ってるよ。返さないと拙いのかな?」
「どうでも良さそうですけど、僕、返しに行きます。幸恵さんに挨拶したいですし」
幸恵と聞いては放置できず霧島も少々ムッとしながら席を立った。
「ならば私も行こう」
「何それ、いいなあ。俺も行くよ」
「貴様は怪我人だ、青免が無効の間は覆面には乗せられん。留守番していろ」
「僕はバスで行くからいいですよ?」
だが聞き入れる訳もない霧島は既に竹内一班長に出てくる旨を告げている。
三分後には京哉と霧島は警邏という名目で覆面パトカーに乗っていた。
「まだ表沙汰になっていないけれど、魚住支社長は警視庁に出頭したんですよね?」
「ああ。今朝そのように香坂から連絡があった」
「幸恵さんも淋しい思いをしてるんでしょうね」
「さあな。すぐ次の支社長だの部長だのが着任するだろう」
「それはそうですけど……」
年上男がまた機嫌を悪くしているのに気付いて、京哉は黙って窓外に目をやった。
白藤市駅の向こうにある香坂堂白藤支社までは約二十分だ。地下駐車場に覆面を駐めエレベーターに乗る。途中で誰も乗ってこず三十八階まで一気に上がった。
秘書室に入ると当然ながら野坂がツーポイント眼鏡の奥から不審そうな冷たい視線を向けてきた。一方で幸恵は顔をパッと明るくして席から立つ。
「あっ、鳴海さんに霧島さん!」
あまりに嬉しそうな幸恵を前にして、すぐに退職挨拶をしようと思っていた京哉は暫し留まりデスクに就いた。霧島も付き合ってくれるらしく隣の席に腰掛ける。
早速足取りも軽く幸恵がミニキッチンに立ち、華やかな香りの紅茶を淹れてきてくれた。朝から菓子皿に載ったシュークリーム付きなのに微笑まされる。
幸恵の思いが込められているようなお茶を飲んで雑談する間も野坂はノートパソコンに向かったきり三人に目もくれない。仕えていた支社長が警視庁に出頭して逮捕も時間の問題となったことに対し苛ついているのか、ミスタッチが多いようである。
そんな野坂や現実から目を背けるのも限界となり、京哉は幸恵に訊いてみた。
「あのう、警視庁からここにも何かお達しは来ているんでしょうか?」
「それなら午後から立ち入り捜査の人が来るって聞いています」
「そうですか。何だか大変そうですね」
「本社から聞いたんですけれど、パソコンの個人情報も全て見られるって……」
その時、支社長室に繋がるドアが荒々しく開かれて室内に銃声が轟いた。
屋内射撃特有の「ガーン!」という尾を引く撃発音を耳にする直前、荒っぽくドアが開いた時点で京哉は反射的に身を低くして懐のシグ・ザウエルP226を抜いている。霧島も同様に銃を手にしてデスクの蔭に伏せていた。振り向くと野坂も伏せたようである。
しかし京哉がデスクを挟んだ幸恵に伏せるよう警告しようとした時には既に遅く、勢い押し入ってきた男二人に幸恵は両側から銃口を突き付けられていた。
京哉はその男二人が会計部長の三谷と原材料研究部長の高橋という事実に気付くまで数秒を要する。それほど部長たち二人は憔悴した上に、追い詰められて必死の形相をしていたのだ。
「う、動くな!」
「動いたら幸恵をぶち殺すぞ!」
人質を取られ状況的に最悪だった。京哉はチラリと霧島を見る。だが目で訊くまでもない。部長たちの手にしたベレッタM92Fのトリガには指が掛かり、僅かな遊び分も引き絞った危険な状態だ。二名のどちらを撃ってもショックでトリガを引く恐れがある。
京哉と霧島とで同時にトリガフィンガーを粉砕するのは危険すぎる博打だ。
「全員ゆっくり立て! 両手を挙げて立つんだ! 立て、立てっ!」
喚かれて京哉と霧島は素早く銃を懐に収め両手を挙げて立ち上がった。野坂も同様に立ち上がっている。けれど会計部長の腕が首にきつく巻きついた幸恵は見るからに苦しげだった。
これでは幸恵が保たない。そこで京哉はできるだけ静かな声を出してみる。
「幸恵さんを離してあげて下さい。僕が代わりになりますから」
「何を言うんだ、京哉!」
「忍さんまで大声を出さないで下さい。三谷部長、いいですよね?」
勝手に決められて部長二人は戸惑ったように血走った目で相談し合ったが、人質が交代することに文句はないらしかった。
だが人質交代の際も部長たちに隙は無く京哉の頭と脇腹に銃口を捩じ込まれて霧島も対処のしようがない。臍を噛む思いで三谷の通牒を聞く。
「警察に連絡したら……分かっているだろうな?」
原材料研究部長が銃口で京哉の頭を小突いた。そのまま部長たちは京哉を脅しつつ移動し始める。秘書室を出て廊下を歩いた。霧島は部長たちを刺激しないよう静かにあとをつける。昼休みでもないので人の行き来はごく僅か、だがその僅かな人々は何事かと振り向いた。
彼らが二人の部長に対し不用意なアクションを起こさぬよう霧島は祈る。
エレベーターに行き着いたが霧島は一緒のエレベーターに乗り込むのは諦めた。部長たちが完全にテンパっていたからだ。狭い箱の中で撃たれたら逃げ場もない。
すぐに地下のボタンが光るのを見て急いで他のエレベーターを呼ぶ。上がってきたエレベーターに乗ると地下のボタンを押し、携帯で状況を一ノ瀬本部長に伝えた。だが予想していたことではあったが本部長の歯切れは悪かった。
何故ならこれは香坂堂コーポレーションが企業体として進退を問われかねない極秘案件であり、警視庁の公安案件でもあるからだ。
それに付随し派生した案件で三名射殺を犯した会計部長及び原材料研究部長を現逮するチャンスとも云えるが、結果として本庁のハムに何もかも持って行かれる。現場捜査員らは既に公安絡みと知っている筈だ。
事実として香坂堂コーポレーションの不祥事は何が何でも洩らせないのである。
「ですが既に保秘を云々する段階ではありません!」
《分かっている。だが呑み込んで貰うしかないのだ、霧島くん。保秘の観点から鑑みてここで『事』は動かせん。刑事部の捜一や組対に所轄では帳場を立てるハメになる》
「帳場を立てろとは言っていません、鳴海に死ねと仰るのですか!」
《欲しいのは人員だと認識しているとも。だから『備』は動かす。警備部機動隊所属のSAT突入班は出そう。これは本部長見解と受け取りたまえ、霧島警視》
腹が立ちすぎて霧島は本部長相手に舌打ちしたくなる。県警SATだけなら箝口令も敷きやすいだろう。普段から家族にだって言えないような任務に明け暮れているのだ。だがSATは捜査や尾行に長けてはいない。今から招集しては時間も掛かる。
つまり霧島一人に何もかも丸投げされたというのが事実だった。事態を軽視しているのではなく、却って水も洩らせぬ重大事と認識した上での結論だと分かっていた。
けれどこんな場面でだめ押しのように電話口の本部長が言う。
《霧島くん自身も鳴海くんの身の安全に配慮した上で可能な限り保秘に務めてくれ》
一人で二兎も三兎も追うよう言われ、携帯を叩き折りたい思いで本当に舌打ちしてから通話を切った。これでは野坂や目撃者が110番していても意味がない。
そこでやっとエレベーターは地下駐車場に辿り着く。自動ドアが開いた。
けれど会計部長の三谷利一と原材料研究部長の高橋耕史は白藤市郊外の自宅から姿を消していて、週が明けても杳として行方が分からないままだった。
だが香坂堂白藤支社に出勤する必要もなくなった京哉と霧島には、やはり関係ないことだった。しかし左鎖骨骨折の小田切の身を預かっている責任もあり、霧島と京哉も保養所住まいのまま月曜の朝から白いセダンで県警機捜に出勤した。
霧島隊長と鳴海秘書の姿を見て本日上番一班長の竹内警部補が鋭い号令を掛ける。
「気を付け! 出張から無事に戻られた隊長と鳴海巡査部長に敬礼!」
振り返った皆が最敬礼し霧島と京哉も同じく身を折って答礼した。互いに顔を見合わせると安堵で皆が笑い出す。謎な出張のたびに隊長か秘書が重傷というパターンが続いたからだ。無事だったので皆が安堵し気抜けした訳である。
ひとしきり笑ってから今朝下番する三班の栗田が沈鬱な面持ちで口を開いた。
「でも副隊長は残念でしたよね」
「私も麻雀の対戦相手がいなくなって淋しい限りだ」
「きっと副隊長も草葉の陰から隊長のオンライン名人戦、応援してるっすよ」
皆も悪乗りし洟を啜ってみせる。何処から調達してきたのか知れないが、栗田が副隊長のデスクに白い花瓶を置いた。更に花瓶に造花のカーネーションを挿す。確かそれはトイレの隅にいつから放置されていたか分からない、埃で変色した代物だった。
「気の毒な副隊長、安らかに眠って下さい」
そこで詰め所の出入り口から小田切がむっつりした表情で現れる。
「誰が草葉の陰で安らかなんだい、栗田巡査部長?」
「わあっ、化けて出た!」
「だからコンクリで固めてやると言ったんだ」
「隊長までそれかい。コンクリートじゃなくてギプスで肩は固められたけど、そいつはともかくとしてこの職場が俺にだけ酷く冷たいのはどうしてかなあ?」
「小田切さんの気のせいですよ、気のせい。転ばないように、ほら座って下さい」
「やっぱり京哉くんは優しいなあ」
その優しい京哉くんは皆に茶を淹れ配ったあと、香坂も警視庁に戻ってしまいヒマで仕方なく椅子を温めにきた怪我人にも容赦なく溜まった書類仕事を振り分けた。
そして自分も煙草を吸いながら書類に手を付けようとしたが、ポケットから出てきたのは香坂堂の社員証だった。
眺めると『社員でなくなった場合は速やかに返却のこと』と書いてある。
「隊長と副隊長の社員証は何処ですか?」
「お前と同じ、ポケットの中だが」
「あ、俺も持ってるよ。返さないと拙いのかな?」
「どうでも良さそうですけど、僕、返しに行きます。幸恵さんに挨拶したいですし」
幸恵と聞いては放置できず霧島も少々ムッとしながら席を立った。
「ならば私も行こう」
「何それ、いいなあ。俺も行くよ」
「貴様は怪我人だ、青免が無効の間は覆面には乗せられん。留守番していろ」
「僕はバスで行くからいいですよ?」
だが聞き入れる訳もない霧島は既に竹内一班長に出てくる旨を告げている。
三分後には京哉と霧島は警邏という名目で覆面パトカーに乗っていた。
「まだ表沙汰になっていないけれど、魚住支社長は警視庁に出頭したんですよね?」
「ああ。今朝そのように香坂から連絡があった」
「幸恵さんも淋しい思いをしてるんでしょうね」
「さあな。すぐ次の支社長だの部長だのが着任するだろう」
「それはそうですけど……」
年上男がまた機嫌を悪くしているのに気付いて、京哉は黙って窓外に目をやった。
白藤市駅の向こうにある香坂堂白藤支社までは約二十分だ。地下駐車場に覆面を駐めエレベーターに乗る。途中で誰も乗ってこず三十八階まで一気に上がった。
秘書室に入ると当然ながら野坂がツーポイント眼鏡の奥から不審そうな冷たい視線を向けてきた。一方で幸恵は顔をパッと明るくして席から立つ。
「あっ、鳴海さんに霧島さん!」
あまりに嬉しそうな幸恵を前にして、すぐに退職挨拶をしようと思っていた京哉は暫し留まりデスクに就いた。霧島も付き合ってくれるらしく隣の席に腰掛ける。
早速足取りも軽く幸恵がミニキッチンに立ち、華やかな香りの紅茶を淹れてきてくれた。朝から菓子皿に載ったシュークリーム付きなのに微笑まされる。
幸恵の思いが込められているようなお茶を飲んで雑談する間も野坂はノートパソコンに向かったきり三人に目もくれない。仕えていた支社長が警視庁に出頭して逮捕も時間の問題となったことに対し苛ついているのか、ミスタッチが多いようである。
そんな野坂や現実から目を背けるのも限界となり、京哉は幸恵に訊いてみた。
「あのう、警視庁からここにも何かお達しは来ているんでしょうか?」
「それなら午後から立ち入り捜査の人が来るって聞いています」
「そうですか。何だか大変そうですね」
「本社から聞いたんですけれど、パソコンの個人情報も全て見られるって……」
その時、支社長室に繋がるドアが荒々しく開かれて室内に銃声が轟いた。
屋内射撃特有の「ガーン!」という尾を引く撃発音を耳にする直前、荒っぽくドアが開いた時点で京哉は反射的に身を低くして懐のシグ・ザウエルP226を抜いている。霧島も同様に銃を手にしてデスクの蔭に伏せていた。振り向くと野坂も伏せたようである。
しかし京哉がデスクを挟んだ幸恵に伏せるよう警告しようとした時には既に遅く、勢い押し入ってきた男二人に幸恵は両側から銃口を突き付けられていた。
京哉はその男二人が会計部長の三谷と原材料研究部長の高橋という事実に気付くまで数秒を要する。それほど部長たち二人は憔悴した上に、追い詰められて必死の形相をしていたのだ。
「う、動くな!」
「動いたら幸恵をぶち殺すぞ!」
人質を取られ状況的に最悪だった。京哉はチラリと霧島を見る。だが目で訊くまでもない。部長たちの手にしたベレッタM92Fのトリガには指が掛かり、僅かな遊び分も引き絞った危険な状態だ。二名のどちらを撃ってもショックでトリガを引く恐れがある。
京哉と霧島とで同時にトリガフィンガーを粉砕するのは危険すぎる博打だ。
「全員ゆっくり立て! 両手を挙げて立つんだ! 立て、立てっ!」
喚かれて京哉と霧島は素早く銃を懐に収め両手を挙げて立ち上がった。野坂も同様に立ち上がっている。けれど会計部長の腕が首にきつく巻きついた幸恵は見るからに苦しげだった。
これでは幸恵が保たない。そこで京哉はできるだけ静かな声を出してみる。
「幸恵さんを離してあげて下さい。僕が代わりになりますから」
「何を言うんだ、京哉!」
「忍さんまで大声を出さないで下さい。三谷部長、いいですよね?」
勝手に決められて部長二人は戸惑ったように血走った目で相談し合ったが、人質が交代することに文句はないらしかった。
だが人質交代の際も部長たちに隙は無く京哉の頭と脇腹に銃口を捩じ込まれて霧島も対処のしようがない。臍を噛む思いで三谷の通牒を聞く。
「警察に連絡したら……分かっているだろうな?」
原材料研究部長が銃口で京哉の頭を小突いた。そのまま部長たちは京哉を脅しつつ移動し始める。秘書室を出て廊下を歩いた。霧島は部長たちを刺激しないよう静かにあとをつける。昼休みでもないので人の行き来はごく僅か、だがその僅かな人々は何事かと振り向いた。
彼らが二人の部長に対し不用意なアクションを起こさぬよう霧島は祈る。
エレベーターに行き着いたが霧島は一緒のエレベーターに乗り込むのは諦めた。部長たちが完全にテンパっていたからだ。狭い箱の中で撃たれたら逃げ場もない。
すぐに地下のボタンが光るのを見て急いで他のエレベーターを呼ぶ。上がってきたエレベーターに乗ると地下のボタンを押し、携帯で状況を一ノ瀬本部長に伝えた。だが予想していたことではあったが本部長の歯切れは悪かった。
何故ならこれは香坂堂コーポレーションが企業体として進退を問われかねない極秘案件であり、警視庁の公安案件でもあるからだ。
それに付随し派生した案件で三名射殺を犯した会計部長及び原材料研究部長を現逮するチャンスとも云えるが、結果として本庁のハムに何もかも持って行かれる。現場捜査員らは既に公安絡みと知っている筈だ。
事実として香坂堂コーポレーションの不祥事は何が何でも洩らせないのである。
「ですが既に保秘を云々する段階ではありません!」
《分かっている。だが呑み込んで貰うしかないのだ、霧島くん。保秘の観点から鑑みてここで『事』は動かせん。刑事部の捜一や組対に所轄では帳場を立てるハメになる》
「帳場を立てろとは言っていません、鳴海に死ねと仰るのですか!」
《欲しいのは人員だと認識しているとも。だから『備』は動かす。警備部機動隊所属のSAT突入班は出そう。これは本部長見解と受け取りたまえ、霧島警視》
腹が立ちすぎて霧島は本部長相手に舌打ちしたくなる。県警SATだけなら箝口令も敷きやすいだろう。普段から家族にだって言えないような任務に明け暮れているのだ。だがSATは捜査や尾行に長けてはいない。今から招集しては時間も掛かる。
つまり霧島一人に何もかも丸投げされたというのが事実だった。事態を軽視しているのではなく、却って水も洩らせぬ重大事と認識した上での結論だと分かっていた。
けれどこんな場面でだめ押しのように電話口の本部長が言う。
《霧島くん自身も鳴海くんの身の安全に配慮した上で可能な限り保秘に務めてくれ》
一人で二兎も三兎も追うよう言われ、携帯を叩き折りたい思いで本当に舌打ちしてから通話を切った。これでは野坂や目撃者が110番していても意味がない。
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