あなたがここにいてほしい~Barter.7~

志賀雅基

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第48話

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 どのくらいこうしているんだろうと京哉は思う。何度いかされたか分からなかった。
 
 今もまだ霧島を受け入れている。既に京哉自身は動けなくなっていた。仰臥して揺らされているのみだが快感はたびたび突き上がってきて勝手に身は震える。濡らされるのは分かるが京哉はもう何も零せない。

 何処までも自分の要求に応えてくれる霧島が逆に心配になるくらいだった。けれど霞む目を何度見開いて見上げても端正すぎる顔は普段と変わらない表情を保ちながら切れ長の目に微笑みを浮かべて京哉を安堵させてくれるのだ。

 だがさすがに驚異的な精神力で攻める男もやつれたようで、けれどそれが却って不思議な色っぽさを醸している。そんな男の色気に昂ぶっても殆ど声が出ない。
 色んな事を伝えたくても喋れないほど喉が嗄れてしまっていた。しかしきっと伝えたいことは全て伝わっている。でもこのままでは年上の愛し人の方が壊れてしまいそうだ。

 京哉は喘鳴に何とか掠れ声を混じらせた。

「もう……忍さん」
「気分は悪くないか?」
「分かんない……でも、貴方が」
「私より自分の心配をしてくれ。どうだ、調子は?」
「ん、本当に、良く、分からなくて……」

 途中で何度も水を飲ませて貰っていたが、全ては汗になって蒸発するか放ってしまったようである。自分だけではなく霧島も洩らす荒い吐息は苦しげだ。おそらく見せる以上に苦しい筈だが、霧島は力強い律動を休ませようとしない。

 そんな愛し人を見上げていると熱い感情がこみ上げてくる。苦しさを共有し一緒に戦ってくれる霧島が堪らなく愛しく、痛いくらいに胸が熱くなった。だがもう涙すら出ない。
 それでもしゃくり上げながら霧島の背に腕を回してしがみつく。灰色の目が笑みを湛えて見返していた。シャープで端正な顔立ちに見惚れる。

「忍さん……大好き、です」
「私もお前を愛している。それと殺されずにいてくれて感謝する」
「ありが、と、忍さん……傍に、いてくれて――」

 呟いて微笑み返すなり京哉は意識を手放した。

 力の抜けきった華奢な躰をきちんと寝かせた霧島はそっと京哉の寝顔を窺う。疲労困憊した顔色はやや悪いものの、呼吸も正常で表情も悪くない。

 ただシーツにも点々と赤い染みがあったのは心配だったが、途中で逃げることは考えられなかった。二人して望んだ通り、クスリで京哉が壊れるくらいなら自分が殺してやるという覚悟で抱いたのだ。

 ライティングチェスト上のデジタル時計を見ると午前十時だった。霧島は起き出したものの、さすがに躰はガタガタで壁を伝い歩いてキッチンまで行き、まずは自分が水を飲んだ。甘く感じるほど旨い水をグラスに二杯、立て続けに喉に流し込む。

 満足すると湯で絞ったバスタオルと水を満たしたグラスを手に寝室に戻った。京哉がいつでも飲めるようグラスをベッドサイドのライティングチェストに待機させ、温かいバスタオルで京哉を拭ってやる。バスタオルも二回絞り直して綺麗に拭いた。

 自分は雑に拭き、救急箱の傷薬を京哉の体内に塗り込んでやる。あれだけの行為に及んだ腰も痛いだろうと思い、また湿布を貼ってやった。入っていた小箱はキッチンのゴミ袋行きだ。

 救急箱を片付けると、クローゼットの引き出しから京哉の下着とパジャマを引っ張り出して身に着けさせる。自分もお揃いの黒いシルクサテンのパジャマを着た。濡れたシーツのままでは可哀相で、軽い躰を移動させつつ器用にシーツも交換した。

 もう何も思いつかなくなって霧島はやっとベッドに上がる。深く眠っている京哉の横に寝転がった。毛布を引っ張り上げて被せると京哉の頭を持ち上げていつも通りに左腕で腕枕する。乱れた長い髪を指で梳いてやった。

 白い額に唇を押しつけると寝返りを打った京哉が霧島を無意識に抱き締めた。
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